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ATOMOSのすべて——製品ラインナップ、思想、そして「オープン接続」という戦略 | MONITOR & RECORDER THE COMPLETE SERIES(3)

ATOMOS
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MONITOR & RECORDER THE COMPLETE SERIES — Vol.03

カメラを買う。レンズを選ぶ。三脚を立てる。——映像制作を始めるとき、最初に考えるのは「撮る道具」のことだろう。

しかし、撮った映像をどう記録し、どう届け、どう編集に繋げるか。この「撮影と編集の間」にある目に見えにくい部分にこそ、映像制作の現場を支える技術がある。

ATOMOSは、まさにその「間」を15年にわたって橋渡ししてきた企業だ。

「ATOMOSはカメラとソフトウェアの間に座っている。どちらか一方だけでは実現できないことを可能にしている」

これは、ATOMOS創業者でCEOのジェロミー・ヤング(Jeromy Young)が2024年のインタビューで語った言葉である(出典:ProVideo Coalition)。ヤングはこう続ける。

「キヤノンとAppleが一緒に製品開発ミーティングを開く場面を想像できるだろうか。両側に20人の弁護士が並んで、製品担当者は2人だけ——そんな会議がうまくいくとは思えない。だから我々が間に入る」

ATOMOSはカメラを作らない。編集ソフトも作らない。しかし、その両方の間に橋を架けることで、どちらか一社だけでは決して実現できないワークフローを生み出してきた。

本記事では、ATOMOSという企業の成り立ちから思想の核心、2025〜2026年の最新製品ラインナップ、クラウドエコシステム「ATOMOSphere」、そして「オープン接続」という独自の戦略が映像制作の現場にどんな価値をもたらしているかを掘り下げていく。


MONITOR & RECORDER THE COMPLETE SERIES


創業者ジェロミー・ヤングと「日本での7年間」

ATOMOSが2010年にオーストラリアのメルボルンで設立されたとき、創業者のヤングには、映像機器メーカーの経営者としては異色の経歴があった。

もともとBHP(オーストラリアの大手鉱業会社)のエンジニアだったヤングは、会社の命令で日本に渡り、新日本製鉄で働くことになった。副業として英会話を教えていたところ、生徒のひとりが日本の映像技術会社「Canopus Video Corporation」の社長だった。その縁から、DV StormやRaptorといったビデオカードの製品管理職に転じることになる。

「毎日朝6時から深夜まで、全員が働いていた」
——Film and Digital Times(2024年7月)

その後、国際セールスディレクターに就任し、Canopusで7年間を過ごした。日本の映像技術と映像文化への深いリスペクトは、この時代に育まれたものだ。後にATOMOSの製品名が「Ninja(忍者)」「Shogun(将軍)」「Sumo(相撲)」「Shinobi(忍び)」と日本の武士・武道にちなんだものになったのは、この経験への敬意の表れである。

祖母の病気を理由にオーストラリアに戻ったヤングは、Blackmagic Designに入社する。そこで1年ほど勤めた後、独立してATOMOSを設立した。つまり、ATOMOSとBlackmagic Designの関係は、創業者レベルで深い因縁があるのだ。

ヤングがATOMOSで最初に取り組んだのは「DSLRの映像を、カメラ内部の圧縮コーデックを回避して記録する」という課題だった。2011年に発売した初代Ninja(第1回第2回参照)がその解答であり、映像制作のワークフローを根本から変えた経緯はすでに述べた通りだ。

ヤングは2021年にATOMOSのCEOを辞任し、約2年間の空白期間を経て、2024年1月にCEOとして復帰した。復帰時のプレスリリースで語った言葉が印象的だ。

「接続性とオープン性が、将来の成長の基盤だ。クラウドは、ネットワーク化・協業型の映像制作と配信という新しい時代の一部に過ぎない」
——ATOMOS公式プレスリリース(2024年1月15日)


ATOMOSの思想核心:「カメラに依存しない」という選択

ATOMOSが他の映像機器メーカーと決定的に異なるのは、「カメラに依存しないこと(camera agnostic)」 を意識的な戦略として採用している点だ。

これは言葉以上に難しい選択である。差別化のために「特定のカメラメーカーとの独占的な協業」を行う企業が多い中で、ATOMOSは意図的にそれをしない。ソニーのユーザーにもキヤノンのユーザーにも、同等の価値を届ける。

