
「このバッテリー、どれくらい使えるの?」と思ったとき、困るのが 単位がバラバラ という問題だ。アルカリ乾電池はmAh、モバイルバッテリーもmAh、でもVマウントバッテリーはWh表記……。同じ「容量」を表しているはずなのに、なぜ単位が違うのか。そして、どうすれば正しく比較できるのか。この記事ではカメラ周辺機器を中心に、バッテリー容量の読み方と比較方法を実用的に解説する。
なぜ単位がバラバラなのか
バッテリーの容量を表す単位には主に mAh(ミリアンペアアワー) と Wh(ワットアワー) の2種類がある。どちらも「蓄えられたエネルギーの量」を示しているが、前提としている情報が異なる。
- mAh:電流(A)× 時間(h)。電圧が一定という前提で使われることが多い
- Wh:電力(W)× 時間(h)。電圧の違いを含めた「実際のエネルギー量」を表す
たとえば、3.7V・2700mAhのスマートフォン用バッテリーと、7.2V・2700mAhのNP-F互換バッテリーは、mAhの数字は同じでも 蓄えているエネルギー量は約2倍違う。mAhだけで比較すると判断を誤る典型例だ。
なぜこうなるかというと、mAhは「どれだけの電流をどれだけの時間流せるか」しか表していないからだ。電圧が異なるバッテリー同士では、同じmAhでも取り出せるエネルギーの総量が変わる。
正しく比較するための公式
異なる電圧のバッテリーを比較するときは、すべて Wh(ワットアワー) に換算するのが基本だ。
Wh = mAh ÷ 1000 × 電圧(V)
mAhしか表記されていない製品は、公称電圧(仕様書やパッケージに記載されている)をかけ合わせることでWhに変換できる。
換算例
- スマートフォン(3.7V・5000mAh) → 5000 ÷ 1000 × 3.7 = 18.5Wh
- NP-F970純正(7.2V・6600mAh) → 6600 ÷ 1000 × 7.2 = 47.5Wh
- モバイルバッテリー(3.7V内部・10000mAh表示) → 10000 ÷ 1000 × 3.7 = 37Wh
こう計算すると、NP-F970は同じ「数千mAh」のスマホバッテリーとは比較にならないエネルギーを持っていることが分かる。
主要バッテリーのWh換算比較表
実際によく使われるバッテリーをWhに統一して並べると、スケール感がつかめる。
| バッテリー | 公称電圧 | 容量(mAh) | 容量(Wh) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| アルカリ単3電池(1本) | 1.5V | 約2,500mAh | 約3.75Wh | 放電特性により実効値は低下する |
| エネループ 単3(1本) | 1.2V | 約1,900mAh | 約2.28Wh | 繰り返し使用可能・放電が安定 |
| スマートフォン(一般的な機種) | 3.83〜3.87V | 3,200〜5,000mAh | 約12〜19Wh | iPhone 15 Proは約12.7Wh、Galaxy S24 Ultraは約19.3Wh |
| モバイルバッテリー(一般的な製品) | 3.7V(内部) | 10,000mAh(表示) | 約37Wh | 実出力は変換ロスで約60〜70% |
| Canon LP-E6NH | 7.2V | 2,130mAh | 約15.3Wh | EOS R5 / R6 / R7 / 5D IV 等 |
| Sony NP-FZ100 | 7.2V | 2,280mAh | 約16.4Wh | α7 / α9シリーズ標準 |
| Sony NP-F550(純正) | 7.2V | 2,200mAh | 約15.8Wh | LED・モニター給電の定番 |
| Sony NP-F970(純正) | 7.2V | 6,600mAh | 約47.5Wh | 業務用カメラ・外部給電の大容量定番 |
| NP-F互換・大容量品 | 7.2V | 表示10,000mAh前後 | 表示通りなら約72Wh | 実容量と表示容量に乖離が多い |
