Blackmagic RAW(BRAW)|「最適化されたRAW」という発明|動画RAWコーデック解剖(5)

動画RAWコーデック解剖(5)

RAWは重く扱いにくいという常識に、別の答えを出したのがBlackmagic RAWである。完全な生のRAWにこだわらず、カメラの中でデモザイクの一部を済ませ、扱いやすさと画質の折り合いをつける。この「最適化されたRAW」という発想が、BRAWの正体である。本章では、二つの圧縮モード、部分デベイヤーとメタデータ現像、DaVinci Resolveとの垂直統合、そしてVideo Assistを介した他社カメラ対応までを、Blackmagic Design公式の仕様とSDKマニュアルに基づいて解剖する。

第1章で示した「どれだけRAWか」の軸でいえば、BRAWはProRes RAWよりもやや処理を進めた側に位置する。生のセンサーデータそのものではなく、新しいデモザイクアルゴリズムで一部を整えたうえで、色づくりに必要な情報はメタデータとして残す。この立ち位置が、性能と使い勝手の両面に効いている。

目次

設計思想:完全なRAWではなく最適化RAW

BRAWの出発点は、RAWの二つの弱点をどう和らげるかにある。ひとつはデータ量の重さ、もうひとつは再生と編集の重さである。完全な非デベイヤーRAWは、全画素のデモザイクを再生のたびに行うため、コンピューターへの負荷が大きい。

Blackmagicはここで、デモザイクの一部の工程をカメラ内で先に済ませるという選択をした。ただし色づくりを確定させるのではなく、ISOやホワイトバランス、露出といった調整に必要な情報はメタデータとして保持する。撮影後に、クリップ単位でもフレーム単位でも、これらを非破壊で調整できる。設定は.sidecarファイルに書き出せるため、元のファイルを一切変更せずに現像設定を重ねられる。

この「完全な生ではないが、現像の自由は保つ」という折衷が、最適化RAWという呼び名の意味である。部分デベイヤーの仕組みそのものは第3章で扱った品質差の議論と直結するので、あわせて参照してほしい。

圧縮モード:Constant BitrateとConstant Quality

BRAWの圧縮には二つの方式がある。用途によって選び分ける。

ひとつめはConstant Bitrate(固定ビットレート)である。3:1、5:1、8:1、12:1という比率が用意されている。この比率は、センサー1フレームの未処理サイズを基準にした圧縮率で、数字が大きいほど強く圧縮する。固定ビットレートなので、ファイルサイズが撮影前から予測しやすい。収録時間やストレージの見積もりを立てやすいのが利点である。

ふたつめはConstant Quality(固定品質)である。Q0、Q1、Q3、Q5という段階がある。これは量子化の度合いを一定に保つ方式で、結果としてビットレートは画の複雑さに応じて可変になる。Q0がもっとも量子化が小さく最高品質、Q5がもっとも効率的で小さいサイズになる。難しい画では自動的にデータレートが上がり、単純な画では下がる。第4章のProRes RAWの一定品質と考え方が近い。

この二方式の使い分けが、BRAWの現場での柔軟さを支えている。ファイルサイズの予測を優先するならConstant Bitrate、品質の安定を優先するならConstant Qualityを選ぶ。

部分デベイヤーとメタデータ現像

すでに触れたとおり、BRAWは完全な非デベイヤーRAWではなく、新しいデモザイクアルゴリズムを用いた最適化RAWである。カメラ内で一部の処理を先取りしつつ、画づくりの決定は後回しにする。

ISO、ホワイトバランス、露出などはメタデータとして保持され、撮影後にクリップ単位・フレーム単位で非破壊に調整できる。.sidecarファイルを使えば、元ファイルを書き換えずに複数の現像設定を試せる。RAWの利点である「現像の後回し」を保ちながら、再生とデータ量の負担を軽くする。ここがBRAWの発明の核である。

Blackmagicカメラでの内部記録とVideo Assist経由の他社カメラ対応

BRAWは元々、Blackmagic自社のカメラで内部記録するために設計された。だが対応はそこにとどまらない。

自社カメラでの内部記録の系譜を整理しておく。小型のPocket Cinema Camera系のうち、4Kモデル(4096×2160、最大4K DCI 60fps・1080p 120fps)は、BRAWに加えてApple ProRes RAWも内部記録できる唯一の機種である。6K/6K G2/6K Pro(Super35 6144×3456)はBRAWとProResのみに対応し、HDMI出力は最大1080p60どまりで外部へRAW信号を送り出せない内部記録専用機である。フルサイズ機ではBlackmagic Cinema Camera 6K(36×24mm L-mount)が、BRAWとH.264プロキシをCFexpressやUSBへ同時記録できる。近年はボックス型のPYXISが加わった。PYXIS 6K(2024年6月発売、36×24mmフルサイズ、6048×4032の3:2オープンゲートで最大36fps、DCI 4Kで最大60fps)と、上位のPYXIS 12K(2025年発表・同年出荷開始、36×24mm RGBW方式の12,288×8040センサー、16ストップ)が、いずれもBRAWとH.264プロキシを二基のCFexpressへ同時記録する。Super35のURSA Mini Pro 12K(12,288×6480)はProResを持たないBRAW専用機として位置づけられ、解像度の到達点は後述する大判のURSA Cineシリーズである。

