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LED照明の覇権—Nanlite・Aputure・Godoxが塗り替えた映像制作の光(2012-現在)| 中華撮影機材クロニクル(3)

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中華撮影機材クロニクル THE COMPLETE SERIES — Vol.03

第2回で描いたフラッシュ革命は、「瞬間光」の世界の物語だった。シャッターが切られる一瞬だけ閃く光——それがストロボの本質であり、写真撮影には欠かせないが、映像撮影には使えない。

映像に必要なのは定常光——カメラが回っている間、ずっと灯り続ける光である。

2000年代までの映像用定常光は、タングステン(ハロゲン)やHMI(メタルハライド)が主流だった。Arri(ドイツ)のフレネルスポットライト、Kino Flo(アメリカ)の蛍光灯バンクライト、Mole-Richardson(アメリカ)のタングステンライト——いずれも高品質だが、高価で、重く、そして熱かった。タングステンライトの表面温度は数百度に達し、狭いスタジオでは空調なしに長時間撮影ができなかった。

この「重い・熱い・高い」の三重苦を、根底から解決したのがLED照明である。

そしてこのLED照明市場を、中国の3つのメーカー——Nanlite、Aputure、Godox——が塗り替えた。


  1. DSLRビデオ革命——LED照明需要の爆発
    1. 2008年——すべてを変えたCanon 5D Mark II
    2. 2010年代前半:小型LEDパネルの時代
  2. Nanguang(南冠)——最古参のLED照明メーカー
    1. 1992年創業の蛍光灯メーカーからLEDへ
  3. Aputure——「映像照明のGodox」
    1. 2014年創業——シリコンバレー的感性の中国ブランド
    2. 最初の製品——Amaranシリーズ
  4. COB LED革命——Aputure Light Storm 120d
    1. 2017年:映像照明の転換点
    2. 120dが起こした連鎖反応
    3. 2018年:120d II と 300d——ラインナップの拡充
  5. Godox——フラッシュの王者、LED市場に参戦
    1. SLシリーズ——「最も安いCOB LED」
    2. Knowled M600D——シネマ市場への本格参入
  6. Nanlite——「Nanguang」から世界ブランドへ
    1. ブランド刷新——2017年の転換
    2. Forzaシリーズ——COB LED三つ巴の戦い
  7. PavoTube——RGBチューブライトという新カテゴリ
    1. クリエイティブ照明の民主化
  8. Amaran——「誰でも買える」LED照明
    1. Aputureのサブブランド戦略
    2. Amaranの独立——2024年のブランド分離
  9. LED照明市場の構造——三つ巴の競争
    1. 2020年代の勢力図
  10. YouTubeとコンテンツクリエイター——需要を牽引する新しい「撮影現場」
    1. 撮影現場の重心移動
    2. 「照明レビュー」というコンテンツジャンルの成立
  11. 欧米メーカーの対応と苦闘
    1. Arri——「最高品質」の聖域は守れるか
    2. Kino Flo・Litepanels——中間層の苦境
  12. ソフトウェアエコシステム——照明制御のデジタル化
    1. アプリ制御とDMX——もうひとつの競争軸
  13. 現在の市場構造——LED照明は「中国ブランド三者の競技場」
  14. 参考・典拠一覧

DSLRビデオ革命——LED照明需要の爆発

2008年——すべてを変えたCanon 5D Mark II

LED照明産業の勃興を語る前に、その需要を爆発的に押し上げた「事件」に触れなければならない。

2008年、Canon EOS 5D Mark IIが発売された。フルサイズセンサーを搭載した一眼レフカメラで、初めて1080p動画撮影が可能になった機種である。この製品は「DSLRビデオ革命」と呼ばれる一大潮流を引き起こした。

それまで映像制作用カメラは、業務用ビデオカメラ(Sony、Panasonic、Canon等)の独壇場であり、価格は数十万円から数百万円に達した。5D Mark IIは約30万円で、フルサイズセンサーの浅い被写界深度による「映画的な映像」を誰でも撮れるようにした。

