RAWとは何か|A/D変換・デベイヤーと「RAWのグラデーション」|動画RAWコーデック解剖(1)

動画RAWコーデック解剖(1)

動画のRAWを語る言葉は多い。非圧縮、リニア、ログ、デベイヤー、ビット深度。これらは別々の専門用語のように見えて、実際には一本の信号の流れの上に並んでいる。センサーに光が届いてから、映像として記録されるまでのあいだに、いくつもの処理の段がある。その段のどこで記録を止めるかを選ぶ行為こそが、RAWという言葉の正体である。本章では、その信号の流れを最初からたどり、以降の全章で共通して使う言葉をここで定義する。

専門用語を並べる前に、ひとつの見取り図を示しておく。RAWは「ある/なし」の二択ではない。センサーの生の値をそのまま抱えたRAWから、カメラの中で処理を半分ほど済ませた最適化RAWまで、連続した濃淡の上に各コーデックが置かれている。この「どれだけRAWか」という一直線の軸を頭に入れておくと、第4章以降のProRes RAWやBlackmagic RAW、X-OCNといった個別のコーデックが、その軸のどこに位置するのかとして理解できる。

目次

センサーが光を数値に変える仕組み

デジタルカメラのセンサーは、無数の小さな受光素子(フォトダイオード)が格子状に並んだ板である。各素子は、届いた光の量に応じた電荷をためる。明るいほど多く、暗いほど少なくたまる。この電荷の量が、最終的に画素の明るさの数値になる。

ここで問題になるのが色である。フォトダイオードは光の量を測れるが、色までは区別できない。そこで各素子の上に、赤・緑・青いずれかのカラーフィルターを載せ、その色の光だけを通す。どのフィルターをどの並びで置くかを決めたのが、カラーフィルター配列(CFA)である。

もっとも広く使われている配列が、ベイヤー配列である。これは1975年に出願され1976年に成立した米国特許US 3,971,065で規定された。発明者はイーストマン・コダックのブライス・ベイヤーである。特許の本文では、緑のフィルターを持つ素子を「輝度感知素子」、赤と青の素子を「色度感知素子」と呼び、輝度感知素子を1つおきに、つまり配列全体の半数に配置している。緑を赤や青の2倍にしているのは、人間の目が緑付近の輝度変化にもっとも敏感だからである。目が細かく見分ける成分を密に、そうでない成分を疎に置くという設計思想が、この配列の核心にある。

この仕組みには避けられない性質がある。ひとつの素子は、載っているフィルターの1色しか測れない。緑の素子は緑の明るさしか知らず、赤や青の値は持っていない。つまりセンサーから出てきた直後のデータは、各画素が1色ずつしか持たない、モザイク状の不完全な画像である。残りの2色を周囲の画素から推定して埋める処理が、後で必ず必要になる。それがデベイヤー(デモザイク)である。

A/D変換とビット深度

フォトダイオードにたまる電荷は、連続的なアナログ量である。これをそのまま記録することはできないので、数値に置き換える。この変換を担うのがA/D変換器(ADC)であり、変換の細かさを表すのがビット深度である。

ビット深度とは、明るさをいくつの段階に区切って記録するかを表す。8ビットなら256段階、12ビットなら4,096段階、14ビットなら16,384段階、16ビットなら65,536段階である。段階が多いほど、明るさのなめらかな移り変わりを細かく刻める。空のグラデーションのように、わずかずつ明るさが変わる場面で、段階が粗いと縞(バンディング)が見える。RAWが階調に強いといわれる理由の一端は、この段階数の多さにある。

ただし、ここで大きな誤解を解いておかなければならない。ビット深度が高いほど画質が高い、という単純な理解は正しくない。ビット深度が決めるのは「符号の細かさ」であって、そのカメラがどれだけ明暗の幅を捉えられるか、つまりダイナミックレンジそのものではない。

