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写真機を超えて——マウントとしてのマイクロフォーサーズ | マイクロフォーサーズと映像表現の歴史(2)

カメラ
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マイクロフォーサーズと映像表現の歴史—19.25mmのフランジバックが映像産業にもたらしたもの


カメラの世界では、マイクロフォーサーズといえば「センサーサイズ」の話になる。17.3×13mm、フルサイズの約4分の1、APS-Cの約半分——そういった数字が繰り返し語られ、そのたびに「小さすぎる」「ボケが足りない」「高感度が弱い」という批判が蒸し返される。

だが、この議論にはひとつ致命的な見落としがある。

マイクロフォーサーズの真の革新性は、センサーサイズにはない。マウント規格にある。

フランジバック19.25mm、マウント内径約38mm、電子接点11ピン、オープンライセンスの規格仕様。この4つの要素の組み合わせが、MFTを「写真用カメラのマウント」から「映像産業のインフラ」へと変貌させた。ドローンの空から、シネマスタジオのレールの上から、工場の生産ラインから、さらには爆発実験の現場から——MFTマウントは、カメラメーカーの想像を超えた場所で使われるようになった。

この章では、センサーサイズの議論を一度脇に置き、「マウント規格としてのMFT」に焦点を当てる。なぜMFTマウントは写真用カメラ以外の世界に広がったのか。そしてその拡大は、MFTの映像産業における地位をどのように形作ったのか。

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  1. 19.25mmが意味するもの——フランジバックの物理学
  2. オープン規格という「招待状」
  3. 空へ——DJI Zenmuse X5シリーズとMFTの空撮革命
    1. Zenmuse X5(2015年)——世界初のMFTドローンカメラ
    2. Zenmuse X5R(2015年)——RAW収録の空
    3. Zenmuse X5S(2016年)——Inspire 2と共に
    4. X7でMFTは終わった?——DLマウントへの移行
  4. 産業の目——高速度カメラ、マシンビジョン、特殊用途
    1. Photron FASTCAM Multi——爆発を撮るMFTマウント
    2. マシンビジョンとMFT
  5. 写真カメラの「異端児」たち——Kodak PixPro S-1、Xiaomi YI M1、そして忘れられたMFT機
    1. Kodak PixPro S-1(2014年)
    2. Xiaomi YI M1(2016年)
    3. Sharp 8K MFTカメラ
    4. なぜ「異端児」は成功しなかったのか
  6. シネマカメラとMFTマウント——パナソニック AG-AF100からZ-Cam E2まで
    1. パナソニック AG-AF100 / AG-AF105(2010年)——最初の「MFTシネマカメラ」
    2. Z-Cam E2 / E2-M4——中国発のMFTシネマカメラ
    3. JVCの業務用MFT機
  7. マウントの比較——なぜMFTは「映像産業のインフラ」になれたのか
    1. 1. フランジバックの短さ=アダプターの自由度
    2. 2. マウントの物理的コンパクトさ=搭載先の自由度
    3. 3. オープン規格=参入障壁の低さ
    4. 4. レンズエコシステムの厚さ
    5. 5. 電子通信の標準化
  8. 「マウント」としてのMFT——過小評価された革新
  9. MFTマウント採用カメラ一覧(写真用カメラ以外)
  10. この章のまとめ
  11. 典拠一覧

19.25mmが意味するもの——フランジバックの物理学

前章で述べた通り、マイクロフォーサーズのフランジバック(マウント面からセンサー面までの距離)は19.25mmである。この数字の意味を、他のマウントと比較して理解しよう。

マウントフランジバックマウント種別MFTとの差
ARRI PL52.00mmシネマ+32.75mm
ニコン F46.50mm一眼レフ+27.25mm
キヤノン EF44.00mm一眼レフ+24.75mm
フォーサーズ38.67mm一眼レフ+19.42mm
ライカ M27.80mmレンジファインダー+8.55mm
ソニー E18.00mmミラーレス-1.25mm
キヤノン RF20.00mmミラーレス+0.75mm
ニコン Z16.00mmミラーレス-3.25mm
マイクロフォーサーズ19.25mmミラーレス基準

この表から読み取るべきことは単純である。MFTのフランジバック(19.25mm)は、PLマウント(52mm)、EFマウント(44mm)、Fマウント(46.5mm)、ライカMマウント(27.8mm)など、主要なレンズマウントのほぼすべてより短い。これが意味するのは、物理的なスペーサー(アダプター)を挟むだけで、これらのマウントのレンズをMFTボディに装着できるということである。

