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メーカー・商社が展示会に出展する意義——マーケティング・商談・ブランディングの三位一体 | 展示会クロニクル(9)

産業分析
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展示会クロニクル——写真映像産業を動かす見本市の歴史と未来(9)

※Adobe Firefly 及び Google Gemini 3.1 (w/ Nano Banana2 )により生成したイメージ画像です。

第Ⅲ部:出展社分析と産業予測

展示会に出展するには金がかかる。ブースの設営費、機材の輸送費、スタッフの渡航・宿泊費、販促物の制作費——CP+クラスの中規模ブースでも数百万円、NAB ShowやPhotokinaのフラッグシップブースともなれば数千万円から億単位の投資になる。それでもメーカーや商社は毎年出展を続けてきた。なぜか。

本章では、写真映像産業における展示会出展の意義を、マーケティング、商談(B2B)、ブランディングの3つの軸から分析する。さらに、デジタル時代・ポストコロナ時代に出展戦略がどう変化しているかを、具体的な企業事例とともに検証する。


  1. 1. 展示会出展の3つの柱——なぜ企業はブースを構えるのか
    1. 1-1. マーケティング:新製品発表と市場反応の即時取得
    2. 1-2. 商談(B2B):ディストリビューター・小売店との関係構築
    3. 1-3. ブランディング:企業イメージとコミュニティの構築
  2. 2. 出展規模とコスト——誰がいくら払っているのか
    1. 2-1. 出展コストの構造
    2. 2-2. 日本メーカーの出展予算規模
    3. 2-3. 中国メーカーの出展コスト意識
  3. 3. 出展戦略の類型——メーカー・商社・スタートアップの違い
    1. 3-1. 大手メーカーの「プレゼンス型」出展
    2. 3-2. 中小メーカーの「商談特化型」出展
    3. 3-3. 商社・ディストリビューターの「仕入れ・情報収集型」参加
    4. 3-4. スタートアップの「デビュー型」出展
  4. 4. デジタルマーケティング時代における展示会の再定義
    1. 4-1. オンライン発表 vs. 展示会発表
    2. 4-2. ハイブリッドモデルの台頭
    3. 4-3. SNS・インフルエンサーマーケティングとの融合
  5. 5. 「出展しない」という選択——不参加の戦略的意味
    1. 5-1. Photokinaからの撤退ドミノ
    2. 5-2. NAB Show 2020の教訓
    3. 5-3. 選択的出展の時代
  6. 6. 商社の視点——日本の映像機器流通と展示会
    1. 6-1. 日本の映像機器商社の役割
    2. 6-2. 商社が展示会で見ているもの
    3. 6-3. CP+における商社の出展
  7. 7. 出展メーカーの声——なぜ出し続けるのか、なぜやめるのか
    1. 7-1. 継続出展の論理
    2. 7-2. 出展縮小・撤退の論理
  8. 8. 展示会出展と企業の中長期戦略
    1. 8-1. 製品ロードマップと展示会カレンダー
    2. 8-2. IR(投資家向け広報)と展示会
    3. 8-3. 地政学リスクと展示会
  9. 9. まとめ——展示会出展は「コスト」ではなく「投資」である
  10. 参考・典拠一覧

1. 展示会出展の3つの柱——なぜ企業はブースを構えるのか

展示会出展の意義は、大きく3つの柱に分解できる。

1-1. マーケティング:新製品発表と市場反応の即時取得

展示会は、新製品を「世界同時に」発表する場として機能してきた。Photokinaでのカメラの新製品発表、NAB Showでの映像機器のワールドプレミア、CP+での日本市場向けモデルのお披露目——いずれも「展示会の初日に発表する」というリズムが業界の慣行として定着していた。

このリズムが機能するのは、展示会に3つのマーケティング上の利点があるからである。

第一に、メディアの集中。 展示会には専門メディア、写真系YouTuber、テック系ブロガー、業界アナリストが一堂に会する。NAB Show 2025では55,000人以上が来場し、その中に数千人のメディア関係者が含まれていた。CP+ 2024でも国内外から約200媒体が取材に訪れている。一度のプレスカンファレンスで数百のメディアにリーチできる効率は、個別のプレスリリース配信では到底実現できない。

