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第3章:ミラーレス時代の到来——ショートフランジバックが解き放った互換性の爆発 | マウントアダプター・クロニクル

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ウントアダプター・クロニクル——レンズマウント変換の全史


マウントアダプター・クロニクル——レンズマウント変換の全史

  1. フィルム時代のレンズマウント——デジタル以前の「変換」の世界
  2. DSLRビデオ革命とマウントアダプター——デジタル一眼レフが開いた扉
  3. ミラーレス時代の到来——ショートフランジバックが解き放った互換性の爆発
  4. シネマカメラとマウント変換——PLマウントの覇権とリハウジングの世界
  5. なぜEFマウントとPLマウントは選ばれ続けるのか——Blackmagic PYXISと「枯れた技術」の強さ
  6. マウント換装業者とアダプターメーカー——映像業界を支えるサプライチェーン

ミラーレスとフランジバック——なぜ「短い」ことが革命なのか

ミラーがなくなると何が起こるか

一眼レフカメラ(SLR)は、レンズとセンサーの間にミラーボックスを持つ。撮影者がファインダーを覗くとき、ミラーがレンズからの光を上方に反射し、ペンタプリズムを経由して光学ファインダーに導く。撮影時にはミラーが跳ね上がり、光がセンサーに到達する。

このミラーボックスの存在が、フランジバックの「下限」を決めていた。ミラーが物理的に上下する空間が必要なため、フランジバックを40mm未満に設定することは構造上困難だった。キヤノンEFの44mm、ニコンFの46.5mm——これらの数字は、ミラーボックスの物理的制約が生んだものである。

ミラーレスカメラは、このミラーボックスを電子ビューファインダー(EVF)に置き換える。ミラーが不要になることで、フランジバックを大幅に短縮できる。そして前章で述べた通り、マウントアダプターの基本原則は「ボディ側のフランジバック < レンズ側のフランジバック」である。フランジバックが短ければ短いほど、より多くのレンズマウントとの互換性が生まれる。

主要ミラーレスマウントのフランジバック比較

マウント名導入年フランジバックSLR時代との差
マイクロフォーサーズ(MFT)2008年19.25mmフォーサーズ(38.67mm)から−19.42mm
ソニーEマウント2010年18.00mmソニーAマウント(44.50mm)から−26.50mm
富士フイルムXマウント2012年17.70mm(新規マウント)
キヤノンRFマウント2018年20.00mmキヤノンEF(44.00mm)から−24.00mm
ニコンZマウント2018年16.00mmニコンF(46.50mm)から−30.50mm
Lマウント(ライカ/パナソニック/シグマ)2014年/2018年アライアンス20.00mm(新規マウント)

この表を見れば一目瞭然だが、ミラーレス時代のフランジバックは16〜20mm台。SLR時代の44〜46mmから20mm以上短縮されている。これはマウントアダプターにとって決定的な意味を持つ。

たとえば、ソニーEマウント(18mm)のカメラにキヤノンEF(44mm)のレンズを付ける場合、26mmの空間がある。26mmもあれば、電子接点、AF駆動モーター、さらには光学補正素子まで内蔵したハイテクアダプターの設計が可能になる。SLR同士のアダプターでは考えられなかった高機能化が、ミラーレスの短いフランジバックによって初めて実現したのである。


ソニーNEX/α——Eマウントの台頭

NEX-5とNEX-3(2010年)——小さなボディ、巨大な可能性

ソニーが2010年に発売したNEX-5およびNEX-3は、APS-CサイズのセンサーをEマウント(フランジバック18mm)に搭載した世界初のミラーレス一眼である(マイクロフォーサーズが先行していたが、APS-Cサイズとしては初)。

NEXシリーズは、マウントアダプター愛好者にとって「宝箱」のような存在だった。フランジバック18mmは、主要なSLRマウント(EF 44mm、ニコンF 46.5mm、M42 45.46mm)はもちろん、レンジファインダー用のライカMマウント(27.8mm)、さらには映画用のPLマウント(52mm)まで、ほぼすべてのレンズマウントとの変換に十分な空間を提供した。

NEXの登場により、それまでニッチだった「オールドレンズ遊び」が一気にメインストリームに浮上した。ヘリオス44-2(58mm F2、M42マウント)、スーパータクマー55mm F1.8、ミノルタMCロッコール58mm F1.4——中古市場で数千円から1万円程度で手に入るこれらのオールドレンズが、NEXボディに装着するだけで「味のある映像」を生む。YouTubeやVimeoでオールドレンズ×ミラーレスの作例が爆発的に増えたのは、2010年代前半のことである。