ProVideo Coalitionのインタビューで、ヤングはその姿勢をこう語っている。

「キヤノンに『次はどのメーカーを訪問するのか』と聞かれたとき、私は『ニコンだ。まったく同じことを頼み、まったく同じことを伝える』と答えた。すべてのメーカーに同じ情報を渡し、それをどう使うかはそれぞれの判断に委ねる」
——ProVideo Coalition(2024年2月)

この姿勢が特に鮮やかに表れたのが、ProRes RAWへの対応だ。2018年にAppleがProRes RAWを発表したとき、ATOMOSは即座に対応を表明し、ニコン、ソニー、キヤノン、パナソニックなど複数のカメラメーカーとの協業を同時並行で進めた。

「カメラメーカーとソフトウェア会社が、ともに我々にIPを預けてくれる。それだけの信頼を何年もかけて築いてきたことを誇りに思う」
——ProVideo Coalition(2024年2月)

しかし、オープン性の維持には大きな障壁もあった。競合のBlackmagic DesignのDaVinci Resolveが、ATOMOSの主力フォーマットであるProRes RAWを長年サポートしなかった問題だ。

「Grant(Blackmagic DesignのCEO、Grant Petty)は天才だ。しかし、自社だけで仕事をしたがり、他の会社と協力するのを好まない。BRAWに対応するには、RAWデータを正しくパッケージするためのライセンスと技術情報が必要だが、それがない」
——ProVideo Coalition(2024年2月)

2025年にDaVinci ResolveがProRes RAWに正式対応したことで、この障壁はついに解消された。ATOMOSにとって、これは単なる機能追加ではなく「オープン接続という戦略が7年越しで実を結んだ」歴史的な出来事でもある。


2025〜2026年の現行製品ラインナップ

ATOMOSの現行製品は、「Ninja TXシリーズ」「Ninjaシリーズ」「Shogunシリーズ」「Shinobiシリーズ」「UltraSyncシリーズ」 の5つのカテゴリに整理できる。2025年以降、AtomOS Linuxプラットフォームへの移行とCFexpress対応を軸に、ラインナップの世代交代が進んでいる。

Ninja TXシリーズ:次世代の5インチ主力機

2025年7月に発表されたNinja TXは、Ninjaシリーズの新世代フラッグシップだ。従来のNinja Ultraを正統に進化させつつ、12G-SDI入出力、CFexpressメディア対応、Wi-Fi 6E内蔵、AirGlu RF/BT内蔵と、あらゆる接続性を5インチ筐体に詰め込んでいる。従来はAtomosConnectモジュール(別売)を追加しなければ実現できなかったクラウド接続やNDIが、Ninja TXでは標準搭載になった。

Ninja TX($999 / ¥161,150 税込)

Manfrotto MVH502AH
Canon EOS R50V + ATOMOS Ninja TX

5.2インチ・1500nitのIPSタッチスクリーン。最大8K 30p RAW・6K 60p RAW・4K 120p記録に対応し、CFexpress Type BまたはUSB-C外部ストレージに記録する。ProRes RAW、ProRes、DNxHD/HR、H.265(HEVC)に標準対応。

12G-SDIとHDMI 2.0の双方向クロスコンバートが可能で、SDI機器とHDMI機器が混在する現場のハブとして機能する。Camera-to-Cloud(ATOMOSphere / Frame.io / Dropbox)、NDI 6 HX3ストリーミング、AirGluタイムコード同期がすべて標準搭載——追加モジュール不要という点が、従来のNinja Ultra + Atomos Connect構成との大きな違いだ。

USB-C経由のカメラコントロールにも対応しており、対応カメラ(Canon、Nikon、Sony、Fujifilm、Panasonic)のISO・シャッター・絞り・ホワイトバランスをタッチスクリーンから直接操作できる。タッチ・トゥ・フォーカスにも対応する。

SegmentPro機能で長時間収録を任意のサイズに自動分割でき、デュアル録画(ProRes RAW + H.265プロキシの同時記録)も可能。AtomOS Linuxプラットフォームによる起動速度とUI応答性の向上も体感できるポイントだ。