ダイナミックレンジは、センサーが一度にためられる電荷の最大量(フルウェル容量)を、暗部に混じるノイズ(読み出しノイズ)で割った比で決まる。式で書けば、20×log(飽和信号量÷ノイズ量)で表される。これはビット深度とは別の物理量である。読み出しノイズが十分に小さければ、実効のダイナミックレンジがビット深度から素朴に計算した値を上回ることもある。逆に、いくらビット深度を上げても、ノイズに埋もれた暗部の情報は増えない。細かい定規を用意しても、測る対象がぶれていれば精度は上がらないのと同じである。

現行のCMOSセンサーのADC分解能は、用途によって幅がある。動画の高いフレームレートで読み出す場面では、実質的に10ビットから12ビット程度で動くことが多い。高分解能のイメージセンサーで広く使われている変換方式は、単傾斜(シングルスロープ)型のADCである。この点は第3章で、なぜ外部レコーダー向けのRAWが12ビットを主流にするのかという話につながる。

デベイヤー(デモザイク)とは何か、どこで行うか

さきほど触れたモザイク状の不完全な画像を、全画素が赤・緑・青の3色をそろえた画像に組み立て直す処理が、デベイヤー(デモザイク、CFA補間)である。ある画素の欠けている色を、周囲の同色画素の値から推定して埋めていく。この処理の巧拙が、解像感や偽色、モアレの出方を左右する。

RAWという記録方式の本質は、このデベイヤーをどこで行うかという一点にある。通常の映像記録では、カメラの中の画像処理エンジンがデベイヤーを済ませ、色やコントラストを整え、圧縮した完成映像を書き出す。いったんこの処理を通すと、元のセンサーの値には戻れない。

これに対してRAWは、デベイヤーをカメラの中で確定させず、モザイク状のセンサーデータに近い状態のまま記録する。デベイヤーや色づくりは、撮影後に編集ソフトの中で行う。つまりRAWとは「現像という決定を後回しにする記録」である。ホワイトバランスや露出、色の方向づけを、撮影時ではなく編集時に、しかも何度でもやり直せる。これがRAWが編集の自由度で優れるといわれる根本の理由である。

「どれだけRAWか」の定義軸

ここまでで、RAWが単純な「ある/なし」ではないことが見えてくる。デベイヤーを一切していない、センサーのモザイクそのものを保持したものが、もっとも生に近いRAWである。一方で、後の章で扱うBlackmagic RAWのように、デモザイクの一部をカメラ内で済ませつつ、色づくりのための重要な情報はメタデータとして残す「部分デベイヤーRAW」もある。さらにその先には、デベイヤーも色づくりも済ませたうえで、対数曲線で階調を残したLog映像がある。Log映像は編集耐性が高いものの、もはやRAWではない。

本連載では、この並びを「どれだけRAWか」という一本の軸として扱う。左端に非デベイヤーRAW、中ほどに部分デベイヤーRAW、右にLog映像という順である。各コーデックは、この軸のどこかに位置する。ProRes RAWは生に近い側、Blackmagic RAWはやや処理を進めた側、といった具合である。個別のコーデックを覚えるより先に、この軸のうえで相対的にとらえる習慣をつけてほしい。以降の各章は、この共通の物差しを前提に書かれている。

リニアRAWとログRAWの違い

もうひとつ、RAWを理解するうえで欠かせないのが、明るさをどんな曲線で数値に割り当てるかという符号化の話である。ここでリニアとログという二つの言葉が出てくる。

リニア符号化は、光の量と数値を素直に比例させる方式である。光が2倍になれば数値も2倍になる。センサーが受け取る光は本来この形なので、リニアは物理的に自然な記録である。ただし弱点がある。写真や映像で使う「1段(1ストップ)」という明るさの単位は、光の量が2倍になるごとに1段という対数的な尺度である。リニアで記録すると、明るい側の1段には大量の数値が割り当てられ、暗い側の1段にはわずかな数値しか残らない。ハイライトに符号を浪費し、暗部が痩せる。だから広いダイナミックレンジを持たせようとすると、リニアでは大きなビット深度が要る。

ログ符号化は、この配分の偏りを直す方式である。明るさを対数の目盛りに載せることで、どの1段にもほぼ均等に数値を割り当てる。結果として、少ないビット深度でも広いダイナミックレンジの階調を運べる。少ないデータ量で編集耐性を確保したいときに、ログは合理的である。この「リニアはシーンに忠実だがビットを食う、ログは効率よく広い幅を運べる」という対比は、第9章でX-OCNの16ビットリニアと他フォーマットの12ビットログを比べるときに、決定的に効いてくる。