第二に、ハンズオン体験の提供。 カメラやレンズは「触ってみなければわからない」製品である。グリップの握り心地、EVFの見え方、AFの食いつき、シャッターフィーリング——これらはスペックシートでは伝わらない。展示会のブースで実機に触れた来場者やメディアが「ファーストインプレッション」をSNSやYouTubeで即座に発信することで、発表日当日から口コミが拡散する。ソニーα9 IIIが2023年11月の専用イベントで発表された後、CP+ 2024会場での試写体験がX(旧Twitter)上で数時間のうちに数万インプレッションを記録したのは、この構造の典型例である。

第三に、競合との直接比較の場。 来場者は同じ会場内で複数メーカーのブースを回り、製品を比較する。これはメーカーにとってリスクでもありチャンスでもある。自社製品が競合より優れていれば、その場で「勝てる」。劣っていれば、即座にフィードバックが返ってくる。いずれにせよ、展示会は市場の反応をリアルタイムで取得できる数少ない場である。

1-2. 商談(B2B):ディストリビューター・小売店との関係構築

写真映像産業の流通構造は、メーカー→ディストリビューター(代理店・商社)→小売店(量販店・専門店・ECプラットフォーム)→エンドユーザーという多層構造をとる。展示会は、このサプライチェーン上の各プレイヤーが一堂に会する唯一の場である。

ディストリビューターの開拓。 特に海外市場への進出を目指すメーカーにとって、展示会は新規ディストリビューターを発掘する最も効率的な手段である。中国の三脚メーカーLeofotoがグローバルブランドへと成長した過程で、展示会でのディストリビューター開拓が決定的な役割を果たしたことは、世界シェア獲得と高級化——「中華三脚」の再定義(2010-現在)| 中華三脚クロニクル(5)で詳述した通りである。日本ではワイドトレード社がLeofotoの正規代理店となったが、この関係構築もCP+や国際展示会での接触がきっかけだった。

同様に、中国のレンズメーカーViltrox、TTArtisan、7Artisansなどがグローバル市場に浸透した背景にも、Photo & Imaging Shanghai(現Vision & Image Shanghai)やP&I Beijingでの海外バイヤーとの商談がある。展示会は「中国メーカーが世界と出会う場」として機能してきたのである。

既存パートナーとの関係強化。 すでに取引関係にあるディストリビューターや小売チェーンとの関係維持も、展示会の重要な機能である。年に一度、顔を合わせて次年度の製品ラインナップを共有し、販売戦略を擦り合わせ、時には契約更新の交渉を行う。メールやZoomでは置き換えられない「対面の信頼構築」が、特にアジア・欧州の商習慣では重視される。

小売店・フォトスペシャリティストアとの協力。 日本ではヨドバシカメラ、ビックカメラ、マップカメラなどの量販店・専門店のバイヤーがCP+に来場し、メーカーブースで新製品の説明を受ける。欧米では、B&H Photo、Adorama、Wex Photo Videoなどの大手小売店がNAB ShowやThe Photography Showに参加する。小売店のバイヤーが展示会で「これは売れる」と判断すれば、発売初日からの店頭展開がスムーズになる。

1-3. ブランディング:企業イメージとコミュニティの構築

展示会のブースは、メーカーの「顔」である。ブースのデザイン、照明、展示方法、スタッフの対応——すべてがブランドメッセージを伝える。

ブースデザインとブランド体験。 ソニーのNAB Showブースは毎年、黒を基調とした洗練されたデザインで「プロフェッショナル」のイメージを強化する。キヤノンのCP+ブースは白と赤を基調とし、タッチ&トライコーナーを広く取ることで「誰でも触れるカメラ」の親しみやすさを演出する。Blackmagic DesignのNAB Showブースは毎年巨大なセットを組み、実際の映画制作環境を再現することで「クリエイターのための道具」というブランドアイデンティティを体現する。

コミュニティの形成と維持。 CP+のフォトウォークイベント、NAB Showの技術セミナー、PhotokinaのPresentation Stageは、単なる製品展示を超えた「コミュニティの場」を提供してきた。メーカーが展示会でワークショップを開催し、プロフォトグラファーを招いてトークショーを行い、ユーザーと直接対話する——これは、オンラインマーケティングだけでは実現しにくい「熱量のある接点」である。

富士フイルムのCP+ブースでは、Xシリーズのアンバサダーフォトグラファーによるトークセッションが毎年人気を集め、ブース前に長い列ができる。この「列に並ぶ」という行為自体が、ブランドへのロイヤルティを可視化する装置として機能している。