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Ninja TX GO($799 / ¥132,440 税込)

Ninja TXからSDI入出力とAirGlu RF/BTを省いたHDMI専用モデル。5.2インチ・1500nit画面、CFexpress Type B対応、Wi-Fi 6E内蔵、カメラコントロール、タッチ・トゥ・フォーカス対応は共通で、最大6K 30p RAW・4K 60p記録に対応する。

「SDIは使わないが、次世代のCFexpress+クラウド接続+カメラコントロールは欲しい」——ミラーレス一眼ユーザーに最も適したモデルだ。Ninja TXとの価格差は200ドル(約3万円)。SDIが必要かどうかが選択の分かれ目になる。

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Ninja RAW($699 / ¥117,040 税込)

2026年2月末、CP+2026に合わせて発表されたモデル。Ninja TXやNinja TX GOと同じくCFexpress Type BまたはUSB-C外部ストレージ記録に対応。価格を抑えた純粋なモニター・レコーダーだ。

Ninjaシリーズ:SSD記録の現行モデル

従来のAtomX SSDminiに記録するNinjaシリーズも引き続き販売されている。CFexpress対応が不要であれば、コストパフォーマンスの高い選択肢だ。

Ninja Ultra($649 / ¥128,920 税込)

Amazon.co.jp: Atomos Ninja Ultra 5.2インチ 外部モニター HDRレコーダー 8K ProRes RAW収録 4Kデュアル録画 Wi-Fiクラウド連携 カメラ ATOMNJAU01 : 楽器・音響機器
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5インチ・1000nitタッチスクリーン。8K 30p RAW・6K 60p・4K 120p記録対応。SSD記録。Atomos Connectモジュール(別売)追加でWi-Fi・NDI・AirGluに対応可能。

Ninja($599 / ¥96,690 税込)

6K 30p・4K 60p記録対応。SSD記録。Connect追加でクラウド・NDI対応可。ProRes RAW対応が不要であれば十分な選択肢だ。

Amazon.co.jp: Atomos Ninja 5.2インチ 外部モニター HDR レコーダー 6K ProRes RAW収録 H.265対応 Wi-Fiクラウド連携 カメラ ATOMNJA004 : 楽器・音響機器
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Ninja Phone($399 / ¥32,120 税込)

iPhoneに装着するコンパクトモジュール。カメラのHDMI出力をiPhone上でProRes(最大4K DCI 30fps)にリアルタイムエンコード。Wi-Fi/5G経由でFrame.ioへ直接アップロード可能。iOS 18対応のiPhone・iPadをサポートし、Lightningモデルにも対応するようになった。

CineDのIBC 2024インタビューで、ヤングはこのデバイスを「スマートフォン・タブレット向けのNinja機能を持つアクセサリー」と表現しており、Android版の開発も進行中だという(出典:CineD、2024年9月)。

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Shogunシリーズ:7インチ以上・プロ向けの旗艦

Shogun Ultra($999 / 国内価格はATOMOSダイレクトにて確認)

7インチ・2000nitの「SuperAtom IPS」タッチスクリーン。8K 30p RAW記録対応、Wi-Fi 6E・GigE内蔵でC2C対応。12G-SDIとHDMIの双方向クロスコンバート、SegmentPro機能搭載。AirGlu RF/BT標準搭載。7インチフィールド機の最上位モデル。

Shogun AV-19($2,099 / 国内未発売・2026年3月末出荷予定)

2026年2月に発表された19インチ・4K(3840×2160)・1200nitのラックマウント型モニター・レコーダー・スイッチャー。Sumo 19SEの後継にあたる製品だ。

7RUラックサイズで、2系統の12G-SDI+2系統の3G-SDI+HDMI 2.0の入力を備える。最大4系統のSDIカメラ映像を個別にISO収録(最大1080p60)しながら、リアルタイムスイッチングしたプログラム出力を5チャンネル目として記録できる。XLRアナログ音声入出力、LTCタイムコード入力、ゲンロック対応(再生時)も搭載する。CFexpressとUSB-C外部ストレージの両方に対応。

Sumo 19SEからの大きな進化は以下の通り。

  • 画面が4K UHDに高解像度化(Sumo 19SEは1080p)
  • 8K RAW記録対応(SDI経由)
  • DCI-P3 99%の広色域パネル
  • Ethernet経由のCamera-to-Cloud対応
  • AtomOS Linuxプラットフォーム

