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新興・復活フィルムメーカー——ポストKodak/Fujifilm時代の製造地図 | フィルム・クロニクル(15)

産業分析
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フィルム・クロニクル(15)

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フィルム製造の地図が、21世紀に入って根底から書き換えられている。 20世紀の銀塩写真産業はKodak、Fujifilm、Agfa、Konicaといった巨大メーカーの寡占状態だった。だが2020年代のフィルム製造地図を広げると、そこに並ぶ名前はまるで違う。イタリアの廃工場から蘇ったFILM Ferrania、東ドイツの国策フィルムブランドORWO、破産を経て復活したIlford、映画用フィルムを写真用に「翻訳」するCineStill——。かつての巨人たちが撤退した跡地に、クラウドファンディングと情熱で立ち上がった新興メーカーが次々と旗を立てている。本章では、Kodak・Fujifilm以外のフィルム製造者たちの群像を描く。彼らの挑戦は、フィルム写真がもはや「大企業の事業」ではなく「コミュニティの文化財」へと変質したことを物語っている。


Ilford/Harman Technology——モノクロフィルムの守護者

破産と再生

Ilfordの歴史は1879年、ロンドン東部のイルフォードに遡る。だが現代のIlfordを語るうえで最も重要な転換点は2004年の経営破綻である。

親会社International Laboratoriesの経営悪化により、Ilford Imaging UKは2004年に管財手続きに入った。カラーフィルムやカラーペーパーの部門は切り離され、モノクロ製品を製造するMobberley工場(イングランド北西部チェシャー州)の従業員たちがマネジメント・バイアウト(MBO)を実行。新会社Harman Technologyとして再出発した。

この再生劇が重要なのは、Ilfordが「ブランドだけ生き残った」のではなく、乳剤の調合から塗布・裁断・包装まで一貫して行う製造能力を維持した点にある。Mobberley工場は21世紀においても数少ない「フルライン・モノクロフィルム工場」であり続けている。

製品ラインナップ——網羅的なモノクロ体系

Harman Technologyが製造するIlfordブランドのモノクロフィルムは、写真用フィルム市場で最も充実した体系を誇る。

  • HP5 Plus(ISO 400)——汎用性の高い高感度フィルム。報道・ストリートスナップの定番
  • FP4 Plus(ISO 125)——微粒子の中感度フィルム。風景・ポートレートに
  • Pan F Plus(ISO 50)——超微粒子。大伸ばしや精密描写向け
  • Delta 100 / 400 / 3200——T粒子(平板状結晶)技術を用いたモダンエマルション。Delta 3200は実効感度ISO 1000〜1600程度だが、増感現像で真価を発揮する
  • XP2 Super(ISO 400)——C-41現像可能なモノクロフィルム。通常のカラーネガ現像所で処理できるため、モノクロ現像環境がない地域でも利用しやすい
  • SFX 200——近赤外域に感度を持つ特殊フィルム。赤外フィルターと組み合わせると、植物が白く輝く「ウッドエフェクト」が得られる
  • Ortho Plus(ISO 80)——オルソクロマティック(赤色非感光)フィルム。セーフライト下での明室処理が可能

これに加え、Kentmereブランドでエントリー向けの廉価フィルムも展開する。Kentmere Pan 100とPan 400はIlfordフィルムの約6〜7割の価格帯で、2025年にはKentmere Pan 200が新たにラインナップに加わった。Kentmereフィルムは同じMobberley工場で製造されており、品質管理はIlfordと同一である。

ULFプログラム——大判フィルムの「最後の砦」

Ilford/Harman Technologyの取り組みのなかでも特筆すべきが、年に一度のULF(Ultra Large Format)カスタムカットプログラムである。5×7インチ、8×10インチはもちろん、11×14、16×20、さらには20×24インチといった超大判フィルムを受注生産で提供する。こうしたニッチなフォーマットは、世界で唯一Ilfordだけが供給し続けている。少量多品種のカスタム生産は利益率が低いが、大判写真コミュニティへの「生命線」として年次プログラムを維持している姿勢は、同社がフィルム文化の守護者を自認していることの証左だろう。

