イメージセンサー・クロニクル (5)
前章では、真空管を置き換えた小さな結晶の素子、トランジスタの誕生と進化をたどった。点接触型から接合型へ、そしてMOS電界効果トランジスタと集積回路へ。ケイ素の上に二酸化ケイ素の膜を育て、p型とn型の接合を作り込み、それを平面にびっしりと敷き詰めるという一連の技術。これらは後の章で描くイメージセンサーを支える土台そのものだが、その土台の上に立っているのはカメラだけではない。
本章はいったんカメラから離れ、半導体という土壌の上で花開いた「探知する素子」であるセンサーたちがどのように私たちの生活のすみずみへ溶け込んでいったのかを見ていく。光を感じ、熱を測り、磁気を読み取り、動きをとらえる働きは、いまや街灯や体温計、自動ドア、エアコン、自動車、そして手のひらのスマートフォンにまで宿っている。カメラのイメージセンサーは、これら多くのセンサーの一員にすぎない。様々なセンサーについて知ることで後半で主役となるイメージセンサーの立ち位置がはっきりと見えてくるはずだ。
半導体で花開いた探知素子
センサーとは、世界の様子を人間や機械が扱える信号へと翻訳する装置である。光の強さ、温度、磁気、動き、圧力。こうした物理的な量を電気の信号に変えることが、センサーに共通する仕事だ。
生活に溶け込んだセンサーの多くは、その原理が半導体よりずっと古い時代に発見されている。光を電気に変えるセレンの性質は1873年、放射熱を測るボロメーターは1878年、磁気を電圧に変えるホール効果は1879年に、いずれも19世紀のうちに見いだされていた。これらは前章と同じく「発見が理論や応用に先行する」という構図だ。
当時の素子は大きく、感度が低く、扱いにくく、そして高価だった。原理は分かっていても、それを小さく、安く、丈夫で、大量に作れる形にする術がなかった。だから19世紀のうちに生活へ広まらなかった。その術を与えたのは、第3章と第4章で見た半導体技術である。純度の高い結晶を育て、不純物を精密に加え、平面に回路を焼き付ける。この一連の技術が成熟してはじめて、19世紀にまかれた探知の種は、20世紀後半にいっせいに花を咲かせた。センサーが「生活に溶け込む」ようになったのは、原理の発見からではなく、半導体による量産が可能になったからなのである。
以下では、光、熱と赤外線、磁気、そして動きという順に、代表的なセンサーをたどっていく。
フォトダイオードとCdSセル
まず、もっとも身近な感覚である「光」を電気に変えるセンサーから見ていこう。これはイメージセンサーの直接の親戚にあたる一族でもある。
光を電気に変える最初の一歩は、第2章でも触れたとおり、1873年にイギリスの技師ウィロビー・スミスがセレンの光導電性を発見したことにさかのぼる。暗いところでは電気を通しにくいセレンが、光を当てると電気を通しやすくなる。この不思議な性質に目をつけたアメリカの発明家チャールズ・フリッツは、1883年、セレンを使って世界で初めての光電池を作り上げた。アメリカ物理学会は、この流れを次のように整理している。
Several decades later, in 1873, Willoughby Smith, an English engineer, discovered the photoconductivity of selenium while testing materials for underwater telegraph cables. In 1883, American inventor Charles Fritts made the first solar cells from selenium.
(訳:数十年ののち、1873年にイギリスの技師ウィロビー・スミスが、海底電信ケーブル用の材料を試験しているさなかにセレンの光導電性を発見した。1883年には、アメリカの発明家チャールズ・フリッツが、セレンから最初の光電池を作った。)
フリッツはこの光電池で、当時のエジソンの火力発電と張り合うことを夢見た。だが現実は厳しく、その変換効率は1パーセントにも届かなかった。発電の道具としては役に立たなかったのである。しかしセレンの光電池には、別の活躍の場があった。光の強さを電気で測れるという性質は、写真の露出計にうってつけだったのだ。カメラに取り込む光の量を測るセレン光電池式の露出計は、電池を必要としないという利点もあって、1960年代までカメラの露出計として広く使われた。光を数値に変えるという発想が、写真の現場に静かに根づいていたことになる。
発電用としての光電池が実用の水準に達するのは、ずっと後、半導体技術が成熟してからだった。1954年4月、ベル研究所のダリル・チャピン、カルビン・フラー、ジェラルド・ピアソンの三人が、ケイ素を使った実用的な太陽電池を初めて実演する。きっかけは、フラーが不純物を加えて性質を操ったケイ素の小片に、ピアソンが光を当てたところ、電流計の針が予想外に大きく振れたことだった。前章までに見たケイ素に不純物を加えてp型・n型の接合を作るという半導体技術が、ここでも生きている。
Those first silicon solar cells were about 6 percent efficient at converting the energy in sunlight into electricity, a huge improvement over any previous solar cells.