業界標準の側から裏づけておく。映像制作の交換とアーカイブの標準であるACES2065-1は、シーンに忠実なリニア符号化を採る(AP0という広い原色系と半精度浮動小数点を用いる。標準はSMPTE ST 2065-1)。一方、グレーディング作業に使うACESccやACEScctは、Cineonに似た準対数の符号化である。用途に応じてリニアと対数を使い分けている実例である。

この対数符号化の系譜の原点にあるのが、コダックが1990年代初頭に定めたCineonである。Cineonは、映画フィルムのネガの濃度を10ビットの対数で符号化した形式であった。今日の映像で「Log」と呼ぶ考え方は、ここから連なっている。

写真RAWと動画RAWの違い

最後に、写真のRAWと動画のRAWの違いを整理しておく。両者は名前こそ同じだが、設計上の制約がまるで違う。

写真RAWは、各メーカーが独自のコンテナ形式で記録している。キヤノンのCR3、ニコンのNEF、ソニーのARWなどである。多くはモザイク状のセンサーデータにメタデータを添えて格納する。キヤノンの公式解説によれば、RAWにはホワイトバランス補正と長秒時ノイズ低減を除き、撮影時のカメラ設定は画素そのものには影響せず、現像時に適用される。CR3はEOS M50(DIGIC 8世代)で2018年に導入された新形式で、以降のミラーレス機やDIGIC X世代へ引き継がれた。CR2はそれ以前の機種で使われていた形式である。メーカー独自形式が乱立するなかで、特許や知財の制約を受けないオープンなRAWコンテナとして策定されたのが、2004年に公開されたAdobeのDNGである。DNGはTIFF/EPから派生した仕様で、非独占の標準として設計されている。

動画RAWの難しさは、静止した1枚ではなく、毎秒24コマから60コマ、あるいはそれ以上を途切れなく記録し続ける点にある。写真RAWの1枚が許されるデータ量を、動画では毎秒何十回も書き込まなければならない。だから動画RAWには、写真RAWよりはるかに厳しい圧縮率とデータレートの設計が要る。各社がそれぞれの圧縮の工夫を凝らした結果として、ProRes RAW、Blackmagic RAW、REDCODE、X-OCN、N-RAWといった多様なコーデックが生まれた。その一つひとつを解剖するのが、本連載の第4章以降である。

用語定義表

本章で定義した言葉は、以降の全章で同じ意味で使う。ここで一覧にしておく。

用語本連載での定義
フォトダイオードセンサー上の受光素子。届いた光の量を電荷に変える。色は区別しない。
カラーフィルター配列(CFA)各受光素子に載せる色フィルターの並び。代表がベイヤー配列。
ベイヤー配列緑を半数、赤・青を各1/4に配した配列(US 3,971,065)。緑は輝度、赤青は色度を担う。
A/D変換(ADC)アナログの電荷量をデジタルの数値に変換する処理。
ビット深度明るさを区切る段階数。12bit=4,096、16bit=65,536段階。画質そのものではなく符号の細かさ。
ダイナミックレンジ(DR)捉えられる明暗の幅。フルウェル容量÷読み出しノイズで決まる。ビット深度とは別概念。
デベイヤー(デモザイク)モザイク状のCFA出力から全色画像を再構成する処理。RAWはこれを後処理に委ねる。
非デベイヤーRAWデベイヤーせず、センサーのモザイクに近い状態で保持するRAW。もっとも生に近い。
部分デベイヤーRAWデモザイクの一部をカメラ内で済ませた最適化RAW。第5章BRAWが代表。
リニア符号化光の量と数値を比例させる方式。シーンに忠実だが広DRには高ビットを要する。
ログ符号化明るさを対数目盛りに載せる方式。少ないビットで広DRの階調を運べる。
メタデータ現像ISOやWBを画素に焼き込まず、記録した設定情報として後から非破壊で適用すること。