レンズアダプターの原理は単純だ。元のマウントのフランジバックとMFTのフランジバックの差分だけ、アダプターの厚みがあればいい。たとえばPLマウントレンズをMFTに装着するには、52.00 – 19.25 = 32.75mmの厚さのアダプターがあれば物理的に成立する。光学素子は不要であり、画質劣化はゼロである。

一方、ソニーEマウント(18mm)やニコンZマウント(16mm)はMFTよりフランジバックが短いため、MFTレンズをこれらのボディに光学補正なしで装着することは(理論上)難しい。つまり、MFTは「レンズを受け入れる側」としては極めて優秀だが、「他のボディに送り出す側」としては制約がある。この非対称性は、MFTマウントの運命を大きく左右することになる。

もうひとつ重要なのは、2008年の時点でMFTは民生用ミラーレスの中で最も早くこの短フランジバックを実現したマウントだったという事実である。ソニーEマウント(NEX-3/5、2010年)はMFTより2年遅れて登場し、キヤノンRFマウント(EOS R、2018年)やニコンZマウント(Z 6/7、2018年)に至ってはさらに10年後である。MFTは「短フランジバック=レンズ互換性の高さ」という武器を、他のどのミラーレスマウントよりも早く手にしていた。


オープン規格という「招待状」

MFTマウントのもうひとつの本質的な特徴は、オープン規格であるということだ。

キヤノンEFマウント、RFマウント、ソニーEマウント、ニコンZマウント——これらはすべて、基本的にそのメーカーが独占的に管理するプロプライエタリ(非公開)なマウント規格である。サードパーティがレンズやボディを製造するには、リバースエンジニアリングするか、個別にライセンス契約を結ぶ必要がある。

対してマイクロフォーサーズは、規格に参加するメーカーであれば、マウントの物理仕様と電子通信プロトコルの情報にアクセスでき、互換製品を製造することができる。実際、MFT規格の賛同企業リストを見ると、パナソニック、オリンパス(現OMデジタルソリューションズ)だけでなく、以下のような多様なメーカーが名を連ねている。

  • Blackmagic Design(オーストラリア)——シネマカメラ
  • DJI(中国)——ドローン用カメラ
  • JVC(日本)——業務用ビデオカメラ
  • Z-Cam(中国)——シネマカメラ
  • Sharp(日本)——8Kカメラ
  • Kodak / JK Imaging(アメリカ/中国)——民生用カメラ
  • Xiaomi(中国)——民生用カメラ
  • Photron(日本)——産業用高速度カメラ
  • コシナ(日本)——レンズメーカー
  • シグマ(日本)——レンズメーカー

このリストの多様性こそが、MFTマウントの本質を物語っている。ひとつのマウント規格が、民生用写真カメラ、シネマカメラ、ドローン、産業用カメラ、そしてレンズのすべてにおいて複数メーカーに採用されている例は、カメラの歴史において他にない。ARRIのPLマウントはシネマの世界では事実上の標準だが、コンシューマー製品には存在しない。キヤノンEFマウントは民生用で圧倒的だったが、ドローンや産業カメラには採用されていない。

MFTマウントは、短いフランジバックとオープン規格という2つの特性によって、「汎用レンズマウント」とでも呼ぶべき独特のポジションを築いたのである。


空へ——DJI Zenmuse X5シリーズとMFTの空撮革命

MFTマウントが「写真用カメラの枠」を最も劇的に超えた瞬間は、2015年に訪れた。DJI Zenmuse X5の登場である。

DJIは2006年に中国・深圳で設立されたドローンメーカーであり、創業者のフランク・ワン(Frank Wang)が香港科技大学在学中に始めたプロジェクトが起源である。2013年のPhantomシリーズの爆発的なヒットで民生ドローン市場を席巻したDJIが次に目指したのは、プロの映像制作に使えるドローンカメラの開発だった。

Zenmuse X5(2015年)——世界初のMFTドローンカメラ

DJI Zenmuse X5は、DJIの公式サイトで「世界初のMicro Four Thirdsカメラシステムを搭載した空撮専用カメラ」と銘打たれている。主なスペックは以下の通りだ。

  • センサー:4/3型 16メガピクセル CMOS
  • マウント:マイクロフォーサーズ(レンズ交換式)
  • ダイナミックレンジ:12.8ストップ
  • 動画:4K(4096×2160)24p / UHD 4K(3840×2160)30p
  • コーデック:H.264、最大60Mbps
  • 対応レンズ:Panasonic LUMIX G 15mm f/1.7、Olympus M.Zuiko 12mm f/2.0、DJI MFT 15mm f/1.7(パナソニックOEM)
  • 対応ドローン:DJI Inspire 1

