イメージセンサー・クロニクル (3)
前章では、半導体が登場する以前のセンサーたちをたどった。温度計や気圧計、ボロメーター、セレンの光電池、そして写真。いずれも世界のある物理量を人間が扱える別の量へ翻訳する装置だ。その系譜の先には、現代のカメラのイメージセンサーを支える主役、すなわち半導体がある。
だが「半導体」という言葉は、日常ではほとんど中身を伴わずに使われている。ニュースは半導体不足や半導体工場の話題であふれているのに、それが物質として何であり、なぜ世界を作り替える材料になったのかを説明できる人は多くない。本章では、その半導体とは何かを、物質の中で電子がどう振る舞うかという原理までさかのぼって解き明かす。そのうえで、半導体がどのように発見され、理論として整えられ、最初は何に使われたのかをたどる。結論を先に言えば、半導体の歴史はカメラよりずっと早く、無線通信の受信装置から始まっている。
導体・絶縁体・半導体の違い(バンド理論入門)
物質を電気の通しやすさで分けると、大きく三つになる。銅や鉄のように電気をよく通す導体、ガラスやゴムのようにほとんど通さない絶縁体、そしてその中間に位置する半導体である。半導体という名前は、まさに「半分だけ導く物質」という意味だ。ふだんはあまり電気を通さないが、条件を整えると通すようになる。この気まぐれとも言える性質こそが、後にあらゆる電子機器の土台になった。
なぜこうした違いが生まれるのか。その答えは、物質の中で電子が取ることのできるエネルギーの並び方にある。原子が一つだけあるとき、電子は飛び飛びのエネルギーの段だけを取れる。ところが原子が無数に集まって結晶になると、その段は少しずつずれて重なり合い、幅を持った帯のようになる。この帯を、物理では「バンド」と呼ぶ。電子がぎっしり詰まって動けない下の帯を価電子帯、電子が自由に動き回れる上の帯を伝導帯という。そして両者の間には、電子が居場所を持てない隙間がある。これがバンドギャップ、日本語では禁制帯と呼ばれる領域だ。
この隙間の広さが、三つの物質の違いを決める。金属では価電子帯と伝導帯が重なっており、電子はいつでも自由に動ける。だから電気をよく通す。絶縁体では隙間が非常に広く、電子はそう簡単に価電子帯から伝導帯へ飛び移れない。だから電気を通さない。半導体は、その隙間がほどよく狭い。ふだんは絶縁体に近いが、熱や光といったわずかなエネルギーを与えると、電子が隙間を飛び越えて伝導帯に上がり、電気を通し始める。座席が満席で身動きの取れない部屋と、席が空いていて自由に歩ける部屋を思い浮かべるとよい。半導体は、少しの後押しで満席の部屋から空席の部屋へ人が移れる、その境目にある物質なのだ。

もう一つ、半導体を特別な材料にしている性質がある。ごくわずかな不純物を混ぜると、電気の通しやすさが劇的に変わることだ。この操作をドーピングと呼ぶ。後で述べるように、半導体の代表であるケイ素は、一つの原子が四つの手で隣とつながって結晶を作る。ここに手を五本持つ原子をわずかに混ぜると、余った電子が結晶の中を動き回り、電気を運ぶ担い手になる。逆に手を三本しか持たない原子を混ぜると、電子が一つ足りない「空席」ができ、この空席が動くことでやはり電気が流れる。前者を負の電荷を運ぶという意味でn型、後者を正の電荷が動くように見えることからp型と呼ぶ。この二種類を隣り合わせにした境目は、電流を一方向にしか通さないという、きわめて重要な働きを見せる。半導体の物語は、突きつめればこの「電気を一方向に通す」という性質を人間が見つけ、飼いならしていく物語でもある。

シリコンとゲルマニウム
半導体になりうる物質はいくつもあるが、技術の歴史で主役を務めてきたのはケイ素(シリコン)とゲルマニウムの二つである。どちらも周期表で同じ縦の列に並ぶ仲間で、原子が四つの結合の手を持つという共通点がある。この四本の手で隣の原子とがっちり結び合い、規則正しい結晶を作る。手がちょうど埋まっているため、常温ではあまり電気を通さない。だが前に述べたバンドギャップが金属と絶縁体の中間に収まっているので、少しのきっかけで電気を通すようになる。
二つの違いはバンドギャップの広さにある。ゲルマニウムはおよそ0.7電子ボルトと狭く、ケイ素はおよそ1.1電子ボルトとやや広い。歴史の初期に実用化が進んだのはゲルマニウムのほうだった。純度の高い結晶を得やすく、加工もしやすかったからである。第二次世界大戦のレーダー研究から戦後のトランジスタ誕生にかけて、主役はしばらくゲルマニウムが担った。
ところが最終的に世界を覆ったのはケイ素だった。理由は大きく二つある。一つは、ケイ素が地殻にきわめて豊富に含まれる元素であり、原料が砂として無尽蔵に手に入ること。もう一つは、ケイ素を酸素とつなげると二酸化ケイ素という安定した絶縁体の膜が表面にできることだ。この酸化膜は、回路の必要な部分だけを守り、不要な部分を絶縁するのに都合がよい。後の章で見るように、この「自前で良質な絶縁膜を作れる」という性質が、無数の素子を一枚のチップに敷き詰める集積回路を可能にした。ゲルマニウムには真似のできない強みだった。カメラのイメージセンサーもまた、このケイ素の結晶の上に築かれている。私たちが写真を撮るとき、光を受け止めているのは、もとをたどれば砂と同じ物質なのである。