Harman Phoenix 200——カラーフィルムへの挑戦

2023年末、Harman Technologyは写真業界を驚かせる発表を行った。Harman Phoenix 200——同社初のカラーネガフィルムである。

Ilfordは長年モノクロ専業だった。カラーフィルムの製造はモノクロとはまったく異なる技術体系を必要とする。複数の感色層を精密に積層し、カプラー(発色剤)を各層に正確に配合しなければならない。Harman Technologyがこの技術的障壁を越え、自社工場でカラーフィルムを製造したという事実は、フィルム業界において大きな意味を持つ。

Phoenix 200は「実験的」と銘打たれ、強いグレイン、独特のハレーション(光のにじみ)、やや不安定な色再現を特徴とする。従来のKodakやFujifilmのカラーフィルムとは明らかに異なる「味」であり、技術的に完成されたフィルムとは言い難い。だが、それこそがこのフィルムの戦略的ポジションである。Lomographyのフィルムが証明したように、2020年代のフィルムユーザーは「完璧な色再現」よりも「そのフィルムにしか出せない個性」を求めている。

Phoenix 200の真の意義は、Kodak・Fujifilm以外にカラーネガフィルムを自社製造できるメーカーが存在するという事実そのものにある。Kodakの生産停止リスクやFujifilmの縮小戦略を考えれば、カラーフィルム製造の「第三極」が誕生したことの戦略的重要性は計り知れない。

ILFORD 白黒フィルム HP5 PLUS400 35mm 36枚撮り
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Harman カラーネガフィルム PHOENIX 200 120
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120 220 135 マルチフォーマット フィルム コンテナ ボックス Ilford Kodak
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FILM Ferrania——イタリアの「失われたフィルム工場」の復活

栄光と凋落

FILM Ferraniaの物語は、イタリア北西部リグーリア州の山間の町カイロ・モンテノッテ(Cairo Montenotte)から始まる。1923年に設立されたFerraniaは、イタリアにおけるフィルム製造の代名詞であり、「イタリアのKodak」と呼ばれた。映画用フィルム、写真用フィルム、X線フィルム、磁気テープまでを製造する総合感光材料メーカーとして、20世紀イタリアの映像文化を支えた。

1964年、米3M社がFerraniaを買収。3Mの資本と技術のもとでScotch/Imationブランドのフィルムやテープが生産されたが、デジタル化の波とともに事業は縮小。2009年、すべてのフィルム生産が停止された。カイロ・モンテノッテの巨大な工場群は廃墟と化した。

クラウドファンディングによる再生

Ferraniaの復活劇は、2014年のKickstarterキャンペーンに始まる。元従業員と写真愛好家のグループが「FILM Ferrania」として再結集し、旧工場の一部——コーティングマシン1台と暗室設備——を取得。32万ドル以上の資金を集め、フィルム製造の再開に乗り出した。

最初の製品はP30 Alpha。ISO 80のモノクロフィルムで、かつてFerraniaが映画用に製造していたP30パンクロマティックフィルムを写真用に復刻したものである。独特のコントラストとハロゲン化銀の粒子構造が、他のどのフィルムとも異なる描写を生み出す。

しかし、復活への道は平坦ではなかった。小規模な製造設備での量産化は困難を極め、出荷の遅延が繰り返された。カラーフィルムの復刻も発表されたが、技術的課題により実現には至っていない。

Seal帝国への合流

2024年末、FILM Ferraniaに大きな転機が訪れた。英国の映画プロデューサージェイク・シール(Jake Seal)率いるSeal 1818 GmbHグループがFILM Ferraniaを買収したのである。シールはすでにORWOブランドとInovisCoat(後述)を傘下に収めており、FILM Ferraniaの買収により、Kodak・Fujifilm以外では最大のフィルム製造ネットワークを構築した。

2025年4月時点で、FILM Ferraniaは「生産が軌道に乗った」と発表。カイロ・モンテノッテの工場は「世界最小のフルサービス・フィルム工場」を自称し、乳剤調合からコーティング、裁断、包装までを一貫して行っている。シール・グループの資本力とORWO/InovisCoatの技術リソースが加わったことで、長年のボトルネックであった安定供給の課題が改善に向かう可能性がある。


ORWO——東ドイツのフィルム遺産の再起動

Agfaから分裂した「もうひとつのフィルム」

ORWOの歴史を理解するには、Agfaの分裂史に遡る必要がある。1909年、Agfa(Aktiengesellschaft für Anilinfabrikation)はドイツ中部ヴォルフェン(Wolfen)にフィルム工場を建設した。ここで1936年、世界初の実用的カラーリバーサルフィルムAgfacolor Neuが誕生している。