Zenmuse X5が画期的だった理由は、「ドローンにMFTマウントを搭載した」という一点に尽きる。それ以前のDJIのカメラ(Phantomシリーズに搭載されたX3カメラ)は1/2.3型の小型センサーと固定レンズで、画質的にはスマートフォンの延長線上にあった。Zenmuse X5は、センサーサイズでX3の約8倍の面積を持ち、かつレンズを交換できる。15mm(35mm換算30mm相当)の標準レンズから、12mm(同24mm相当)の広角レンズに差し替えるだけで、空撮の画角を大きく変えられる。

なぜDJIがMFTマウントを選んだのか。その理由は明快である。

第一に、マウントの物理的コンパクトさ。フランジバック19.25mm、マウント外径44mmというMFTの寸法は、ドローンのジンバル(3軸手ぶれ補正機構)に搭載するカメラとして理想的なサイズであった。EFマウント(フランジバック44mm)やPLマウント(52mm)では、ジンバルに載せるカメラの奥行きが増し、重量バランスが崩れる。

第二に、オープン規格であること。DJIは独自にカメラボディを製造する必要があったが、MFTのオープンな規格仕様があれば、パナソニックやオリンパスの既存レンズをそのまま利用できる。ゼロからレンズシステムを構築する必要がないのは、カメラ専業ではないDJIにとって決定的な利点だった。

第三に、レンズの小型・軽量さ。MFTレンズはフルサイズ用レンズに比べて格段に小さく軽い。Panasonic LUMIX G 15mm f/1.7(115g)やOlympus M.Zuiko 12mm f/2.0(130g)クラスのレンズであれば、ドローンのペイロード(積載能力)制限内に余裕で収まる。

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Zenmuse X5R(2015年)——RAW収録の空

Zenmuse X5と同時期に発表されたZenmuse X5Rは、MFTマウントを維持しながらCinemaDNG RAW収録に対応した上位モデルである。4K 30pのRAWを平均1.7Gbps(ギガビット毎秒)という膨大なデータレートで記録し、512GBのSSDに直接書き込む。この仕様は、2015年当時としては地上のシネマカメラに匹敵するものだった。

映像制作の観点でX5Rが重要だった理由は、空撮映像のポストプロダクション耐性が飛躍的に向上したことにある。RAW収録されたデータは、カラーグレーディングの自由度がH.264圧縮映像とは比較にならない。ハリウッドの空撮チームが使う大型ヘリコプター搭載カメラ(ARRI Alexa MiniやRED EPICをGyro-Stabilized Headに搭載したシステム)と、ドローン撮影の映像を同じタイムラインで編集できるようになったのだ。

Zenmuse X5S(2016年)——Inspire 2と共に

2016年に登場したZenmuse X5Sは、DJIのプロ用ドローン「Inspire 2」に最適化された第2世代のMFTカメラである。

  • センサー:4/3型 20.8メガピクセル CMOS(新設計)
  • ダイナミックレンジ:12.8ストップ
  • 動画:5.2K(5280×2972)30p CinemaDNG、Apple ProRes対応 / 4K 60p(H.264/H.265)
  • 映像処理:Inspire 2内蔵のCineCore 2.0プロセッサーで処理(カメラ本体とプロセッサーを分離する設計)
  • 対応レンズ:9本のMFTレンズ(パナソニック、オリンパス、DJI製)

X5Sの特筆すべき点は、カメラヘッドと映像処理プロセッサーを物理的に分離したことである。センサーからの信号はInspire 2の本体に内蔵されたCineCore 2.0チップで処理される。これにより、カメラヘッド自体の発熱と電磁ノイズが抑えられ、画質が向上した。DPReviewの関連報道でも、X5SのMFTセンサーは「新しい20.8メガピクセルセンサーで、色感度とS/N比がX5Rから大幅に改善された」と評価されている。

あるInspire 2ユーザーはフォーラムで次のように述べている。「X5Sの映像はREDやARRI Alexaのフッテージと一緒に編集しても違和感がない。空撮がポスプロのボトルネックでなくなった」。

X7でMFTは終わった?——DLマウントへの移行

しかし、DJIのMFTマウント採用は永遠には続かなかった。2017年に発表されたZenmuse X7は、Super 35(23.5×15.7mm)センサーを搭載し、マウントをMFTからDJI独自のDLマウントに変更した。6K CinemaDNG RAW収録に対応し、DJI専用設計の4本のDLレンズ(16/24/35/50mm)と組み合わせて使用する。

この移行は、DJIがMFTマウントの限界を感じた結果だったのか。おそらくそうではない。X7でDLマウントを選んだ最大の理由は、レンズ光学系を含めたシステム全体を自社で最適化したかったからだろう。MFTはオープン規格であるがゆえに、レンズの光学設計はレンズメーカーに依存する。DJIが空撮カメラに求める「軽量・高解像度・低歪み」を突き詰めるには、マウントからレンズまでを一貫して設計する必要があった。

