※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

Photo & Imaging Shanghai・BIRTV——中国・アジアの展示会が示す新潮流 | 展示会クロニクル(7)

産業分析
※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。 記事内のリンクから商品を購入すると、当サイトに紹介料が支払われる場合があります。

展示会クロニクル——写真映像産業を動かす見本市の歴史と未来(7)

※Adobe Firefly 及び Google Gemini 3.1 (w/ Nano Banana2 )により生成したイメージ画像です。

第 II 部 個別史──主要展示会の軌跡

欧米と日本の展示会を概観してきた本連載だが、ここで視線を東に転じなければならない。中国を中心とするアジアの展示会は、いまや世界の写真映像産業の地殻変動を読み解くうえで無視できない存在になっている。本章では Photo & Imaging Shanghai(P&I Shanghai)と BIRTV を中心に、中国・アジアの展示会が示す新たな潮流を分析する。


1. Photo & Imaging Shanghai(P&I Shanghai)——中国最大の写真映像展示会

1-1. 概要

Photo & Imaging Shanghai(P&I Shanghai)は、上海国際展覧有限公司(Shanghai International Exhibition Co., Ltd.) が主催する中国最大の国際写真機器・デジタルイメージング展示会である。1998年に創設され、毎年夏に上海で開催されてきた。

  • 主催: 上海国際展覧有限公司
  • 会場: 上海新国際博覧中心(Shanghai New International Expo Center / SNIEC)
  • 開催時期: 毎年7〜8月(3〜4日間)
  • 2025年実績: 400社以上の出展、約80,000㎡の展示面積、58,100人以上の来場者
  • 主要出展社: Fujifilm、Canon、Nikon、Godox、Zhiyun、Yongnuo、Lexar、Meike、Neewer、Epsonほか

1-2. P&I Shanghai の歴史

創設期(1998〜2000年代)

1998年に「上海国際撮影器材和数码影像展覧会」として創設された。当時の中国はまだフィルムカメラが主流であり、展示会の規模も小さかった。しかし2000年代に入り、中国のデジタルカメラ市場が爆発的に成長するにつれ、P&I Shanghaiの規模も急拡大した。

Canon、Nikon、Sony、Fujifilm、Epson、東芝といった日本メーカーが早期から大規模ブースを構え、中国市場開拓の最前線として機能してきた。

成長期(2010年代)

2010年代のP&I Shanghaiは、中国国内の写真愛好家・プロフェッショナルが一堂に会する「中国版Photokina」としての地位を確立した。しかし、Photokinaとは異なり、P&I Shanghaiの特徴は消費者向けの色彩が強い点にある。プロ機材の商談だけでなく、アマチュア写真家やインフルエンサーを対象としたワークショップ、撮影体験、SNS連動イベントが充実していた。

リブランディング(2024〜2025年)

2024年に「Vision & Image Shanghai」へリブランディング。Camera History and Culture Theme Exhibition を併設し、写真の歴史と文化を体感する企画展を展開するとともに、デジタル撮影機器、画像出力・制作技術、AI映像処理など、より幅広い映像産業をカバーする展示会へと進化を遂げた。

2025年のVision & Image Shanghai(7月17〜19日、SNIEC)では、Fujifilm、Canon、Nikon、Godox(神牛)、Zhiyun(智雲)、Yongnuo(永諾)、Lexar、Meike(美科)、Neewer、Epsonなど国内外400社以上のブランドが出展。展示面積は80,000㎡超、来場者は58,100人以上を記録した。

1-3. P&I Shanghai の特徴——中国メーカーのショーケース

P&I Shanghaiが他の国際展示会と決定的に異なるのは、中国メーカーの出展比率が圧倒的に高い点である。

Godox(ストロボ・LED照明)、Zhiyun(ジンバル)、Yongnuo(フラッシュ・レンズ)、Meike(レンズ・アクセサリー)、Neewer(照明・アクセサリー)、Viltrox(レンズ・アダプター)、SmallRig(リグ・アクセサリー)、Aputure(照明)、Nanlite(照明)、Saramonic(マイク)、BOYA(マイク)——これらの企業はすべて中国発であり、P&I Shanghaiを国内発表のホームグラウンドとして活用している。

日本のCP+に中国メーカーの出展が増加傾向にある一方、P&I Shanghaiでは中国メーカーが主役である。この非対称性は、中国写真映像産業の自立と成熟を如実に物語っている。

1-4. 日本メーカーにとってのP&I Shanghai

中国はカメラの世界最大の輸出市場の一つであり、日本メーカーにとってP&I Shanghaiへの出展は不可欠である。Fujifilm、Canon、Nikonの3社は毎年大規模ブースを構え、中国市場向けの特別モデルやキャンペーンを展開してきた。

しかし近年、日本メーカーのP&I Shanghaiにおける相対的な存在感は変化している。中国メーカーの台頭により、展示フロアの「主語」が日本メーカーから中国メーカーへと移りつつあるのだ。Fujifilmがinstaxの体験ブースで圧倒的な集客力を見せる一方、レンズやアクセサリーの分野では中国メーカーが次々と新製品を投入し、来場者の関心を集めている。

