代替となったソフトウェア、思想の違いと出来ること・出来ないこと

Evernoteの現在地、更新するか、否か(5)

「Evernoteの代わりは何がいいですか」という問いには、実は答えにくいところがあります。代替候補とされるソフトウェアの多くは、実はEvernoteと同じことをしようとしていないからです。同じ「ノートアプリ」という棚に並んでいても、目指している地平が違います。

この章では、主要な選択肢を思想の違いから整理し、それぞれが出来ることと出来ないことをはっきりさせます。

前回記事はこちら

目次

まず、三つの系統に分ける

ノート系ソフトウェアは、大きく三つの系統に分けられます。

第一の系統:蓄積型(Evernote、OneNote、UpNote、Appleメモ)

情報を放り込んで、あとから検索する。ノートという容れ物が主役です。

第二の系統:構造化型(Notion、Codaなど)

情報をデータベースとして扱い、関係を定義して運用する。ページはレコードでもあります。

第三の系統:結合型(Obsidian、Logseqなど)

ノート間のリンクを主役にし、思考の網の目を育てる。ファイルは手元にあります。

この分類を頭に入れておくと、乗り換えで失敗しにくくなります。蓄積型を使っていた人が構造化型に移ると、「とりあえず放り込む」という動作ができなくなって挫折します。逆に、構造化型を期待して蓄積型に行けば、情報が整理されないことに不満を覚えます。

Microsoft OneNote ― 無料で強力、ただし結合前提

直接の競合として最も分かりやすいのがOneNoteです。

思想としては「デジタルノートブックの再現」です。セクションとページというタブ構造、ページのどこにでもテキストを置ける自由度、手書きとの相性のよさ。紙のノートをデジタルに写し取った設計です。

できることは広いです。ペン入力、数式、図形、Office製品との連携。しかも実質無料で使えます。

できないこともはっきりしています。データの保存先はOneDriveに依存し、無料アカウントのOneDrive容量は5GBです。つまりOneNoteの実質的な容量上限は、OneDriveの上限と考える必要があります。テキスト中心なら十分ですが、高画質の画像や動画を埋め込む使い方だとすぐに埋まります。Microsoft 365を契約すれば1ユーザーあたり1TBになりますが、その時点で「無料」ではなくなります。

もうひとつ、検索の強さはEvernoteに及ばないと感じる人が多い。特に大量のスキャン画像を抱えたときのOCR検索の精度と速度は、Evernoteの長所が残っている領域です。

UpNote ― 「軽いEvernote」という回答

UpNoteは、Evernoteからの乗り換え先としてこの数年で急速に支持を集めたアプリです。

思想は明快で、「ノートアプリに必要なことだけを、軽く、安く」です。ノートブックとタグで整理し、マークダウンで書き、全プラットフォームで同期する。Evernoteの基本設計を踏襲しつつ、重さと価格を削り落としています。

価格面では、Premiumが月額1.99ドル(およそ300円)、買い切りの生涯ライセンスが39.99ドル(およそ6,000円)です。サブスクリプションの累積に疲れた人にとっては、この買い切りの存在が決め手になります。ただし買い切りは「現時点の機能を永続的に使える」ものであり、将来追加される機能まで保証されているわけではないと開発元は説明しています。

無料版の制限も知っておくべきです。ノートは50件まで、添付ファイルは不可、プレーンテキスト以外のインポートとエクスポートも不可。無料で試せる範囲はEvernoteの無料プランと似た狭さです。

できないこともはっきりしています。共同編集は本稿執筆時点で対応しておらず、コミュニティでも長く要望が出され続けています。Webクリッパーの充実度やOCRも、Evernoteと同等とは言えません。「軽いEvernote」であって、「安いEvernote」ではないという理解が正確でしょう。

Notion ― ノートをデータベースにした

Notionは、そもそもノートアプリとして設計されていません。

思想は「すべての情報を構造化する」ことです。あらゆるページはデータベースのレコードになりうるし、プロパティを持ち、フィルタやビューで切り取れます。ノートというより、自分で設計する情報システムに近い。

できることは圧倒的に広いです。記事の進行管理、タスク管理、チームでの共同編集、Web公開、外部ツールとの連携、そしてビジネスプラン以上でのAIとエージェント機能。

価格はフリー、プラス(月換算1,650円、年払い)、ビジネス(月換算3,150円、年払い)、エンタープライズという構成です。AIを本格的に使うならビジネスプランが実質的な入口になります。

できないこと、というより向いていないことは、「何も考えずに一行メモする」ことです。起動とページ読み込みには相応の時間がかかり、レコードをどこに作るかという判断がつきまといます。この「考えさせる」性質は長所でもあり、短所でもあります。