とはいえ、X5シリーズの遺産は大きい。DJIがMFTマウントを選んだ2015〜2016年のわずか2年間で、「MFTは空撮のプロフェッショナルカメラにも使えるマウントだ」という認知が世界中の映像制作者に広まった。そしてその認知は、BMPCCやZ-CamといったMFTマウントのシネマカメラの市場を間接的に押し広げることになる。


産業の目——高速度カメラ、マシンビジョン、特殊用途

MFTマウントが採用されたのは、コンシューマー向けカメラとドローンだけではない。産業用カメラの世界にも、MFTは静かに浸透している。

Photron FASTCAM Multi——爆発を撮るMFTマウント

日本の高速度カメラメーカー、フォトロン(Photron)が製造するFASTCAM Multiは、産業用高速度撮影に特化したカメラシステムである。最大4,800fps(フル解像度1280×1024ピクセル)、720p HDで6,000fps、解像度を下げれば最大750,000fpsという驚異的なフレームレートを誇る。

注目すべきは、このカメラがC-mount、ニコンFマウント(G-Type)、そしてMFTマウントの3種類のレンズマウントに対応していることだ。産業用高速度カメラでMFTマウントをサポートする理由は、パナソニックやオリンパスのMFTレンズが「入手しやすく、光学性能が高く、電子制御(フォーカス・絞り)のリモート操作に対応している」ためである。

FASTCAM Multiは、自動車の衝突実験、爆発物の挙動分析、製造ラインの品質管理、流体力学の研究など、およそ「写真」とは無縁の世界で使われている。しかし、そのレンズマウントにMFTが選ばれているという事実は、MFTマウントの汎用性を雄弁に物語る。爆発の衝撃でカメラヘッドが破壊されることもあるこの用途において、安価に調達できるMFTレンズの存在は実務上の大きなメリットだ。

Micro Four Thirds公式サイトには「Industrial Camera」のカテゴリが設けられており、高速度カメラやマシンビジョン用途でのMFT採用事例が掲載されている。フランジバックが短いためバックフォーカスの調整自由度が高く、かつ4/3型(17.3×13mm)のイメージサークルは産業用の1インチセンサーカメラともサイズ的に相性がよい。

マシンビジョンとMFT

マシンビジョン(Machine Vision)——工場の自動化ラインで製品の外観検査や位置決めを行うために使用されるカメラシステム——の世界では、伝統的にCマウント(フランジバック17.526mm)が標準的なレンズマウントである。しかし近年、高解像度化に伴いセンサーサイズが大型化する傾向にあり、Cマウントの1インチ(12.7mm対角)のイメージサークルでは不足するケースが増えている。

こうした場面で、MFTマウントは「Cマウントの次の選択肢」として浮上する。4/3型のイメージサークル(21.6mm対角)は1インチを超える大型センサーをカバーでき、フランジバックもCマウントに近い19.25mmである。さらに、MFTレンズは電子制御に対応しているため、遠隔からのフォーカスと絞りの制御が可能だ。これは、人間がカメラに触れることのできない自動化ライン上の検査では必須の機能である。


写真カメラの「異端児」たち——Kodak PixPro S-1、Xiaomi YI M1、そして忘れられたMFT機

MFTマウントがオープン規格であることの帰結として、パナソニックとオリンパス以外にも、さまざまなメーカーがMFTマウントのカメラを製造した。しかし、その多くは商業的に成功しなかった。

Kodak PixPro S-1(2014年)

「Kodak」の名を冠したMFTカメラ——それだけで、カメラ史のファンなら目を見開くだろう。

Kodak PixPro S-1は、Kodakブランドのライセンスを取得したJK Imaging(アメリカ企業、製造は台湾のAsia Optical)が2014年に発売したMFTカメラである。16メガピクセルの4/3型CMOSセンサー、3インチチルト液晶、ボディ内手ぶれ補正、Wi-Fi内蔵という仕様で、キットレンズ2本(12-45mm + 42.5-160mm)付きで499〜699ドル程度の価格設定だった。

DPReviewのファーストインプレッションでは、「S-1は不思議なカメラだ。新しい会社がレンズ交換式カメラを出すことは珍しい。しかしJK ImagingはMFTコンソーシアムの正式メンバーであり、既存のレンズマウントシステムを利用できるため、一から自社マウントを開発する投資が不要だ」と評されている。つまり、オープン規格であるMFTだからこそ、カメラの設計・製造の経験がない企業でもレンズ交換式カメラ市場に参入できたのだ。

