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フィルターの形を追って——Seriesフィルターからスクリューマウント、角型フィルター革命へ | レンズフィルター・クロニクル(2)

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レンズフィルター・クロニクル — Chapter 02


レンズフィルター・クロニクル

  1. 写真用フィルターの誕生——ゼラチンフィルターから偏光フィルターへ(1877〜1950年代)レンズフィルター
  2. フィルターの形を追って——Seriesフィルターからスクリューマウント、角型フィルター革命へ
  3. 特殊効果フィルターの世界——映画と写真の表現を変えたフィルターワーク
  4. デジタル時代のフィルター——大淘汰、保護論争、そして復権

Seriesフィルター——写真用フィルター最初のマウントシステム(1910年代〜1970年代)

現在のスクリューマウント(ネジ込み式)に慣れた写真家にとって、かつてのカメラがまったく別のフィルター装着方式を採用していたことは意外かもしれない。

1900年代から1950年代にかけて製造されたほとんどのカメラは、レンズにフィルター用のネジ(フィルターねじ)を持っていなかった。代わりに使われたのが、Seriesフィルター と呼ばれるドロップイン式の装着システムである。

仕組み

Seriesフィルターは、以下の3つのパーツで構成される。

  1. フィルター本体——ネジのない丸いガラスディスク(初期はリムなし、後期はアルミニウムリム付き)
  2. アダプターリング(ホルダー)——レンズの前面に押し込む(プッシュオン式)金属リング
  3. リテーニングリング——フィルターをホルダーの中に固定するためにネジ込むリング

レンズフードが必要な場合は、リテーニングリングの代わりにフードをネジ込むことで、フィルターの固定とレンズのシェーディングを同時に実現できた。

Seriesナンバー

Seriesフィルターには、ローマ数字で表記されるサイズ規格があった。

Series No.フィルター径(mm)対応レンズ径(mm)備考
Series IV20.616〜18小型カメラ用
Series V30.219〜30中型フォールディングカメラで最も一般的
Series VI41.330.5〜42
Series VII50.842.5〜50.5
Series VIII63.551〜67
Series IX82.667〜85映画産業で現在も使用

このシステムの利点は明確だった。異なるメーカーのカメラを持っていても、最大径のレンズに合わせたフィルターセットを揃え、各レンズにサイズの合ったアダプターリングだけを買い足せばよい。現在のスクリューマウントとステップアップリングの関係に似ているが、フィルター本体そのものがネジを持たないため、より柔軟だった。

ほとんどのSeriesフィルターサイズは1970年代までに製造終了となったが、Series IX は映画産業の標準として現在も生産が続いている

フィルターの収納——Kodakの小さな黄色いケース

フィルム時代の写真家は、撮影内容に応じて多数のフィルターを携帯する必要があった。Kodakはこのために、黒い台座の上に2層の柔らかいファイバーマットを敷き、特徴的な黄色のねじ込みキャップをかぶせた小型ケースを販売していた。頑丈で耐久性に優れたこのケースは、ヴィンテージカメラ愛好家の間で今もコレクターズアイテムとなっている。


スクリューマウント(ネジ込み式)——現代の標準へ(1950年代〜)

1950年代に入ると、35mm一眼レフカメラの普及とともに、レンズ前面にフィルターネジが切られるようになった。スクリューマウント(ネジ込み式)フィルター の登場である。

ガラスまたは樹脂のフィルターディスクを金属(アルミニウムまたは真鍮)のリングに組み込み、レンズ先端のネジに直接ねじ込む。取り付けが簡便で、薄型設計が可能なため、Seriesフィルターに急速に取って代わった。

フィルター径の標準化

フィルター径はミリメートルで表記され、レンズ前面に 記号とともに記載される(例:⌀77mm)。主要なフィルター径は以下の通り。

<aside> 📐

一般的なフィルター径

43mm、46mm、49mm、52mm、55mm、58mm、62mm、67mm、72mm、77mm、82mm

ネジピッチは大半が 0.75mm で統一されている。

</aside>

径が異なるレンズ間でフィルターを共用するために ステップアップリング(小径レンズに大径フィルターを取り付けるアダプター)が使われる。多くの写真家は、手持ちのレンズの中で最大径に合わせたフィルターを購入し、小径のレンズにはステップアップリングで対応する運用をしている。

アルミ vs. 真鍮

スクリューマウントフィルターのリングは、安価なものは アルミニウム製、高級品は 真鍮製 が多い。アルミニウムは軽量だが、レンズのアルミネジと「かじり」を起こしやすく、固着するとフィルターレンチなしでは外せなくなることがある。真鍮はアルミと異なる金属であるため、かじりが発生しにくい。B+W(Schneider-Kreuznach)が真鍮リングを採用していることは、同ブランドの品質の象徴のひとつとされている。


ベイオネット(バヨネット)マウント——独自規格の世界

スクリューマウントとは別に、一部のカメラメーカーは 独自のバヨネットマウント をフィルター装着に採用した。

  • Rollei:Bay I〜Bay IVの4サイズ(Bay IVは1961〜1967年のワイドアングルRolleiflex専用で希少)
  • Hasselblad:Bay 50〜Bay 104