この革命が照明市場に与えたインパクトは絶大だった。

映像を撮る人口が一気に拡大したのである。フリーランスの映像クリエイター、ウェディングビデオグラファー、YouTuber、企業の広報担当者——「カメラは買えたが、照明は持っていない」という層が爆発的に増えた。そしてこの層が求めたのは、Arriのフレネル(1灯30万円超)ではなく、手頃で、軽く、熱くない照明だった。

LED照明は、まさにこの需要に応える技術だった。

2010年代前半:小型LEDパネルの時代

DSLRビデオ革命の初期(2008年〜2013年頃)に普及したのは、小型LEDパネルライトである。

カメラのホットシューやアクセサリーシューに取り付けるオンカメラLEDパネルは、Litepanels(アメリカ、2001年設立)が先駆者だった。Litepanels MicroProは小型ながら高品質な光を提供し、ドキュメンタリーや報道撮影で重宝されたが、価格は3万〜5万円以上した。

ここに中国メーカーが参入する。

第2回で触れたNeewerをはじめ、無数の深圳系ブランドが2,000円〜5,000円の小型LEDパネルをAmazon上に投入した。品質は玉石混交だったが、「とにかく安い定常光」を求める層には十分だった。

しかし、小型LEDパネルには本質的な限界があった——光量が足りない。インタビュー撮影のフィルライト(補助光)や、テーブルフォトのちょっとした補助光には使えるが、キーライト(主光源)としてスタジオや屋外ロケで使うには力不足だった。

この限界を突破したのが、COB(Chip on Board)LED技術である。


Nanguang(南冠)——最古参のLED照明メーカー

1992年創業の蛍光灯メーカーからLEDへ

第1回で触れたように、Nanguang(南冠、のちのNanlite) は1992年に広東省汕頭市で創業した、中国最古参の写真・映像用照明専門メーカーである。

創業当初は蛍光灯照明やハロゲン照明を主力としていたNanguangが、LED照明に本格参入したのは2000年代後半から2010年代初頭にかけてである。

Nanguangの強みは、20年以上にわたる照明機材専業の技術蓄積にあった。光の拡散特性、色温度の精度管理、放熱設計——これらは蛍光灯やハロゲンの時代から培ってきた知見であり、LEDという新しい光源にもそのまま応用できるものだった。

2010年代前半のNanguangは、LEDパネルやスティック型LEDなどを手がけていたが、まだ世界市場で大きな存在感を放つには至っていなかった。Nanguangが「Nanlite」ブランドとして世界の照明市場を変えるのは、2019年のForzaシリーズ登場以降の話である。


Aputure——「映像照明のGodox」

2014年創業——シリコンバレー的感性の中国ブランド

LED照明市場に革命を起こした最初のメーカーは、意外にも2014年創業の新興企業——Aputure(アプチャー) だった。

Aputureは、イアン・シエ(Ian Xie)とテッド・シム(Ted Sim)を中心に、2014年に設立された。社名は映像用語の「aperture(絞り)」と「future(未来)」を組み合わせた造語である。創業メンバーには富士フイルム出身のカラーサイエンティストやロサンゼルスのシネマトグラファーが含まれており、設立当初から**「映像制作者のためのプロフェッショナルLED照明」** を志向していた。

Aputureが他の中国照明メーカーと決定的に異なっていたのは、ブランド戦略とコミュニティマーケティングの巧みさである。

Godoxが「高機能・低価格」で市場を席巻したのに対し、Aputureは**「プロ映像制作者にリスペクトされるブランド」**を最初から目指した。公式YouTubeチャンネルでの映像制作チュートリアル、NABやCine Gear Expoなどの映像機材展示会への積極的な出展、ハリウッドの撮影監督やインディペンデント映画制作者へのサンプル提供——Aputureは「中国メーカー」ではなく「グローバルな映像照明ブランド」としてのアイデンティティを構築しようとした。