Video Assistには3Gモデルと12G HDRモデルがあり、両者でRAW収録の可否が分かれる。3Gモデル(5型・7型)は10bit 4:2:2のProResとDNxのみで、最大1080p60まで。RAWは受けない。一方、12G HDRモデル(5型・7型)を介すと、対応カメラと組み合わせたときにHDMI経由の信号を12bit Blackmagic RAWとして記録できる。公式によれば、Leica、Panasonic、Fujifilm、Nikon、Canon、Sigma、Sonyのカメラが対象になる(公式取扱説明書はCanon C300 Mark II、Panasonic EVA1、SIGMA fpなどを対応例として挙げる)。対応はVideo Assist側のファーム更新で広がってきており、たとえばPanasonic GH6はVideo Assist 3.12、Panasonic S1R IIは3.21で追加された。さらにSDK 5.1(2025年11月4日)では、Leica SL3-S、Sony FX3、Sony FX30向けのBRAWに対応した。これは第4章で見たProRes RAWの外部レコーダー方式と似た発想であり、メーカーの枠を越えてBRAWのエコシステムを広げる仕組みである。

ただし注意が要る点がある。Video Assistの記録解像度には上限があるということだ。12G HDRモデルの本体記録は最大でUltra HDの2160p(おおむね最大60p)およびDCI 2K/4Kどまりで、カメラが5.7Kや6KのRAW信号をHDMIで出力しても、Video Assist側は自機の上限へスケールダウンして記録する。つまり頭打ちになるのは「カメラのRAW出力解像度」ではなく「レコーダーの記録上限」であり、6KのRAWが6Kのまま記録されるわけではない。Video Assistは高解像度RAWのレコーダーではなく、あくまで最大4K DCIクラスのBRAWレコーダーである。外部でRAWになるかどうかがレコーダーの機種とカメラの組み合わせ次第であることを示す好例でもある(第3章参照)。

到達点の側も見ておく。URSA Cine 12K LFは、大判のRGBW方式36×24mmセンサーを積み、12Kの3:2オープンゲートで最大80fps、8Kおよび4Kのオープンゲートでインセンサー・スケーリングにより最大144fpsを実現する。圧縮はConstant Bitrateの3:1/5:1/8:1/12:1に加え、Pocket系にはなかった18:1が選べる。データレートの例では、8K(8192×5360)のBRAW 3:1で毎秒約533メガバイト、12:1で毎秒約133メガバイトになる。上位にはURSA Cine 17K 65(17,520×8040の17K 2.2:1オープンゲートほか)も存在する。前述のPYXIS 12Kは、このシリーズと同じ12Kセンサーをより小型のボックス型ボディに収めた位置づけである。オープンゲートでセンサー全域を使える点は、縦位置の切り出しやリフレーミングを前提とする制作で強みになる。

DaVinci Resolve統合とパフォーマンス

BRAWの最大の強みは、DaVinci Resolveとの垂直統合にある。カメラからコーデック、編集・グレーディングソフトまでを同じBlackmagicが手がけているため、取得から仕上げまでが一貫している。

この統合を支えているのがSDKである。BRAWのSDKはmacOS、Windows、Linuxのクロスプラットフォームで無償公開されている。Metal、CUDA、OpenCLのGPUデコーダと、マルチコアCPUデコーダを備え、取得・ポスト・仕上げまで一貫して使える設計になっている。追加のライセンス料はかからない。この無償かつクロスプラットフォームという方針が、対応ソフトの広がりを後押しした。第6章で扱うREDCODEの特許戦略とは、対照的な開放路線だといえる。

SDK公開と対応ソフトの広がり

SDKが無償で公開され、主要なGPUとCPUのデコードに対応していることは、Resolve以外のソフトでもBRAWを扱う道を開いた。開発者は追加費用なしにBRAWの読み込みとデコードを自社製品へ組み込める。この開放性が、BRAWをBlackmagic製品の外へも広げる原動力になっている。

弱点

BRAWにも弱点はある。第一に、強みである垂直統合の裏返しとして、DaVinci Resolveを中心とするBlackmagicのエコシステムに最適化されている面がある。第二に、Final CutやPremiere Proといった他社の主要NLEでの扱いは、Resolveほど手厚くない場面がある。ワークフロー全体をResolve中心に組める制作では強みが最大化するが、既存のワークフローが他社NLE中心の場合は、その相性を事前に確かめておく必要がある。

2018年以降BRAW対応の主なカメラ・レコーダー

BRAWの対応は、Blackmagic自社カメラでの内部記録と、Video Assistを介した他社カメラ対応の二系統に分かれる。以下に、Blackmagic Design公式のテック仕様・仕様PDF・Video Assist取扱説明書に基づき、主な機種・経路と最大解像度・記録形式を整理する。