| Vマウントバッテリー(小型) | 14.8V | — | 約95Wh | シネマ用途のエントリー帯 |
| Vマウントバッテリー(大容量) | 14.8V | — | 約195〜290Wh | 長時間収録・大型照明に対応 |
こうして並べると、NP-F970(47.5Wh)はモバイルバッテリー10,000mAh(37Wh)の約1.3倍、Vマウント小型品(95Wh)≒ NP-F970 × 2本分 というスケール感がつかめる。また、ミラーレスカメラの本体バッテリー(NP-FZ100やLP-E6NH)は約15〜16Wh程度で、スマートフォンと同等かそれをやや上回る程度のエネルギー量しか持っていないことも分かる。
各バッテリーの特性と注意点
アルカリ乾電池・エネループ
単3形は電圧が低い(1.2〜1.5V)ため、Wh換算では数字が小さい。ただし放電特性に違いがある。アルカリ電池は使用開始直後から電圧が徐々に下がる(右肩下がり)のに対し、エネループ(ニッケル水素)は終盤まで電圧が安定して維持される。
フラッシュやワイヤレスリモコンのような瞬間的に電流を要求する機器では、エネループのほうがトータルのパフォーマンスが高い場合が多い。
スマートフォンのバッテリー
スマートフォンの内蔵バッテリーは3.7V(公称3.85V)のリチウムポリマー電池だ。近年のモデルでは4000〜5500mAh程度が主流で、Wh換算すると15〜20Wh程度。参考までにiPhone 15 Proは約12.7Wh(3,274mAh)、Galaxy S24 Ultraは約19.3Wh(5,000mAh)だ。
カメラ用バッテリーとの比較で興味深いのは、ミラーレスカメラの本体バッテリー(NP-FZ100:約16.4Wh、LP-E6NH:約15.3Wh)が スマートフォンのバッテリーと同等か、機種によってはそれ以上のエネルギー量 だという点だ(iPhone 15 Proの約12.7Whよりも大きい)。にもかかわらず「カメラのバッテリーはすぐ切れる」と感じるのは、カメラの消費電力がスマートフォンよりも大幅に大きいことが理由である。イメージセンサー、画像処理エンジン、光学式手ブレ補正、電子ビューファインダー、メモリーカードへの高速書き込み——これらが同時に動作するカメラは、常にフルロードで電気を消費している。
モバイルバッテリー
「10,000mAh」という表記は内部セルの電圧(3.7V)基準の数字だ。USB出力(5V)に昇圧する際に変換ロスが発生するため、実際に取り出せるエネルギーは表示Whの60〜70%程度 と見ておくのが現実的だ。
航空機持ち込みの上限(100Wh)もWh基準で判断されるため、大容量モバイルバッテリーを購入する際はWh表記を必ず確認しておきたい。
カメラ本体バッテリー(NP-FZ100 / LP-E6NH)
ミラーレスカメラの本体バッテリーは7.2V系のリチウムイオン電池で、容量は2000〜2400mAh程度。Wh換算すると15〜17Whだ。動画撮影時はカメラの消費電力が大きいため、1本あたりの連続撮影時間は1〜2時間程度にとどまることが多い。
長時間の動画撮影では、NP-F給電アダプターやVマウントバッテリーによる外部給電が実用的な選択肢になる。NP-F970(約47.5Wh)で給電すれば、カメラ本体バッテリー約3本分のエネルギーを外部から供給できる計算だ。
NP-Fシリーズ(ソニー互換規格)
ビデオカメラや外部モニター、LEDライトへの給電に広く使われる業界標準的な規格だ。純正品(NP-F970など)はmAhとWhが仕様書に明記されているが、互換品は表示容量と実容量が大幅に乖離するケースが多い。
「13,400mAh」を謳う格安品が実測3,000〜4,000mAh程度しかないという報告も珍しくない。購入時は信頼できるメーカーの製品を選ぶか、実測レビューを参考にするのが賢明だ。
Vマウントバッテリー
