RAWの代償|データ量・熱・記録時間・メディア・ワークフロー|動画RAWコーデック解剖(2)

動画RAWコーデック解剖(2)

動画のRAWは、撮影後にあらゆる判断をやり直せる自由と引き換えに、平時のワークフローには重すぎるほどの負荷を求める。露出も色温度も現像の段階で作り直せるという安心は、そのまま巨大なファイル、速いメモリーカード、発熱、そして時間のかかる後処理という形で請求書が回ってくる。本章では、その代償の中身を数値と規格で具体的に見ていく。RAWを「使うべきか」ではなく、「使うなら何を負担するのか」を明らかにする章である。

目次

データレートの桁が変わる

RAWの重さは、記録するデータレート(1秒あたりのデータ量)に表れる。データレートはおおまかに、画素数×1画素あたりのビット深度×フレームレートで決まり、そこに圧縮率が掛かる。非圧縮であれば、この積がそのまま記録量になる。8Kで12bit、60fpsといった条件では、非圧縮のまま記録すればメディアもストレージも一瞬で埋まってしまう。

だからこそ、多くの動画RAWは圧縮を前提に設計されている。REDのREDCODEは8K 24pでも毎秒250MB程度に収まり、非圧縮とは桁が変わる。SonyのX-OCNはさらに軽く、4KのX-OCN LTで約389Mbps(毎秒約49MB)と、同解像度のProRes 422の約503Mbpsよりも低い。RAWでありながら、編集用の中間コーデックより軽いという逆転すら起こる。

ここで注意したいのは、公式公表値と実測値には差があるという点である。データレートは撮影する被写体の複雑さ(可変ビットレートの場合)やフレームレート、グレードによって変動する。メーカーの公表値は代表的な条件での目安であり、現場では余裕を見た容量設計が要る。

記録メディアの制約

高いデータレートを受け止めるのが記録メディアである。近年のシネマカメラやミラーレスで主流となったのがCFexpressで、CompactFlash Association(CFA)が策定した規格である。内部はNVM Express(NVMe)というプロトコルを、PCIeという高速な伝送路の上で用いる。

CFexpressには3つの形が定義されている。Type Aは20.0×28.0×2.8mmでPCIe 1レーン、Type Bは38.5×29.8×3.8mmで2レーン、Type Cは54.0×74.0×4.8mmで4レーンである。Type Bは旧規格のXQDと同じ寸法・コネクタを持つ。理論帯域はCFexpress 2.0でType Aが毎秒1.0GB、Type Bが2.0GB、Type Cが4.0GB。2023年に策定されたCFexpress 4.0はPCIe 4.0をベースとし、それぞれ2.0/4.0/8.0GBへと倍増した。

ただし、実務で重要なのは理論最大値ではなく、負荷がかかった状態でも落ちない持続書込み速度である。CFAはVPG(Video Performance Guarantee)という指標で最低持続書込み速度を保証している。VPG200は毎秒200MB(1600Mbps)、VPG400は毎秒400MB(3200Mbps)の持続書込みを保証し、次世代のVPG800(800MB/s)やVPG1600も定義されている。たとえばCanon EOS R5 Mark IIの8K 60p RAW(2600Mbps=約325MB/s)を記録するには、VPG400対応カードが必要となる。一方、Nikon Z 9のN-RAW 8.3K 60p(約5780Mbps=約722MB/s)の場合は、より高速なVPG800クラスの帯域が求められる。ピーク速度が高くても持続速度が足りなければ記録が停止するため、「カメラの要求ビットレート(MB/s換算)を上回るVPG規格」を選ぶのが安全策となる。外部レコーダーを使う構成ではSSDやCFastへ記録する場合も多く、いずれにせよ「速いメディアを、余裕を持って」用意することが前提になる。

発熱とセンサー読み出し、記録時間

RAWの連続記録は、センサーの高速読み出しとエンコード処理を長時間続けることを意味し、発熱を伴う。とくに小型ボディのミラーレスでは放熱の余裕が小さく、高解像度・高フレームレートのRAW記録に連続記録時間の熱制限(オーバーヒート)が設けられることがある。たとえば、Canon EOS R5が8K RAWの内部記録時に厳しい熱停止制限を抱えていたことはよく知られている(後にファームウェアの温度設定拡張や外部冷却等で緩和された)。一方、Sony FX3やFX6、あるいはREDやARRIの専用シネマカメラは、アクティブ冷却ファンと堅牢な放熱機構を備えており、いかなるフォーマットでも事実上の無制限記録を可能にしている。熱による停止リスクはプロの現場で最も避けたい事態のひとつであり、ファンレスのカメラで内部RAW記録を運用する際は、事前の熱テストが欠かせない。もちろん、発熱はノイズやセンサー挙動にも影響しうるため、単なる「止まる・止まらない」の問題にとどまらない。

ポストプロダクションの負荷

RAWは撮影後の処理を前提とする以上、負荷は編集室にも及ぶ。RAWは記録された段階ではデベイヤー(色の復元)が済んでおらず、再生やグレーディングのたびにデコードとデベイヤーを行う必要がある。これはCPUよりもGPUの処理能力に強く依存し、解像度が上がるほど再生負荷は増す。