最初の製品——Amaranシリーズ

Aputureの最初の照明製品は、Amaran(アマラン) シリーズのLEDパネルだった。

AmaranパネルはLitepanelsなどの既存製品より大幅に安価でありながら、演色評価数(CRI)の高さで評価を得た。従来の中国製LEDパネルはCRI 80台のものが多く、人肌が不自然な色に映る「LED特有の問題」を抱えていたが、AmaranパネルはCRI 95以上を達成し、「安いが色が正確」という新しいポジションを確立した。

Amaranシリーズは、Aputureにとっての「助走」だった。本当の飛躍は、2016年以降のLightstormシリーズで訪れる。


COB LED革命——Aputure Light Storm 120d

2017年:映像照明の転換点

2017年、Aputureは「Light Storm(ライトストーム)」シリーズを本格始動させた。COB LEDを搭載した初のスタジオグレード照明ラインであり、その旗艦モデルがAputure Light Storm LS C120d(以下120d)だった。

120dは、120WのCOB LED光源を搭載したデイライト(6000K)のスポットライトだった。

COB(Chip on Board)LEDとは、複数のLEDチップを1つの基板上に高密度で実装し、単一の大光量光源として機能させる技術である。小型LEDパネルの「面光源」とは異なり、COB LEDは「点光源」に近い特性を持つ。これにより、フレネルレンズやリフレクター、ソフトボックスなどの光を整形するアクセサリー(モディファイア) と組み合わせることで、従来のタングステンやHMIと同じように光をコントロールできる。

120dの革新性は以下の点にあった。

1. Bowensマウントの採用

120dはBowensマウントを採用した。これは第2回で述べたように、Godoxのフラッシュが普及させたのと同じ照明アクセサリーの接続規格である。つまり、すでにGodoxのフラッシュ用に購入済みのソフトボックスやリフレクターが、120dでもそのまま使える。この互換性は、GodoxエコシステムのユーザーがスムーズにLED照明へ移行する道筋を作った。

2. 圧倒的なコストパフォーマンス

120dの価格は約600ドル(約7万円前後) だった(IBC 2016での発表時MSRP $595)。同等の光量を持つArri L7-Cは30万円超、Litepanels Astra 6Xは約20万円。120dは、プロフェッショナル品質のCOB LEDスポットライトを、従来品の数分の1の価格で提供した。

3. CRI 96+の高演色性

「安いが色が正確」——AmaranパネルでAputureが確立したこのブランドイメージは、120dでさらに強化された。CRI 96以上、TLCI 97以上という数値は、Arriの定常光と比較しても遜色のない水準だった。

120dが起こした連鎖反応

120dは、映像制作の現場に連鎖的な変化をもたらした。

YouTubeスタジオの「標準照明」として普及

2017年〜2018年頃、英語圏のYouTubeクリエイターの間で120dが爆発的に普及した。それまでYouTuberの照明は、リングライトや安価なLEDパネル、あるいは「自然光のみ」が主流だった。120dは「プロっぽい映像」を撮りたいYouTuberに、手が届く価格でスタジオグレードの照明を提供した。

Peter McKinnon、Matti Haapoja、Gerald Undone——当時急成長中だった映像系YouTuberたちが120dをレビューし、推薦したことで、「最初のCOB LED=Aputure 120d」という認知が確立された。

インディペンデント映画制作への浸透

120dは、低予算の映画制作にも浸透した。「照明1灯に30万円」が常識だった映画照明の世界に、7万円前後の高演色LED照明が登場したインパクトは大きかった。映画学校の学生や自主映画の制作者にとって、120dは「初めて手が届いたプロ照明」だった。

2018年:120d II と 300d——ラインナップの拡充

2018年、AputureはLight Storm LS C120d IIを発売した。初代の120dから約25%の光量増加、色温度の5500Kへの変更(初代は6000K)、1%までの減光対応、改良された冷却ファンによる静音化が主な改善点だった。価格は約745ドル。

同時期にはAputure LS C300d(300W)も展開され、「120Wでは足りないが、Arriの600W級は高すぎる」という層の需要を捉えた。300dはNABなどの業界展示会で「Best in Show」を受賞し、Aputureがハリウッドの映像制作コミュニティからも認められたことを示した。