2. 出展規模とコスト——誰がいくら払っているのか

2-1. 出展コストの構造

展示会の出展コストは、以下の要素で構成される。

  • ブース出展料(スペース使用料): 展示会場の面積に応じて課金される。NAB Showの場合、1平方フィートあたり$30〜$50程度が目安とされる。100㎡(約1,076平方フィート)のブースであれば、スペース使用料だけで$30,000〜$50,000(約450万〜750万円)に達する。
  • ブース設営・装飾費: カスタムブースの設計・施工費は、スペース使用料を大幅に上回ることが一般的である。大手メーカーのフラッグシップブースでは、設営費だけで$100,000〜$500,000以上(約1,500万〜7,500万円以上)に達することも珍しくない。
  • 機材輸送費: 展示用の実機、モックアップ、ディスプレイ機器の国際輸送。精密機器であるカメラやレンズの輸送には特別な梱包と保険が必要になる。
  • 人件費(渡航・宿泊・日当): ブーススタッフ、エンジニア、マーケティング担当、経営幹部の渡航・宿泊費。NAB Show期間中のラスベガスのホテル代は通常の2〜3倍に高騰する。
  • 販促物・ノベルティ: カタログ、パンフレット、ノベルティグッズの制作費。
  • プレスイベント・パーティ費用: メディア向けレセプション、ディーラー向けディナーなどの接待費。

2-2. 日本メーカーの出展予算規模

正確な出展費用は各社の機密情報であり、公表されることは稀である。しかし、業界関係者の証言やIR資料の断片から、おおよその規模感を推定することは可能である。

  • キヤノン・ニコン・ソニー(御三家)のCP+出展費用: 推定1,000万〜3,000万円程度(ブース面積・設営費・人件費含む)。CP+は国内展示会であるため、海外展示会に比べて輸送・渡航コストは抑えられる。
  • 同社のNAB Show出展費用: 推定$200,000〜$1,000,000(約3,000万〜1.5億円)。特にソニーとキヤノンはNAB Showに大規模なブースを構え、映像制作向け製品のフルラインナップを展示する。
  • 旧Photokina出展費用(大手メーカー): Photokinaは2年に1度の開催であり、各社は「2年分のマーケティング予算を集中投下」する傾向があった。大手メーカーの出展費用は€500,000〜€2,000,000(約8,000万〜3.2億円)に達したとされる。Photokinaの消滅後、各社はこの予算をどこに振り向けたかが、展示会戦略の変化を読み解く鍵となる。

2-3. 中国メーカーの出展コスト意識

Photo & Imaging Shanghai(現Vision & Image Shanghai)やBIRTVは、欧米の大型展示会に比べて出展コストが大幅に低い。これは中国の新興メーカーにとって決定的な利点である。

SmallRig、Viltrox、Godoxといった中国メーカーは、まず国内展示会で製品を披露し、海外バイヤーの注目を集めた上で、NAB ShowやIBCへの出展を段階的に拡大するという「ステップアップ戦略」を採用してきた。Vision & Image Shanghai 2025では400社以上が出展し、展示面積は80,000㎡に達した。この規模は、出展コストの低さと中国市場の成長性が相まって実現したものである。


3. 出展戦略の類型——メーカー・商社・スタートアップの違い

3-1. 大手メーカーの「プレゼンス型」出展

キヤノン、ニコン、ソニー、富士フイルム、パナソニックといった大手メーカーの出展目的は、必ずしも「その場で商談を成立させること」ではない。むしろ「業界のリーダーとしてのプレゼンスを示すこと」が第一義である。

大手メーカーにとって、主要展示会への出展は「不参加のリスク」と表裏一体である。Photokinaに出展しないことは、「このメーカーは写真産業から撤退するのではないか」というメッセージとして市場に受け取られるリスクがあった。実際に、Samsungがカメラ事業から事実上撤退し2016年以降の展示会に出展しなくなった際には、「やはり撤退か」という確認のシグナルとして市場に受け取られた。展示会への不参加は、それ自体が戦略的メッセージとして解釈されるのである。

3-2. 中小メーカーの「商談特化型」出展

年間売上が数十億円規模の中小メーカーにとって、展示会出展のROI(投資対効果)はよりシビアに計算される。彼らの出展目的は明確に「商談」である。

三脚メーカーのSirui(思鋭)は、NAB ShowとIBCでの出展を「年間売上の○%をこの展示会経由の商談で獲得する」という定量目標を設定して臨んでいるとされる。レンズメーカーのLaowaも、NAB ShowでのB2B商談を通じて欧米のディストリビューターネットワークを構築した。