しかし結果は厳しかった。S-1は「動作が遅い」「操作性が粗い」「バンドルレンズの性能がイマイチ」と評価され、Olympus PEN E-PL5やPanasonic GF6といった競合機の前に埋没した。PCMagのレビューは端的に「より良い選択肢がいくらでもある」と結んでいる。43rumorsは2024年に振り返り記事で、S-1を「これまで作られた中で最も奇妙で無名のミラーレスカメラのひとつ」と表現している。

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Xiaomi YI M1(2016年)

スマートフォンメーカーとして知られる中国のXiaomi(シャオミ)が手がけたMFTカメラが、YI M1である。20メガピクセルのソニー製IMX269センサーを搭載し、4K動画撮影に対応。最大の特徴は、スマートフォンのUI/UXに近い操作体系と、徹底的にミニマルなデザインだった。ボタンとダイヤルを極限まで減らし、2.95インチのタッチスクリーンで操作する。

YI M1は中国と一部のアジア市場で販売されたが、欧米市場への展開は限定的で、カメラ専業メーカーの製品と比較すると操作レスポンスやAF性能で劣っていた。しかし、XiaomiのようなIT企業がMFTを選んだ事実は注目に値する。MFTのオープン規格は、伝統的なカメラメーカーだけでなく、テクノロジー企業にも「レンズ交換式カメラへの参入チケット」を提供したのである。

Sharp 8K MFTカメラ

SHARPも一時期、8K撮影対応のMFTマウントカメラの開発を進めていた。2019年のCESで参考出品された試作機は、4/3型センサーで8K30p収録を目指すという意欲的なスペックだったが、最終的に市場に広く流通するには至らなかった。とはいえ、「8K」という最先端の解像度をMFTマウントで実現しようとした試みは、このマウントのポテンシャルの広さを示すエピソードである。

なぜ「異端児」は成功しなかったのか

Kodak、Xiaomi、Sharp——いずれも名の知れた大企業である。にもかかわらず、彼らのMFTカメラが市場で存在感を示せなかった理由は何か。

答えは単純だ。「マウント」と「カメラ」は別物である

MFTのオープン規格は、レンズマウントの仕様とレンズエコシステムへのアクセスを提供する。しかし、優れたカメラを作るためには、センサーの読み出し技術、画像処理エンジン、AF(オートフォーカス)アルゴリズム、操作系のUI設計、ファームウェアの安定性——といった、マウント規格とは無関係な膨大なノウハウが必要である。パナソニックとオリンパスが数十年にわたって蓄積してきたこれらの技術資産は、マウント規格のライセンスだけでは手に入らない。

オープン規格は「参入障壁」を下げるが、「競争力」を保証するわけではない。MFTの歴史は、この教訓を繰り返し示している。


シネマカメラとMFTマウント——パナソニック AG-AF100からZ-Cam E2まで

MFTマウントが映像産業で「インフラ」としての地位を確立した最大の功績者は、何と言ってもシネマカメラメーカーたちである。ここでは、BMPCC(第3章で詳述)以外のMFTマウント搭載シネマカメラについて概観する。

パナソニック AG-AF100 / AG-AF105(2010年)——最初の「MFTシネマカメラ」

MFTマウントを搭載した業務用ビデオカメラとして最初に登場したのが、パナソニックのAG-AF100シリーズ(日本市場ではAG-AF105、北米市場ではAG-AF100、欧州市場ではAG-AF101として販売)である。2010年に発表されたこの機体は、4/3型MOSセンサーを搭載し、AVCHD 1080p記録に対応した。

AG-AF100の意義は、MFTマウントを「写真用カメラ」ではなく「映像制作用カメラ」に搭載した最初の製品であったことにある。ボディデザインは従来のENGカメラ(放送用ハンディカメラ)に近く、XLR音声入力、SDI出力、TC入出力など、映像制作の現場で必要なインターフェースを備えていた。

しかし、AF100は映像制作者の間で熱狂的な支持を得たとは言いがたい。当時はキヤノンEOS 5D Mark IIのフルサイズセンサーがもたらす「映画的なボケ」が映像業界で大流行しており、4/3型センサーの被写界深度は「物足りない」と感じる制作者が多かった。また、AVCHD圧縮のビットレートの限界や、ローリングシャッターの問題も指摘された。

それでも、AG-AF100は重要な前例を作った。このカメラの存在が、「MFTマウントのシネマカメラ」というコンセプトの実現可能性を証明し、のちのBMPCC(2013年)やBMPCC 4K(2018年)の道を開いたのである。