Obsidian ― ファイルは手元にある

Obsidianの思想は、他のどのツールとも決定的に違います。

ノートはクラウドではなく、手元のフォルダに置かれたプレーンなマークダウンファイルです。アプリが消えても、会社がなくなっても、ファイルは残る。この保証が最大の価値です。

アプリ本体は個人利用でも商用利用でも無料。有料なのは任意の付属サービスだけです。端末間同期のObsidian Syncは、年払いで1ユーザーあたり月額4ドルのStandard(同期できるボールト1つ、総容量1GB、1ファイル5MBまで、履歴1か月)と、月額8ドルのPlus(ボールト10、総容量10GB、1ファイル200MBまで、履歴12か月)に分かれています。Web公開のObsidian Publishは、年払いでサイトあたり月額8ドルです。組織向けの商用ライセンスは1ユーザーあたり年額50ドルで別途用意されていますが、これは機能制限を外すものではなく支援の意味合いが強いものです。

容量の数字は見落としやすい点です。最も安いStandardの1GBは、テキスト中心なら十分ですが、画像やPDFを大量に抱える使い方だと足りません。「無料で無制限」という印象だけで移行すると、同期の段階でつまずきます。

できないことも明確です。WebクリップはWeb Clipper拡張の登場で改善されましたが、Evernoteのように雑多なファイルを放り込んでOCRで検索するという使い方には向いていません。プラグインを自分で選び、設定を育てる手間も必要です。道具を作ること自体を楽しめる人には最高の選択ですが、そうでない人には重い。

一覧で比較する

項目EvernoteOneNoteUpNoteNotionObsidian
思想蓄積と検索紙のノートの再現軽量な蓄積情報の構造化リンクと所有権
代表的な価格年17,899円実質無料月$1.99・買い切り$39.99月換算3,150円(ビジネス年払)本体無料、同期月$4(年払)
オフライン限定的完全オフライン可
Webクリッパー非常に強いありありあり拡張で対応
画像OCR検索強いあり限定的限定的基本なし
データの手元保持クラウド前提クラウド前提クラウド前提クラウド前提ローカル前提
共同作業本稿時点で不可非常に強い共有ボールトで可
タスク・進行管理簡易的簡易的簡易的非常に強いプラグイン次第
AI機能全プランで利用可(上限あり)Copilot契約依存限定的ビジネス以上で強力プラグインで外部API
起動の軽さ軽い重め軽い

※ 価格は2026年7月時点。UpNoteの価格は地域やストアによって変動します。

実際の使われ方の違い

表だけでは見えない部分を補足します。

Evernoteを使っている人の多くは、自分で情報を整理していません。放り込んで、必要なときに検索する。これもひとつの正しい使い方です。

Notionを使っている人の多くは、まず器を設計します。データベースを作り、プロパティを決め、ビューを作る。そのあとで中身を埋めていく。

Obsidianを使っている人の多くは、書きながらリンクを張ります。あとからグラフを見て、思考の偏りを発見する。

この三つは、損得ではなく相性の問題です。自分の頭の使い方に合わない道具を選ぶと、どんなに高機能でも続きません。

筆者はこのうちの複数を併用しています。記事とプロジェクトの管理はNotion、思いつきとスクリーンショットはEvernote。オールインワンにまとめないのは、古い時代の人間だからかもしれません。この話は第7章で詳しく書きます。

敢えてEvernoteを使い続けるなら、どんな用途か

ここまでの比較を踏まえて、Evernoteがいまでも優位な領域を列挙します。

一、大量のスキャン書類の保管と検索

レシート、契約書、説明書、手書きメモ。この用途ではEvernoteのOCR検索がいまだに最強です。ScanSnapなどとの連携も長年の実績があります。

二、Webクリップのアーカイブ

他社のクリッパーは本文抽出の精度やレイアウト保持で差がつきます。消えそうなページを丸ごと残すという目的なら、EvernoteのWebクリッパーは今も信頼できます。

三、長期蓄積された過去の資産

10年分20年分のノートがすでにあるなら、それ自体が残留理由です。移行にはコストがかかり、移行先で検索性が保てる保証はありません。

四、何も考えずに放り込む場所

構造を考えなくていい、というのは実は強力な機能です。Notionでこれをやるには、自分でルールを決めなければなりません。

逆に、これらに当てはまらない人、つまりテキストメモを少し取るだけの人にとっては、年17,899円は明らかに過剰です。この判別が、結論の鍵になります。

次章では、2020年代のEvernoteが実際に何を手に入れたのかを振り返ります。


出典

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