第二次世界大戦後、ドイツ分断によりAgfaの資産も東西に分割された。西ドイツのレバクーゼンにはAgfa-Gevaert(後のAgfaPhoto)が、東ドイツのヴォルフェンには国営のフィルム工場が残された。1964年、東ドイツ政府は西側のAgfaとの商標紛争を避けるため、ヴォルフェン工場のブランドをORWO(Original Wolfen)と改名した。「オリジナルのヴォルフェン」——その名には、こちらこそがAgfaの正統な後継者だという自負が込められている。

冷戦期、ORWOは東側諸国向けの主要フィルムサプライヤーとして君臨した。しかし1990年のドイツ再統一後、西側製品との競争に敗れ、1994年に写真用フィルムの製造を終了。工場はFilmoTec GmbHとして縮小存続し、映画用フィルムや特殊フィルムの少量生産を続けた。

21世紀のORWO復活

ORWOブランドの復活は、前述のジェイク・シールによるFilmoTecとInovisCoatの統合に始まる。Seal 1818 GmbHのもと、ORWOは写真用フィルム市場に本格的に再参入した。

  • Wolfen NP100(2022年発売)——ISO 100のモノクロネガフィルム。ヴォルフェン工場の遺産を受け継ぐ最初の写真用フィルム
  • Wolfen NC500(2023年発売)——ISO 500のカラーネガフィルム。Kodak・Fujifilm・Polaroid・Lomography以外で初めて、完全に新規開発されたカラーネガ乳剤を搭載する
  • Wolfen NC200——ドイツのフィルムショップOptikOldschoolとのコラボレーションで生まれたISO 200カラーネガフィルム

NC500の登場は業界に衝撃を与えた。カラーネガフィルムの乳剤を新規に設計・製造できる技術力を持つメーカーは、21世紀にはKodakとFujifilmしか存在しないと考えられていたからだ(Lomographyのフィルムの多くはKodakに製造委託されている)。ORWOがこの技術的障壁を越えたことは、カラーフィルムの未来にとって極めて重要な意味を持つ。

InovisCoat——フィルム製造の「黒子」

ORWOグループの鍵を握るのが、ドイツ国内のコーティング施設InovisCoatである。フィルム製造において最も高度な技術を要するのがコーティング(乳剤の塗布)工程であり、InovisCoatはこの受託製造サービスを複数のブランドに提供している。

2020年代のフィルム業界における構造変化のひとつが、この「ブランドと製造の分離」である。かつてはフィルムメーカーが自社で乳剤調合からコーティングまで一貫して行うのが常識だった。だが現在、多くの新興ブランドはInovisCoatのような受託製造施設を利用してフィルムを市場に送り出している。InovisCoatは、いわばフィルム業界における「TSMC」(半導体受託製造のファウンドリ)のような存在になりつつある。


CineStill——映画用フィルムを写真に「翻訳」する

二人の兄弟の発明

CineStillは2012年、米国ロサンゼルスの兄弟ブライアン・ライトとブランドン・ライトによって設立された。そのコンセプトは斬新かつシンプルだった——Kodakの映画用フィルム(VISION3)から、remjet(レムジェット)層を除去し、通常のC-41現像で処理可能にするというものだ。

remjetとは、映画用フィルムのベース裏面に塗布されたカーボンブラック層で、ハレーション防止と帯電防止の役割を果たす。通常のC-41現像機はremjetに対応しておらず、映画用フィルムを写真用現像所で処理することはできない。CineStillはこのremjetを独自の前処理で除去することにより、世界中のどんな写真現像所でもKodakの映画用エマルションを楽しめるようにした。

800Tと400D

CineStillの主力製品は以下の2つである。

  • CineStill 800T——Kodak VISION3 500Tベース。タングステン光源向けに設計されたISO 800のカラーネガフィルム。remjet除去により生じる独特のハレーション(光源周辺の赤〜オレンジ色のにじみ)が最大の特徴であり、夜景や人工照明下でのポートレートに独特の雰囲気を与える。SNSでの映えもあり、2010年代後半から2020年代にかけてフィルムリバイバル世代の「定番」となった
  • CineStill 400D——Kodak VISION3 250Dベース。デイライト向けISO 400のカラーネガフィルム。800Tに比べてハレーションは控えめで、より自然な色再現を志向する

