音を録る、映像に届ける——ティアック × ZOOM(6)

ティアック(証券コード6803)とZOOM(証券コード6694)——どちらも東証スタンダード市場に上場する日本の音響機器メーカーだが、その財務体質と市場からの評価は大きく異なる。 本章では、両社の直近決算・財務指標・株価推移を比較し、2026年以降の事業見通しと投資判断のポイントをまとめる。なお、株価・財務データは2026年2月時点の情報に基づく。
ティアック(6803)の財務状況
会社概要(財務観点)
| 証券コード | 6803(東証スタンダード) |
|---|---|
| 資本金 | 約35億円 |
| 従業員数 | 連結547名 |
| 決算期 | 3月期 |
| 主要セグメント | 音響機器事業(TASCAM・エソテリック)、情報機器事業(計測・医療向けデータレコーダー) |
2026年3月期(FY2025)の業績
| 項目 | Q3累計(4–9月12月) | 通期予想 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 114.37億円 | 157億円 |
| 営業利益 | 0.82億円 | 5億円(前期比+47%) |
| 当期純利益 | — | 4億円(前期比+393%) |
ティアックの2026年3月期はIFRS適用による決算である。Q3累計(2025年4月〜12月)の売上収益は114.37億円、営業利益は0.82億円(約82百万円)と、通期予想に対して営業利益の進捗率は低い。しかし、会社側は通期予想を修正しておらず、Q4(2026年1月〜3月)での利益回収を見込んでいるものと推察される。
注目ポイント
- 情報機器事業の存在: ティアックは音響機器だけの会社ではない。計測機器や医療機器向けのデータレコーダー事業(旧プロセシング事業部の流れ)が売上の一定割合を占めており、音響機器市場の波に対するヘッジとなっている。
- エソテリックブランドの貴重さ: 高級オーディオブランド「エソテリック(Esoteric)」は利益率が高く、富裕層・オーディオファイル向けの安定した需要がある。円安は輸出比率の高いエソテリックにとって追い風となる。
- 小型株ゆえの流動性リスク: 時価総額が小さく、売買代金も比較的少ないため、株価のボラティリティが高くなりやすい。
株価動向
2026年2月時点でのティアックの株価は約123〜125円前後で推移している。PER(株価収益率)は通期予想ベースで算出するとやや割高感があるが、PBR(株価純資産倍率)は1倍を下回る水準で推移しており、資産面からの割安感が意識されている。
過去数年のティアック株は100円前後のレンジで推移することが多く、大きな手掛かり材料は出にくいが、通期業績予想の達成や配当の増額があれば緩やかな上昇が見込まれる。
ZOOM(6694)の財務状況
会社概要(財務観点)
| 証券コード | 6694(東証スタンダード) |
|---|---|
| 資本金 | 約2.12億円 |
| 総資産 | 約187.43億円(2025年12月期実績) |
| 自己資本比率 | 30.1%(2025年12月期実績) |
| 決算期 | 12月期 |
| 主要セグメント | 音響機器事業(単一セグメント) |
2025年12月期(FY2025)の業績
| 項目 | 通期実績(2025年1月〜12月) |
|---|---|
| 売上高 | 174億円 |
| 経常損益 | ▲2.3億円(赤字転落) |
ZOOMの2025年12月期は、経常損益が2.31億円の赤字に転落した(2026年2月16日発表)。売上高174億円はティアックの通期予想157億円を上回る規模でありながら、収益性では苦戦している構図だ。
赤字転落の背景
ZOOMが赤字に転落した主な要因は以下のとおりである。
- コロナ特需の反動減: COVID-19パンデミック期間中、在宅での音楽制作や配信需要が急増し、ZOOMのハンディレコーダーやオーディオインターフェースは爆発的に売れた。しかしその反動で、ポストコロナ期には需要が正常化し、売上が伸び悩んでいる。
- 在庫調整の影響: コロナ期に積み上げた在庫の消化が長引き、新製品の投入ペースと既存在庫のバランスが課題となっている。
- 競争激化: ハンディレコーダー市場ではタスカムだけでなく、中国系メーカーの参入もあり、価格競争が激しさを増している。
- 研究開発費の負担: ZOOMは新製品ライン(Fシリーズの後継機種、新たなデジタルミキサー等)の開発に積極的に投資しており、その費用が収益を圧迫している。
株価動向
2026年2月時点でのZOOMの株価は約623円前後で推移している。コロナ特需時の高値からは大幅に下落しており、市場は業績の回復を見守っている状況だ。
自己資本比率は30.1%(2025年12月期実績。前期の35.7%から低下)と、製造業としては低めの水準である。総資産187.43億円に対して資本金が2.12億円と小さく、負債比率が相対的に高い構造となっている。なお、2025年12月期は構造改革に伴う特別損失の計上により、当期純損失は17.28億円に拡大している。
両社の財務比較
| 指標 | ティアック(6803) | ZOOM(6694) |
|---|---|---|