ソニーα7シリーズ(2013年〜)——フルサイズミラーレスの幕開け

2013年、ソニーはα7およびα7Rを発表した。Eマウントにフルサイズセンサーを搭載した世界初のミラーレスカメラである。

α7の登場は、マウントアダプター市場にとって二つの意味で画期的だった。

第一に、フルサイズセンサーでオールドレンズが「本来の画角」で使えるようになった。NEXはAPS-Cセンサーだったため、50mmレンズは75mm相当にクロップされていた。α7では50mmは50mmのまま——レンズ本来の画角で撮影できる。

第二に、映像制作者にとってソニーEマウントがキヤノンEFに代わる「受け皿」になり始めた。α7Sシリーズ(高感度特化)、α7R IIIシリーズ(高解像度)の登場に伴い、映像制作者の間でEFマウントからEマウントへの移行が加速した。そしてEF→Eマウントアダプターの需要が爆発的に伸びた。

Metabones、Sigma MC-11、そしてソニー純正LA-EA

EF→Eマウントのアダプター市場は、複数の有力製品が競い合う激戦区となった。

  • Metabones Smart Adapter(2012年〜):EFレンズの電子絞りとAFに対応した先駆的製品。ただし初期のAF性能はネイティブレンズに遠く及ばなかった
  • Sigma MC-11(2016年):シグマ純正のEF→Eアダプター。シグマ製EFレンズとの互換性が高く、AF性能も比較的良好だった
  • ソニーLA-EA5(2020年):ソニーAマウントレンズをEマウントで使うための純正アダプター。位相差AF対応

さらに中国メーカーの急成長が市場を一変させた。ViltroxCommliteFringerといったメーカーが、MetabonesやSigmaの数分の一の価格でEF→Eアダプターを供給し始めたのである。特にViltrox EF-E IIは、1万円以下の価格ながらAFと電子絞りに対応し、「とりあえず試してみたい」というユーザーの需要を的確に捉えた。


パナソニックGHシリーズとマイクロフォーサーズ——映像制作者の「第三の選択肢」

マイクロフォーサーズ(MFT)の特異なポジション

マイクロフォーサーズ(MFT)は、2008年にオリンパスとパナソニックが共同で策定したミラーレスカメラ規格である。フランジバック19.25mmは、当時のミラーレス規格としては最も短い部類に入った。

MFTのマウントアダプター適性については、筆者がpixlog.jpの別連載「マイクロフォーサーズと映像表現の歴史」で詳述しているが、ここでも要点を押さえておく。

フランジバック19.25mmという数字は、以下のレンズマウントとの変換を可能にする。

  • ARRI PL(52mm):差32.75mm ◎
  • ニコンF(46.50mm):差27.25mm ◎
  • キヤノンEF(44mm):差24.75mm ◎
  • M42(45.46mm):差26.21mm ◎
  • ライカM(27.80mm):差8.55mm ○
  • Cマウント(17.526mm):差−1.72mm △(ケラレの可能性あり)

ウィキペディアの記述を借りれば、MFTの19.25mmのフランジバックは「これまでに作られたほぼすべてのレンズ」をアダプター経由で使用可能にする。これは誇張ではない。

GH4とGH5——映像制作のワークホース

パナソニックLUMIX GH4(2014年)は、ミラーレスカメラとして世界で初めて4K(3840×2160)内部記録に対応した。GH5(2017年)は4K/60fps、10-bit 4:2:2内部記録という映像制作者の夢を実現した。

GHシリーズがDSLRビデオ革命の「次」を定義した理由は複数あるが、マウントアダプターの文脈では以下が重要である。

  1. MFTマウントの圧倒的なアダプター適性により、EFレンズ、PLレンズ、オールドレンズがすべて使える
  2. Metabones Speed Booster(フォーカルリデューサー内蔵アダプター)との組み合わせで、クロップファクター2.0×を実質1.42×まで縮小し、約1段分の明るさを稼げる
  3. 小型軽量なボディがジンバルやドローンでの運用に適しており、レンズの選択肢が広いことがさらなる強みとなった

特にシグマ18-35mm F1.8 Art + Metabones Speed Boosterの組み合わせは「MFT映像制作の最強セットアップ」として伝説的な人気を獲得し、2026年現在でも使い続けている撮影者は少なくない。

Blackmagic Pocket Cinema Camera(2013年/2018年)

Blackmagic Designが2013年に発売したBMPCC(Blackmagic Pocket Cinema Camera)は、MFTマウントを採用したSuper 16mmセンサーサイズのシネマカメラである。価格は驚異の995ドル。ProRes/CinemaDNGのRAW収録に対応し、「映画品質の映像をポケットサイズのカメラで」という革命的な製品だった。

