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2020年代のMFT—縮小する市場、拡大する可能性 | マイクロフォーサーズと映像表現の歴史(7)

カメラ
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マイクロフォーサーズと映像表現の歴史—19.25mmのフランジバックが映像産業にもたらしたもの


数字は残酷だ。2024年、パナソニックのカメラ事業の世界市場シェアは3.4%。OMデジタルソリューションズに至っては1.9%。しかもパナソニックの3.4%にはLマウントのフルサイズ機が含まれている。マイクロフォーサーズだけで見れば、市場のどこにいるのかすら見えなくなるほどの小ささである。

だが、数字だけで物語を終わらせるのは、あまりにも怠惰な分析だろう。

2025年のCIPAデータが示したのは、ミラーレスカメラの出荷台数630万台のうち、APS-Cとマイクロフォーサーズを合わせた小型センサー機が445万台を占め、フルサイズ以上はわずか254万台だったという事実である。メーカー各社のマーケティングがフルサイズに集中する中、実際に売れているのは小さなカメラだ。この矛盾の中に、MFTの2020年代の物語がある。

本章では、市場データの厳密な分析、現在も生産されているMFTカメラの全容、パナソニックとOMシステムのマーケティング戦略とユーザーの実態との乖離、そしてMFTの今後について、包括的に検証する。


  1. 1. 数字が語る「縮小」—CIPA・BCN・日経業界地図の市場データ
    1. 1-1. CIPAデータ:ミラーレス市場全体の動向
    2. 1-2. メーカー別シェア:パナソニックとOMデジタルの苦境
    3. 1-3. BCNランキング:日本国内の売れ筋
    4. 1-4. 数字の裏を読む
  2. 2. 2025年現在、生産されているMFTカメラ—包括的リスト
    1. 2-1. パナソニック LUMIX
    2. 2-2. OM SYSTEM(OMデジタルソリューションズ)
    3. 2-3. Blackmagic Design
    4. 2-4. Z-Cam—もうひとつのMFTシネマカメラ
    5. 2-5. DJI—空のMFT
    6. 2-6. その他のMFTマウント採用機
  3. 3. 宣伝と現実の乖離—パナソニックとOMシステムのマーケティング
    1. 3-1. パナソニックの「沈黙」
    2. 3-2. OMシステムの「コンピュテーショナル」路線
    3. 3-3. 中古市場が語る「本当の需要」
  4. 4. スマートフォンとの戦い—MFTの差別化はどこにあるか
    1. 4-1. コンパクトカメラの「復活」が意味すること
    2. 4-2. 「レンズの楽しさ」という不可侵の領域
  5. 5. 映像制作現場のMFT—2025年の実態
    1. 5-1. Aカメラからの退場
    2. 5-2. ニッチの中の絶対的存在
    3. 5-3. レンタルハウスの棚—MFTの「生存指標」
  6. 6. これからのMFT—3つのシナリオ
    1. シナリオA:「静かな縮小」(最も蓋然性が高い)
    2. シナリオB:「小型機復権」(希望的だが根拠はある)
    3. シナリオC:「マウント規格としての永続」(本連載の立場)
  7. 7. 結語—19.25mmの遺産
  8. 典拠一覧

1. 数字が語る「縮小」—CIPA・BCN・日経業界地図の市場データ

MFTの市場ポジションを正確に把握するには、複数のデータソースを横断的に読む必要がある。単一の数字だけを見て「MFTは終わった」と結論づけるのは早計だが、厳しい現実から目を背けることもできない。

1-1. CIPAデータ:ミラーレス市場全体の動向

CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)は、日本のカメラメーカーの出荷統計を毎年公表している。ライカやハッセルブラッドを除く主要メーカーをほぼ網羅するこのデータは、業界の定量分析において最も信頼性の高いソースである。

2025年の主要数値は以下の通りだ。

カテゴリ2024年2025年前年比
デジタルカメラ総出荷台数約830万台約940万台+約13%
ミラーレス一眼約560万台約630万台112.5%
一眼レフ(DSLR)約100万台約69万台69.3%
コンパクトカメラ約188万台約244万台+約30%