企業セミナー、スポーツイベント、学校の発表会、放送。「ひとりで複数カメラを回す現場」の新しい標準になり得る製品だ。200〜300万円クラスの放送用スイッチャーが担う機能を、$2,099のシステムで実現する。

Shogun Classic($999 / ¥193,380 税込)

4系統の独立SDI入力とXLR端子を備えた7インチモデル。SDI機器を多用する放送・イベント現場で根強い需要がある。

Shinobiシリーズ:モニタリング専用

Shinobi 7 RX($699 / 米国は関税により$799 / ¥112,750 税込)

2025年9月のIBC 2025で発表された、ワイヤレスビデオ受信機能内蔵の7インチモニター。2200nitの高輝度HDR画面(1920×1200)を搭載し、ATOMOS TX送信機から5G Wi-Fi経由で映像を60ms以下の低遅延で受信・表示する。HDMI・3G-SDIの有線入出力も備えるため、有線/無線を問わず使える。

USB-C経由のカメラコントロール・タッチ・トゥ・フォーカスにも対応(Canon、Fujifilm、Nikon、Panasonic、Sony)。EL Zone/ARRIフォルスカラー、波形モニター、RGBパレード、ベクトルスコープなどプロ仕様のモニタリングツールを搭載する。デュアルNP-Fバッテリースロット採用。

記録機能は持たない、純粋にモニタリングに特化した製品だ。ディレクターやACのワイヤレスモニター、クライアント向けプレビューモニターとして最適。後述するATOMOS TX-RXとの組み合わせで、最大300m・4K30pのケーブルレスモニタリングが実現する。

Amazon | Atomos Shinobi 7 RX 7インチ 外部モニター 2200nit ワイヤレス受信機(RX)内蔵 録画機能なし 4K30p無線受信 カメラ SDI/HDMI対応 ATOMSHBRX1 | ビデオカメラ用アクセサリ 通販
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Shinobi II($379 / ¥56,320 税込)と Shinobi Go($299 / ¥40,260 税込)

記録機能なしの有線モニター。Shinobi IIは1500nitでタッチ・トゥ・フォーカス対応、カメラコントロール対応。軽量・低価格で最初の外部モニターに適している。

Amazon.co.jp: Atomos Shinobi II 5.2インチ 外部モニター 1500nit 高輝度HDR 録画機能なし カメラ HDMI専用 超軽量210g AtomOS 11搭載 ATOMSHB003 : 家電&カメラ
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UltraSyncシリーズ:タイムコード同期

UltraSync BLUE

36g・55×44×17mm。Bluetooth経由で最大6台に同時タイムコード同期。マルチカム撮影の編集効率を根本から改善する「費用対効果が最も高い機材追加」のひとつだ。

UltraSync ONE

サブGHz帯RFで最大200m。GenLock・ワードクロック出力。25時間以上駆動。放送・大型イベント向け。


製品比較表(2025〜2026年)

※ 国内未発売・価格未定の製品は2026年2月時点の情報。日本国内の正規販売はATOMOSダイレクト(運営:NEXTORAGE株式会社、Amazon.co.jp出店)が担当。最新の販売状況・国内価格はATOMOSダイレクトまたはatomos-japan.comにて確認のこと。

製品名画面主な用途最大記録SDIクラウドUSDJPY(税込)
Ninja TX5.2″フィールド収録8K30p RAW12G ○○ 内蔵$999¥161,150
Ninja TX GO5.2″フィールド収録6K30p RAW×○ 内蔵$799¥132,440
Ninja RAW5.2″フィールド収録6K30p RAW×$699¥117,040
Ninja Ultra5″フィールド収録8K30p RAW×△ 要Connect$649¥128,920
Ninja5″フィールド収録6K30p×△ 要Connect$599¥96,690
Ninja PhoneiPhone装着モバイル収録4K DCI 30p×○ Wi-Fi/5G$399¥32,120
Shogun AV-1919″ラック/スイッチング8K30p RAW12G+3G ○○ Ethernet$2,099未発売
Shogun Ultra7″プロフィールド8K30p RAW12G ○○ 内蔵$999
Shogun Classic7″放送・イベント4×3G ○$999
Shinobi 7 RX7″無線モニター記録なし3G ○×$699〜¥112,750
Shinobi II 5″5″モニター専用記録なし××$379¥56,320
Shinobi Go5″モニター専用記録なし××$299¥40,260
TX-RX セット無線映像伝送3G ○×$599未発売
UltraSync BLUETC同期××
UltraSync ONETC同期××
Sumo 19SE19″マルチカム4K12G+3G ○×¥321,750
Studio PRO-271027″リファレンス記録なし12G ○×<$10,000開発中