| 売上規模(通期予想) | 157億円 | 174億円 |
| 営業利益 / 経常損益 | 5億円(黒字) | ▲2.3億円(赤字) |
| 株価(2026年2月) | 約123〜125円 | 約623円 |
| 資本金 | 約35億円 | 約2.12億円 |
| 総資産 | — | 約187.43億円 |
| 自己資本比率 | — | 30.1% |
| 事業構造 | 複数セグメント(音響+情報機器) | 単一セグメント(音響機器) |
| 決算期 | 3月期 | 12月期 |
この表から読み取れる最大のポイントは、売上規模ではZOOMが上回るが、収益性ではティアックが優位という点である。ティアックはエソテリックという高利益率ブランドと、情報機器事業というヘッジを持つことで、音響市場の変動を吸収しやすい構造になっている。一方のZOOMは音響機器単一セグメントであるがゆえに、市場環境の影響を直接受けやすい。
2026年以降の展望
ティアックの展望
- エソテリック事業の安定成長: 世界的なハイエンドオーディオ市場は安定的に成長しており、エソテリックの高級機種は引き続き需要が見込まれる。円安が続けば輸出競争力が高まり、収益にプラスに働く。
- TASCAMのビデオグラファー向け製品の強化: 第3章で述べたとおり、TASCAMはPortacapture X8などの新世代製品でビデオグラファー市場へのアピールを強めており、このセグメントの成長が期待される。
- 情報機器事業の安定収益: 計測・医療向けデータレコーダーは景気変動の影響を受けにくく、安定した収益基盤として機能する。
- リスク要因: アナログメディアのアーカイブ需要は有限であり、TCSの事業は将来的に縮小する可能性がある。また、業務用音響機器市場は成熟産業であり、爆発的な成長は見込みにくい。
ZOOMの展望
- ポストコロナの正常化が追い風: コロナ特需の反動減が一巡すれば、ベースラインが安定し、新製品の効果が収益に反映されやすくなる。
- 新製品ラインの成果: Fシリーズの後継機種や、32bitフロート技術を搭載した新製品が市場に浸透すれば、売上回復の原動力となる。
- コンテンツクリエイター市場の拡大: ポッドキャスト・ライブ配信市場は引き続き成長が見込まれるが、ZOOMがこの領域でどれだけシェアを維持できるかがカギとなる。
- リスク要因: 自己資本比率の低さは財務的な余力の少なさを示唆しており、赤字が長期化すれば資金繰りに影響が出る可能性がある。また、単一セグメントであるがゆえに、音響機器市場全体が低迷した場合のヘッジがない。
投資家としての視点——まとめ
| 観点 | ティアック(6803) | ZOOM(6694) |
|---|---|---|
| 成長性 | 緩やか。爆発力はないが安定 | 回復待ち。新製品次第 |
| 収益性 | 黒字維持。エソテリックが牽引 | 赤字転落中。回復に時間がかかる |
| 財務健全性 | 資本金が大きく、相対的に安定 | 自己資本比率低め、赤字長期化に注意 |
| 株価の割安感 | PBR1倍割れで資産面の割安感あり | 赤字予想で割安判定が難しい |
| カタリスト | 円安継続、エソテリック新製品 | 新製品ヒット、コンテンツ市場拡大 |
| リスク | 成熟市場、TCS縮小 | 赤字長期化、競争激化、低自己資本 |
カメラ機材に興味を持つ読者にとって、この2社の株価・財務を知ることは、製品の背景を理解する上で有益である。製品の価格設定、新製品の投入ペース、サポート体制の充実度——これらはすべて、その企業の財務体質と直結している。
ティアックは「守りの経営」で着実に利益を積み上げ、ZOOMは「攻めの経営」で新市場を開拓しようとしている。どちらが正しいかは一概には言えないが、両社の製品を使うビデオグラファーとしては、それぞれの企業がどのような経営環境のなかで製品を作っているのかを知っておくことは、機材選びの一つの判断材料になるはずだ。
音を録る、映像に届ける——ティアック × ZOOM (ガイドページ)
- ティアックとは——録音と再生に捧げた70年の歩み
- ZOOMとは——米Zoomとは違う、日本発の音響機器メーカー
- デジタル一眼動画革命と両社の邂逅——ビデオグラファーを支えたレコーダーたち
- 両社の得意領域と競合関係——強み・弱み・ライバルを読み解く
- カメラの外側で——アーカイブ事業と音響技術の広がり
- 株価・財務・今後の見通し——2026年以降の両社を展望する
典拠一覧
本章の記述は以下の情報源に基づく。
- ティアック株式会社 IR情報 — https://www.teac.co.jp/jp/ir/
- 株式会社ズーム IR情報 — https://www.zoom.co.jp/ir/
- 株探「ティアック(6803)」 — https://kabutan.jp/stock/?code=6803
- 株探「ズーム(6694)」 — https://kabutan.jp/stock/?code=6694
- Yahoo!ファイナンス — https://finance.yahoo.co.jp/
- ティアック 2026年3月期 第3四半期決算短信(会社発表資料)
- ズーム 2025年12月期業績予想(会社発表資料)