3-3. 商社・ディストリビューターの「仕入れ・情報収集型」参加

日本の映像機器商社——銀一、伊藤忠フォトニクス、浅沼商会、ケンコー・トキナーなど——にとって、展示会は「仕入れ先の発掘」と「業界トレンドの把握」の場である。

浅沼商会のように、複数の海外ブランドの日本総代理店を務める商社は、展示会で新ブランドとの代理店契約を交渉する。NAB ShowやIBCでアジア・欧州の新興メーカーのブースを巡り、「日本市場で売れるか」を判断し、その場で代理店契約の予備交渉を始めることもある。

3-4. スタートアップの「デビュー型」出展

KickstarterやIndiegogoでクラウドファンディングに成功した映像機器スタートアップにとって、展示会は「本物の企業」として認知される最初の機会である。

Insta360は2016年にCESに出展し、360°カメラのスタートアップから一気にグローバルブランドへと飛躍した。DJIも初期にはNAB Showの小さなブースからスタートし、年を追うごとにブース面積を拡大していった。展示会は、スタートアップが「ガレージの発明」から「業界のプレイヤー」へとステージを上げるためのゲートウェイとして機能する。


4. デジタルマーケティング時代における展示会の再定義

4-1. オンライン発表 vs. 展示会発表

2020年のCOVID-19パンデミック以降、多くのメーカーが製品発表をオンラインに移行した。ソニーはYouTubeライブで新製品を発表し、ニコンはオンラインプレゼンテーションでZ 9を発表した。キヤノンはEOS R5をオンラインイベントで発表し、展示会を経由しなかった。

この変化は、「展示会でなければ新製品を発表できない」という従来の常識を覆した。オンライン発表には以下の利点がある。

  • タイミングの自由度: 展示会のスケジュールに縛られず、自社に最適なタイミングで発表できる。
  • リーチの最大化: 展示会の来場者は数万人だが、YouTubeライブの視聴者は数十万人〜数百万人に達する。
  • コスト削減: ブース出展費・渡航費が不要。
  • メッセージのコントロール: 展示会では競合の発表と注目が分散するが、オンライン発表では自社だけがスポットライトを浴びる。

しかし、オンライン発表には「触れない」という致命的な弱点がある。カメラやレンズのような物理的製品は、ハンズオン体験なしには購買意欲を完全には喚起できない。この「触覚の壁」が、展示会が完全には代替されない最大の理由である。

4-2. ハイブリッドモデルの台頭

CP+ 2021〜2022はオンライン開催となったが、2023年以降は「リアル+オンライン」のハイブリッド形式に移行した。NAB ShowもIBCも、2023年以降はリアル開催を復活させつつ、オンラインコンテンツを並行して提供している。

このハイブリッドモデルは、展示会の「B2B商談はリアルで、情報発信はオンラインで」という役割分離を促進した。メーカーは展示会のブースで商談と体験を提供し、同時にオンラインで発表内容を世界に配信する。リアルとデジタルの「二刀流」が、2025年時点での展示会出展の標準形になりつつある。

4-3. SNS・インフルエンサーマーケティングとの融合

展示会は、インフルエンサーマーケティングの「発射台」としても機能するようになった。メーカーは展示会にYouTuberやInstagramerを招待し、VIPアクセスを提供し、展示会場での「先行レビュー動画」を撮影させる。

CP+ 2025では、CIPAが公式にフォトウォークイベントを開催し、SNSでの拡散を意図的に促進した。NAB Showでは、Cinema5DやNewsshooterといった映像系メディアが会場からリアルタイムでレポートを配信し、来場できないクリエイターにも展示会の「空気感」を届けた。

展示会は、もはや「来場者だけのための場」ではない。展示会で生成されたコンテンツがSNSを通じて増幅され、来場者の数十倍〜数百倍のオーディエンスにリーチする「コンテンツ生成装置」へと変貌している。


5. 「出展しない」という選択——不参加の戦略的意味

5-1. Photokinaからの撤退ドミノ

Photokina 2018は、多くのメーカーにとって「転換点」だった。一部のアクセサリーメーカーが出展を取りやめ、開催日数も従来の6日間から4日間に短縮された。来場者数はピーク時の約19万人(2016年)から約18万人に微減していた。

