
誰もがポケットに録音スタジオを持つ時代は、どのようにして訪れたのか。
2005年、ソニーがチタンボディの「PCM-D1」を発売したとき、リニアPCMの高音質をフィールドに持ち出すという行為は、まだ一部のプロフェッショナルと熱心なオーディオマニアだけの特権だった。それからわずか数年で、ZoomやTASCAMが1万円台のリニアPCMレコーダーを世に送り出し、Canon EOS 5D Mark IIが「DSLR革命」を起こし、映像制作者たちは外部レコーダーによる高品質な音声収録を当たり前のように行うようになる。
だが、その熱狂もまた永遠ではなかった。
スマートフォンの普及、ワイヤレスマイクの台頭、そしてコロナ禍が加速させた音声機材の大衆化。リニアPCMレコーダーの市場は劇的に変容し、かつての主要メーカーが相次いで撤退する一方、32bit フロート録音やタイムコード同期といった新技術を武器に、ニッチだが確かな需要を掴み続けるメーカーも存在する。
本記事では、アマチュアによるポータブル録音の黎明期から現在までを 全8章 で辿る。カセットテープ、DAT、MD、HiMD、そしてリニアPCMレコーダー。映像制作と音声収録の歴史を交差させながら、「音を記録する」という行為がどのように民主化されてきたのかを、読者とともに歩いていきたい。
リニアPCMレコーダー・クロニクル——ポータブル高音質録音の軌跡
- リニアPCMレコーダーとは何か——定義と、現在の使われ方
- アマチュアによる音声録音の歴史——オープンリールからカセットテープまで
- 音声収録のデジタル化——DAT・MD・HiMDの時代
- リニアPCMレコーダーの登場——Sony PCM-D1からZoom H4nへ
- DSLR革命と音声収録——Canon EOS 5D Mark IIが変えた映像制作の音
- コモディティ化と市場再編——急成長、価格競争、そして撤退
- ワイヤレス化・YouTuber・コロナ禍——音声機材の大衆化とリニアPCMレコーダーの相対化
- 現在のリニアPCMレコーダー——誰が、なぜ、いまも使い続けるのか
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※本記事はpixlog.jpの長期連載企画「リニアPCMレコーダー・クロニクル」の目次ページです。引用・転載の際は出典を明記してください。