(訳:それら最初のシリコン太陽電池は、太陽光のエネルギーを電気に変える効率がおよそ6パーセントで、それまでのどの太陽電池と比べても大きな進歩だった。)
1パーセントに満たなかったセレンから、6パーセントのケイ素へ。この数字の跳躍こそ、半導体が探知素子にもたらした飛躍を象徴している。同じ光電変換という原理でも、材料と作り方を半導体の流儀に乗せかえた瞬間に、実用の壁を越えたのである。
光を測るセンサーとして、もう一つ生活に深く入り込んだのがCdSセルである。硫化カドミウム(CdS)という半導体でできたこの素子は、光が当たると電気抵抗が下がる。暗いところでは数メガオーム、すなわち数百万オームもの高い抵抗を示すのに、明るいところでは数百オームまで下がる。この抵抗の大きな変化を利用すれば、明るさを電気回路で手軽に読み取れる。CdSセルは光によって抵抗が変わる素子、すなわち光導電セル、あるいは光可変抵抗器(LDR)とも呼ばれる。安く作れて感度も高かったため、暗くなると自動で点灯する街灯、カメラの露出計、明るさに応じて動く「電子の目」など、20世紀後半のあちこちで使われた。今でも電子工作の入門用として親しまれている。ただしカドミウムは人体や環境に有害な重金属であり、現在では有害物質規制によって用途が大きく狭められている。
そして、イメージセンサーへまっすぐつながる素子が、フォトダイオードとフォトトランジスタである。前章で見たp型とn型の接合、すなわちpn接合に光を当てると、光のエネルギーが電子をはじき出し、電流が生まれる。これがフォトダイオードの原理だ。1950年、ベル研究所のジョン・シャイブが、この原理を増幅の働きと組み合わせたフォトトランジスタを発表した。ベル研究所はこれを、従来の光電管より小さく丈夫で、おそらくずっと安上がりな、新しい種類の「電気の目」だと誇った。フォトダイオードは反応が速く、小さく、半導体の量産技術にそのまま乗せられる。だからこそ、テレビのリモコンの受光部、光通信の受け手、脈拍を測るパルスオキシメーター、光学式マウスなど、数えきれない場所で今も働いている。そして、このフォトダイオードを平面にびっしりと並べ、一つ一つを画素とすれば、それはもう光の像をとらえるイメージセンサーにほかならない。本章で見た光センサーの系譜は、後の章でカメラのセンサーとして再び合流することになる。
赤外線・温度・磁気センサー
光の次は、目に見えない量を測るセンサーたちである。熱、赤外線、そして磁気。いずれも人間の感覚では正確につかめないものを、電気の信号に変えてくれる。
熱と赤外線をとらえるセンサーの草分けは、第2章でも名前を挙げたボロメーターである。アメリカの天文学者サミュエル・ラングレーが1878年に発明したこの装置は、放射熱を受けると温度が変わり、それにともなって金属の電気抵抗が変わることを利用して、ごくわずかな熱を測る。NASAは、その驚くべき感度をこう記している。
In 1878 he invented the bolometer, a radiant-heat detector that is sensitive to differences in temperature of one hundred-thousandth of a degree Celsius (0.00001 C).
(訳:1878年、彼はボロメーターを発明した。これは摂氏10万分の1度(0.00001℃)という温度の差にも感じ取れる、放射熱の検出器である。)
ラングレーは二枚の薄い金属片とホイートストンブリッジという回路を組み合わせ、太陽光を赤外線の領域まで細かく測り分けた。抵抗の変化から温度を読み取るというこの発想は、今日の温度センサーにそのまま受け継がれている。半導体でできたサーミスターは、温度によって抵抗が大きく変わる素子で、エアコンや冷蔵庫の温度管理、電子体温計、自動車のエンジン制御など、温度を測るあらゆる場所で使われている。放射熱をとらえるボロメーターの子孫は、いまや赤外線サーモグラフィや、人の接近を感じて点灯する人感センサーとして、生活の中に溶け込んでいる。
磁気をとらえるセンサーの原理は、1879年にさかのぼる。アメリカの物理学者エドウィン・ホールが、ジョンズ・ホプキンズ大学で博士論文の研究をしていたときに発見した「ホール効果」である。ホール素子を製造するメレキシス社は、その原理をこう説明している。
In 1879 he discovered that when a conductor or semiconductor with current flowing in one direction was introduced perpendicular to a magnetic field a voltage could be measured at right angles to the current path.