現実的な対処がプロキシ運用である。編集時は軽い代替ファイル(プロキシ)で作業を進め、最終書き出しの段階でRAWに戻す。多くのカメラやソフトはプロキシの同時生成や後生成に対応しており、RAWの利点を保ちながら編集の快適さを確保する。RAWを選ぶということは、この二段構えのワークフローを組む手間も引き受けるということである。

ストレージ設計とアーカイブ

RAWの容量負荷は、撮影当日で終わらない。撮影用のカード、バックアップ、編集用ストレージ、そして納品後の長期保存まで、各段階で容量を確保し続ける必要がある。一般には、複製を複数箇所・複数媒体に分けて持つ考え方(いわゆる3-2-1の原則)が基本となり、長期保存にはLTOテープなどが用いられる。アーカイブの具体的な設計(LTO、チェックサム、フォーマット寿命)は補章で扱うが、RAWを採用する時点で、保存コストまで含めた総所有コストを見積もっておくべきである。

なぜ非圧縮は退き、圧縮RAWが主流化したか

RAWの歴史を振り返ると、初期には非圧縮に近いCinemaDNGが用いられた。しかし、そのデータレートは極端に高く、4.6Kクラスでも毎秒数百MBに達した。容量とメディア速度の両面で負担が大きく、扱いにくさが普及の壁になった。

これに対し、REDCODEに代表される圧縮RAWは、品質をほとんど損なわずに容量を大きく削減できることを示した。ロスレスや視覚的ロスレスと呼ばれる圧縮が普及し、RAWでありながら現実的な容量に収まるようになったことで、非圧縮は一部のハイエンド用途を除いて退いていった。もっとも、非圧縮が消えたわけではない。ARRIはARRIRAWを非圧縮で記録する設計を保つ一方、CodexのHDE(High Density Encoding)というロスレス圧縮で40%以上の削減(平均で元サイズの約60%程度)を実現しており、ハイエンドでも「非圧縮そのまま」から「ロスレスで賢く縮める」方向へ重心が移っている。圧縮RAWの主流化は、画質を守りながら代償を軽くするための、業界全体の合理的な選択だったと言える。

主要RAWの実効データレートの目安

以下は代表的な条件でのデータレートの目安である。可変ビットレートのものは被写体やグレードで変動し、公表値と実測値に差が出る点に注意してほしい。

フォーマット解像度・フレームレート・圧縮率データレート(公式値目安)換算(MB/s)
ARRIRAW (ALEXA 35)4.6K 3:2 Open Gate (24p)約4458Mbps(HDE時 約2675Mbps)約557MB/s(HDE時 約334MB/s)
REDCODE RAW (V-RAPTOR)8K 17:9 (24p) / 標準圧縮約2000Mbps約250MB/s
Blackmagic RAW (URSA Cine 12K)8K (24p) / 3:1約4264Mbps約533MB/s
Nikon N-RAW (Z 9)8.3K (60p) / High Quality約5780Mbps約722MB/s
Canon Cinema RAW Light (R5 II)8K (59.94p)約2600Mbps約325MB/s
Sony X-OCN LT (VENICE 2)8.6K 3:2 (24p)約1400Mbps約175MB/s
Sony X-OCN LT (FX5 等)4K (24p)約389Mbps約49MB/s
Apple ProRes 422 HQ(参考・中間)4K (60p)約1768Mbps約221MB/s

※データレートは可変ビットレート(VBR)の場合、被写体の複雑さによって変動する。

数値の精緻化(解像度・フレームレート別の一覧)は今後ARRI FDRCや各社公式値で確定する。

まとめ

RAWの代償は、単一の弱点ではなく、データレート・メディア・発熱・後処理・保存という連鎖として現れる。圧縮RAWの進化はこの代償を大きく軽くしたが、ゼロにはしていない。RAWを選ぶとは、これらの負担を見積もり、ワークフロー全体で受け止める設計を組むということである。次章以降で各コーデックを個別に見ていく際も、この「代償の総量」を判断軸に据えておきたい。

出典(一次情報)


動画RAWコーデック解剖

  1. RAWとは何か|A/D変換・デベイヤーと「RAWのグラデーション」
  2. RAWの代償|データ量・熱・記録時間・メディア・ワークフロー
  3. なぜ同じ「RAW」で画質差が生まれるのか|内部収録RAWと外部ProRes RAWの技術的差異
  4. ProRes RAW|Apple×Atomosが選んだ「生に近い」設計
  5. Blackmagic RAW(BRAW)|「最適化されたRAW」という発明
  6. REDCODE RAWと特許|動画RAWを縛った知的財産の構造
  7. CanonのRAWコーデック群|Cinema RAWとCinema RAW Light(ST・HQ・LT)
  8. Sony X-OCN 前編|歴史と設計思想(FX5から遡るVENICE・F5/F55の系譜)
  9. Sony X-OCN 後編|ワークフロー・対応ソフトウェア・他RAWとの比較
  10. Nikon N-RAWとTicoRAW|ライセンスRAWという第三の道
  11. その他のRAWフォーマット概観|ARRIRAW・CinemaDNG・Panasonic・DJIほか
  12. 総合比較|「どれだけRAWか」の見取り図と2026年版マトリクス
  13. カラーマネジメントとアーカイブ|ACES・メタデータ駆動現像・長期保存

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次