バヨネットマウントは着脱が素早いという利点があったが、メーカー固有の規格であるため、フィルターの互換性が制限された。スクリューマウントの汎用性に押され、現在ではほぼ使われていない。


ドロップインフィルター——超望遠レンズと映画用レンズ

超望遠レンズの前玉は非常に大きい(300mmを超えるものもある)。前面にスクリューマウントフィルターを装着することは物理的に可能だが、フィルターが巨大かつ高価になる。

そこで採用されるのが ドロップインフィルター(リアフィルター / インサートフィルター) だ。レンズのマウント付近に設けられた専用スロットに、小さなフィルターを差し込む方式である。

キヤノンのEFマウント超望遠レンズ(EF 600mm F4L IS USM等)やニコンのAF-S超望遠レンズがこの方式を採用している。フィルターサイズはスクリューマウントの前面フィルターよりはるかに小さいため、コストも抑えられる。

映画用シネマレンズでも、レンズの後方にフィルターを装着する方式が伝統的に使われてきた。


Cokin角型フィルターシステムの発明——1978年の革命

1978年 、フランスのファッション・風景写真家 ジャン・コカン(Jean Coquin) が、写真用フィルターの世界に パラダイムシフト をもたらした。

それまでのフィルターは、丸い円形のガラスまたはゼラチンであり、特定のレンズ径に紐づけられていた。コカンのアイデアは画期的だった——正方形(スクエア)のフィルターを、ユニバーサルなホルダーに差し込む方式 を発明したのである。

Cokin Creative Filter System

コカンが 1973年 に設立したCromofilter SA(のちにCokin SA)が1978年に発売した Cokin Creative Filter System は、以下の3つの要素から構成される。

  1. アダプターリング——レンズのフィルターネジにねじ込む
  2. フィルターホルダー——アダプターリングに装着。複数枚のフィルターをスライドして差し込めるスロットを持つ
  3. 角型フィルター——正方形または長方形のフィルター。ホルダーのスロットに差し込む

サイズ展開

シリーズ名フィルター幅対象
A(Amateur)67mmコンパクト〜エントリー一眼
P(Professional)84mm標準〜中望遠レンズ。最も普及
Z-Pro100mm広角〜望遠。映画産業でも使用
X-Pro130mm超広角レンズ、大判カメラ

CR-39光学樹脂——Cokinの材料選択

コカンが選んだフィルター素材は、ガラスではなく CR-39 と呼ばれるヨーロッパ製の光学樹脂だった。CR-39は以下の特性を持つ。

  • 光学透明度がガラスに匹敵する
  • 軽量かつ割れにくい
  • 染色が容易で、多彩なカラーフィルターの製造に適する
  • ガラスに比べて安価

この素材選択により、Cokinは手頃な価格で多彩なフィルターを大量に供給することに成功した。1980年代から1990年代にかけて、CokinのPシリーズは世界中の写真愛好家にとって「最初の角型フィルター体験」となった。


LEE Filtersの100mmシステム——プロ風景写真家の標準装備(1967年〜)

Cokinが「角型フィルターの民主化」を果たしたとすれば、 LEE Filters は「角型フィルターのプロフェッショナル化」を果たした企業である。

1967年ジョン・リー(John Lee)ベニー・リー(Benny Lee)兄弟 と撮影監督の デイヴィッド・ホームズ(David Holmes, BSC) がロンドン・ケンサルライズのLEE Electric社本社内で創業したLEE Filtersは、もともと 舞台照明用のカラーフィルター を製造していた(1973年にハンプシャー州アンドーバーへ移転し、自社生産を開始)。この照明フィルターの技術を写真用に転用し、特に 100mmスクエアフィルターシステム で風景写真家から絶大な支持を獲得した。

LEEの100mmシステムは、以下の点でCokinと差別化された。

  • ガラス製グラデーションNDフィルター:樹脂製よりも光学性能が高く、色かぶりが少ない
  • ソフトグラデーション/ハードグラデーション の選択肢:境界線のぼかし具合を用途に応じて選べる
  • “Big Stopper”(10段ND)“Super Stopper”(15段ND) :超長時間露光用の極濃NDフィルター

LEE Filtersは “Masters of Light”(光のマスター) を標榜し、風景写真の世界で「LEEの100mmシステムを使いこなせること」がプロの証とさえ言われた時代があった。

1992年Panavision 傘下に入り、現在は映画用フィルターと写真用フィルターの両方を展開している。


競合と多様化——角型フィルター市場の広がり

CokinとLEE Filtersの成功を受け、角型フィルター市場にはさまざまなメーカーが参入した。

  • Hoyarex(Hoya):75mm角型システム。1980年代〜1990年代半ばに展開されたが、撤退
  • Formatt-Hitech(ウェールズ):Firecrestコーティング技術を用いた角型NDフィルター。ケンコー・トキナー傘下に入ったが、2025年4月に債権者自主清算(Creditors’ Voluntary Liquidation)に入った
  • NiSi(中国・珠海):AGC/Schottガラスを使用した高品質な角型フィルターで2010年代にLEEの対抗馬として急成長
  • Haida(中国・寧波):2007年創業。コストパフォーマンスの高い角型フィルターで世界的に普及