2. BIRTV——中国の放送・映像技術の牙城

2-1. 概要

BIRTV(Beijing International Radio, TV & Film Exhibition)は、中国最大の放送・映画・テレビ技術展示会である。

  • 主催: BIRTV Organization
  • 指導: 国家広播電視総局(National Radio and Television Administration)、中国メディアグループ(China Media Group)
  • 運営: 中国広播国際経済技術合作有限公司
  • 会場: 北京国際ホテルコンベンションセンター/中国国際展覧中心
  • 開催時期: 毎年7〜8月(4〜5日間)
  • 2025年実績: 510社出展(うち海外約200社)、12ホール・50,000㎡、来場者80,000人以上(過去最高)

2-2. BIRTV の歴史

1987年: BIRTVは1987年に創設された。中国の放送産業が急速に近代化する過程で、海外の放送技術を導入するための窓口として機能した初期の展示会である。

設立以来30年以上にわたり、BIRTVは中国の放送・映画・テレビ産業の技術基盤を支えてきた。国家広播電視総局(旧・国家新聞出版広電総局)が指導する公式展示会としての性格は、単なる商業展示会を超えた政策的意味合いを持つ。

近年の成長

2025年のBIRTVは、第32回開催となった。SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)が基調講演に招聘されるなど、国際的な技術標準化団体との連携も深まっている。

2025年実績を見ると、その成長ぶりは明らかである。

項目2025年実績
出展社数510社(20カ国以上)
うち海外出展社約200社
展示面積50,000㎡(12ホール)
来場者数80,000人以上(過去最高)

「アジアのNAB」とも呼ばれるBIRTVは、AI、AR/VR、クラウドコンピューティング、5G放送など最先端技術の展示に加え、中国の放送政策の方向性を読み取る場としても機能している。

2-3. BIRTV と NAB Show の関係

BIRTVはしばしば「NAB of the East」と評される。NAB Showが北米市場を中心とするのに対し、BIRTVは中国および東南アジア市場を主たるターゲットとする。両者の違いは以下のとおりである。

項目NAB ShowBIRTV
主催NAB(業界団体)BIRTV Organization(政府指導)
市場北米・グローバル中国・東南アジア
出展社数約1,100社510社
来場者数約55,000人80,000人以上
特徴グローバルローンチの場中国市場参入の窓口
政策的側面限定的国家広播電視総局の政策反映

注目すべきは、BIRTVの来場者数(80,000人超)がNAB Show(55,000人)を上回っている点である。出展社数ではNABが上回るが、来場者の「量」では中国が圧倒しているのだ。この数字は、中国の放送・映像産業の規模と成長スピードを端的に示している。

2-4. BIRTV と写真映像産業

BIRTVは放送・映画技術に特化しているため、スチルカメラメーカーの直接的な出展は限られる。しかし、シネマカメラ、シネレンズ、ジンバル、照明機器の分野では、中国メーカーが大きな存在感を示している。DJI、Zhiyun、Godox、Aputure、Nanlite、Tilta、SmallRigといった企業は、BIRTVを中国国内の映像制作コミュニティへのリーチポイントとして活用している。

3. その他のアジアの写真映像関連展示会

3-1. 平遥国際写真大展(Pingyao International Photography Festival)

山西省平遥で2001年から開催されている写真祭。2025年には34カ国・地域から5,000人以上の写真家が参加し、20,000点以上の作品が出展された。機材展示会ではなく写真文化・芸術の祭典だが、中国の写真文化の厚みを知るうえで重要な存在である。

3-2. Photo Video Asia(インド)

アジア最大級のイメージング展示会と銘打つインドの展示会。インド市場は人口規模と若年層比率から、カメラ・映像機器の次なる成長市場として注目されている。

3-3. KOBA(韓国)

KOBA(Korea International Broadcasting, Media, Audio & Lighting Show)は韓国最大の放送・メディア・音響・照明機器展示会。InterBEEの韓国版に相当し、韓国の放送・K-POP産業の技術基盤を支えている。

3-4. BroadcastAsia / CommunicAsia(シンガポール)

東南アジア最大の放送・通信技術展示会。NAB ShowやIBCほどの規模はないが、ASEAN市場へのアクセスポイントとして機能している。

4. 中国の展示会が映し出す産業構造の変化

4-1. 「消費国」から「製造国+消費国」へ

かつて中国はカメラ・映像機器の「消費市場」として位置づけられていた。日本メーカーにとって、P&I Shanghaiへの出展は「売り先の開拓」に他ならなかった。しかし2020年代に入り、中国は単なる消費市場ではなく設計・製造の拠点としても台頭している。

Godox、Zhiyun、Viltrox、SmallRig、Aputure、Nanlite——これらの企業はすべて深圳を中心とする珠江デルタ地域に本社を置き、グローバル市場に向けて製品を輸出している。P&I ShanghaiやBIRTVは、これらの企業にとって「ホームの展示会」であり、国内市場への浸透とグローバル展開の両方を同時に推進する場となっている。