メーカーが「出展しない」選択をする理由は複数ある。

  • コスト対効果の悪化: 来場者の減少により、1人あたりの接触コストが上昇。
  • オンラインチャネルの成熟: 展示会を経由せずとも、製品情報をグローバルに届けられるようになった。
  • 展示会の性格変化: Photokinaが「B2B商談の場」から「コンシューマー向けイベント」へとシフトしたことで、メーカーの出展目的と乖離が生じた。

Photokina 2020の延期(そして事実上の消滅)は、これらの構造的問題が臨界点に達した結果である。

5-2. NAB Show 2020の教訓

NAB Show 2020はCOVID-19の影響で中止となったが、注目すべきはその後の動きである。2020年9月にNAB Show Expressとしてオンライン開催を試みたが、参加企業・視聴者ともに限定的だった。

しかし、2022年のNAB Show再開時には、来場者数が急速に回復した。2023年には65,000人以上、2024年には67,000人以上、2025年には55,000人以上が来場した。この回復は「展示会には代替不可能な価値がある」ことの実証である。特にB2B商談と技術デモンストレーションは、オンラインでは再現できない展示会固有の機能だった。

5-3. 選択的出展の時代

Photokina消滅後、メーカーは「すべての展示会に出展する」のではなく、「自社のターゲット市場に最適な展示会を選択する」戦略にシフトしている。

  • スチル写真中心のメーカー: CP+を最重要視し、The Photography Show(英国)にも出展。
  • 映像制作向け製品を持つメーカー: NAB ShowとIBCを最優先。InterBEEで日本市場をカバー。
  • 中国メーカー: Vision & Image ShanghaiとBIRTVを国内基盤とし、NAB Show・IBCで海外進出。
  • ニッチ製品メーカー(アナモルフィックレンズ、シネレンズなど): Cine Gear ExpoとBSC Expoに集中出展。

この「選択と集中」は、展示会の多様化と専門化を促進する。すべてのメーカーが同じ展示会に集まる時代は終わり、各展示会が固有のエコシステムを形成する時代に移行しつつある。


6. 商社の視点——日本の映像機器流通と展示会

6-1. 日本の映像機器商社の役割

日本市場には、海外メーカーの製品を輸入・販売する映像機器商社が複数存在する。銀一、伊藤忠フォトニクス(旧ハッセルブラッド・ジャパン事業を引き継いだ)、浅沼商会、ケンコー・トキナー、ワイドトレードなどがその代表例である。

これらの商社にとって、海外展示会は「次に何を仕入れるか」を決める情報収集の場であると同時に、既存の取扱ブランドとの関係を維持・強化する場でもある。浅沼商会は、SLIK三脚やKINGブランドのアクセサリーを自社ブランドとして展開する一方、海外ブランドの代理店事業も手がけており、展示会での情報収集と商談は事業の根幹をなす。

6-2. 商社が展示会で見ているもの

商社のバイヤーが展示会で注視するポイントは、メーカーとは異なる。

  • 市場トレンドの変化: どのカテゴリーの出展が増えているか、減っているか。これは「次に売れる商品カテゴリー」を予測する手がかりになる。
  • 新興メーカーの品質レベル: 中国やアジアの新興メーカーが展示する製品の品質が、日本市場で通用するレベルに達しているかを現物で確認する。
  • 競合代理店の動向: どの競合商社がどのブランドと接触しているかを観察し、代理店権の争奪戦に備える。
  • 価格動向: 海外メーカーの出展価格(FOB価格)と、日本市場での想定小売価格のギャップを計算する。

6-3. CP+における商社の出展

CP+では、商社自身もブースを構え、取り扱いブランドの製品をまとめて展示することがある。ケンコー・トキナーは自社ブランド(Kenko、Tokina)の製品に加え、海外ブランドの代理店製品を展示する。ワイドトレードはLeofoto、K&F Conceptなどの中国ブランドを展示し、日本のユーザーに「中国製品の品質の高さ」をアピールする場としてCP+を活用してきた。


7. 出展メーカーの声——なぜ出し続けるのか、なぜやめるのか

7-1. 継続出展の論理

展示会への継続出展を選択するメーカーは、以下のような論理を共有している。

「展示会は年に一度の『健康診断』である。」 ——あるカメラメーカーのマーケティング担当者は、展示会をこう表現した。来場者の反応、競合の動向、メディアの関心——これらを一度に把握できる機会は、展示会以外にはない。

「ディストリビューターは『顔を見せない企業』とは取引しない。」 ——特にアジア市場では、対面での関係構築がビジネスの前提条件である。中東・アフリカ・南米のディストリビューターにとって、NAB ShowやIBCでメーカーの幹部と直接会えることが取引継続の安心材料になる。