放送・シネマ用途の標準規格。電圧が14.8Vと高いため、同じWhでもNP-Fより大電流を安定供給できる。ほぼすべての製品にD-Tap端子が標準装備されており、1本で複数機材(カメラ・モニター・照明)へ同時給電 できる点が運用面での強みだ。
重量とコストがネックになるため、個人制作では95〜100Wh帯の小型品が費用対効果のバランスとして選ばれやすい。なお、95Whや99Whという容量は航空機持ち込みの100Wh制限を意識した設計である。

バッテリー容量のスケール感を可視化する
数字だけでは直感的に分かりにくいので、NP-F970(約47.5Wh)を基準にした相対スケールで表すと以下のようになる。
| バッテリー | Wh | NP-F970を1とした比率 |
|---|---|---|
| アルカリ単3 × 1本 | 3.75Wh | 0.08 |
| Canon LP-E6NH | 15.3Wh | 0.32 |
| Sony NP-FZ100 | 16.4Wh | 0.35 |
| スマートフォン(iPhone 15 Pro) | 約12.7Wh | 0.27 |
| NP-F550 | 15.8Wh | 0.33 |
| モバイルバッテリー 10,000mAh | 37Wh | 0.78 |
| NP-F970(基準) | 47.5Wh | 1.00 |
| Vマウント小型(95Wh) | 95Wh | 2.00 |
| Vマウント大容量(195Wh) | 195Wh | 4.11 |
こうして見ると、ミラーレスカメラのバッテリー(NP-FZ100やLP-E6NH)はNP-F970の約3分の1のエネルギーしか持っておらず、Vマウント小型品(95Wh)はNP-F970のちょうど2倍の容量を持つことが分かる。
比較するときの実践チェックリスト
- まずWhに統一する:mAh表記しかない場合は「mAh ÷ 1000 × 電圧」で換算
- 公称電圧を確認する:仕様書・パッケージ・メーカーサイトで必ずチェック
- 変換ロスを考慮する:モバイルバッテリーは表示Whの約60〜70%が実効値
- 互換品は表示値を疑う:特にNP-F互換品は実測レビューを参照する
- 用途に合った電圧を選ぶ:大電流が必要な機器にはVマウントが向いている
- 航空機持ち込み制限を確認する:100Wh以下は制限なし、100〜160Whは航空会社の承認が必要、160Wh超は持ち込み不可
まとめ
バッテリーの容量を正しく比較したいなら、すべてWhに換算する のが唯一の正解だ。mAhは電圧が同じバッテリー同士でしか通用しない数字であることを覚えておけば、カタログスペックに惑わされることはなくなる。
特に注意が必要なのは以下の3点だ。
- NP-F互換品の「大容量」表記:表示と実容量の乖離が大きい製品が多い
- モバイルバッテリーの変換ロス:表示37Whでも実際に使えるのは約22〜26Wh程度
- カメラ本体バッテリーの意外な小ささ:スマートフォンと同等かやや上回る程度の約15〜16Wh
機材選びの際は、Wh単位でスペックを揃えて比較する習慣をつけておこう。それだけで、撮影現場で「バッテリーが足りない」というトラブルの確率を大幅に下げることができる。
出典・参考
- Sony「NP-F970 / NP-FZ100 製品仕様」 https://www.sony.jp/
- Canon「LP-E6NH 製品仕様」 https://canon.jp/
- Apple「iPhone 15 Pro 技術仕様」 https://www.apple.com/jp/
- Samsung「Galaxy S24 Ultra 仕様」 https://www.samsung.com/jp/
- Panasonic「エネループ 仕様」 https://panasonic.jp/battery/
- 国土交通省「航空機によるリチウム電池の輸送について」 https://www.mlit.go.jp/
- SmallRig「VB99 / NP-F互換バッテリー製品ページ」 https://www.smallrig.com/