Kodakとの共生関係

CineStillのビジネスモデルは、Kodakとの強固な協力関係なしには成立しない。CineStillが使用するフィルムストックはすべてKodakのロチェスター工場で製造されたVISION3であり、CineStillはその加工・再包装を行う。この関係はKodakにとっても利益をもたらす——映画用フィルムの生産量を維持(ひいては製造コストを按分)できるからだ。

CineStillの成功は、「フィルムの製造」と「フィルムの商品化」が必ずしも同一である必要はないことを証明した。乳剤の開発と塗布はKodakに任せ、後工程とブランディング、マーケティング、流通を自社で行う——このモデルは、他の多くの新興フィルムブランドにも影響を与えている。

CineStill カラーネガフィルム 800T 35mm 36枚撮り
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Lomography——「ルールなき写真」の商業化

LOMOからLomographyへ

Lomographyの起源は1991年、ウィーンの学生グループがプラハの土産物店で見つけた一台のカメラに遡る。LOMO LC-A——ソ連のレニングラード光学機械合同(LOMO)が1984年に日本のコシナCX-2を参考にして製造したコンパクトカメラである。

その粗い描写、激しいビネッティング(周辺減光)、予測不能な色再現に魅了された学生たちは、1992年にLomographische Gesellschaft(ロモグラフィー協会)をウィーンで設立。「考えるな、撮れ」をスローガンに掲げ、完璧さを追求する写真文化への反抗として、偶然性と実験性を称揚する運動を始めた。

Lomographyはカメラメーカーとしての側面も持つ。LC-A+(LC-Aの復刻版)、Diana F+(1960年代トイカメラの復刻)、LomoInstant(インスタントカメラ)、そして2024年のLomomatic 110(110フィルム対応カメラ)など、独自のカメラを次々と発売している。

フィルムラインナップ——「個性」を売る

Lomographyのフィルム事業は、「普通のフィルムでは撮れない写真」を追求する。

  • LomoChrome Purple——緑色を紫色に変換する特殊カラーフィルム。赤外カラーフィルム(Kodak Aerochrome)の視覚効果を疑似的に再現する
  • LomoChrome Metropolis(2019年発売)——彩度を大幅に落とした「シネマティック」な描写を志向するカラーネガフィルム。都市風景向け
  • LomoChrome Turquoise——赤色をターコイズブルーに変換する特殊効果フィルム
  • Lomography Color Negative(ISO 100/400/800)——比較的標準的なカラーネガフィルム

注目すべきは、Lomographyのフィルムの多くがKodakのロチェスター工場でコーティングされている点である。Lomography自体はフィルム製造設備を持たず、乳剤設計とブランディングに注力し、製造は外部に委託する。これはCineStillと同様の「ファブレス(工場を持たない)モデル」であり、2020年代のフィルム産業における製造と販売の分離を象徴している。

Lomography Color Negative 400 35mm
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Foma Bohemia——チェコの孤高の独立メーカー

1921年からの連続稼働

チェコ共和国東部の都市フラデツ・クラーロヴェー(Hradec Králové)に本拠を置くFoma Bohemiaは、1921年の設立以来、一貫してフィルムと印画紙を製造し続けている。第二次世界大戦、共産主義体制、ビロード革命、そしてデジタル化の波——すべてを乗り越えて操業を継続した、世界でも稀有なフィルムメーカーである。

Fomapanシリーズ

Fomaの写真用フィルムはFomapanブランドで展開される。

  • Fomapan 100 Classic(ISO 100)
  • Fomapan 200 Creative(ISO 200)
  • Fomapan 400 Action(ISO 400)

いずれもモノクロネガフィルムで、伝統的なハロゲン化銀の立方体粒子(キュービック・グレイン)を使用する。T粒子技術を採用するIlford DeltaやKodak T-MAXに比べると粒子は粗いが、その分「クラシカルな質感」として愛好者が多い。