4-2. 展示会の「重心移動」——欧米からアジアへ

写真映像産業の展示会の重心は、明らかに東に移動しつつある。

  1. Photokina の消滅(2020年): ヨーロッパ最大の写真展示会が無期限延期
  2. PMA Show の消滅(2016年): 北米最大の写真展示会が終了
  3. NAB Show の来場者半減: 2000年の115,000人→2025年の55,000人
  4. P&I Shanghai の成長: 58,100人の来場者、80,000㎡の展示面積
  5. BIRTV の過去最高更新: 80,000人以上の来場者

欧米の老舗展示会が縮小・消滅するいっぽうで、中国の展示会は拡大を続けている。この対照的な動きは、グローバルな写真映像産業における「重心の東方シフト」を如実に示している。

4-3. 中国展示会の課題

中国の展示会が急成長している一方で、課題も存在する。

  1. 知的財産権の懸念: 国際メーカーにとって、中国の展示会での技術公開にはコピーリスクが伴う
  2. 政策リスク: BIRTVが国家広播電視総局の指導下にあることは、政治的な影響を受けやすいことを意味する
  3. 国際的信頼性: P&I ShanghaiやBIRTVは、NAB ShowやIBCほどの国際的権威をまだ確立していない
  4. 来場者の質: 来場者数の多さは強みだが、バイヤーとコンシューマーの比率が不明瞭な部分がある

これらの課題を克服できるかどうかが、中国の展示会が真にグローバルな影響力を持てるかどうかの分水嶺となる。

5. 日本人が見逃しがちな「中国展示会の意味」

5-1. 中国メーカーは「国内で完結」していない

日本の業界関係者のなかには、中国メーカーの台頭を「低価格品の供給者」として過小評価する向きがある。しかし、P&I ShanghaiやBIRTVの出展内容を注視すると、中国メーカーの製品は急速に高品質化・高機能化しており、もはや「安かろう悪かろう」の時代は過ぎ去りつつある。

ViltroxのAFレンズがSonyやNikonのミラーレスカメラで高評価を得ていること、Godoxの照明機器がプロの現場で標準採用されていること、SmallRigのリグシステムがARRIやREDのカメラと組み合わせて使われていること——これらの事実は、中国メーカーが「グローバルなエコシステムの一部」になっていることを示している。

5-2. 展示会の「言語」が変わりつつある

Photokina(ドイツ語・英語)、NAB Show(英語)、CP+(日本語)——これまでの主要展示会は欧米および日本の言語と文化を基盤としていた。P&I ShanghaiとBIRTVは当然ながら中国語が主要言語であり、展示会の「文化コード」も中国的である。

SNSでの拡散を前提としたブースデザイン、KOL(Key Opinion Leader、中国版インフルエンサー)を招いたライブ配信、WeChat・Douyin(TikTok中国版)を活用したリアルタイムマーケティング——こうした手法は、欧米や日本の展示会にはないP&I Shanghai独自の特色である。

日本のメーカーがP&I Shanghaiで成功するためには、単に日本語の展示物を中国語に翻訳するだけでは不十分である。中国のデジタルエコシステム(WeChat、Weibo、Douyin、RED/小紅書)に適応したマーケティング戦略が不可欠なのだ。

5-3. 「次のP&I Shanghai」はどこに生まれるか

インド、ベトナム、インドネシアといった新興国の市場が拡大するにつれ、これらの国でも写真映像関連の展示会が成長する可能性がある。特にインドは人口規模と若年層の多さから、次の大規模市場として注目されている。Photo Video Asia(インド)の動向は、今後要注目である。

ASEAN市場ではBroadcastAsia(シンガポール)が放送技術の分野でハブ機能を担っているが、写真機器に特化した大規模展示会はまだ存在しない。この「空白地帯」を誰が埋めるかは、今後の写真映像産業の地図を考えるうえで重要なポイントとなる。

6. 小括——東方シフトの意味するもの

中国の展示会の成長は、単に「大きくなった」というだけの話ではない。それは、写真映像産業のパワーバランスが根本的に変化していることの表れである。

Photokina が消滅し、PMA Show が終了し、NAB Show が半減する一方で、P&I Shanghai は拡大し、BIRTVは過去最高を更新している。この対照的な動きが示すのは、写真映像産業の「重心」が欧米から中国・アジアへと確実に移動しているという事実である。

日本メーカーにとって、この東方シフトは脅威であると同時にチャンスでもある。中国市場への深い理解と、中国の展示会エコシステムへの適応が、今後のグローバル戦略の成否を分ける鍵となるだろう。


次章からは第III部「分析・予測」に入り、展示会の出展社データから見える産業構造の変化を定量的に分析する。


展示会クロニクル——写真映像産業を動かす見本市の歴史と未来 ガイドページ

第Ⅰ部:展示会総論

第Ⅱ部:世界の主要展示会——個別史

第Ⅲ部:出展社分析と産業予測


典拠・参考URL


関連記事

タイトルとURLをコピーしました