太字は2025〜2026年の新製品。「—」は価格非公開またはATOMOSダイレクトにて確認。


ATOMOS TX-RX & AirGlu:ワイヤレスで現場をつなぐ

TX-RX:本格ワイヤレスビデオ伝送

2025年4月のNAB Showで発表されたATOMOS TX-RXは、ATOMOSが初めて投入した本格的なワイヤレスビデオ伝送システムだ。

ATOMOS TX-RX(TX+RXセット $599 / 追加RX単体 $349 / 国内未発売)

5GHz帯を使い、HDMI経由で最大4K 30p、SDI経由で最大1080p 60pの映像をワイヤレス伝送する。遅延は約60ms、到達距離は最大300m(見通し距離)。AES-128暗号化により、電波が混雑する現場でもセキュアな伝送が可能だ。

送信機(TX)はHDMI入力+SDI入力+HDMIループスルーを備え、受信機(RX)はHDMI×2+SDI×1の出力を持つ。1台のTXから最大4台のRXへ同時送信でき、ディレクターズモニター、クライアントモニター、AC用モニターを一度にカバーできる。

さらに、無料の「Atomos RX」アプリをインストールすれば、iPhoneやAndroidスマートフォンもそのまま受信モニターとして使える。NP-Fバッテリー、USB-C、DC入力(9〜16V)と、電源の選択肢が豊富な点も現場向きだ。

TX-RXの登場で、前述のShinobi 7 RXとの組み合わせが特に魅力的になった。TX送信機をカメラに取り付け、Shinobi 7 RXをディレクターの手元に置く——ケーブルレスで2200nitの高輝度ワイヤレスモニタリングが実現する。バンドルセット($1,099〜)も用意されている。

AirGlu:ATOMOS機器同士のタイムコード同期

ATOMOSにはもうひとつのワイヤレス技術がある。AirGlu はATOMOS機器同士を無線で接続し、タイムコード同期と録画の同時開始・停止(リモートスタート)を実現する独自のプロトコルだ。

Bluetoothベースの AirGlu BT と、RFベースの長距離版 AirGlu RF の2種類がある。Ninja TXとShogun UltraにはAirGlu RF/BTの両方が標準搭載されており、タイムコードのマスターとして機能する。Ninja TX GOやNinja Ultra/NinjaでAirGluを使うにはAtomosConnect(別売)が必要だ。

たとえば結婚式。3台のNinja TXが異なる撮影者の手にある。1台で「録画開始」をタップした瞬間、AirGlu経由ですべてが同時に録画を始め、タイムコードも統一される。クリップの頭が揃い、編集時の同期作業がほぼ不要になるのだ。


NDI:カメラをネットワークに繋ぐという発想

業務用映像の伝送は長年、SDIケーブルが標準だった。高品質で安定しているが、100mを超える距離では中継が必要になり、複数カメラの配線は大がかりな作業になる。

そこに登場したのが NDI(Network Device Interface) だ。NewTekが開発したこのIPビデオ伝送技術は、すでにあるイーサネット・Wi-Fiネットワーク上で映像を伝送できる。

Ninja TX / TX GOにはNDI 6 HX3が標準搭載されている。Ninja Ultra / Ninja V+にはAtomosConnectモジュールを追加すれば対応可能だ。いずれの場合も、ミラーレス一眼がWi-FiやEthernet経由でNDIソースになり、OBS、vMix、TriCaster、Wirecastなどの配信ソフトが「ネットワーク上のカメラソース」として直接認識する。

