2020年代のEvernoteは何を手に入れたのか、機能拡充とAI

Evernoteの現在地、更新するか、否か(6)

批判の声は大きく、改善の声は小さい。これはどのソフトウェアにも共通することですが、Evernoteのこの数年に関しては特にその傾向が強いように思います。値上げのニュースは拡散する一方で、何が追加されたのかは意外と知られていません。

この章では、議論を公平にするために、2020年代のEvernoteが実際に何を実装してきたのかを整理します。

前回記事はこちら

目次

ホーム(2021年1月)

2020年9月のv10でコードを全面に書き直した土台の上に、最初に置かれた新機能がホームです。公式ブログの発表は2021年1月13日で、まずMacとWindowsとWeb版に展開され、同年4月にiOSとAndroidに広がりました。最近のノート、スクラップノート、ノートブック、タグなどをウィジェットとして並べられるダッシュボードです。

地味な機能に見えますが、実は思想の転換を含んでいます。従来のEvernoteは「ノートの一覧」が入口でした。ホームは「今日の作業の起点」を作ろうとする試みです。蓄積型のツールが、日々の作業の場になろうとした。

タスク(2021年6月早期アクセス、7月正式提供)

ノートの中にタスクを埋め込める機能です。日付とリマインダーを設定でき、完了状態を管理できます。2021年6月に早期アクセスとして始まり、同年7月のプラン再編と同時に正式提供となりました。

これも同じ方向の動きです。情報を保存する場所から、仕事を進める場所へ。ただし専用のタスク管理ツールと比べれば簡易的で、ここを目当てにEvernoteを選ぶ人は少ないでしょう。

カレンダー連携(Googleは2021年7月、Outlookは2024年3月)

予定とノートをひもづけ、会議の予定から議事録ノートを作るといった使い方を想定した機能です。ここには二段階の道のりがありました。Googleカレンダー連携はタスクと同じ、2021年7月の発表でホームのウィジェットとともに導入されました。長く要望されていたMicrosoft Outlookカレンダーの連携は遅れ、2024年3月11日にバージョン10.79以降で提供が始まっています。

現行のプランでは、接続できる外部カレンダーの数に上限があり、無料は1つ、StarterとAdvancedは5つまでです。

エディタと整理機能の強化

2016年から2023年の間に追加されたものとして、Evernote自身が価格改定の際に挙げているのは以下です。

  • 高度な書式設定とセマンティックスタイル
  • テンプレートギャラリー
  • バックリンク
  • 高度なフィルタ検索
  • リアルタイムの共同編集

バックリンクは地味ながら重要です。Obsidianが人気を集めた理由のひとつがリンクの双方向性でしたから、その発想を取り入れたことになります。ただし、Obsidianのようなグラフ表示にまでは踏み込んでいません。

共同編集は2023年に導入されました。公式ブログは、ノートのデータ構造を入れ替えたことで即時同期と共同編集が可能になったと説明しています。GoogleドキュメントやNotionでは当たり前の機能ですが、Evernoteにとっては長年実現してこなかった項目です。続く2024年には、アカウントを持たない相手でもリンクからノートを閲覧・編集できる仕組みが追加されました。

基盤の建て直し(2023年)

前章でも触れましたが、これは機能拡充と同等に重要です。

Bending Spoonsは2023年の目標を、速度・信頼性・セキュリティの三点に絞りました。公式ブログは、この年は技術的な成果がイノベーションの割合を上回っていると明言しています。新機能を出すより、動くようにすることを優先したということです。

この判断は、結果としては正しかったと思います。同期の失敗や起動の遅さは、今日のEvernoteでは日常的な問題ではありません。ただし、失ったユーザーにそれを伝える手段は、もう残されていません。

AI機能の導入

2023年のAIノートクリーンアップを皮切りに、EvernoteはAI機能の実装を進めてきました。現行のプラン比較表に記載されているAI機能は以下のとおりです。

機能内容
AIアシスタントチャットでノートを検索・整理・充実させる
セマンティック検索内容の意味に基づいて関連ノートを探す
AI文字起こし会議を録音し、要約と文字起こしを行う
AI編集ノートの作成・要約・整理・翻訳
AIクリーンアップノートの体裁を整える(モバイル中心)
MCP接続ClaudeやChatGPTなどMCP対応のAIツールから自分のノートを使う(Enterpriseは提供予定)

v11のリリースは2026年1月19日です。公式ブログはこの版を「最も賢いアップデート」と呼び、AIアシスタント、セマンティック検索、AI会議ノートの三つを主転として掲げています。AIアシスタントはOpenAIとの密接な協業によると明記されています。前年にあたる2025年には160件を超える改善を出し、v11の土台を作ったと説明しています。

ここで価格判断に直結する点を一つ。公式のFAQによれば、AIアシスタント、セマンティック検索、AI会議ノートはいずれも全ユーザーが対象で、有料の上位プラン専用ではありません。ただしAIアシスタントには月ごと・チャットごとの利用上限があり、ノート数やストレージの上限はプランによって違います。つまりAIでなく、蓄積量と端末数がプランを分けているということです。

ここには皮肉な構図があります。「とりあえず全部放り込んでおけば、あとで探せる」というEvernoteの思想は、大規模言語モデルの登場によって、やっと本来の形に追いついたとも言えます。整理されていない雑多な蓄積こそ、意味検索と相性がよい。問題は、その前に多くのユーザーが離れてしまったことです。

レガシー版の廃止と、セキュリティの論理

2024年3月26日に実施されたレガシー版アプリの廃止は、機能拡充とは逆方向の動きですが、同じ文脈にあります。当初の告知は3月23日で、のちに3月26日へ延期されました。対象はmacOS、Windows、Androidのv10以前の全バージョンで、iOS版はそれより先に終了していました。公式ブログは、影響を受けるのは全ユーザーの約1パーセントだと説明しています。

公式の説明によれば、2020年のv10リリース以降、レガシー版はメンテナンスが行われておらず、脆弱性の修正やデータ保護、不正防止の面で現在の最善の慣行に数年の遅れが生じていました。古いAPIを使うアプリが残る限り、そこが攻撃面になる。ならば廃止する。そういう判断です。

長年のユーザーにとっては酷な変更でしたが、クラウドサービスの運営者としては理解できる選択です。古いクライアントを永久に残すことは、データを預かる側の責任としてはむしろ危うい。

この数年でEvernoteはどこまで戻ったのか

筆者の実感を交えてまとめます。

良くなった点としては、同期の安定性、検索の速度、アプリの起動時間。この三点はv10初期とは別物です。毎日複数の端末で使っていて、同期の不具合で困ることはほとんどなくなりました。

変わらない点としては、エディタの表現力です。ブロックエディタを使い慣れた目から見ると、Evernoteの編集体験はやはり一世代前のものです。とはいえ、メモを取るだけならこれで十分だという見方もできます。

追いついていない点としては、エコシステムです。かつてEvernoteには豊富な連携アプリとプラグインの周辺がありました。いまはその周辺が相当に痩せています。他のツールとつなぐという点では、NotionやObsidianのほうがはるかに柔軟です。

次章では、筆者自身がこのソフトウェアをどう使っているのかを具体的に示したうえで、この連載の結論を出します。


出典

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