ProRes RAW|Apple×Atomosが選んだ「生に近い」設計|動画RAWコーデック解剖(4)

動画RAWコーデック解剖(4)

RAWは高い、重い、扱いにくい。そうした先入観に正面から挑んだのが、AppleとAtomosが2018年に投入したProRes RAWである。既に映像制作の現場で広く信頼されていたProResの名を冠し、編集ソフトFinal Cut Proとの直結を武器に、RAWを「普通のコーデックのように扱えるもの」にしようとした。本章では、生に近いデータを可変ビットレートで保持するという設計思想、外部レコーダー中心の配布形態、そして長くつきまとった対応ソフトの制約という弱点までを、Apple公式のホワイトペーパーとAtomos公式仕様に基づいて解剖する。

第1章で示した「どれだけRAWか」の軸でいえば、ProRes RAWは生に近い側に位置する。センサーのベイヤー段で符号化し、デベイヤーを後処理に委ねる。その上で、「一定品質」を保つという独自の割り切り方を採用したところに、このコーデックの性格があらわれる。

目次

誕生の経緯(2018年、Apple×Atomos)

ProRes RAWは、2018年のNAB ShowでAppleとAtomosによって発表された。AppleのProResは、それまでも編集現場の中間コーデックとして広く使われていた。その信頼と、編集の快適さを、RAWの世界に持ち込もうとしたのがProRes RAWである。

ここで重要なのは、Apple単独ではなくAtomosとの協業で始まった点である。多くのカメラは、センサーの生に近い信号をHDMIやSDIから外部に出力できるが、それをカメラ内でRAWとして記録する手段を持たない。その出力を受けとめてRAWファイルに書き出す役割を、AtomosのNinjaやShogunといった外部レコーダーが担った。つまりProRes RAWは、発足の時点からカメラと外部レコーダーの組み合わせを前提にしたコーデックであった。この生い立ちが、後述する配布形態と対応現場の特徴を決定づけている。

技術構造(可変ビットレートと一定品質)

Apple公式のホワイトペーパーによれば、ProRes RAWは既存のProRes(422や4444)と同じ原理に基づく。フレームをまたいで圧縮せず、1フレーム単位で完結するイントラフレーム方式であり、かつ可変ビットレートである。フレームごとに完結する方式は、任意のフレームから編集を始められ、カット編集との相性がよい。

通常のProResとの違いは、レート制御の考え方にある。通常のProResは、あらかじめ決めた目標データレートに合わせて圧縮を調整する。これに対してProRes RAWは、一定の品質(constant quality)を保つことを優先する設計である。ディテールやノイズが多い画ほど、必要なデータレートが自然に上がる。均一な空のような画ではレートが下がり、情報量の多い画では上がる。常に同じ品質を目指すから、ファイルサイズは場面によって変動する。

品質には2つの段階がある。Apple ProRes RAWと、上位のApple ProRes RAW HQである。データレートの目安は、ProRes RAWがProRes 422から422 HQの間、ProRes RAW HQが422 HQから4444の間におさまる。ベイヤー段で1フォトサイトあたり1標本値として符号化するため、デベイヤー後のRGBよりデータ量を抑えられる。

圧縮方式については、一点、慎重に書かなければならない。業界の解説では、ProRes RAWはウェーブレット系(JPEG2000に近い系統)の圧縮だと説明されることが多い。ただしApple公式のホワイトペーパーは、圧縮を「ウェーブレット」とは明言していない。したがって本稿では、「可変ビットレートのイントラフレーム圧縮」という公式が明言する事実と、「ウェーブレットとされる」という業界解説を分けて扱う。受け手に不確かな推測を事実として伝えないためである。

記録経路:外部レコーダー中心となった理由

ProRes RAWの配布形態は、長らく外部レコーダーが中心であった。カメラがHDMIやSDIから出力するRAW信号を、AtomosのNinjaやShogun系の外部レコーダーが受けとめて記録する。Atomos公式は50機種以上の対応をうたっている。

この形態には利点と弱点の両方がある。利点は、カメラメーカーが自社でRAWの内部記録を実装しなくても、外部レコーダーを介してRAW化できる点である。メーカーの壁を越えて多くのカメラがProRes RAWに到達できたのは、この方式のおかげである。一方の弱点は、撮影現場でカメラにレコーダーを外付けし、ケーブルで繋ぐ必要がある点である。機動性や信頼性の面で、内部記録に比べて手間が増える。

この状況は少しずつ変わってきている。内部記録の先行事例は、2024年7月に発売されたPanasonic LUMIX DC-GH7である。GH7は、CFexpressカードやSSDへApple ProRes RAW HQおよび通常のApple ProRes RAW(いずれも5.7Kおよび4K)をカメラ内部で直接記録できる、初のLUMIXとなった。あわせて、HDMI経由で12bitのRAW信号を出力し、Atomos Ninja系の外部レコーダーでProRes RAWとして記録することもできる。続いて2025年9月9日には、Blackmagic Pocket Cinema Camera 4KもProRes RAWの内部記録に対応した。外部レコーダー前提という長年の前提は、GH7を皮切りに崩れはじめている。