Fomapanの最大の武器は価格である。IlfordやKodakのフィルムの半額程度で購入でき、「とにかく撮りたい」フィルムビギナーや、大量に撮影するストリートフォトグラファーにとっての入門フィルムとして世界中で支持されている。35mmのみならず、120フォーマットやシートフィルム(4×5インチ)まで揃えている点も、大判ユーザーにとっては貴重な選択肢だ。

Foma Bohemiaが特筆される理由は、乳剤の調合からコーティング、裁断、包装まで完全に自社で行う「垂直統合型」メーカーである点にある。Kodak、Fujifilm、Ilford/Harman Technologyを除けば、写真用フィルムの全工程を自社内で完結できるメーカーは世界にほとんど存在しない。Foma Bohemiaはその数少ない例外であり、チェコの地方都市から世界のフィルムユーザーに製品を届け続けている。

Fomapan 100 Classic
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その他の新興・復活ブランド

ADOX(ドイツ)

1860年代に遡る歴史を持つドイツのフィルムブランド。現在はフランクフルト近郊を拠点に、自社調合の乳剤によるモノクロフィルム(CMS 20 II、Silvermax 100、CHS 100 IIなど)を販売する。CMS 20 IIは超微粒子フィルムとして知られ、専用現像液Adotechとの組み合わせで、35mmフィルムから大判に匹敵する解像度を引き出せると謳う。

Bergger(フランス)

フランスのモノクロフィルム・印画紙メーカー。Pancro 400はデュアルエマルション(二層乳剤)構造を持つ独自設計のモノクロフィルムで、ヨーロッパのファインアート・写真家を中心に支持を集めている。

BERGGER PANCRO 400
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Film Washi(フランス)

フランスの超小規模メーカーで、和紙や薄葉紙をベースにした実験的なフィルムを手作業で製造する。「Film」と「和紙」を掛け合わせた名前が示すとおり、日本文化との接点を持つユニークな存在。工業製品というよりは工芸品に近い少量生産で、1ロールずつハンドメイドで巻かれている。

Dubblefilm(英国)

あらかじめフィルムにライトリーク(光漏れ)や色かぶり効果を施した「プリフラッシュ」フィルムを販売。撮影者がシャッターを切る前にすでにフィルムにアート的な効果が加えられているため、誰でも「偶然の産物」のような写真が撮れる。ベースフィルムはKodakやFujifilm製を使用し、加工と販売に特化するブランドである。

Kosmo Foto(英国)

フィルム写真ジャーナリストのスティーヴン・ダウリングが立ち上げた個人ブランド。Mono(ISO 100モノクロ)やAgent Shadow(ISO 32の超低感度モノクロ)などを販売する。乳剤の製造は外部委託で、Kosmo Fotoはパッケージデザインとブランディングに注力する「マイクロブランド」の典型例である。

Rollei(ドイツ)

かつて二眼レフカメラで世界を席巻したRolleiのブランド名を冠するフィルム群。ただし、現在のRolleiフィルムはカメラのRollei社とは資本関係がなく、ドイツのMACO PHOTO PRODUCTSがブランドをライセンスして販売している。Rollei RPX 25/100/400(モノクロ)やRollei Infrared 400(赤外)などがラインナップされるが、乳剤の製造元は公式には開示されていない。

Silberra(ロシア)

サンクトペテルブルクを拠点とするモノクロフィルムブランド。Pan50やUltima 200など、独自の乳剤設計による製品を展開していた。しかし、2022年のウクライナ侵攻に伴う国際制裁と物流の断絶により、国際市場からは事実上撤退状態にある。ロシア国内での製造・販売は継続しているとされるが、情報は限定的である。

Santa Film(ポルトガル)

リスボンを拠点とする新興ブランドで、ポルトガル国内でのフィルム写真文化の振興を掲げる。まだ製品ラインナップは限定的だが、南欧からのフィルムブランド参入として注目されている。


製造と販売の分離——フィルム産業の「ファブレス化」

上述のメーカー群を俯瞰すると、2020年代のフィルム産業に一つの構造的変化が見えてくる。「製造」と「販売」の分離——IT産業で言うところの「ファブレスモデル」のフィルム版である。

類型説明代表例
垂直統合型乳剤調合からコーティング・包装まで自社完結Kodak、Fujifilm、Ilford/Harman、Foma Bohemia
自社乳剤+受託コーティング乳剤は自社開発、塗布は外部施設を利用ORWO(InovisCoat)、一部ADOX製品
加工特化型既存フィルムストックを加工・再パッケージCineStill(Kodak VISION3加工)
ブランド特化型(ファブレス)製造は完全外部委託、デザインと販売に集中Lomography、Dubblefilm、Kosmo Foto