2018年のBMPCC 4Kはさらに衝撃的だった。MFTマウント、マイクロフォーサーズセンサー、Blackmagic RAW(BRAW)での12-bit収録、デュアルネイティブISO——これらを1,295ドルで提供した。

BMPCCシリーズとマウントアダプターの関係は深い。MFTマウントの採用により、EFレンズ(Speed Booster経由)、PLレンズ、ニコンFレンズ、M42オールドレンズ——あらゆるレンズ資産がBMPCCで活用可能だった。特にBMPCC 4K + Metabones Speed Booster ULTRA + EFレンズという組み合わせは、インディーズ映画やウェブコンテンツ制作の「定番セットアップ」となった。


ミラーレス時代のアダプター市場——群雄割拠

「スマートアダプター」の進化

ミラーレス時代のマウントアダプターは、SLR時代の「ただのスペーサー」から大きく進化した。フランジバックの差が大きいことで生まれた空間に、電子基板やモーターを内蔵できるようになったためである。

第1世代(2010年〜2013年頃):基本的な電子対応

  • EFレンズの電子絞り制御に対応
  • AF対応だが速度は実用に耐えないレベル
  • 代表製品:Metabones Smart Adapter、Commlite CM-EF-NEX

第2世代(2014年〜2017年頃):AF性能の向上

  • 位相差AF対応カメラ(α6000以降)との連携でAF速度が改善
  • IS(手ブレ補正)の電子通信に対応
  • 代表製品:Metabones EF-E Mount T Smart Adapter V、Sigma MC-11

第3世代(2018年〜現在):ネイティブに迫る性能

  • リアルタイム瞳AFとの連携
  • 高速連写時の追従AF
  • ファームウェアアップデートによる互換性改善
  • 代表製品:Sigma MC-21(EF→L)、各社最新アダプター

フォーカルリデューサーという発明

ミラーレス時代のマウントアダプターで最も革新的だったのが、2013年にMetabonesが発売したSpeed Booster——フォーカルリデューサー内蔵アダプターである。

フォーカルリデューサーとは、レンズの射出瞳とセンサーの間に縮小光学系を挿入し、イメージサークルを縮小する装置である。天体望遠鏡の世界では古くから知られた原理だが、カメラ用マウントアダプターに内蔵するという発想を商業化したのはMetabonesが初めてだった。

Speed Boosterの光学設計者ブライアン・コールドウェルは、技術白書「The Perfect Focal Reducer」の中でこう述べている。

Speed Boosterは、装着したあらゆるレンズのMTFを向上させる。これは光学工学においてきわめて稀な「フリーランチ」である。

——Brian Caldwell, “The Perfect Focal Reducer” White Paper

0.71倍のフォーカルリデューサーにより、MFTのクロップファクター2.0×が実質1.42×に縮小され、約1段分の明るさが加わる。50mm F1.4のEFレンズがSpeed Booster経由で35.5mm F1.0相当——光学工学の常識を覆す「得をするアダプター」の誕生だった。

中国メーカーの台頭

Speed Boosterの成功は、中国メーカーの参入を加速させた。

  • 中一光学(Zhongyi Optics):Lens Turboシリーズ。Speed Boosterの半額以下で市場参入
  • Viltrox:EF-M2 II(0.71倍フォーカルリデューサー内蔵EF→MFTアダプター)。低価格ながらAF対応
  • K&F Concept:電子接点なしのシンプルアダプターを各マウント組み合わせで大量展開。Amazonで「マウントアダプター」と検索すると上位を独占
  • Commlite:EF→E、EF→MFTなどのAF対応アダプターを中価格帯で展開
  • Fringer:キヤノンEF→富士フイルムXアダプターで高い評価を獲得

この価格破壊は、マウントアダプターを「プロの道具」から「誰でも気軽に試せるアクセサリー」に変えた。5,000円以下でEFレンズがソニーEマウントやMFTで使える——この手軽さが、レンズ資産の流動性をかつてないレベルまで高めたのである。


Lマウントアライアンス——新しい「共通マウント」の試み

2018年のフォトキナで何が起きたか

2018年9月、ドイツ・ケルンのフォトキナで衝撃的な発表があった。ライカ、パナソニック、シグマの3社がLマウントアライアンスを結成したのである。

Lマウントは元々ライカが2014年にライカTで導入した規格(フランジバック20mm)だが、アライアンスの結成により、パナソニックのLUMIX SシリーズとシグマのfpシリーズがLマウントを採用することになった。