Godox——フラッシュの王者、LED市場に参戦

SLシリーズ——「最も安いCOB LED」

フラッシュ市場で圧倒的な存在感を確立したGodoxが、LED定常光に本格参入したのはSLシリーズによってである。

Godox SL-60Wは、60WのCOB LEDスポットライトで、価格は約120ドル(1.5万円前後) という驚異的な安さだった。Aputure 120d(約600ドル)の5分の1以下、Arriのフレネルとは比較にすらならない価格である。

SL-60Wは、Aputure 120dと同じBowensマウントを採用していた。「とにかく安いCOB LED照明が欲しい」という層に、SL-60Wは圧倒的に支持された。

ただし、品質面ではAputureとの差が明確だった。SL-60Wは冷却ファンの騒音が最大の弱点で、マイクに音が拾われてしまうレベルだった。多くのユーザーが冷却ファンをNoctua(オーストリアの静音ファンメーカー)製に交換するという「改造」を行った——これは中国製LED照明の黎明期を象徴するエピソードである。

Godoxはその後、SL-150WSL-200Wと光量を増やしたモデルを投入し、さらに2022年頃にはSL60IID(第2世代)で静音性を大幅に改善した。

Knowled M600D——シネマ市場への本格参入

Godoxのフラッシュ戦略が「低価格帯から参入し、徐々にハイエンドへ上昇する」ものだったように、LED照明でもGodoxは同じ軌道を描いた。

2021年末、Godoxは新しいプロフェッショナルブランド**「Knowled(ノウレッド)」を発表し、その第一弾としてKnowled M600D**を発売した。

M600Dは、600WのデイライトCOB LEDスポットライトで、3mの距離で15,700ルクスという高出力を誇った。価格は1,499ドル。Aputure LS 600d Pro(1,890ドル)より400ドル安く設定され、「Godox品質でAputureより安い」という、フラッシュ市場で繰り返されてきたパターンがLED照明でも再現された。

Knowledブランドの立ち上げは、Godoxが「低価格の撮影機材メーカー」というイメージから脱却し、映画・テレビ制作のハイエンド市場に正面から挑む意志を示すものだった。


Nanlite——「Nanguang」から世界ブランドへ

ブランド刷新——2017年の転換

1992年創業のNanguang(南冠)が、世界的なブランドとして再出発したのは2017年前後のことである。

それまで「Nanguang」名義で販売していた製品群を**「Nanlite」** ブランドに統一し、グローバル市場向けのマーケティングを本格化させた。さらに映画・テレビ向けのハイエンドブランド**「Nanlux」** を立ち上げ、「Nanlite=プロシューマー・中級機」「Nanlux=シネマ・ハイエンド」という二層構造を構築した。

2022年には創業30周年を迎え、従業員900名以上、工場面積44,000㎡超、特許270件以上の企業に成長していた。30年間一貫して照明機材だけに注力してきた「専業メーカー」としての深みが、Nanliteの最大の武器である。

Forzaシリーズ——COB LED三つ巴の戦い

2019年のNAB(National Association of Broadcasters)展示会で、NanliteはForzaシリーズを発表した。

Forza 60(60W)、Forza 300(300W)、Forza 500(500W)——これらはAputure Lightstormシリーズ、GodoxのSL/Knowledシリーズと正面から競合するCOB LEDスポットライトだった。

Nanliteの差別化ポイントは、30年間の照明専業メーカーとしての「光の質」への拘りにあった。均一な配光特性、低ノイズの冷却設計、そして色温度の正確さ——Nanliteは「Aputureのブランド力」や「Godoxの価格攻勢」とは異なる、「照明のプロフェッショナリズム」 で勝負した。

2023年1月にはForza IIシリーズ(60 II / 60B II / 300 II / 300B II / 500 II / 500B II)を発表。グリーン/マゼンタ補正機能の追加、バラスト(コントロールボックス)の小型化、静音設計の改善など、実制作現場からのフィードバックを反映した改良が施された。