クリップインフィルター——ミラーレス時代の新形態

2010年代後半、ミラーレスカメラの普及とともに新しいフィルター形態が登場した。クリップインフィルター である。

クリップインフィルターは、カメラのレンズマウントとセンサーの間にフィルターを装着する方式だ。台湾の STC Optics(2010年創業)がこの分野の先駆者であり、特に以下のカテゴリで独自のポジションを確立した。

  • 天体撮影用ナローバンドフィルター(Astro Duo Narrowbandなど)
  • クリップイン型CPL・NDフィルター
  • 光害カット用フィルター(LRGB単色フィルター)

クリップインフィルターの利点は、超広角レンズでもフィルターが使える ことだ。超広角レンズの前面は出目金(バルジ)形状であることが多く、通常の丸型・角型フィルターの装着が困難だが、クリップイン方式ならセンサー直前にフィルターを配置できる。


マグネット式フィルター——2020年代の利便性革命

2020年代に入り、フィルター業界で急速に普及しているのが マグネット式フィルター だ。

従来のスクリューマウントフィルターは、ネジ込みに時間がかかり、着脱を繰り返すとネジ山が摩耗するという難点があった。マグネット式は、レンズに装着したアダプターリングにフィルターを磁力で「パチン」と貼り付けるだけ。着脱は一瞬で完了する。

  • K&F Concept(深圳):マグネット式フィルターセットを積極展開。2025年にはEuromonitor International調べでレンズフィルターのオンライン販売世界No.1を達成
  • Kase Filters:マグネット式角型フィルターシステム「Wolverine」シリーズ
  • Urth(旧Gobe、オーストラリア):マグネット式フィルターキット

マグネット式はまだスクリューマウントを完全には置き換えていないが、利便性の高さから急速にシェアを拡大している。


フィルター形状の進化まとめ

時代形状代表メーカー / 規格利点限界
1910s〜1970sSeriesフィルター(ドロップイン式)Kodak、各カメラメーカー一つのフィルターを複数レンズで共用可能3パーツ構成で手間がかかる
1950s〜現在スクリューマウント(ネジ込み式丸型)B+W、Hoya、Kenko、Marumi等取り付け簡便、薄型設計レンズ径ごとに購入が必要
1978〜現在角型フィルター(ホルダー式)Cokin、LEE、NiSi、Haida位置調整可能、レンズ径に依存しないホルダーが大きくかさばる
特定メーカーバヨネットマウントRollei、Hasselblad着脱が速いメーカー固有で互換性なし
超望遠 / シネマドロップイン / リアCanon、Nikon等大口径レンズに小型フィルターで対応レンズ固有の規格
2010s〜現在クリップインSTC Optics超広角レンズでも使用可能カメラ機種への依存
2020s〜現在マグネット式K&F Concept、Kase、Urth着脱が一瞬磁力の信頼性、選択肢がまだ限定的

第3章では、フィルターの形ではなく 「効果」 に焦点を移す——特殊効果フィルターが映画と写真の表現をどう変えてきたのかを、ハリウッドの撮影現場から現代のYouTubeまで辿っていく。


レンズフィルター・クロニクル

  1. 写真用フィルターの誕生——ゼラチンフィルターから偏光フィルターへ(1877〜1950年代)レンズフィルター
  2. フィルターの形を追って——Seriesフィルターからスクリューマウント、角型フィルター革命へ
  3. 特殊効果フィルターの世界——映画と写真の表現を変えたフィルターワーク
  4. デジタル時代のフィルター——大淘汰、保護論争、そして復権

参考・典拠一覧

  1. Through a Vintage Lens — “Vintage Filter Systems: The ‘Series’ Filters”(2013年9月) https://throughavintagelens.com/2013/09/vintage-filter-systems/
  2. Wikipedia — “Photographic filter” https://en.wikipedia.org/wiki/Photographic_filter
  3. Cokin公式 — “CREATIVE filter range” https://cokin.com/en/149-creative-filter-range
  4. Wikipedia — “Cokin” https://en.wikipedia.org/wiki/Cokin
  5. Cokin Filters USA — “About Cokin” https://cokinfilter.com/pages/about
  6. DPReview — “Cokin revamps square filter lineup as ‘Creative Filter System'” https://www.dpreview.com/articles/8354915455/cokin-revamps-square-filter-lineup-as-creative-filter-system
  7. ApoTelyt — “Series Filters – A modular drop-in system” (Walkenhorst, Peter, 2017年1月)
  8. Shipman, Carl —『SLR Photographer’s Handbook』H.P. Books, Tucson, Arizona, 1977, p. 109.
  9. Rothschild, Norman — “Chaos in Fitting Filters”『Modern Photography』1960年9月号, pp. 84-87.
  10. Kase Filters — 公式サイト https://kasefilters.eu/nice-to-know/guides/types-of-camera-lens-filters/
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