半導体の発見と理論化の経緯
半導体の性質が最初に記録されたのは、理論よりもはるか前、実験の現場でのことだった。1874年、まだ24歳だった若い物理学者フェルディナント・ブラウンは、方鉛鉱と呼ばれる鉱物、すなわち硫化鉛の結晶に細い金属の針を当てて電流を調べていた。すると、針から結晶へ電流が流れる向きによって、電気の通り方がまるで違うことに気づく。一方向にはよく流れ、逆向きにはほとんど流れない。彼はこの結果を「金属硫化物中の電流伝導について(Ueber die Stromleitung durch Schwefelmetalle)」と題した論文にまとめ、ドイツの学術誌『アナーレン・デア・フィジーク』に発表した。これが、半導体ダイオードについて書かれた世界で最初の記述だとされる。コンピュータ歴史博物館は、この発見を次のように要約している。
In the first written description of a semiconductor diode, Ferdinand Braun notes that current flows freely in only one direction at the contact between a metal point and a galena crystal.
(訳:半導体ダイオードについての世界で最初の記述として、フェルディナント・ブラウンは、金属の針と方鉛鉱の結晶が接する点で、電流が一方向にだけ自由に流れることを書き留めた。)
この、電流を一方向にしか通さない働きを整流という。交流を直流に変えたり、電波の中から信号を取り出したりするのに欠かせない機能である。しかしブラウンの発見は、当時すぐには役に立たなかった。電流を整流できても、それを活かす相手がまだ存在しなかったからだ。電波そのものが、まだ人の手で作り出されていなかったのである。ハインリヒ・ヘルツが電磁波を実験で発生させ、その存在を確かめるのは1880年代の後半、ブラウンの発見から10年以上あとのことだった。整流という性質が真価を発揮するのは、無線通信という応用が現れてからになる。ブラウンは後の1909年、無線電信の発展への貢献によりグリエルモ・マルコーニとノーベル物理学賞を分け合うが、その受賞理由は次のように記されている。
in recognition of their contributions to the development of wireless telegraphy
(訳:無線電信の発展への貢献を認めて。)
ここで見落としてはならないのは、ブラウンが「なぜ」結晶が一方向にしか電流を通さないのかを説明できなかったことだ。彼は現象を正確に観察し記録したが、その理由を解き明かす手立ては当時の物理にはなかった。原子の中で電子がどうエネルギーの帯を作るかというバンド理論が整うのは、量子力学の登場を待たねばならない。フェリックス・ブロッホが結晶中の電子の振る舞いを量子力学で扱ったのが1928年(論文の受理は同年8月10日、掲載誌の巻は翌1929年の刊行)、アラン・ウィルソンが金属と絶縁体と半導体をバンドギャップの違いとして統一的に説明したのが1931年である。つまり、半導体の整流という現象は、その仕組みが理解されるより半世紀以上も前に、すでに見つかっていた。発見が理論に大きく先行したこと。これは半導体の歴史を貫く一つの型であり、後で述べるトランジスタの誕生にも同じ構図が現れる。
理論の不在は、実用の上でも長く尾を引いた。初期の結晶検波器が不安定で気まぐれだったのは、結晶の純度や、針を当てる場所の当たり外れに性能が大きく左右されたからである。なぜ効くのかがわからなければ、どうすれば安定して効くのかもわからない。この不確かさが解消に向かうのは、次節で見る戦時中のレーダー研究と、結晶を極限まで純粋にする材料技術の進歩を待ってからのことだった。
発明当初の用途:整流器・鉱石ラジオ・レーダー
ブラウンが見つけた整流効果に、はじめて確かな使い道を与えたのは無線通信だった。空を飛んでくる微弱な電波を受け取り、人間に聞き取れる信号へ変えるには、電波の交流成分を一方向の流れに整える整流器が要る。結晶に金属の針を当てただけの素朴な装置が、この役目を果たした。針の形が猫のひげに似ていたことから、これは「猫のひげ検波器(cat’s whisker detector)」と呼ばれるようになる。
この分野で先駆けとなったのが、インドの物理学者ジャガディーシュ・チャンドラ・ボースである。彼は方鉛鉱の結晶を用いてミリ波を検出する装置を作り、1901年に「電気的擾乱の検出器(Detector for electrical disturbances)」として米国特許を出願した。特許は1904年に成立している。その明細書は、装置の狙いをこう書き起こしている。