PavoTube——RGBチューブライトという新カテゴリ

クリエイティブ照明の民主化

Nanliteが世界的に注目を集めたもうひとつの製品群が、PavoTubeシリーズである。

PavoTubeは、RGBフルカラー対応のチューブ型LED照明だ。2700K〜7500Kの色温度調整に加え、360°のRGBカラーを自在に設定できる。

チューブ型のLED照明自体はAstera(ドイツ)やQuasar Science(アメリカ)が先行していたが、PavoTubeは価格を数分の1に引き下げた。Astera Titanチューブが1本10万円以上だったのに対し、NanliteのPavoTube 15Cは約200ドル(2〜3万円)で手に入った。

PavoTubeの普及は、映像制作における**「クリエイティブ照明」の民主化**を意味していた。背景にシアンやマゼンタのアクセントカラーを入れる、実用的な照明と演出照明を1本で兼用する——こうした「色で語る映像表現」が、低予算の制作でも可能になった。

ミュージックビデオ、ファッション撮影、製品のプロモーション映像——PavoTubeは、かつてハリウッドのカラリスト(色彩設計担当)の領域だった「色の演出」を、YouTubeクリエイターの手に届けた。


Amaran——「誰でも買える」LED照明

Aputureのサブブランド戦略

Aputureは2020年12月、LightstormシリーズのLS 600d Pro(600W、1,890ドル)を発売すると同時に、まったく異なる価格帯の製品を発表した。

Amaran 100d(100W、199ドル)とAmaran 200d(200W、299ドル)である。

Amaranは元々Aputureの最初の照明シリーズ(LEDパネル)の名称だったが、ここで**「エントリー〜ミッドレンジのCOB LEDスポットライト」のサブブランド**として再定義された。Bowensマウント対応、CRI 95以上、コンパクトな筐体——Lightstormシリーズの技術をコスト最適化した製品群であり、「Godoxの価格帯に、Aputureの品質で」という明確なメッセージが込められていた。

Amaran 100d/200dの登場は、COB LED照明の価格破壊の第二波だった。2017年に120d(約600ドル)で始まったAputureの「手が届くプロ照明」は、わずか3年で200ドル以下にまで到達したのである。

Amaranの独立——2024年のブランド分離

2024年、AputureはAmaranを独立したブランドとして分社化することを発表した。「Aputure=シネマ・プロフェッショナル」「Amaran=コンテンツクリエイター」という棲み分けを明確化する動きであり、Nanlite/Nanluxの二層構造と類似した戦略である。

独立後のAmaranは、amaran(小文字表記)ブランドとして、コンテンツクリエイター向けの照明製品を展開している。


LED照明市場の構造——三つ巴の競争

2020年代の勢力図

2020年代のLED映像照明市場は、Aputure(+Amaran)、Godox(+Knowled)、Nanlite(+Nanlux)の三者による寡占状態に近づいている。

メーカー創業年本拠地サブブランド強み代表的COB LED製品
Aputure2014年深圳amaran(2024年分社化)ブランド力、映像コミュニティとの密着、高演色LS 120d / 300d / 600d Pro / STORM 400x
Godox1993年深圳Knowledフラッシュからの巨大ユーザーベース、圧倒的な価格競争力SL60 / SL150 / SL200 / Knowled M600D
Nanlite1992年汕頭Nanlux30年超の照明専業、Forzaシリーズの完成度、PavoTubeのカテゴリ創造力Forza 60 / 300 / 500 II / PavoTubeシリーズ

興味深いのは、この3社がそれぞれ異なる「出自」を持つことである。

  • Nanliteは「照明専業メーカー」として30年以上の歴史を持つ最古参。蛍光灯→ハロゲン→LEDと、照明だけを作り続けてきた。
  • Godoxは「フラッシュメーカー」から出発し、LED定常光に領域を拡大した。ストロボで築いた販売網とBowensマウントのエコシステムがLED照明でも武器になった。
  • Aputureは最初からLED照明に特化した「ピュアLEDメーカー」として創業した。