NDI 6は10bitカラーとHDRをネイティブサポートしており、HDR素材を品質を落とさずにネットワーク経由でスイッチャーに送ることが可能だ。

実用面での意味は大きい。企業の株主総会、大学のオープンキャンパス配信、結婚式のライブ中継——こうした現場でNDI対応の専用機材を一式揃えると数百万円の投資になる。しかし、すでに持っているNinja TXやNinja UltraでNDI機能を有効にするだけで、使い慣れた一眼カメラがIPカメラとして機能する。いま手元にある機材の「再利用」が、そのままNDIインフラへの参入になるのだ。


ATOMOSphere:撮影から編集までをクラウドでつなぐ

2025年4月のNAB Showで、ATOMOSは新しいクラウドプラットフォーム ATOMOSphere を発表した。以前の「Atomos Cloud Studio」を統合・発展させたサービスで、映像制作ワークフロー全体をクラウドで支えるエコシステムだ。

Camera-to-Cloud(C2C)

ATOMOSphereの中核機能がCamera-to-Cloud(C2C) だ。Ninja TXやShogun UltraなどのC2C対応機でWi-Fiに繋ぐだけで、撮影中にプロキシファイルがクラウドへ自動転送される。クリップの撮影完了を待たず、録画中から「プログレッシブ転送」でデータが送られるため、撮影の30分後には離れた場所にいる編集者がプロキシにアクセスできる。

連携先はATOMOSphere自体のストレージに加え、Frame.io(Adobe)とDropbox。Shogun AV-19はEthernet経由でC2Cに対応する。

Film and Digital Timesのインタビューで、ヤングはこの技術の意義をこう説明している。

「ウェディングやイベント制作の現場で、3カメラによる映像・テロップ・グラフィックを使ったTV的な本格制作を、ATOMOSのNinjaだけで実現できる。しかも、すでに持っているNinja以外に追加の機材は必要ない」
——Film and Digital Times(2024年7月)

復帰後のヤングが最初に取り組んだのは、複雑になりすぎた機能を整理し、分かりやすさを取り戻すことだった。

「標準的な500ドルのNinjaにすべての機能を詰め込む必要はなかった。顧客を置き去りにしないことが大切だ」
——ProVideo Coalition(2024年2月)

「既存のNinjaすべてに新しいOSをアップデートし、新機能へのアクセスを70ドルで提供した。ユーザーを囲い込むために壁を作るのではなく、既存ユーザーに価値を提供し続けることが大切だ」
——ProVideo Coalition(2024年2月)

クラウドストレージ&コラボレーション

ATOMOSphereはC2Cだけではない。映像・写真・RAWファイルのクラウドストレージ、レビュー&承認、チームコラボレーションを統合したプラットフォームだ。

  • ATOMOS製品を持っていなくても、ブラウザからレビューに参加できる
  • タイムスタンプ付きコメントで、クライアントが特定のフレームを指定してフィードバックを残せる
  • 主要カメラブランドのRAWフォーマットに対応し、プロジェクトファイルやPDFも保管可能

AI機能とブラウザ編集

提携パートナーのAxle AIとの連携により、アップロードされた映像を自動でタグ付け・分類するシーン理解(Scene Understanding) と、19言語対応の音声テキスト変換(Speech-to-Text) が利用できる(有償オプション)。検索キーワードを入力するだけで、大量のクリップから目的のシーンを素早く見つけられる。

さらに、ブラウザ上で動作するクラウド編集ツール Axledit を使えば、ソフトウェアのインストールなしにラフカット編集が可能。YouTube・Vimeoへの直接公開にも対応している。

ATOMOSphere料金プラン

プランストレージ月額年額
無料スターター20GB$0$0
月額プラン500GB〜50TB$10〜$499/月
年額プラン1TB〜50TB$159〜$4,999/年

年額プランでは、ATOMOSオンラインストアでの製品購入が最大15%オフになる特典が付く。無料スターターの20GBは、ATOMOS製品のユーザー登録(my.atomos.com)だけで利用可能。まずは無料で試してみて、使い勝手を確かめてからプランを検討するのがよいだろう。


Studio PRO-2710:リファレンスグレードへの挑戦(開発中)

2025年9月のIBC 2025で、ATOMOSはこれまでとは異なる領域への参入を予告した。Studio PRO-2710 は、27インチ・4K OLEDパネルを採用した色校正用リファレンスモニターだ。