注目すべきは、2025年からCIPAがセンサーサイズ別のレンズ交換式カメラ出荷データを新たに公表し始めたことである。その結果が衝撃的だった。

センサーサイズ2025年出荷台数構成比(レンズ交換式のみ)
APS-C + MFT(フルサイズ未満)約445万台約63.7%
フルサイズ以上(中判含む)約254万台約36.3%

レンズ交換式カメラの約3分の2は、フルサイズ未満のセンサーを搭載した機種なのである。これはAPS-CとMFTの合算値であり、MFT単独の数字は含まれていないが、「大きなセンサーほど偉い」という風潮に対する強烈なカウンターデータであることは間違いない。

さらに、フルサイズ以上のカメラは2024年比で98.4%とわずかに減少した一方、APS-C+MFTは109.3%と増加している。市場の成長を牽引しているのは、フルサイズではなく小型センサー機なのだ。

1-2. メーカー別シェア:パナソニックとOMデジタルの苦境

日経業界地図2026年版が公表したメーカー別グローバル出荷シェアのデータは、MFT陣営にとって厳しい数字を突きつけた。

メーカー2020年2023年2024年増減(23→24)
キヤノン47.9%
ソニー22.1%
ニコン13.7%
富士フイルム5.6%
パナソニック4.4%3.6%3.4%▼0.2pt
OMデジタル2.6%1.9%▼0.7pt

ここで重要なのは、パナソニックの3.4%にはLマウントのフルサイズ機(S1シリーズ、S5シリーズ、S9など)が含まれているという事実である。写真家のRobin Wongが指摘したように、MFTだけで見れば「市場のどこにいるのかすら見えない」水準まで縮小している可能性が高い。MFT全体で見ても、市場の4〜5%程度というのが現実的な推定値だろう。

1-3. BCNランキング:日本国内の売れ筋

日本国内の販売データを追跡するBCNランキング(2025年)は、メーカー別シェアとして以下の数字を報告している。

順位メーカーシェア(ミラーレス)
1位ソニー29.9%
2位キヤノン27.4%
3位ニコン15.5%

機種別のトップ10では、MFT機はOM SYSTEM PEN E-P7が9位に入ったのみである。残りはキヤノンEOS R50、ソニー ZV-E10 II、キヤノンEOS R10、ニコンZ50 IIなど、APS-C機とフルサイズ機が上位を独占した。

興味深いのは、E-P7がランクインしている事実そのものである。2021年発売のこの機種は、決して新しくはない。EVFすら非搭載で、センサーもプロセッサーも旧世代だ。それでも売れ続けているのは、小さく、美しく、手頃な価格のカメラに対する根強い需要があるからにほかならない。

1-4. 数字の裏を読む

これらのデータから導かれる結論は、一見すると「MFTは死にかけている」というものだろう。しかし、もう少し慎重に読む必要がある。

市場全体は成長している。2017年以降初めて、2024年と2025年に2年連続で出荷台数が増加した。ミラーレスは堅調に伸び、一眼レフはさらに縮小し、コンパクトカメラが劇的に復活した。カメラ産業全体のパイは拡大しているのである。

MFTのシェアが減っているのは、パイの中でのシェアが減っているだけで、絶対数が壊滅的に減っているわけではない可能性がある。APS-C+MFT全体で445万台が出荷されているという事実は、小型センサー機への需要が依然として大きいことを示している。

ただし、OMデジタルソリューションズの2.6%→1.9%という下落幅は深刻である。パナソニックのようにフルサイズという「保険」を持たない同社にとって、この数字は企業の存続に関わる水準に近づいている。


2. 2025年現在、生産されているMFTカメラ—包括的リスト

「MFTは終わった」という言説に対して、最も効果的な反論は実物を並べてみせることだろう。2025〜2026年現在、MFTマウントを採用したカメラは、写真用・映像用・産業用を含めて驚くほど多い