3社の競争は、フラッシュ市場でのGodox一強とは異なり、明確な三つ巴の構図を呈している。これは、LED定常光が「価格だけでは決まらない」市場だからである。映像制作者は、光の質(演色性、配光特性)、静音性、操作性、ソフトウェアエコシステム(アプリ制御、DMX対応)、そしてアクセサリーの充実度を総合的に評価する。単純な「安さ」だけでは勝てない——この市場特性が、三者の共存を可能にしている。


YouTubeとコンテンツクリエイター——需要を牽引する新しい「撮影現場」

撮影現場の重心移動

LED照明市場の爆発的成長を語る上で、YouTubeに代表されるコンテンツクリエイター経済の存在は欠かせない。

2015年〜2020年の5年間で、YouTube上の映像クオリティは劇的に向上した。初期のYouTuberがウェブカメラや自然光で撮影していたのに対し、2020年頃には「個人チャンネルでもシネマティックな映像」が当たり前になった。

この映像品質の底上げを支えたのが、中国製LED照明の低価格化である。

YouTuberにとって照明は「投資対効果が最も高い機材」だった。カメラのアップグレードは画質を2割向上させるかもしれないが、照明の導入は画質を何倍にも向上させる。7万円前後の120dや1.5万円のSL-60Wは、「映像のプロっぽさ」を最も低コストで実現する手段だった。

「照明レビュー」というコンテンツジャンルの成立

興味深い現象として、LED照明のレビューそのものがYouTubeコンテンツの一ジャンルとして成立したことが挙げられる。

Gerald Undone、DSLR Video Shooter(Caleb Pike)、The Slanted Lens——これらのチャンネルは、新製品が発売されるたびに詳細なレビューを公開し、数万〜数十万の再生数を記録した。照明メーカーにとって、YouTubeレビュアーは最も費用対効果の高いマーケティングチャネルとなった。

Aputureがこのチャネルの活用において特に巧みだったことは前述の通りだが、Nanlite、Godoxも同様にYouTubeレビュアーへの製品提供を積極的に行った。結果として、中国メーカー3社の製品が「YouTube照明レビュー」の主役を独占し、Arri、Kino Flo、Litepanelsなどの欧米メーカーはレビュー動画の数でも圧倒されるようになった。


欧米メーカーの対応と苦闘

Arri——「最高品質」の聖域は守れるか

ドイツのArriは、映画照明の最高峰として100年以上の歴史を持つ。ArriのSkyPanelシリーズ(2015年発売)は、LED照明の色品質において業界のゴールドスタンダードとされ、ハリウッドの大作映画やハイエンドCM制作では依然としてArriが第一選択肢である。

しかし、SkyPanel S60-Cの価格は**$6,820(約75万〜100万円)**。Aputure LS 600d Pro($1,890)の約3.5倍、Godox Knowled M600D($1,499)の約4.5倍である。

Arriの「聖域」は、予算が潤沢なハリウッド映画やネットワークテレビに限定されつつある。インディペンデント映画、ドキュメンタリー、企業映像——これらの「中間層」の現場からは、中国メーカーに置き換えられている。

Kino Flo・Litepanels——中間層の苦境

Kino FloやLitepanelsは、Arriほどのハイエンドではないが「プロフェッショナル品質」を謳う中間価格帯のメーカーである。しかし、まさにこの中間価格帯こそが、中国メーカーの攻勢を最も受けやすいポジションだった。

第2回でMetzやSunpakがGodoxの低価格ストロボに苦しんだのと同じ構図が、LED照明市場でも繰り返されている。「Arriほど高品質ではないが、中国メーカーよりは高い」というポジショニングは、年々維持が困難になっている。


ソフトウェアエコシステム——照明制御のデジタル化

アプリ制御とDMX——もうひとつの競争軸

2020年代のLED照明市場において、ハードウェアの性能と並ぶ重要な競争軸がソフトウェアによる照明制御である。

AputureはSidus Link、GodoxはGodox Light App(およびKnowled DMX App)、NanliteはNANLINKというスマートフォンアプリを提供し、照明のリモート制御を実現している。