対応ソフトウェア

ProRes RAWの歴史は、対応ソフトの狭さとの闘いでもあった。発表当初から長く、対応はAppleのFinal Cut Pro、Motion、Compressorを中心としていた。このことは、Appleのエコシステムの外、とくにWindows環境や他社の編集ソフトを使う制作者にとって、大きな障壁であり続けた。

転換点は2025年に訪れた。2025年9月9日公開のDaVinci Resolve 20.2が、ProRes RAWのネイティブデコードに対応した。これにより、カラーグレーディングの現場で広く使われるResolveでもProRes RAWを扱えるようになった。長らくAppleの囲いの中にあったフォーマットが、ようやく幅広い制作環境へ開かれたといえる。

メタデータとカラー

ProRes RAWはRAWであるから、ISOやホワイトバランスを画素に焼き込まず、メタデータとして保持する。これにより、撮影後に編集ソフトの中でISOや色温度を非破壊で調整できる。第1章で定義したメタデータ現像の考え方が、そのまま当てはまる。デベイヤーと色づくりを後回しにできることが、RAWとしてのProRes RAWの価値である。

制約と弱点

ProRes RAWの弱点は、これまでの記述にすでに現れている。第一に、長く外部レコーダーを前提としてきたため、内部記録に対応するカメラが少なかった。第二に、対応ソフトがAppleエコシステムに偏り、Windowsや他社NLEでの取り扱いが長く限られていた。この2点は、内部記録では2024年のPanasonic LUMIX DC-GH7(内部ProRes RAW/RAW HQ記録)が先行し、2025年にはDaVinci Resolve 20.2の対応とBlackmagic Pocket Cinema Camera 4Kの内部記録対応が続いたことで、大きく緩和されてきた。とはいえ、長年の普及の遅れが、他のRAWコーデックに比べた実績の蓄積に影響している面は否めない。

2018年以降ProRes RAW対応の主な環境

ProRes RAWの可否は、「カメラ×出力モード×レコーダー×ファームウェア」の組み合わせで決まる。カメラ名だけを並べても、同じ機種で選べる解像度・フレームレートやRAWメタデータの扱いまでは分からない。そこで、内部記録の事例と、外部記録で上限を左右する代表的な組み合わせを分けて整理する。なお、Atomosの対応カメラデータベースは更新され続けるため、以下は記事公開時点の代表例である。

記録経路の型代表例確定している仕様・意味
カメラ→外部レコーダー記録各社カメラのHDMI/SDI RAW出力→Atomos Ninja/Shogun系発足以来の主流。実際の記録可否と上限は、カメラのRAW出力とレコーダーの世代・ファームウェアの交点で決まる。
カメラ内部記録Panasonic LUMIX DC-GH7(2024-07発売、内部ProRes RAW/RAW HQ 5.7K/4K)内部記録の先行事例。CFexpress/SSDへ直接記録できる初のLUMIX。HDMI経由で12bit RAWをAtomos Ninja系へ出力し、ProRes RAWとして記録することもできる。
カメラ内部記録Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K(2025-09-09対応)GH7に続く内部記録対応例。

組み合わせで見る上限とファームウェア

カメラ/レコーダー接続ProRes RAW記録の代表的な上限確認すべき条件
LUMIX GH7→Ninja VHDMI5.8K 4:3 23.98/25p、5.7K 17:9 23.98〜29.97p、4K DCI 23.98〜59.94pAtomOS 11.07.00(2024-06-24)でGH7 RAW対応が追加された。カメラとレコーダーの両方を、対応するファームウェアにする必要がある。
LUMIX GH7→対応する上位Ninja/ShogunHDMIGH7の出力自体は、5.7K 17:9で最大59.94p、4K DCIで最大119.88pにも対応する。高フレームレートはNinja TX、Ninja V+、Ninja Ultra、Shogun Connect、Shogun Ultraなど、Atomosが指定する機種に限られる。
Ninja Ultra(レコーダー側の入力上限)HDMI、SDIはAtomos Connect装着時HDMIで8K RAW 30p、6K RAW 60p、4K RAW 120p。SDIは対応アクセサリーと対応カメラが必要。これはレコーダーの受入上限であり、すべてのカメラでこの解像度・フレームレートを記録できるという意味ではない。
Shogun Ultra(レコーダー側の入力上限)HDMI/12G-SDIRAW入力は8K 30p、6K 60p、4K 120pまで。HDMIと12G-SDIを備えるため、カメラの出力端子・RAWプロトコルと組み合わせて判断する。
Ninja TX(レコーダー側の入力上限)HDMI 2.0/12G-SDI(SDIを本体内蔵)ProRes RAWは最大8K 30pおよび6K 60p。4K DCIは、LUMIX GH7・GH6・G9 IIとの組合せで100p/119.88pまで記録できる。SDIを本体に内蔵する点が、SDI利用時にAtomos Connectを要するNinja Ultraと異なる。Atomosの機種別対応ページによれば、LUMIX GH7・GH6・G9 IIの4K DCI 100p/119.88p RAWは、Ninja TXも記録できる指定機種に含まれる。
Ninja TX GO(レコーダー側の入力上限)HDMIのみProRes RAWは最大6K 30p。Ninja TXからSDIとAirGluの無線タイムコード、上位のHDMI性能を省いた廉価版。Wi-Fiによるカメラ・トゥ・クラウドには対応する。
Ninja RAW(レコーダー側の入力上限)HDMIのみProRes RAWは最大6K 30p。2026年2月25日発表。ProRes RAW/ProRes RAW HQ/ProRes LT/ProRes 422/422 HQをあらかじめ有効化して出荷する。Wi-Fiアンテナを持たず、カメラ・トゥ・クラウドやNDI、ライブ配信、同時プロキシ記録には対応しない、HDMI専用の基本モデルである。