This invention has reference to detectors and so-called coherers for the reception of electrical disturbances, Hertzian waves, light-waves, and other radiations.
(訳:本発明は、電気的擾乱、ヘルツ波、光波、その他の放射を受信するための検出器、および、いわゆるコヒーラに関するものである。)
ボースの特許は、電波の検出に半導体結晶の整流を用いた最初期の一例として知られる。電波だけでなく光波までも受信対象に含めていた点は、光を電気で捉えるという前章からの系譜を思えば示唆に富む。
そして材料の面で決定的な一歩を踏み出したのが、アメリカの技術者グリーンリーフ・ホイティア・ピカードだった。彼は1902年から1906年にかけて何千もの鉱物試料を試し、どの物質が検波器としてよく働くかを地道に調べ上げた。その結果、ケイ素の結晶が優れた性能を示すことを突き止める。ピカードは1906年8月30日にケイ素を用いた検波器の特許を出願し、同年11月20日に成立させた。特許の請求項は、その核心を簡潔にこう記している。
As an element of a means for receiving intelligence communicated by electric waves, the substance silicon, substantially as and for the purpose described.
(訳:電波によって伝えられる情報を受信する手段の構成要素として、ここに記した通りの目的のために用いるケイ素という物質。)
ピカードは仲間とともに会社を立ち上げ、この猫のひげ検波器を製品として売り出した。これはケイ素という半導体素子を作って販売した、世界でも最初期の企業だったとされる。現代のイメージセンサーやマイクロプロセッサがことごとくケイ素で作られていることを思えば、その最初の商品が電波を受け取るための小さな結晶片だったという事実には、静かな感慨がある。
こうして鉱石ラジオ、すなわち電池を使わず結晶検波器だけで電波を聞く受信機が、20世紀初頭に広まった。少年たちが自作の受信機で放送を聞いた時代である。もっとも、結晶検波器はやがて真空管に主役を譲る。真空管は増幅ができ、動作も安定していたため、無線技術の中心はしばらく真空管が担うことになった。
半導体が表舞台に返り咲くのは、第二次世界大戦のレーダー開発によってである。レーダーは非常に高い周波数の電波を扱うが、この超高速の信号には真空管が追いつけなかった。応答の速さで勝る点接触型の半導体ダイオードが、再び必要とされたのだ。この軍事研究の中で、ケイ素やゲルマニウムの結晶を極限まで純粋にし、性質を狙い通りに制御する材料技術が一気に進んだ。半世紀ものあいだ気まぐれとされてきた結晶が、ようやく人間の設計に従う素材へと変わり始める。この純度と制御の技術こそが、次章で描くトランジスタの誕生を準備することになった。
本章で扱う「世界の潮流」
日本では、半導体の物語はしばしば戦後から語り出される。トランジスタラジオ、電卓、集積回路、そして日の丸半導体の栄枯盛衰。たしかにそれらは重要な章だが、物語の出発点はもっと古く、もっと世界に散らばっている。ドイツのブラウンが方鉛鉱に針を当てた1874年、インドのボースが電波の検出器を特許にした1901年、アメリカのピカードがケイ素を選び取った1906年。半導体の起源は、特定の一国や一企業のものではなく、通信を求める世界中の探求が寄り集まった地層の上にある。
この地層をならしてみると、前章から続く二つの流れが合流しているのが見える。一つは、セレンに始まる「光を電気に変える」流れ。もう一つは、方鉛鉱に始まる「電流を一方向に整える」流れである。前者はやがて太陽電池と撮像素子へ、後者はダイオードとトランジスタへと伸びていく。そして両者はいずれも、同じケイ素という結晶の上で一つに束ねられ、光を受けて電気信号を作り、それを整え増幅するイメージセンサーへと結実する。半導体を知ることは、カメラのセンサーがどんな地面の上に立っているのかを知ることでもある。
もう一つ、この章から汲み取れる世界の潮流がある。それは、発見が理解に先行し、理解が応用を導くという時間差の構造だ。整流効果は1874年に見つかり、その理由が1930年代に説明され、材料として飼いならされたのは1940年代である。現象を見つけた人、理由を解いた人、使い道を与えた人は、国も時代も職業も異なっていた。半導体という素材は、こうした長い分業のリレーの果てに、ようやく現代の姿を得た。次章では、そのリレーがひとつの頂点に達する瞬間、すなわちトランジスタの誕生を見ていく。気まぐれな結晶が、電流を弱くも強くも自在に操る増幅素子へと生まれ変わる物語である。
典拠(出典一覧)