Z-Cam E2 / E2-M4——中国発のMFTシネマカメラ

中国・深圳に拠点を置くZ-Camは、MFTマウントのシネマカメラを積極的に展開してきたメーカーのひとつである。

Z-Cam E2(2018年)は、4/3型WDR(Wide Dynamic Range)CMOSセンサーを搭載し、MFTマウントを採用したシネマカメラである。4K 160fps(2.4:1アスペクト時)、10-bit H.265内部記録、ProRes RAW外部出力(Atomos Ninja V経由)に対応し、ダイナミックレンジはWDR有効時に最大16ストップとされる。

その後継にあたるZ-Cam E2-M4は、E2の基本仕様を引き継ぎつつ、ProRes 422内部記録対応、ライブストリーミング対応、より手頃な価格設定(1,499〜1,699ドル)を実現した。重量はMFTマウント時わずか930gと、きわめてコンパクトな筐体である。

Z-Camのシネマカメラが注目に値する理由は、MFTマウントを「交換可能なマウント」のひとつとして採用している点だ。Z-Cam E2シリーズは、EFマウント、PLマウント、Mマウント(ライカ)、そしてMFTマウントのモジュールを用意しており、ユーザーが用途に応じてマウントを物理的に交換できる。E2-M4はMFTマウント専用だが、上位モデルのE2-S6(Super 35、6K)ではEF/PL/M/MFTの4種類から選択可能だ。

この設計思想は、MFTマウントの本質をよく理解したものである。MFTマウントのフランジバックが19.25mmと短いからこそ、物理的にコンパクトなマウントモジュールで済む。そしてMFTマウントを選べば、パナソニック・オリンパスのレンズはもちろん、マウントアダプター経由でEFレンズやPLレンズも使える。マウントの「受け入れ力」が高いMFTは、マルチマウント戦略のベースマウントとして理想的なのだ。

ProVideo Coalitionのレビューでは、E2-M4について「解像度とダイナミックレンジはMFTセンサーカメラに期待される水準を満たしつつ、驚くほど良好な低照度性能と高フレームレート性能を備えている」と評されている。

JVCの業務用MFT機

JVC(JVCケンウッド)もMFTマウントの賛同メーカーのひとつであり、業務用カメラでの採用実績がある。JVCの業務用カメララインナップは主にENGカメラやハンドヘルドカメラだが、MFTマウントのレンズ交換式モデルも存在した。放送や報道の現場では、機動性と画質のバランスが求められるため、MFTの小型・軽量というアドバンテージは業務用途でも評価された。


マウントの比較——なぜMFTは「映像産業のインフラ」になれたのか

ここまで見てきた事例を踏まえ、なぜMFTマウントが「写真用カメラ」の枠を超えて映像産業の多様な場面で採用されたのか、その理由を整理する。

1. フランジバックの短さ=アダプターの自由度

19.25mmというフランジバックは、2008年の発表時点で民生用レンズマウントとして最短クラスだった。この短さが、PLマウント、EFマウント、Fマウント、Mマウントなど主要なレンズマウントからのアダプター接続を可能にした。映像制作の現場では、プロジェクトごとに異なるレンズが求められることが多い。PLマウントのシネレンズ、EFマウントの写真レンズ、オールドレンズ——MFTボディ1台があれば、アダプターを介してこれらすべてにアクセスできる。

この柔軟性は、カメラレンタルハウスにとって大きな利点でもある。MFTマウントのカメラを在庫していれば、保有するあらゆるマウントのレンズと組み合わせて貸し出すことができるからだ。

2. マウントの物理的コンパクトさ=搭載先の自由度

マウント外径44mm、フランジバック19.25mmというMFTの物理寸法は、ドローンのジンバル、産業ロボットのエンドエフェクター、高速度カメラのコンパクトなカメラヘッドなど、スペースに制約のある環境に搭載しやすい。PLマウント(外径約62mm、フランジバック52mm)やEFマウント(外径約54mm、フランジバック44mm)では物理的に収まらない場所にも、MFTなら入る。

3. オープン規格=参入障壁の低さ

MFTの規格情報にアクセスできることで、DJI、Z-Cam、Blackmagic Design、Photronといった「カメラ以外が本業の企業」や「新興のシネマカメラメーカー」が、MFTマウントを採用した製品を開発できた。プロプライエタリなマウント(EF、RF、E、Zなど)では、こうした多様なメーカーの参入は実現しなかっただろう。

4. レンズエコシステムの厚さ

2026年現在、MFTマウント対応のレンズは、パナソニック、OMデジタルソリューションズ、シグマ、タムロン、コシナ、DZOFilm、Meike、7Artisans、SLR Magic、Venus Optics(Laowa)、SIRUI、中一光学、銘匠光学(TTArtisan)——数えきれないほどのメーカーから、写真用レンズとシネマレンズの両方が供給されている。このレンズエコシステムの厚さは、MFTマウントを選ぶ「安心感」につながる。