ここから分かるのは、レコーダー側に8K30pや4K120pの能力があっても、それだけで撮影系全体の上限にはならないということである。たとえばGH7の4K DCI 100/119.88p RAWは、出力できるカメラと、それを受けられる指定世代のレコーダーを組み合わせて初めて成立する。逆に、同じGH7でもNinja VとAtomOS 11.07.00の組み合わせでは、公式リリースノートに示された上限は4K DCI 59.94pである。ProRes RAWを選ぶ際は、カメラ本体のスペック表だけでなく、Atomosの機種別対応ページとレコーダーのファームウェア履歴を同時に確認する必要がある。

2025年から2026年にかけて、Atomosのレコーダーは新世代へと移行した。AtomOS 11世代のNinja UltraやShogun Ultraに続き、2025年7月にはLinuxベースのAtomOS 12を積むNinja TXが登場し、SDIを本体に内蔵しながら最大8K 30pのProRes RAW記録に対応した。さらに、SDIや無線機能を省いた廉価版のNinja TX GO(HDMIのみ、最大6K 30p)、そして2026年2月発表のNinja RAW(HDMIのみ、最大6K 30p)が加わり、価格と機能で選べる幅が広がっている。ただし、記録できる解像度とフレームレートは、レコーダー単体の世代ではなく、カメラとの組合せで決まる。たとえばLUMIX GH7・GH6・G9 IIの4K DCI 100p/119.88p RAWは、Ninja TXやNinja V+、Ninja Ultra、Shogun Connect、Shogun Ultraなど、Atomosが指定する機種でのみ記録できる。逆に、旧世代のNinja Vなどでは同じカメラでも高フレームレートに届かない。最新機種であることと、目的の解像度・フレームレートを記録できることは別問題であり、購入前にAtomosの機種別対応ページとレコーダーの技術仕様を確認する姿勢が欠かせない。

まとめ

ProRes RAWは、RAWを「ProResのように扱えるもの」にしようとした試みである。生に近いデータを、一定品質を保つ可変ビットレートで抱えるという設計は、編集の快適さとRAWの自由度を両立させようとしたものである。一方で、外部レコーダー中心の配布形態とAppleエコシステムへの偏りは、長らくこのコーデックの普及を限ってきた。2025年のDaVinci Resolve対応と内部記録対応は、その制約を解きはじめる転換点となった。圧縮方式の細部など、Appleの一次資料では断定できない点は、推測と事実を分けて扱うべきである。

出典(一次情報)


動画RAWコーデック解剖

  1. RAWとは何か|A/D変換・デベイヤーと「RAWのグラデーション」
  2. RAWの代償|データ量・熱・記録時間・メディア・ワークフロー
  3. なぜ同じ「RAW」で画質差が生まれるのか|内部収録RAWと外部ProRes RAWの技術的差異
  4. ProRes RAW|Apple×Atomosが選んだ「生に近い」設計
  5. Blackmagic RAW(BRAW)|「最適化されたRAW」という発明
  6. REDCODE RAWと特許|動画RAWを縛った知的財産の構造
  7. CanonのRAWコーデック群|Cinema RAWとCinema RAW Light(ST・HQ・LT)
  8. Sony X-OCN 前編|歴史と設計思想(FX5から遡るVENICE・F5/F55の系譜)
  9. Sony X-OCN 後編|ワークフロー・対応ソフトウェア・他RAWとの比較
  10. Nikon N-RAWとTicoRAW|ライセンスRAWという第三の道
  11. その他のRAWフォーマット概観|ARRIRAW・CinemaDNG・Panasonic・DJIほか
  12. 総合比較|「どれだけRAWか」の見取り図と2026年版マトリクス
  13. カラーマネジメントとアーカイブ|ACES・メタデータ駆動現像・長期保存
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