「出展をやめた瞬間、『撤退するのか』と聞かれる。」 ——プレゼンスの維持は、それ自体がメッセージである。出展しないことは「不参加」ではなく「撤退のシグナル」として市場に解釈される。

7-2. 出展縮小・撤退の論理

一方で、出展を縮小または撤退するメーカーにも、合理的な理由がある。

「ROIが合わない。」 ——出展費用に対する具体的な商談成果を測定し、費用対効果が基準を下回れば撤退する。特に成熟市場でブランド認知度が十分に高いメーカーにとって、展示会の「認知獲得」機能の価値は相対的に低下する。

「オンラインで十分にリーチできる。」 ——グローバルなオンラインプレゼンスを確立したメーカーは、展示会に依存せずとも情報発信が可能である。GoPro、DJIなどは自社のオンラインイベントやSNSを通じて、展示会以上のリーチを実現している。

「展示会の性格が変わった。」 ——Photokinaがコンシューマー向けイベントに傾斜したことで、B2B商談を重視するメーカーにとっての出展価値が低下した。同様の議論は、CP+が「一般来場者向けのお祭り」に傾斜しつつあるという指摘においても繰り返されている。


8. 展示会出展と企業の中長期戦略

8-1. 製品ロードマップと展示会カレンダー

大手メーカーの製品開発スケジュールは、展示会カレンダーと密接に連動している。CP+(2〜3月)、NAB Show(4月)、Cine Gear Expo(6月)、IBC(9月)、InterBEE(11月)——この年間サイクルに合わせて、新製品の発表タイミングが設計される。

かつてPhotokinaが2年に1度、9月に開催されていた時代には、各社は「Photokina年」に合わせてフラッグシップ機を投入する傾向が強かった。Photokina消滅後は、CES(1月)やCP+(2〜3月)が年頭の発表舞台として重要性を増している。

8-2. IR(投資家向け広報)と展示会

上場企業にとって、展示会への出展はIR上のシグナルでもある。新製品の反響、来場者の関心度、商談の成約件数は、次期決算の売上予測を左右する先行指標である。ソニーのイメージング&センシング・ソリューション事業やキヤノンのイメージングシステム事業のIR資料には、展示会での反響が間接的に言及されることがある。

8-3. 地政学リスクと展示会

近年、米中関係の緊張やEU規制の強化は、展示会の出展戦略にも影響を及ぼしている。中国メーカーがNAB ShowやIBCに出展する際のビザ取得の困難さ、米国の関税政策が展示品の持ち込みに与える影響、EUのデータ保護規制がデモンストレーションに課す制約——これらは「展示会に出たくても出られない」状況を生む新たな要因である。

DJIが米国市場での規制リスクに直面しつつもNAB Showへの出展を継続しているのは、「出展しないことが規制リスクの確定シグナルとして解釈される」ことを回避するためでもある。


9. まとめ——展示会出展は「コスト」ではなく「投資」である

展示会への出展は、マーケティング、B2B商談、ブランディングの三位一体として機能する。デジタルマーケティングの発達により、展示会の「情報発信」機能は相対的に低下したが、「ハンズオン体験」「対面商談」「コミュニティ形成」という代替不可能な機能は健在である。

展示会出展の意義は、業種・企業規模・ターゲット市場によって異なる。大手メーカーにとってはプレゼンス維持、中小メーカーにとっては商談機会の最大化、商社にとっては情報収集と仕入れ先開拓、スタートアップにとっては業界への参入チケット——展示会は、各プレイヤーに異なる価値を提供する多面的なプラットフォームである。

Photokina消滅とCOVID-19パンデミックは、展示会の存在意義を根本から問い直す契機となった。しかし、NAB ShowやCP+の来場者数回復が示すように、展示会の需要は消滅したのではなく、「再定義」されたのである。メーカーが展示会に支払うのは「コスト」ではなく、自社の市場ポジションを維持・強化するための「投資」である。

次章では、この展示会の出展構造から読み解ける分野別の業界予測を展開する。カメラボディ、レンズ、ジンバル・スタビライザー、三脚、カメラアクセサリー——各分野の出展動向が示す未来像を分析する。


展示会クロニクル——写真映像産業を動かす見本市の歴史と未来 ガイドページ

第Ⅰ部:展示会総論

第Ⅱ部:世界の主要展示会——個別史

第Ⅲ部:出展社分析と産業予測


参考・典拠一覧


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