系統機種・経路最大解像度・フレームレート圧縮・記録形式備考
自社カメラ内部記録Pocket Cinema Camera 4K4096×2160(DCI 4K 最大60fps、1080p 120fps)BRAW(3:1/5:1/8:1/12:1・Q0/Q5)+Apple ProRes RAW/ProRes RAW HQPocket系で唯一ProRes RAWを内部記録できる機種
自社カメラ内部記録Pocket Cinema Camera 6K/6K G2/6K ProSuper35 6144×3456(最大50fps、2.8Kウィンドウで120fps)BRAW+ProResHDMI出力は最大1080p60で外部RAW送出不可=内部記録専用
自社カメラ内部記録Blackmagic Cinema Camera 6Kフルサイズ36×24mm 6KBRAW+H.264プロキシ同時記録L-mount。CFexpress/USBへ記録
自社カメラ内部記録PYXIS 6Kフルサイズ6048×4032(3:2オープンゲート最大36fps、DCI 4K 60fps、1080p 120fps)BRAW(3:1〜12:1・Q0〜Q5)+H.264プロキシ2024年6月発売。EF/PL/L-mount。SDI経由で最大6K外部出力
自社カメラ内部記録PYXIS 12KフルサイズRGBW 12,288×8040(12K 3:2オープンゲート最大40fps、8K最大112fps)BRAW+H.264プロキシ2025年発表・同年出荷。URSA Cine 12Kと同一センサー、16ストップ
自社カメラ内部記録URSA Mini Pro 12K(OLPF)Super35 12,288×6480(12K 最大60fps、8K 120fps、4K Super16クロップ 240fps)BRAWのみ(12bit、最大約578MB/s)ProRes非対応
自社カメラ内部記録URSA Cine 12K LF大判RGBW 36×24mm 12,288×8040(12K 3:2オープンゲート最大80fps、8K/4Kオープンゲート最大144fps)BRAW(3:1〜18:1・Q0〜Q5、8K 3:1で約533MB/s)18:1はPocket系になかった圧縮率
自社カメラ内部記録URSA Cine 17K 6565mm 17,520×8040(17K 2.2:1オープンゲートほか)BRAWシリーズ上位機
Video Assist経由(他社カメラ)Video Assist 3G(5型・7型)最大1080p6010bit 4:2:2 ProRes/DNxのみRAW非対応
Video Assist経由(他社カメラ)Video Assist 12G HDR(5型・7型)本体記録 最大2160p60/DCI 4K対応カメラのHDMI信号を12bit Blackmagic RAWで記録Leica/Panasonic/Fujifilm/Nikon/Canon/Sigma/Sony。SDK 5.1でLeica SL3-S・Sony FX3・FX30追加。高解像度RAW信号は記録上限へスケールダウン

まとめ

Blackmagic RAWは、RAWの重さと扱いにくさに対して、部分デベイヤーによる最適化という答えを出したコーデックである。Constant BitrateとConstant Qualityの二方式で用途に応じた選択を可能にし、メタデータ現像で現像の自由を保ちながら、DaVinci Resolveとの垂直統合と無償クロスプラットフォームSDKで扱いやすさを追求した。Video Assistを介して他社カメラにも門戸を開き、URSA Cineシリーズで12K以上の解像度に到達している。一方で、その強みはResolve中心のワークフローで最大化する性質があり、他社NLE中心の環境では相性の確認が要る。開放的なSDK戦略は、次章で扱うREDCODEの特許戦略と好対照をなす。

出典(一次情報)


動画RAWコーデック解剖

  1. RAWとは何か|A/D変換・デベイヤーと「RAWのグラデーション」
  2. RAWの代償|データ量・熱・記録時間・メディア・ワークフロー
  3. なぜ同じ「RAW」で画質差が生まれるのか|内部収録RAWと外部ProRes RAWの技術的差異
  4. ProRes RAW|Apple×Atomosが選んだ「生に近い」設計
  5. Blackmagic RAW(BRAW)|「最適化されたRAW」という発明
  6. REDCODE RAWと特許|動画RAWを縛った知的財産の構造
  7. CanonのRAWコーデック群|Cinema RAWとCinema RAW Light(ST・HQ・LT)
  8. Sony X-OCN 前編|歴史と設計思想(FX5から遡るVENICE・F5/F55の系譜)
  9. Sony X-OCN 後編|ワークフロー・対応ソフトウェア・他RAWとの比較
  10. Nikon N-RAWとTicoRAW|ライセンスRAWという第三の道
  11. その他のRAWフォーマット概観|ARRIRAW・CinemaDNG・Panasonic・DJIほか
  12. 総合比較|「どれだけRAWか」の見取り図と2026年版マトリクス
  13. カラーマネジメントとアーカイブ|ACES・メタデータ駆動現像・長期保存

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