これらのアプリは、単なる「リモコン代わり」にとどまらない。複数のライトの一括制御、プリセットの保存と呼び出し、特殊効果(雷、ろうそく、パトカーの警告灯など)のシミュレーション、さらにはDMX(Digital Multiplex) プロトコルによる劇場・スタジオ照明システムとの統合——LED照明は、「光を出す装置」から「ネットワーク化されたスマートデバイス」へと進化している。

AputureのSidus Linkは、Sidus Link Proとしてさらに高度な照明管理プラットフォームに発展しており、大規模な映画撮影セットでの照明プランニングと制御を一元管理できる。これは、Aputureが「個人クリエイター向けのLEDメーカー」から「映画スタジオの照明インフラ企業」へとステージを上げようとしている証左である。


現在の市場構造——LED照明は「中国ブランド三者の競技場」

カテゴリ2012年の状況2025年の状況
小型LEDパネルLitepanels(3-5万円)が唯一のプロ品質選択肢Amaran、Godox、Nanlite等が2,000円〜2万円で高品質品を大量供給
COB LEDスポット(中光量)製品カテゴリ自体が存在しないAputure LS / amaran、Godox SL、Nanlite Forza——三者の主戦場
COB LEDスポット(大光量)HMI(Arri、20-50万円)が唯一の選択肢Aputure 600d Pro / Godox M600D / Nanlux Evoke(15-25万円)がHMIを代替
RGB チューブライトAstera(10万円〜/本)が先駆。限られたプロ市場Nanlite PavoTube(2-5万円/本)が市場を一変。Aputure amaranも参入
照明アプリ・制御DMXコントローラー(専用ハードウェア、10万円〜)が必要スマホアプリ(Sidus Link / NANLINK / Godox Light App)で無料制御
市場の主要プレイヤーArri、Kino Flo、Litepanels、Mole-Richardson(全て欧米)Aputure、Godox、Nanlite(全て中国)+ Arri(ハイエンドのみ)

かつて欧米メーカーが独占していた映像用LED照明市場は、2025年の時点で、実質的に中国メーカー3社の競技場になっている。

Arriは「最高品質のシネマ照明」というニッチで健在だが、それ以外のセグメント——YouTubeスタジオから企業VP、インディペンデント映画からウェディング撮影まで——は、Aputure、Godox、Nanliteの三者が席巻している。

この構造変化は、フラッシュ市場よりもさらに劇的である。フラッシュ市場ではCanon・Nikonの純正品が「プレミアム製品」としてまだ一定のシェアを保っているが、LED照明市場ではプレミアム層(Aputure Lightstorm)から入門層(Godox SL / Amaran)まで、すべての価格帯を中国メーカーが支配しているのである。


第2回で描いたフラッシュ革命は、写真撮影のコストを引き下げた。この第3回で見たLED照明革命は、映像制作のコストを引き下げた。

しかし、「撮影現場」を変えたのは照明だけではない。

カメラリグ、ジンバル、ワイヤレス映像伝送、外部モニター、マイク、そしてカメラバッグ——映像制作に必要な「照明以外のすべて」もまた、中国メーカーが塗り替えた。次回は、SmallRigを筆頭とする映像制作アクセサリーメーカーの躍進を描く。


次回予告:【第4回】映像制作アクセサリーの世界制覇——中華機材が塗り替えた撮影現場(2007-現在)


中華撮影機材クロニクル THE COMPLETE SERIES

  1. 前史——香港の写真貿易と中国本土の覚醒(〜1999)
  2. フラッシュ革命——Godox・Yongnuoとストロボの民主化(2000-2012)
  3. LED照明の覇権——Nanlite・Aputure・Godoxが塗り替えた映像制作の光(2012-現在)
  4. 映像制作アクセサリーの世界制覇——SmallRig・ジンバル・カメラバッグの時代(2007-現在)
  5. 総括——「中華機材」が変えた撮影現場のスタンダード