2-1. パナソニック LUMIX

パナソニックは2018年のLマウント参入後も、MFTラインナップを維持し続けている。2024年にはフラッグシップのGH7を投入し、MFTへのコミットメントを改めて示した——少なくとも表面上は。

機種発売年主な特徴実売価格帯
DC-GH72024ProRes RAW内部記録(世界初のMFT機)、5.7K Apple ProRes、C4K 120p、Phase Hybrid AF約26万円
DC-GH620225.7K 30p ProRes 422 HQ内部記録、C4K 120p、25.2MP約20万円
DC-G9 II2023像面位相差AF(LUMIX MFT初)、8K Photo、手持ちハイレゾ100MP約20万円
DC-G100D(G110)2024Vlog向け小型機、トライポッドグリップ同梱、Nokia OZO Audio約10万円

GH7のProRes RAW内部記録対応は特筆に値する。これまでProRes RAWの内部記録は、Atomos Ninja VやNinja V+などの外部レコーダーを介してのみ可能だった。GH7はこれをカメラ単体で実現した。映像制作の現場において、外部レコーダーを排除できることの意味は大きい——ケーブルの取り回し、バッテリー管理、重量、信頼性のすべてが改善される。

しかし同時に、GH7のAF性能は依然としてソニーやキヤノンの競合機に及ばず、「MFTのフラッグシップ」と「フルサイズのミッドレンジ」が同価格帯で競合するという構造的な問題は解消されていない。

2-2. OM SYSTEM(OMデジタルソリューションズ)

2021年にオリンパスの映像事業を承継したOMデジタルソリューションズは、MFT専業メーカーとして独自の道を歩んでいる。

機種発売年主な特徴実売価格帯
OM-1 Mark II2024AI被写体認識AF、最大8.5段IBIS、IP53防塵防滴、50MP手持ちハイレゾ約28万円
OM-52022IP53、コンピュテーショナルフォトグラフィ(ライブND、ライブコンポジット)約16万円
PEN E-P72021薄型ボディ、プロファイルコントロール、EVFなし約8万円
TG-72023防水15m、耐衝撃2.1m(※レンズ一体型、MFTセンサーではない)約6万円

OM-1 Mark IIは、MFT機としては異例の高性能AFと手ぶれ補正を実現している。最大8.5段分のIBISはフルサイズ機を含めても最高水準であり、野鳥撮影やネイチャーフォトの領域では、フルサイズ機に対するMFTの優位性——望遠域でのコンパクトさ、深い被写界深度——を最大限に活かせる機種だ。EOSHDのAndrew Reidが「OM-1はソニーα1に多くの点で匹敵し、一部では上回る」と評したのも、あながち誇張ではない。

2-3. Blackmagic Design

第3章と第6章で詳述したBlackmagic Designは、2025年現在もMFTマウント機を現行ラインナップに含めている。

機種発売年マウント主な特徴価格
Pocket Cinema Camera 4K2018MFTデュアルネイティブISO、BRAW 12-bit、DaVinci Resolve Studio付属$1,295
Pocket Cinema Camera 6K G22022EFSuper 35センサー、チルトスクリーン$2,375
Cinema Camera 6K2023Lフルフレーム、新世代センサー$2,595

BMPCC 4Kは発売から7年が経過した2025年現在も販売が継続されている。後継機は発表されていない。これは2つの意味を持つ。ひとつは、BMPCC 4Kが依然として「この価格帯でBRAW撮影ができる唯一の選択肢」として需要があること。もうひとつは、Blackmagicが今後のシネマカメラにおいてMFTマウントを採用し続けるかどうかが不透明だということである。Cinema Camera 6KがLマウントを採用したことは、業界に明確なシグナルを送った。

Blackmagic Design Pocket Cinema Camera 4K
created by Rinker
Blackmagic PYXIS 6K
created by Rinker

2-4. Z-Cam—もうひとつのMFTシネマカメラ

中国・深圳のZ-Cam(卓見科技)は、E2-M4というMFTマウントのシネマカメラを製造している。映像制作者の間での知名度はBMPCCほど高くないが、そのスペックシートは無視できない。