センサー読み出し方式の比較

RAWの品質は、記録の段だけでなく、センサーからどう画素を読み出すかにも左右される。動画では時間の制約が厳しいため、静止画のように全画素をていねいに読む方式ばかりではない。代表的な読み出し方式を整理しておく。

読み出し方式概要画質・データ量への傾向
フル読み出し(オーバーサンプリング)センサーの全画素を読み、出力解像度へ縮約する。解像感とノイズ耐性に優れるが、読み出し負荷とデータ量、発熱が大きい。
ラインスキップ一部の行を間引いて読む。負荷は下がるが、モアレや偽色、解像感低下が出やすい。
ピクセルビニング隣接画素をまとめて1画素として読む。感度とノイズ耐性が上がるが、実効解像度は下がる。

各方式の技術的な性格は、産業用イメージング分野のメーカー技術資料で裏づけられる。ピクセルビニングは、隣接する複数の画素を一つの大きな画素(スーパーピクセル)としてまとめて扱う手法で、実効的な画素サイズを大きくして感度を上げるかわりに解像度を下げる。Teledyneの技術解説によれば、CMOSセンサーのビニングは読み出しの後段で行われるため、2×2でまとめると信号は4倍になる一方で読み出しノイズも2倍となり、SNRの改善はおよそ2対1にとどまる(読み出し前に合算するCCDの4対1より小さい)。ラインスキップ(サブサンプリング、デシメーション)は、読み出す画素を一定間隔で間引く手法である。IDSなど産業用カメラの技術資料によれば、サブサンプリングは読み出し時に複数の画素を飛ばすことで転送データ量を減らし、より高いフレームレートを可能にするが、画角を変えずに解像度だけを落とすため、モアレや偽色(エイリアシング)が出やすい。オーバーサンプリング(フル読み出し)は、出力解像度より多くの画素を読み、デモザイク後に縮約する手法で、標本化を密にすることでノイズを平均化しSNRを高め、折り返しひずみ(エイリアシング)を抑える。そのぶん読み出し負荷とデータ量、発熱は大きくなる。

読み出し方式は、同じセンサーでも記録モードによって切り替わることがある。ある機種が特定の解像度やフレームレートでのみ画質が落ちる、といった現象の背景には、たいていこの読み出し方式の違いがある。個別の機種でどの方式が使われるかは、各コーデック章で扱う。

まとめ

本章の要点を三つに絞る。第一に、RAWとは信号の流れのどこで記録を止めるかの選択であり、非デベイヤーから部分デベイヤーまで連続した軸のうえにある。第二に、ビット深度は符号の細かさであって画質やダイナミックレンジそのものではなく、両者は分けて考える必要がある。第三に、リニアとログという符号化の違いを押さえておけば、後の章で各コーデックのビット深度の意味を正しく比べられる。ここで定義した言葉は、第2章以降でそのまま使う。

出典(一次情報)


動画RAWコーデック解剖

  1. RAWとは何か|A/D変換・デベイヤーと「RAWのグラデーション」
  2. RAWの代償|データ量・熱・記録時間・メディア・ワークフロー
  3. なぜ同じ「RAW」で画質差が生まれるのか|内部収録RAWと外部ProRes RAWの技術的差異
  4. ProRes RAW|Apple×Atomosが選んだ「生に近い」設計
  5. Blackmagic RAW(BRAW)|「最適化されたRAW」という発明
  6. REDCODE RAWと特許|動画RAWを縛った知的財産の構造
  7. CanonのRAWコーデック群|Cinema RAWとCinema RAW Light(ST・HQ・LT)
  8. Sony X-OCN 前編|歴史と設計思想(FX5から遡るVENICE・F5/F55の系譜)
  9. Sony X-OCN 後編|ワークフロー・対応ソフトウェア・他RAWとの比較
  10. Nikon N-RAWとTicoRAW|ライセンスRAWという第三の道
  11. その他のRAWフォーマット概観|ARRIRAW・CinemaDNG・Panasonic・DJIほか
  12. 総合比較|「どれだけRAWか」の見取り図と2026年版マトリクス
  13. カラーマネジメントとアーカイブ|ACES・メタデータ駆動現像・長期保存

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