従来のATOMOS製品が「フィールドで使う」ことを前提にしていたのに対し、PRO-2710はグレーディングルームや編集スイートでの「仕上げ」を想定している。

主な特徴は以下の通り。

  • 次世代OLEDパネルによる広色域・高コントラスト表示
  • 12G-SDI、HDMI、4つの前面USB-Cポート
  • 特許出願中のセンサーキャリブレーション対応サラウンドライティングを内蔵(視聴環境の光をモニターと連動させる)
  • 専用のStudio K-100スペクトルキャリブレーションプローブと連携し、Ninja TXからグレーディングスイートまで色の一貫性を保証
  • ATOMOSphereとの連動で、クラウド経由でも色精度を維持

価格は $10,000以下 が目標とされており、Sony BVM-HX310やFlanders Scientific XM312Kといった数百万円クラスの放送用リファレンスモニターに対し、ATOMOSらしい価格破壊を狙う構えだ。

現時点ではまだ開発中(プレビュー段階)であり、正式な発売日は未定。ATOMOSのウェブサイトでウェイトリスト登録を受け付けている。


ATOMOSが映像クリエイターに問いかけるもの

CineDのIBC 2024インタビューで、ヤングはこう語っている。

「現在のカメラは、6〜7年前にNinjaが外部収録で実現していたことに内部で追いついてきた。しかし常にギャップは存在する。カメラはまだ4K 240pができない。それが我々の次の機会だ」
——CineD(2024年9月)

カメラの内部収録が進化するほど、外部レコーダーの「記録品質の優位性」は薄れていく。しかしATOMOSはその流れを脅威として見ていない。「内部収録では届かない新しい領域」を常に追いかけ、同時に「撮影現場をもっとスマートに接続する」方向でも価値を作り続けている。

TX-RXによるワイヤレスビデオ伝送。Shinobi 7 RXのケーブルレスモニタリング。ATOMOSphereによるクラウドワークフロー。Shogun AV-19でのマルチカムISO収録+4Kスイッチング。Studio PRO-2710による撮影からグレーディングまでの色の一貫性——いずれも「高品質な記録」とは別の次元で、映像制作者の日常を助けてくれる価値だ。

Film and Digital Timesのインタビューで「カメラを作る計画はあるか」と問われたヤングは、こう答えている。

「カメラを作ってみたいという気持ちはある。しかし、すでにカメラを作っている人たちと競争するつもりはない」
——Film and Digital Times(2024年7月)

「カメラとソフトの間に座る」という創業時の姿勢は、15年後の今も変わっていない。むしろ、ATOMOSphereやTX-RXの登場で「間をつなぐ」範囲は撮影現場からクラウドまで広がった。その一貫した姿勢が、さまざまなスタイルの映像制作者から支持され続けている理由なのだろう。


まとめ:ATOMOSを「選ぶ理由」が明確になる5つの問い

ATOMOSの製品が自分に合っているかどうかを見極めるために、以下の問いを自分に投げかけてみてほしい。

1. 今使っているカメラをそのまま使い続けたいか?
ATOMOSはほぼすべてのHDMI・SDI機器に対応する。カメラを乗り換える必要はない。

2. CFexpressへの移行を検討しているか?
Ninja TX / TX GOはCFexpress Type Bに対応。従来のSSD記録から一歩先へ進める。SSD記録で十分ならNinja Ultra / Ninjaがコスパに優れる。

3. 撮影データをすぐに共有・バックアップしたいか?
ATOMOSphere+C2C対応機なら、撮影中からクラウドにデータが届く。無料の20GBプランから始められる。

4. ワイヤレスモニタリングが必要か?
TX-RX+Shinobi 7 RXで、最大300m・4K30pのケーブルレスモニタリングが実現する。スマートフォンアプリでの受信も可能。

5. マルチカムのライブスイッチングが必要か?
Shogun AV-19は4系統のISO収録+リアルタイム4Kスイッチングを1台でこなす。Sumo 19SEからの買い替え候補にもなる。