(訳:1879年、彼は、一方向に電流が流れている導体または半導体を磁場に対して垂直に置くと、電流の向きと直角の方向に電圧が測定できることを発見した。)
電流を流した薄い板に磁石を近づけると、板の横方向にわずかな電圧が生じる。この電圧の大きさから磁場の強さや向きが分かる。ホール効果は、半導体でできたホール素子として実を結んだ。スマートフォンの中で方位を知る電子コンパス、折りたたみ端末やノートパソコンのふたの開閉検知、自動車の回転数の測定、ブラシレスモーターの位置検出など、目には見えないところで数多くのホール素子が働いている。19世紀の物理の発見が、半導体という器を得て、手のひらの機器の中で生き続けているのである。
MEMSと加速度センサー
光、熱、磁気ときて、最後は「動き」をとらえるセンサーである。ここで登場するのが、半導体の製造技術をまったく新しい方向へ応用したMEMSという分野だ。
MEMSとは微小電気機械システムの略で、半導体を作るのと同じ技術を使って、ケイ素の上にごく小さな機械仕掛けを彫り込む技術をいう。これまで見てきたセンサーは、光や熱や磁気といった物理量を電気に変えるものだった。MEMSはそこに、目に見えないほど小さな「動く部品」を持ち込んだ。ばねでつるされた小さなおもりを作り、それが加速度で動く量から動きを読み取る。機械と電子回路を、同じケイ素のチップの上でひとつに融合させたのである。

この分野を切り開いた代表が、アナログ・デバイセズ社が1991年に世に出した加速度センサー、ADXL50だった。同社は自らの歩みを次のように振り返っている。
The first MEMS accelerometer product successfully developed, manufactured, and commercialized in the world was ADI’s ADXL50 accelerometer, which was released in 1991.
(訳:世界で初めて開発・製造・商品化に成功したMEMS加速度センサー製品が、1991年に発売されたアナログ・デバイセズのADXL50加速度センサーである。)
ADXL50が画期的だったのは、動きを感じ取る微小な機械部分と、その微弱な信号を整える電子回路とを、一枚のチップの上にまとめて作り込んだ点にある。データシートは、この素子をこう表現している。
The ADXL50 is a complete acceleration measurement system on a single monolithic IC.
(訳:ADXL50は、一枚の集積回路の上に完結した加速度測定システムである。)
ここに、前章で見た集積回路の思想がそのまま生きていることに注目したい。センサーと回路を別々に組み立てるのではなく、平面の上にまとめて焼き付ける。トランジスタと集積回路が切り開いた作り方が、機械仕掛けのセンサーにまで及んだのである。
ADXL50が最初にねらった用途は、自動車のエアバッグだった。衝突の瞬間の急な減速を感じ取り、一瞬でエアバッグをふくらませる。それまで大きく高価だった加速度センサーが、小指の先ほどのチップに収まったことで、安全装置は一気に普及した。そして2000年代に入ると、MEMS加速度センサーは自動車を飛び出し、私たちの手のひらへやってくる。画面を横に倒すと表示も横向きになるスマートフォン、体の動きで操作するゲーム機のコントローラー、一日の歩数を数える活動量計。これらはすべて、ケイ素に彫り込まれた小さなおもりが動きを感じ取っているおかげである。センサーが生活に溶け込んだ最も分かりやすい例が、この加速度センサーだといってよい。
身の回りの例を古い順に

ここまで種類ごとに見てきたセンサーを、今度は時間の流れに沿って並べ直してみよう。原理が発見された時代と、それが生活に溶け込んだ時代のあいだに横たわる時間差が、はっきりと見えてくるはずだ。
- 1873年、セレンの光導電性が発見される。のちにカメラの露出計へ。
- 1878年、ボロメーターが発明される。放射熱をとらえる原理は、のちの温度センサーや人感センサー、サーモグラフィへ。
- 1879年、ホール効果が発見される。のちにスマートフォンの電子コンパスや自動車のセンサーへ。
- 1883年、セレンの光電池が作られる。1960年代までカメラの露出計として活躍。
- 1950年、フォトトランジスタが発表される。自動ドアやリモコンの受光部などの「電気の目」へ。
- 1954年、実用的なシリコン太陽電池が生まれる。電卓や屋根の上のソーラーパネルへ。
- 1991年、世界初の商用MEMS加速度センサーが登場する。エアバッグから、やがてスマートフォンやゲーム機へ。
こうして並べると、二つのことが読み取れる。第一に、光・熱・磁気を感じ取るという基本の原理は、そのほとんどが19世紀のうちに出そろっていたということ。第二に、それらが安く小さく丈夫な製品として生活へ溶け込むのは、半導体技術が育った20世紀後半を待たねばならなかったということだ。発見から普及までに、しばしば半世紀から一世紀もの時間が流れている。
そして、今の私たちの身の回りを見渡せば、一台のスマートフォンの中に、この一族の多くが同居していることに気づく。光をとらえるイメージセンサーとフォトダイオード、方位を知るホール素子、傾きや歩数を測るMEMS加速度センサー、明るさに応じて画面を調整する光センサー、近づけると画面を消す近接センサー。19世紀にばらばらにまかれた種が、半導体という一つの土壌の上で、手のひらの中に寄り集まって咲いているのである。