  • 4K 160fpsのハイスピード撮影(※160fpsは4K 2.4:1/3840×1620での最大値。通常の4K 16:9では最大120fps)
  • ProRes 422内部記録
  • ZRAW(独自RAW)対応
  • 本体重量約930g
  • 価格**$1,499〜$1,699**

モジュラー設計により、外部電源やSSDを直接装着でき、マルチカム撮影のBカメラとして重宝されている。特にミュージックビデオやスポーツのスローモーション撮影では、BMPCC 4Kにはないフレームレートの選択肢を提供する。

2-5. DJI—空のMFT

DJI Zenmuse X5(2015年)、X5S(2016年)、X7(2017年)は、MFTマウントを採用したドローン搭載カメラとして、航空映像の世界に革命をもたらした。第2章で詳述した通り、これはMFTマウントの「写真機を超えた」展開の最も成功した例のひとつである。

X7はSuper 35センサー+DLマウントに移行したが、X5/X5SはMFTレンズの資産をそのまま活用できる点で、現在も一部の現場で使用されている。パナソニック LEICA DG 15mm f/1.7やオリンパスM.ZUIKO 12mm f/2.0といった小型MFTレンズは、ドローン搭載に最適なサイズと重量を持っていた。

2-6. その他のMFTマウント採用機

メーカー・機種用途備考
シャープ 8K MFTカメラ放送・業務用8K30p、MFTマウント、プロトタイプから限定生産
JVC GY-LS300業務用ビデオSuper 35センサー+MFTマウント、可変スキャンマッピング
Kodak PIXPRO S-1コンシューマーコダックブランドのMFTカメラ(JK Imaging製)
Photron FASTCAM産業用ハイスピード超高速撮影カメラ、MFTマウントオプション
Esquisse Camera(開発中)コンシューマーGMスタイルの新型MFT機、$2,000、クラウドファンディング

特に注目すべきはEsquisse Cameraのプロジェクトである。パナソニック GM1/GM5を彷彿とさせる超小型MFTカメラを、$2,000で開発しようとしている。GM1の中古価格が発売時の定価を上回るという異常な市場状況を考えれば、このプロジェクトが狙う需要は確実に存在する。


3. 宣伝と現実の乖離—パナソニックとOMシステムのマーケティング

2020年代のMFTを語る上で避けて通れないのが、メーカーのマーケティング戦略とユーザーの実態との根本的なズレである。

3-1. パナソニックの「沈黙」

パナソニックのMFTに対するスタンスは、2018年のLマウント参入以降、一貫して曖昧である。公式には「MFTとLマウントの二本柱で展開する」と繰り返しながら、実際の開発リソースの配分は明らかにLマウントに傾いている。

FStoppersの記事が「Panasonic’s Silence: The Micro Four Thirds Conundrum(パナソニックの沈黙:MFTのジレンマ)」と題したように、問題はMFTをやめると宣言しないことではなく、積極的に推進しているとも言い切らないことにある。

写真家のRobin Wongは、パナソニックが犯した5つのミスを指摘している。

  1. GH7以外の新型MFTボディが不在——Gシリーズ、GXシリーズの更新が停止
  2. MFT専用レンズの新規開発が鈍化——Lマウントレンズに開発リソースが集中
  3. 「小さくて軽い」というMFT本来の強みを自ら放棄——GH7はフルサイズ機並みのサイズと重量
  4. エントリー層の取りこぼし——G100D/G110は中途半端なスペックで競争力に欠ける
  5. コミュニケーション不足——MFTのロードマップを明示しない姿勢がユーザーの不安を増幅

この分析は的確だ。パナソニックはGH7で映像制作者向けのフラッグシップを更新したが、それ以外のMFTユーザー——旅行者、ストリートフォトグラファー、日常撮影者——に向けた新製品をほぼ出していない。GXシリーズ(GX7 Mark III / GX9が最終モデル)の後継は影も形もなく、GMシリーズに至っては2015年のGM5以降、完全に途絶えている。