- Ferdinand Braun, “Ueber die Stromleitung durch Schwefelmetalle,” Annalen der Physik und Chemie, Bd. 153, 556–563(1874)。英訳(IEEE Milestones Wiki) https://ieeemilestones.ethw.org/File:Braun_unipolar_translated_1874.pdf
- “1874: Semiconductor Point-Contact Rectifier Effect is Discovered,” Computer History Museum(The Silicon Engine) https://www.computerhistory.org/siliconengine/semiconductor-point-contact-rectifier-effect-is-discovered/
- “The Nobel Prize in Physics 1909″(Marconi・Braun), The Nobel Foundation https://www.nobelprize.org/prizes/physics/1909/summary/
- “1901: Semiconductor Rectifiers Patented as ‘Cat’s Whisker’ Detectors,” Computer History Museum(The Silicon Engine) https://www.computerhistory.org/siliconengine/semiconductor-rectifiers-patented-as-cats-whisker-detectors/
- J. C. Bose, “Detector for electrical disturbances,” U.S. Patent 755,840(1901年9月30日出願、1904年3月29日成立) https://patents.google.com/patent/US755840A/en
- G. W. Pickard, “Means for receiving intelligence communicated by electric waves,” U.S. Patent 836,531(1906年8月30日出願、同年11月20日成立) https://patents.google.com/patent/US836531A/en
- “Greenleaf Whittier Pickard,” Encyclopædia Britannica(猫のひげ検波器とケイ素結晶検波器の解説) https://www.britannica.com/biography/Greenleaf-Whittier-Pickard
- Felix Bloch, “Über die Quantenmechanik der Elektronen in Kristallgittern,” Zeitschrift für Physik, Bd. 52, 555–600(1928年8月10日受理、第52巻は1929年刊) https://www.pwein.at/physics/Lectures/Famous-Papers/Z-Physik-52-555-1928.pdf
- A. H. Wilson, “The Theory of Electronic Semi-Conductors,” Proceedings of the Royal Society A, Vol. 133, No. 822, 458–491(1931年10月1日) https://royalsocietypublishing.org/rspa/article/133/822/458/3073/The-theory-of-electronic-semi-conductors
- “History of Semiconductors”(整流と光応答の初期史、バンド理論の整理), Cornell University https://djena.engineering.cornell.edu/hws/history_of_semiconductors.pdf
- “Band Theory of Metals and Insulators,” Chemistry LibreTexts(導体・半導体・絶縁体のバンド構造の違い) https://chem.libretexts.org/Courses/Northern_Michigan_University/CH_215%3A_Chemistry_of_the_Elements_Fall_2023/05%3A_Solids_and_Solid-State_Chemistry/5.13%3A_Bonding_in_Metals_and_Semicondoctors/5.13B%3A_Band_Theory_of_Metals_and_Insulators
イメージセンサー・クロニクル