かつてのフィルム産業では、Kodak・Fujifilm・Agfa・Konicaのような「垂直統合型」メーカーだけがプレイヤーだった。乳剤の処方は最高機密であり、コーティング技術は門外不出。フィルム製造とは、すなわち巨大な設備投資と長年の技術蓄積を必要とする「重厚長大産業」だったのである。

だが2020年代、フィルム市場はニッチ化したことで、むしろ参入障壁が下がった。KodakやInovisCoatが受託製造を引き受けるようになり、数千本〜数万本単位の少量生産が可能になった。ブランドのアイデアとマーケティング力さえあれば、製造設備を持たずともフィルムブランドを立ち上げられる時代が到来したのだ。

この構造変化は、フィルム文化の多様性を爆発的に拡大させた。市場に存在するフィルムブランドの数は、むしろフィルム全盛期よりも多いかもしれない。だが同時に、製造能力のボトルネックという新たなリスクも生んでいる。多くのブランドがKodakやInovisCoatに製造を依存しているということは、これらの施設に問題が生じた場合、複数のブランドが同時に供給停止に追い込まれることを意味する。2024年末のKodak生産一時停止は、このリスクが現実のものであることを示した。


小括——「誰がフィルムを作っているのか」という問い

本章で見てきた新興・復活フィルムメーカーの群像は、フィルム写真の「製造」を取り巻く状況が20世紀とはまったく異なることを明らかにしている。

20世紀のフィルム産業は、少数の巨大メーカーが世界市場を寡占する構造だった。Kodak、Fujifilm、Agfa、Konica——これらの企業がフィルムの「規格」「品質」「流通」のすべてを支配し、消費者は彼らの製品から選ぶしかなかった。

2020年代のフィルム産業は、多数の小規模プレイヤーが多様な製品を供給する「クラフト産業」の様相を呈している。クラウドファンディングで資金を集め、受託製造施設でフィルムを塗布し、SNSでマーケティングを行い、ECサイトで直販する——この新しいエコシステムは、クラフトビールやインディーズ音楽の産業構造と驚くほど似ている。

だが、忘れてはならない事実がある。カラーネガフィルムの乳剤を新規に設計・製造できるメーカーは、2025年時点でKodak、Fujifilm、ORWO、Harman Technologyの4社しか存在しない。 ファブレスモデルの隆盛は、見方を変えれば、「乳剤製造」という最も高度な技術が少数の拠点に集中していることの裏返しでもある。フィルムブランドの多様性は花開いたが、その花を咲かせる「土壌」は依然として脆い。

次章では、これらのフィルムを装填するもう一方の主役——現行フィルムカメラの世界を見ていく。2025年現在、新品で購入できるフィルムカメラにはどのようなものがあるのか。そして、フィルムカメラの「新製品」は、誰が、なぜ作り続けているのか。


フィルム・クロニクル

連載ガイド

Part I:銀塩写真の誕生と発展(19世紀〜20世紀前半)

Part II:フィルムの黄金時代(1950年代〜1990年代)

Part III:デジタルの衝撃とフィルムの退潮(1990年代〜2010年代)

Part IV:フィルムの復興(2010年代〜現在)

Part V:総括


出典・参考資料

  • Harman Technology公式サイト(harman.technology)
  • FILM Ferrania公式サイト(filmferrania.it)
  • ORWO公式サイト(orwo.net)
  • CineStill Film公式サイト(cinestillfilm.com)
  • Lomography公式サイト(lomography.com)
  • Foma Bohemia公式サイト(foma.cz)
  • ADOX公式サイト(adox.de)
  • Bergger公式サイト(bergger.com)
  • EMULSIVE「The New Wave of Film Manufacturers」
  • 35mmc「The State of Film in 2024」
  • Kosmo Foto「ORWO NC500: The first new color film in decades」
  • PetaPixel「Harman Phoenix 200: Ilford’s first color film」
  • Japan Camera Hunter「Film News」
  • PetaPixel「FILM Ferrania acquired by Jake Seal」(2024)
  • Kodak VISION3 Technical Data Sheets

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