3-2. OMシステムの「コンピュテーショナル」路線

OMデジタルソリューションズは、パナソニックとは異なるアプローチでMFTの差別化を図っている。コンピュテーショナルフォトグラフィ——AIによる被写体認識、手持ちハイレゾ撮影(50MP手持ち/80MP三脚相当)、ライブND、ライブコンポジット、Starry Sky AFなど、ソフトウェア処理で大型センサー機にはない付加価値を生み出す戦略だ。

これは理にかなっている。センサーサイズで勝てないなら、センサーサイズに依存しない機能で差別化する。OM-1 Mark IIの手持ちハイレゾ撮影は、三脚なしで50MPの解像度を得られるという点で、フルサイズ機の多くにはない実用的な武器である。

しかし問題は、こうした高機能がOM-1 Mark IIのような上位機に集中しており、エントリー機にはほとんど降りてきていないことだ。PEN E-P7は旧世代のセンサーとプロセッサーを搭載しており、コンピュテーショナルフォトグラフィの恩恵を十分に受けられない。OM-5もOM-1とのスペック差が大きく、中途半端な立ち位置に置かれている。

3-3. 中古市場が語る「本当の需要」

メーカーのマーケティングよりも雄弁に需要を語るのが、中古市場の価格動向である。EOSHDのAndrew Reidが指摘したように、2020年代に入って小型MFTカメラの中古価格が上昇している

  • パナソニック GX9 / GX8 / GX80(GX7 Mark II)——レンジファインダースタイルの小型機。いずれも中古価格が安定、一部は上昇
  • パナソニック GM1 / GM5——超小型MFT機。中古価格が発売時定価を超える異常な高騰
  • オリンパス PEN Mini / E-PL9 / E-PL10 / E-M10 Mark IV——エントリー機が継続的に売れ続ける

一方で、映像特化モデル(GH5、GH6)の中古価格は暴落しているとReidは指摘する。プロの映像制作市場がフルサイズに移行した結果、映像用MFT機の需要は急速に縮小したのだ。

この二極化は示唆的である。「映像制作のためのMFT」は縮小しつつあるが、「日常の写真のためのMFT」は根強い需要がある。しかしメーカーは映像フラッグシップ(GH7)や高機能写真機(OM-1 Mark II)に注力し、中古市場が示す「小さくて安いMFT」の需要に十分に応えていない。


4. スマートフォンとの戦い—MFTの差別化はどこにあるか

2020年代のカメラ産業を語る上で、スマートフォンとの関係は避けて通れない。特にMFTは、「センサーが小さい」という批判を常に受けてきた規格であり、スマートフォンのカメラが急速に高画質化する中で、その存在意義を問われ続けている。

4-1. コンパクトカメラの「復活」が意味すること

2025年のCIPAデータが示した最大のサプライズは、コンパクトカメラの出荷台数が前年比約30%増の244万台に達したことである。Canon G7X Mark IIIやSony ZV-1 IIが品薄になるほどの人気を博した。

これは一見するとMFTとは無関係に思えるが、本質的には同じ需要の表れである。スマートフォンでは得られない「カメラらしい写真体験」を、できるだけ小さく軽い機材で得たいという欲求だ。レンズ交換ができること、浅い被写界深度をデジタル処理ではなく光学的に得られること、物理的なダイヤルやシャッターボタンを操作する触覚的な喜び——こうした価値は、スマートフォンがどれだけ高画質になっても代替できない。

MFTはまさにこの需要に応えられるフォーマットである。フルサイズやAPS-Cよりも小さなボディとレンズ。それでいてスマートフォンとは次元の異なる画質と表現力。MFTの「中途半端さ」は、実はスマートフォン時代における最大の強みになりうる

4-2. 「レンズの楽しさ」という不可侵の領域

第4章で論じたように、MFTマウントは世界で最も多くのレンズ——特にシネマレンズ——が供給されるマウントのひとつである。中国メーカーを中心に、数千円のマニュアルフォーカスレンズから数十万円のシネマレンズまで、圧倒的な選択肢がある。