これらの問いのどれかに「Yes」があれば、ATOMOSの製品はワークフローに確かな価値をもたらしてくれるはずだ。

次回は、ATOMOSと対照的な「垂直統合」という思想で、まったく異なるエコシステムを構築しているBlackmagic Designを深く掘り下げる。


次回予告:【第4回】Blackmagic Designのすべて——「映像制作の民主化」を垂直統合で実現する企業

MONITOR & RECORDER THE COMPLETE SERIES は全7回の連載記事です。


MONITOR & RECORDER THE COMPLETE SERIES


この記事で登場した主な製品・キーワード

Jeromy Young、Canopus Video Corporation、Ninja TX、Ninja TX GO、Ninja Ultra、Ninja、Ninja Phone、Shogun AV-19、Shogun Ultra、Shogun Classic、Shinobi 7 RX、Shinobi II、Shinobi 7、ATOMOS TX-RX、UltraSync BLUE、UltraSync ONE、AirGlu BT/RF、Atomos Connect、NDI 6/HX3、ATOMOSphere、Camera-to-Cloud(C2C)、Frame.io、Axledit、Axle AI、Studio PRO-2710、Studio K-100、AtomOS Linux、CFexpress Type B、SegmentPro、Sumo 19SE


参考・典拠一覧

本記事で引用・参照したジェロミー・ヤング(Jeromy Young)の発言の主な出典は以下の通りである。

  1. ProVideo Coalition — Damien Demolder(2024年2月29日)
    「Atomos plans for camera-to-cloud, LED lighting and why he came back — an exclusive interview with returning CEO Jeromy Young」
    https://www.provideocoalition.com/atomos-plans-for-camera-to-cloud-led-lighting-and-why-he-came-back-an-exclusive-interview-with-returning-ceo-jeromy-young/
  2. Film and Digital Times — Jon Fauer(2024年7月23日)
    「Jeromy Young, Atomos CEO and Co-Founder」
    https://www.fdtimes.com/2024/07/23/jeromy-young-atomos-ceo-and-co-founder/
  3. ATOMOS公式プレスリリース(2024年1月15日)
    「Jeromy Young Returns as Atomos CEO」
    https://www.atomos.com/2024/01/15/jeromy-young-returns-as-atomos-ceo/
  4. CineD — IBC 2024インタビュー(2024年9月19日)
    「Atomos Talks – Jeromy Young on the Future of the Company, Cameras, External Recording and Ninja Phone 4K」
    https://www.cined.com/atomos-talks-jeromy-young-on-the-future-of-the-company-cameras-external-recording-and-ninja-phone-4k/
  5. Televisual(2024年1月15日)
    「Jeromy Young returns as Atomos CEO」
    https://www.televisual.com/news/jeromy-young-returns-as-atomos-ceo/
  6. ATOMOS公式 — Ninja TX製品ページ
    https://www.atomos.com/product/ninja-tx-5-monitor-recorder/
  7. ATOMOS Japan — Ninja TX製品ページ
    https://www.atomos-japan.com/products/ninja-tx
  8. ATOMOS公式 — Ninja TX発表プレスリリース(2025年7月23日)
    https://www.atomos.com/2025/07/23/atomos-introduces-ninja-tx-monitor-recorder/
  9. CineD — Ninja TX GO発表記事(2025年11月7日)
    https://www.cined.com/atomos-ninja-tx-go-announced-6kp30-raw-recording-camera-control-1500-nit-display/
  10. ATOMOS公式 — Shinobi 7 RX発表プレスリリース(2025年9月12日)
    https://www.atomos.com/2025/09/12/atomos-introduces-shinobi-rx-monitor/
  11. Newsshooter — Shogun AV-19記事(2026年2月3日)
    https://www.newsshooter.com/2026/02/03/atomos-shogun-av-19-19-rackmount-monitor-recorder-switcher/
  12. ATOMOS公式 — Studio PRO-2710プレビュー(2025年9月12日)
    https://www.atomos.com/2025/09/12/atomos-previews-studio-pro-2710-reference-monitor/
  13. ATOMOS公式 — TX-RX発表プレスリリース(2025年4月6日)
    https://www.atomos.com/2025/04/06/atomos-introduces-tx-rx/
  14. ATOMOSphere公式ページ
    https://www.atomos.com/explore/atomosphere/
  15. ATOMOS公式 — ATOMOSphere発表(2025年4月6日)
    https://www.atomos.com/2025/04/06/atomos-launches-atomosphere/
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