5. 電子通信の標準化

11ピンの電子接点による通信プロトコルが規格で定められているため、AF(オートフォーカス)、絞り制御、手ぶれ補正の通信など、レンズとボディの間の高度な連携が標準化されている。これは産業用途やドローン用途で特に重要だ。遠隔からフォーカスと絞りを電子制御できることは、操縦者がカメラに物理的に触れられないドローンや自動化ラインでは必須の機能である。


「マウント」としてのMFT——過小評価された革新

マイクロフォーサーズに対する批判は、いつもセンサーサイズの話に終始する。「フルサイズより小さい」「APS-Cにも劣る面がある」「ボケが浅い」「高感度が弱い」。

しかし、この章で見てきた通り、MFTの本当の革新性はセンサーサイズではなく、マウント規格のアーキテクチャにある。19.25mmのフランジバック、オープン規格、コンパクトな物理寸法、標準化された電子通信——この組み合わせが、MFTを「写真用カメラのマウント」から「映像産業の汎用マウント」へと進化させた。

パナソニックとオリンパスが2008年にMFTを発表したとき、ドローンの空撮カメラに使われることも、爆発実験の高速度カメラに採用されることも、想定していなかっただろう。しかし、彼らが設計した規格のアーキテクチャが十分に汎用的だったからこそ、こうした「想定外の採用」が可能になった。優れた規格とは、設計者が想像しなかった用途にまで広がる規格のことである。

もちろん、すべてが順風満帆だったわけではない。DJIはZenmuse X7でMFTからDLマウントに移行し、Kodak PixPro S-1やXiaomi YI M1は市場から消えた。Sharpの8K MFTカメラも量産には至らなかった。「オープン規格」は参入を容易にするが、成功を保証はしない。

それでも、2026年の今、MFTマウントのシネマカメラ——BMPCC 4K/6K Pro、Z-Cam E2-M4——が映像制作の現場で日常的に使われている事実は、このマウント規格の設計思想が正しかったことの証左である。

次章では、MFTマウントの映像における地位を決定的にした1台のカメラ——**Blackmagic Pocket Cinema Camera(2013年、995ドル)**の誕生と、それが引き起こした映像制作の民主化について語る。


MFTマウント採用カメラ一覧(写真用カメラ以外)

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機種メーカー用途センサー主な動画スペック備考
AG-AF100/105パナソニック業務用ビデオカメラ4/3型 MOS1080p AVCHDMFTマウント初の業務用映像機
Zenmuse X5DJIドローン(空撮)4/3型 16MP CMOS4K 24p / UHD 30p、H.264世界初のMFTドローンカメラ
Zenmuse X5RDJIドローン(空撮)4/3型 16MP CMOS4K 30p CinemaDNG RAW(1.7Gbps)ドローン初のRAW収録
Zenmuse X5SDJIドローン(空撮)4/3型 20.8MP CMOS5.2K 30p CinemaDNG / 4K 60pInspire 2搭載、CineCore 2.0処理
Z-Cam E2Z-Camシネマカメラ4/3型 WDR CMOS4K 160fps、ProRes RAW外部出力交換式マウント(MFT/EF/PL/M)
Z-Cam E2-M4Z-Camシネマカメラ4/3型 WDR CMOS4K 160fps、ProRes 422内部記録MFTマウント固定、930g
BMPCC(2013)Blackmagic DesignシネマカメラSuper 16相当1080p ProRes 422 / CinemaDNG RAWMFTマウント、995ドル(第3章で詳述)
BMPCC 4K(2018)Blackmagic Designシネマカメラ4/3型4K DCI、BRAW 12-bit内部記録MFTマウント(第6章で詳述)
Kodak PixPro S-1JK Imaging民生用写真カメラ4/3型 16MP CMOS1080pKodakブランド初のMFTカメラ
Xiaomi YI M1Xiaomi民生用写真カメラ4/3型 20MP CMOS4KスマホUI風の操作体系
FASTCAM MultiPhotron産業用高速度カメラ専用CMOS最大750,000fpsC-mount/F/MFT対応。爆発実験等に使用

この章のまとめ

マイクロフォーサーズの価値を「センサーサイズ」だけで判断するのは、都市の価値を「面積」だけで判断するようなものだ。重要なのは、その面積の中にどれだけのインフラが集積し、どれだけ多様な活動が営まれているかである。

MFTマウントは、19.25mmのフランジバック、オープン規格、コンパクトな物理寸法という3つのインフラによって、写真用カメラだけでなく、ドローン、シネマカメラ、産業用高速度カメラ、マシンビジョンにまで採用された。これは他のどのカメラマウントにもない、MFTだけの実績である。