この「レンズの楽しさ」は、スマートフォンには絶対に真似できない。50mm f/0.95のボケ、超広角魚眼の歪曲世界、アナモルフィックレンズのフレア——こうした光学的な表現は、コンピュテーショナルフォトグラフィでシミュレーションすることはできても、物理的なレンズが生み出す質感を完全に再現することはできない。

第5章で論じたSpeed Boosterの存在も忘れてはならない。MFTマウントにフルサイズ用レンズを装着し、0.71倍のクロップファクターで実質的にAPS-C相当の画角とF値を得られるこのアダプターは、2025年現在も販売されており、MFTシステムの可能性を大幅に拡張し続けている。


5. 映像制作現場のMFT—2025年の実態

では、プロの映像制作現場でMFTは使われているのか。答えはイエスだが、その使われ方は2017年のGH5時代とは大きく異なっている。

5-1. Aカメラからの退場

率直に言って、MFTがメインカメラ(Aカメラ)として使われるプロの映像制作現場は激減した。GH5が映像制作者のメインカメラだった2017〜2019年の状況は、もう戻ってこないだろう。

理由は明確だ。Sony α7S III / FX3 / FX6、Canon EOS R5 / C70、Nikon Z8——これらのフルサイズ機が、GH5世代が切り拓いた「ワンオペ映像制作」の市場を、より高価ではあるが圧倒的に高い性能で席巻するようになったからである。特にソニーのFX3(約50万円)は、フルサイズセンサー、4K 120p、S-Log3、アクティブ手ぶれ補正をコンパクトなボディに詰め込み、「ワンマンオペレーションの映像制作」というGH5が切り拓いた市場を、そっくり奪い取った。

5-2. ニッチの中の絶対的存在

しかし、MFTが完全に映像制作から退場したわけではない。以下の領域では、依然としてMFTが選ばれ続けている。

ドローン搭載カメラ

DJI Zenmuse X5/X5Sに代表される空撮用途では、MFTの小型・軽量という特性が決定的な意味を持つ。ドローンのペイロード制限は物理法則であり、フルサイズカメラとレンズを空に飛ばすことは(不可能ではないが)実用的ではない。

ジンバル搭載・ワンオペ

BMPCC 4KやZ-Cam E2-M4のような小型MFTシネマカメラは、DJI RS 3やZhiyun Crane 4などの電動ジンバルに搭載した際のバランスと運用性に優れる。レンズを含めたシステム重量がフルサイズ機よりも大幅に軽いため、長時間のジンバル撮影でもオペレーターの疲労が少ない。

マルチカム撮影のBカメラ/Cカメラ

ライブイベント、セミナー、ミュージックビデオなどのマルチカム撮影において、MFT機はサブカメラとして重宝される。BMPCC 4Kの色科学はBlackmagic URSAシリーズとほぼ同一であり、Aカメラとの色合わせが容易だ。

ハイスピード撮影

Z-Cam E2-M4の4K 160fpsは、この価格帯のカメラとしては突出したスペックである。ミュージックビデオやCMのスローモーション素材を、$1,500程度の機材で撮影できることの意味は大きい。

教育・映画学校

BMPCC 4Kは、映画学校やワークショップにおいて今なお定番の教材カメラである。BRAW収録からDaVinci Resolveでのカラーグレーディングまでを一貫して学べる環境が、カメラ本体$1,295で手に入る。これに勝るコストパフォーマンスの教育用シネマカメラは存在しない。

5-3. レンタルハウスの棚—MFTの「生存指標」

映像機材のレンタルハウスのラインナップは、現場の需要を最も正確に反映する指標のひとつである。2025年現在、主要なレンタルハウスの多くがBMPCC 4Kを在庫に持ち続けている。GH5は在庫から外れつつあるが、BMPCC 4KはBRAWの需要とBlackmagicエコシステムとの親和性から、まだ棚に残っている。

一方、MFTレンズのレンタル在庫は、シネマレンズを中心に依然として豊富である。Meike、DZOFilm、SIRUI、Samyangなどの中国・韓国メーカー製シネマレンズは、レンタル単価が低く回転率も良いため、レンタルハウスにとっては効率の良い商材だ。