参考・典拠一覧

  1. Wikipedia — 「Aputure」。2014年創業、Ted SimとIan Xieによる設立経緯、Amaranシリーズ・Lightstormシリーズの製品史。 https://en.wikipedia.org/wiki/Aputure
  2. Newsshooter — 「Aputure LS COB 120d II Released with Major Upgrades」(2018年9月)。120d II の仕様改善と価格情報。 https://www.newsshooter.com/2018/09/07/aputurels-cob-120d-ii-released-major-upgrades/
  3. Newsshooter — 「Aputure LS 600d Pro COB Light Available for Pre-order」(2020年11月)。600d Pro の発売日・価格・仕様。 https://www.newsshooter.com/2020/11/24/aputure-ls-600d-pro-cob-light-available-for-pre-order/
  4. DIY Photography — 「Aputure releases LS 600D Pro and announces Amaran 100D/X & 200D/X Bowens mount LED lights」(2020年12月)。Amaran 100d/200d の発表と価格。 https://www.diyphotography.net/aputure-releases-ls-600d-pro-and-announces-amaran-100d-x-200d-x-bowens-mount-led-lights/
  5. Facebook — Aputure User Group — 「Aputure and Amaran separation and its impact on users」(2024年8月)。AputureとAmaranのブランド分社化に関するモデレーター告知。 https://www.facebook.com/groups/1020101544689005/
  6. CineD — 「amaran Announces Spin-off from Sister Company Aputure」。Amaranブランドの独立発表に関する報道。 https://www.cined.com/amaran-announces-spin-off-from-sister-company-aputure/
  7. Godox公式サイト — 「History」ページ。1993年創業以降のLED照明を含む製品マイルストーン。 https://www.godox.com/history/
  8. Newsshooter — 「Godox Knowled M600D Daylight LED Light & FLS10 Fresnel Lens」(2021年12月)。M600D の発表と仕様。 https://www.newsshooter.com/2021/12/13/godox-knowled-m600d-daylight-led-light-fls10-fresnel-lens/
  9. CineD — 「Godox Knowled M600D — Powerful Daylight COB Light Announced」。M600Dの価格比較(Aputure LS 600dとの比較)。 https://www.cined.com/godox-knowled-m600d-powerful-daylight-cob-light-announced/
  10. Nanguang公式サイト — 企業紹介。1992年創業、従業員900名以上、特許270件以上。 https://www.nanguang.cn/introduce.html
  11. Newsshooter — 「NANLITE Forza 60 II, 60B II, 300 II, 300B II, 500 II & 500B II Announced」(2023年1月)。Forza IIシリーズの仕様と価格。 https://www.newsshooter.com/2023/01/10/nanlite-forza-60-ii-60b-ii-300-ii-300b-ii-500-ii-500b-ii-announced/
  12. CineD — 「NANLITE Forza 300B II and Forza 500B II — First Look」(2023年1月)。第二世代Forzaの改良点。 https://www.cined.com/nanlite-forza-300b-ii-and-forza-500b-ii-first-look/
  13. Cinematography World — 「Nanlite releases Forza 60 II and 60B II」(2023年1月)。Nanliteの「中国発の世界ブランドを目指す」姿勢に関する記述。 https://www.cinematography.world/nanlite-releases-forza-60-ii-and-60b-ii/
  14. PetaPixel — 「Nanlite Launches 6 Forza II LED Spotlights and 2 New LED Tube Lights」(2023年1月)。PavoTube II 15C/30Cの価格情報。 https://petapixel.com/2023/01/10/nanlite-launches-6-forza-ii-led-spotlights-and-two-new-led-tube-lights/
  15. Fstoppers — 「Review: Godox SL60D II — The First Really Good Budget Video Light?」。SL60初代のファン騒音問題と第2世代での改善。 https://fstoppers.com/gear/review-godox-sl60d-ii-first-really-good-budget-video-light-649447
  16. Aputure公式サイト — LS 600d Proの製品ページ。防水設計、Sidus Link対応など。 https://aputure.com/en-US/products/ls-600d-pro

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