そしてこの「マウントとしてのMFT」の汎用性が最も劇的に活かされたのが、次章で語るBlackmagic Pocket Cinema Camera(2013年)の物語である。995ドルのシネマカメラは、なぜMFTマウントを選んだのか——その答えは、すでにこの章で明らかになっているはずだ。


マイクロフォーサーズと映像表現の歴史—19.25mmのフランジバックが映像産業にもたらしたもの

  1. 誕生—「ミラーレス」という言葉はまだなかった
  2. 写真機を超えて——マウントとしてのマイクロフォーサーズ
  3. 995ドルの革命—Blackmagic Pocket Cinema Camera(2013)
  4. シネマレンズ大航海時代——MFTマウントが生んだ巨大市場
  5. 越境するレンズ—Speed Boosterとマウントアダプターの魔法
  6. GH5とBMPCC 4K—評価の分水嶺
  7. 2020年代のMFT—縮小する市場、拡大する可能性

典拠一覧

  1. DJI「Zenmuse X5 Product Information」 https://www.dji.com/zenmuse-x5/info
  2. DJI「Zenmuse X5 FAQ」 https://www.dji.com/hk-en/zenmuse-x5
  3. DJI「Support for Zenmuse X5S – FAQ」 https://www.dji.com/support/product/zenmuse-x5s
  4. DJI「Zenmuse X5S User Manual v1.0」 https://xcopter.com/rcdata/camera/ZenmuseX5Susermanualv1.0.pdf
  5. DJI「Zenmuse X Series Cameras Comparison」 https://www.dji.com/global/products/compare-zenmuse
  6. Newsshooter「A closer look at the DJI X5S camera」(2016年11月) https://www.newsshooter.com/2016/11/18/a-closer-look-at-the-dji-x5s-camera/
  7. Z-Cam「E2-M4 Product Page」 https://www.z-cam.com/products/professional-cameras/e2-m4/
  8. Z-Cam「E2 Product Page」 https://www.z-cam.com/products/professional-cameras/e2/
  9. Z-Cam「E2 Flagship Series User Manual v0.4」 https://www.z-cam.com/wp-content/uploads/2022/01/Z-CAM-E2-Flagship-Series-User-Manual-v0.4-FW0.98.pdf
  10. DPReview「Z-CAM’s new E2-M4 is an affordable 4K Raw-shooting cinema camera with livestreaming」 https://www.dpreview.com/news/4797636412/z-cam-s-new-e2-m4-is-an-affordable-4k-raw-shooting-cinema-camera-with-livestreaming
  11. ProVideo Coalition「Review: Z Cam E2-M4 MFT Cine Camera, part 1」 https://www.provideocoalition.com/review-z-cam-e2-m4-mft-cine-camera-part-1/
  12. B&H Photo「Z CAM E2-M4 Professional 4K Cinema Camera」 https://www.bhphotovideo.com/c/product/1566077-REG/z_cam_e1511_e2_m4_4k_cinema_camera.html
  13. Newsshooter「Z CAM E2 Mark II Digital Cinema Cameras」(2025年1月) https://www.newsshooter.com/2025/01/22/z-cam-e2-mark-ii-digital-cinema-cameras/
  14. DPReview「Kodak Pixpro S-1 First Impressions Review」 https://www.dpreview.com/reviews/kodak-pixpro-s-1/7
  15. Wikipedia「Kodak Pixpro S-1」 https://en.wikipedia.org/wiki/Kodak_Pixpro_S-1
  16. 43rumors「What a flashback: Review of the Kodak S-1 MFT camera」 https://www.43rumors.com/what-a-flashback-review-of-the-kodak-s-1-mft-camera/
  17. PCMag「Kodak Pixpro S-1 Review」 https://www.pcmag.com/reviews/kodak-pixpro-s-1
  18. Photron / Direct Industry「FASTCAM Multi Product Information」 https://www.directindustry.com/prod/photron/product-25374-1691998.html
  19. Micro Four Thirds公式サイト「Industrial Camera」 https://www.four-thirds.org/en/industry/
  20. Micro Four Thirds公式サイト https://www.four-thirds.org/en/
  21. Wikipedia「Micro Four Thirds system」 https://en.wikipedia.org/wiki/Micro_Four_Thirds_system
  22. Wikipedia「List of Micro Four Thirds cameras」 https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Micro_Four_Thirds_cameras
  23. Wikipedia「Flange focal distance」 https://en.wikipedia.org/wiki/Flange_focal_distance
  24. EOSHD Forum「Z-cam E2-M4 is worth a second look」(2021年3月) https://www.eoshd.com/comments/topic/52338-z-cam-e2-m4-is-worth-a-second-look/

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