6. これからのMFT—3つのシナリオ

MFTの将来を予測することは容易ではない。しかし、ここまでの分析を踏まえて、3つのシナリオを提示したい。

シナリオA:「静かな縮小」(最も蓋然性が高い)

パナソニックはGHシリーズの次世代機を出すかもしれないが、それ以外のMFTラインは段階的に縮小する。Lマウントへのリソース集中が加速し、MFTレンズの新規開発はほぼ停止。OMデジタルソリューションズはOM-1の後継機を出すが、製品サイクルは長期化し、ラインナップはさらに絞られる。

MFTマウントのレンズは中国メーカーが供給し続けるため、マウント自体が消滅することはない。しかし「メインストリームの選択肢」としてのMFTは終わりを迎え、ニッチなフォーマットとして存続する。フィルム写真やMFカメラのように、愛好家のコミュニティによって支えられる存在になる。

シナリオB:「小型機復権」(希望的だが根拠はある)

中古市場でのGM1/GX9人気、コンパクトカメラの爆発的復活、PEN E-P7のBCNランクイン——これらのシグナルを正しく読み取ったメーカーが、「最小最軽量のレンズ交換式カメラ」としてのMFTを全面に打ち出すシナリオ。

Esquisse Cameraのようなサードパーティがこの需要に応える可能性もある。もしパナソニックが新型GMを出すか、OMデジタルが最新センサーとプロセッサーを搭載したPEN後継機を出せば、「スマホ時代の光学カメラ」としてMFTが再定義される余地はある。

CIPAデータが示すように、APS-C+MFTカメラの出荷台数は2025年に前年比109.3%と成長している。市場の風は、実はフルサイズではなく小型機に吹いている。あとはメーカーがその風を捕まえられるかどうかだ。

シナリオC:「マウント規格としての永続」(本連載の立場)

本連載を通じて論じてきたように、MFTの本質的な価値はセンサーサイズではなく、マウント規格としての汎用性にある。19.25mmのフランジバック、オープンな規格仕様、膨大なレンズ資産——これらは、カメラメーカーの経営判断とは独立して存在する構造的優位である。

たとえパナソニックがMFTカメラの新規開発を完全に停止したとしても、MFTマウントのレンズは作り続けられるだろう。なぜなら、中国のレンズメーカーにとって、MFTマウントは最も設計が容易で、最も多くのカメラ(BMPCC 4K、GHシリーズ、OMシリーズ)に対応でき、最もコストパフォーマンスの高い市場だからだ。

そして、フランジバック19.25mmというスペックは、今後登場するあらゆるマウントに対してアダプター経由での互換性を維持する。Lマウント(20mm)、EFマウント(44mm)、PLマウント(52mm)——これらのレンズはすべてMFTボディで使える。この「レンズプラットフォーム」としての価値は、時間が経つほど増大する。


7. 結語—19.25mmの遺産

2008年8月5日、パナソニックとオリンパスがマイクロフォーサーズ規格を発表したとき、彼らが想像していた未来と、2026年の現実は、おそらく大きく異なっている。

「女子カメラ」として売り出したPENシリーズが映画学校の教室に並ぶことも、$995のポケットカメラがハリウッドの色科学を民主化することも、中国の新興メーカーがMFTマウントのシネマレンズを数十種類も製造することも、フルサイズ用のレンズがフォーカルレデューサーで装着されてMFTの弱点を帳消しにすることも——いずれも、規格策定者たちの想定を超えた展開だったはずだ。

しかし、それこそがオープン規格の力である。設計者の意図を超えて、ユーザーとサードパーティが新たな可能性を見出していく。MFTの歴史は、その最良の実例だ。

市場シェアは小さい。パナソニックのコミットメントは揺らいでいる。フルサイズミラーレスとの性能差は拡大している。これらはすべて事実である。

だが、それでもなお、MFTマウントには他のどのマウントにもない唯一無二の価値がある。世界最短クラスのフランジバック。圧倒的なレンズの選択肢。小型・軽量のシステム。そして、映像制作の歴史を変えたという実績。