マウントアダプターの文脈でLマウントが重要なのは、20mmというフランジバックにある。ソニーEマウント(18mm)にはわずかに及ばないが、十分に短く、EF(44mm)、ニコンF(46.5mm)、PL(52mm)からの変換が容易である。

さらにLマウントは**大きな内径(51.6mm)**を持ち、フルサイズセンサーへの光学的アクセスに余裕がある。これはシネマレンズの大きなイメージサークルをカバーする上で有利な特性である。

シグマfpとLマウントの映像制作的意義

シグマが2019年に発売したfp(Lマウント)は、世界最小・最軽量のフルサイズミラーレスカメラとして注目を集めた。Cinema DNG RAW内部記録に対応し、Sigma MC-21アダプター経由でEFレンズが使用可能。映像制作者にとって「もうひとつの選択肢」となった。

Blackmagic DesignもBMPCC 6K(2019年)でEFマウント、BMPCC 6K Pro(2021年)でEFマウント、そしてBMPCC 6K G2(2022年)でMFTマウントを採用するなど、マウント戦略が多様化している。


ミラーレス時代がマウントアダプターにもたらした構造変化

ミラーレスカメラの普及は、マウントアダプターの世界に以下の構造的変化をもたらした。

1. 「一方向」から「多方向」へ

SLR時代のアダプターは「◯◯→EF」のほぼ一方向だった。ミラーレス時代は、EF→E、EF→MFT、EF→L、EF→RF、PL→E、PL→MFT、PL→L、ニコンF→E、M42→E……と、変換の方向が爆発的に多様化した。

2. 「パッシブ」から「アクティブ」へ

SLR時代のアダプターは電子接点を持たない「パッシブアダプター」がほとんどだった。ミラーレス時代は、AF、電子絞り、IS通信、EXIF転送、さらにはフォーカルリデューサーまで内蔵した「アクティブアダプター」が主流となった。

3. 「ニッチ」から「マス」へ

かつてマウントアダプターは、一部のマニアや特殊な用途のための道具だった。ミラーレス時代には、カメラを買ったらまずアダプターも一緒に買う——そんなユーザーが大量に生まれた。AmazonやAliExpressでのマウントアダプターの売上は年々拡大しており、カメラアクセサリー市場の重要なセグメントとなっている。

4. カメラメーカー自身がアダプターを公式提供

キヤノンはEF→RFアダプター(Control Ring Mount Adapter EF-EOS R)を、ニコンはFTZおよびFTZ IIアダプター(ニコンF→Z)を純正で提供している。これは、メーカー自身が「旧マウントのレンズ資産をミラーレスで使い続けてほしい」というメッセージを明確に打ち出したことを意味する。

カメラメーカーがマウントアダプターを公式製品として販売する——フィルム時代には考えられなかったこの光景こそ、ミラーレス革命の象徴である。


次章では、シネマカメラの世界に焦点を移す。PLマウントが映画産業をいかに支配し続けているか、そしてオールドレンズや写真用レンズを映画撮影に使うための「リハウジング」という文化がどのように発展したかを描く。


マウントアダプター・クロニクル——レンズマウント変換の全史


参考文献・典拠

  1. Metabones — “Speed Booster” 公式サイト https://www.metabones.com/products/speed-booster
  2. Caldwell, Brian — “The Perfect Focal Reducer” Metabones White Paper https://www.metabones.com/assets/a/stories/The Perfect Focal Reducer White Paper.pdf
  3. Wikipedia — “Micro Four Thirds system” https://en.wikipedia.org/wiki/Micro_Four_Thirds_system
  4. Wikipedia — “Sony E-mount” https://en.wikipedia.org/wiki/Sony_E-mount
  5. Urth Magazine — “A Complete Guide to Using Lens Mount Adapters” https://magazine.urth.co/articles/lens-adapters-guide
  6. My Favourite Lens — “Vintage Lens Adapters — The Ultimate Guide” https://www.myfavouritelens.com/vintage-lens-adapters-ultimate-guide/
  7. Wikipedia — “L-Mount Alliance” https://en.wikipedia.org/wiki/L-Mount_Alliance
  8. TIPA — “TIPA Awards 2013 — Best Photo Accessory: Metabones Speed Booster” https://www.tipa.com/english/award-details.html?iId=2544
  9. 中一光学(Zhongyi Optics) — “Lens Turbo II” 公式サイト https://zyoptics.net/product/lens-turbo-ii/

本記事はpixlog.jpの長期連載企画「マウントアダプター・クロニクル」の一部です。引用・転載の際は出典を明記してください。

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