本章で扱う「世界の潮流」
本章からは、次の潮流が読み取れる。
第一に、原理の発見と製品としての普及のあいだには、大きな時間差があるということだ。前章までにも「発見が理論や応用に先行する」という構図を繰り返し見てきたが、本章のセンサーたちはその最もはっきりした実例である。セレン、ボロメーター、ホール効果。いずれも19世紀の発見でありながら、生活に溶け込むのは20世紀後半だった。技術の歴史は、ひらめきと、それを誰もが使える形にする営みとが、別々の時代に担われるリレーとして進む。
第二に、その時間差を一気に縮めたのが、半導体という共通の土台だったということだ。光を電気に変える、抵抗の変化で温度を測る、磁気を電圧に変える、動きを機械仕掛けで読み取る。原理はばらばらでも、それらを小さく安く丈夫に量産する方法は、いずれも第3章と第4章で見た半導体技術に行き着く。ケイ素の結晶を精製し、不純物で性質を操り、平面に回路を焼き付けるという同じ作法が、多種多様なセンサーを一族としてまとめ上げた。センサーの世界が20世紀後半に花開いたのは、この共通の土台があったからにほかならない。
第三に、イメージセンサーはこの広大な一族の一員であり、決して孤立した特別な技術ではないということだ。光を電気に変えるフォトダイオード、集積回路の作り方、そして本章で見たMEMSに通じる微細加工の技術。イメージセンサーを成り立たせている要素は、いずれも生活のあちこちで働くほかのセンサーと共通している。だからこそ、イメージセンサーの歴史を理解するには、まずセンサーという一族全体の広がりを知っておくことが役に立つ。
次章では、いよいよカメラへと話を戻す。光を点ではなく「像」として、すなわち二次元の絵として電気に変えるにはどうすればよいのか。テレビの撮像管から始まり、CCDという固体撮像素子の発明へと至る、画像を電気で捉えるための長い挑戦の物語に入っていく。
典拠(出典一覧)
- “Samuel Pierpont Langley,” NASA Science(1878年のボロメーターの発明、放射熱を抵抗変化で検出する原理と感度) https://science.nasa.gov/earth/earth-observatory/samuel-pierpont-langley/
- “April 25, 1954: Bell Labs Demonstrates the First Practical Silicon Solar Cell,” American Physical Society(1873年スミスの光導電性、1883年フリッツのセレン光電池、1954年の実用シリコン太陽電池と6パーセントの効率) https://www.aps.org/apsnews/2009/04/bell-labs-silicon-solar-cell
- C. E. Fritts, “On a New Form of Selenium Cell, and Some Electrical Discoveries Made by Its Use,” American Journal of Science, s3-26(156), 465–472(1883)(世界初のセレン光電池の発表) https://ajsonline.org/article/65415-on-a-new-form-of-selenium-cell-and-some-electrical-discoveries-made-by-its-use
- “What is the Hall-effect principle?,” Melexis(1879年エドウィン・ホールによるホール効果の発見と、その動作原理) https://www.melexis.com/en/articles/hall-effect
- “A great Hall of science,” Johns Hopkins University(1879年、ジョンズ・ホプキンズ大学でのホール効果の発見の経緯) https://hub.jhu.edu/2020/01/07/hall-effect-2501-em1-art1-rea/
- “The Fundamentals of Analog Devices’ Revolutionary MEMS Switch Technology,” Analog Devices(世界初の開発・製造・商品化に成功したMEMS加速度センサーADXL50、1991年発売) https://www.analog.com/en/signals/thought-leadership/fundamentals-adi-revolutionary-mems-switch-technology.html
- “Monolithic Accelerometer With Signal Conditioning ADXL50,” Analog Devices(ADXL50データシート、単一の集積回路上に完結した加速度測定システム) https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/obsolete-data-sheets/2044696adxl50.pdf
イメージセンサー・クロニクル
- 序章
- 1.「センサー」という言葉の考古学
- 2.半導体登場以前のセンサーたち
- 3.半導体とは何か
- 4.トランジスタの誕生
- 5.生活に溶け込むセンサー