19.25mmのフランジバックが映像産業にもたらしたものは、センサーサイズの議論では測れない。それは、「小さなマウントが、巨大な産業を動かした」という、技術史における稀有な物語なのである。


本章をもって、全7章の連載「マイクロフォーサーズと映像表現の歴史」は完結となる。各章を通して読むことで、ひとつの規格がたどった17年の軌跡——誕生、拡大、革命、競争、そして再定義——の全体像が見えてくるはずである。


マイクロフォーサーズと映像表現の歴史—19.25mmのフランジバックが映像産業にもたらしたもの

  1. 誕生—「ミラーレス」という言葉はまだなかった
  2. 写真機を超えて——マウントとしてのマイクロフォーサーズ
  3. 995ドルの革命—Blackmagic Pocket Cinema Camera(2013)
  4. シネマレンズ大航海時代——MFTマウントが生んだ巨大市場
  5. 越境するレンズ—Speed Boosterとマウントアダプターの魔法
  6. GH5とBMPCC 4K—評価の分水嶺
  7. 2020年代のMFT—縮小する市場、拡大する可能性

典拠一覧

  1. CIPA (Camera & Imaging Products Association). “Digital Camera Total Shipment Data, 2025.” https://www.cipa.jp/stats/documents/e/d-2025_e.pdf
  2. PetaPixel. “Camera Shipments Increased for Consecutive Years for the First Time in Nearly 20 Years.” February 3, 2026. https://petapixel.com/2026/02/03/camera-shipments-increased-for-consecutive-years-for-the-first-time-in-nearly-20-years/
  3. Digital Camera World. “More photographers choose APS-C and Micro Four Thirds over full frame, as mirrorless continues to become more popular.” https://www.digitalcameraworld.com/cameras/mirrorless-cameras/more-photographers-choose-aps-c-and-micro-four-thirds-over-full-frame-as-mirrorless-continues-to-become-more-popular
  4. Glyn Dewis. “APS-C and Micro Four Thirds are Quietly Winning.” February 8, 2026. https://glyndewis.com/blog/2026/2/8/aps-c-and-micro-four-thirds-are-quietly-winning
  5. Robin Wong (Facebook / Shutter Therapy). “Latest Global Shipment Camera Share by Manufacturer — Nikkei Industry Map 2026.” September 2025. https://www.facebook.com/shuttertherapy/posts/1342962860512898/
  6. Robin Wong (Blog). “Small Cameras Can Save The Future Of Micro Four Thirds.” September 2024. https://robinwong.blogspot.com/2024/09/small-cameras-can-save-future-of-micro.html
  7. 43 Rumors. “Robin Wong: Where Panasonic Lost Its Micro Four Thirds Way — And How It Can Win Back Creators.” https://www.43rumors.com/robin-wong-where-panasonic-lost-its-micro-four-thirds-way-and-how-it-can-win-back-creators/
  8. EOSHD. “What next for Micro Four Thirds?” November 2025. https://www.eoshd.com/news/what-next-for-micro-four-thirds/
  9. FStoppers. “Panasonic’s Silence: The Micro Four Thirds Conundrum.” https://fstoppers.com/originals/panasonics-silence-micro-four-thirds-conundrum-514991
  10. The Phoblographer. “Canon Wins 2025 Camera Sales Race, Leaving Sony Behind.” January 13, 2026. https://www.thephoblographer.com/2026/01/13/canon-wins-2025-camera-sales-race-leaving-sony-behind/
  11. DPReview. “The numbers for 2025 are in, and they show a meteoric rise in compacts.” https://www.dpreview.com/articles/2386206926/cipa-data-2025-camera-lens-shipments-fixed-lens-cameras-interchangable
  12. 43 Rumors. “Esquisse Camera is developing a new GM styled MFT camera for $2000.” https://www.43rumors.com/cool-project-esquisse-camera-is-developing-a-new-gm-styled-mft-camera-for-2000/
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