
NP-Fバッテリーで外部給電の基本を覚えたら、次のステップはVマウントバッテリーである。 カメラだけでなく、モニター、レコーダー、伝送装置。収録現場に必要な電力を、たった1台のバッテリーで丸ごとまかなう。それがVマウントバッテリーの真骨頂だ。
前編ではNP-F互換バッテリーによるカプラー給電の基本を解説した。本記事(後編)では、Vマウントバッテリーを中心に、より大規模で拡張性の高い給電システムを組み上げる方法を解説する。
Vマウントバッテリーとは何か
Vマウント(V-Mount)バッテリーは、放送・映像業界で長年使われてきた大型バッテリー規格である。もともとはソニーが開発した規格で、バッテリー背面にV字型のレールがあり、機器やプレートにスライドして装着する仕組みだ(なお、競合規格であるGold Mountを開発したのはAnton/Bauer社である)。
放送用カメラ、シネマカメラ、大型LEDライトなどに広く採用されており、「プロの現場のバッテリー」として確固たる地位を築いている。
NP-Fバッテリーとの違い
| 項目 | NP-Fバッテリー | Vマウントバッテリー |
|---|---|---|
| 容量 | 16〜77Wh | 50〜300Wh |
| 電圧 | 7.2〜7.4V | 14.4〜14.8V |
| 重量 | 100〜340g | 500〜1,500g |
| 出力端子 | バッテリー端子のみ(アダプタープレート経由でDC出力) | D-Tap、BP、DC出力、USB-C、USB-Aなど複数搭載 |
| 価格帯 | 4,000〜10,000円 | 15,000〜100,000円 |
| 拡張性 | アダプター経由で1〜2台の機器に給電 | 複数の出力ポートから同時に3台以上の機器に給電可能 |
端的に言えば、NP-Fバッテリーが「1台の機器に給電するための電池」であるのに対し、Vマウントバッテリーは 「現場全体の電源インフラ」 として機能する。
Vマウントバッテリーの出力端子を理解する
Vマウントバッテリーの多くは、複数の出力端子を搭載している。初めて触れる人にとっては聞き慣れない名前が並ぶが、ひとつずつ押さえていこう。ここでは、SmallRig VB99 SEを例に紹介する。
D-Tap(ディータップ / Pタップ)
D-Tap は、映像業界で広く使われている2ピンの電源コネクタである。「P-Tap」とも呼ばれる。バッテリーの電圧がそのまま出力される(非レギュレート出力)。Vマウントバッテリーの場合、D-Tapからの出力は約14.4〜16.8Vとなる。
D-Tapは主にモニター、LEDライト、ワイヤレス伝送装置、フォローフォーカスなど、カメラ周辺のアクセサリーに電力を供給するために使われる。
注意: D-Tapは非レギュレート出力であるため、接続先の機器が対応する電圧範囲を必ず確認すること。8V入力の機器にD-Tapで14.4Vを供給すると、機器が故障する可能性がある。

BPコネクタ
BPコネクタ は、Vマウントバッテリーの背面(マウント面)に設けられた接点である。バッテリープレートやケージキットのVマウントプレートに装着した際、このBP接点を通じて電力が供給される。

DC出力(8V / 12V)
Vマウントバッテリーによっては、レギュレート済みのDC出力を備えているものがある。SmallRig VB99 SEの場合、DC 8V と DC 12V の2系統が搭載されている。これにより、機器の入力電圧に合わせて適切な電圧を選択できる。



USB-C / USB-A
最新のVマウントバッテリーは、USB-CやUSB-A出力を備えている。スマートフォンの充電、ワイヤレスマイクの充電、さらにはUSB PD対応カメラへの直接給電にも使える。SmallRig VB99 SEのUSB-C出力はPD 65Wに対応しており、ノートパソコンの充電すら可能である。
DCコードのロックケーブルを選ぶべきだ
DCバレルコネクタの「抜けやすさ」は外部給電における最大のリスクのひとつである。Vマウントバッテリーの場合、D-Tapからのケーブルが抜ければ、カメラだけでなくモニターやレコーダーも同時にダウンする可能性がある。
KONDOR BLUE Coiled D-Tap to Locking DC 2.1mm Right Angle Cable
KONDOR BLUE(コンドルブルー)は、映像制作向けのケーブル・アクセサリーを専門とするカリフォルニア拠点のブランドである。同社のロックDCケーブルは、業界で高い評価を得ている。
主な仕様
- コネクタ: D-Tap → DC 5.5×2.1mm(ロック機構付き)
- 形状: コイル型(カールコード)
- 伸長時の長さ: 約40〜80cm(16″〜32″)
- ロック方式: ネジ式ロック(DC側)
- コネクタ角度: ライトアングル(L字型)
ネジ式ロック機構により、コネクタが意図せず抜けることを防止する。ライトアングルのコネクタは、カメラリグの隙間に取り回しやすく、ケーブルにかかるストレスも軽減される。コイル型なので、必要な長さだけ引き出し、余ったぶんは自動的に縮む。
なぜロックケーブルが必要なのか ——収録中にケーブルが抜けてカメラへの給電が途絶えた場合、カメラの内蔵バッテリーが入っていなければ即座に電源が落ちる。たとえ内蔵バッテリーが入っていても、外部給電から内蔵バッテリーへの切り替わりの際にカメラがシャットダウンするリスクがある。ロックケーブルは「安心料」である。
SmallRig Vマウントバッテリー VB99 SE


SmallRig VB99 SEは、99WhクラスのミニVマウントバッテリーとして、コンパクトさと多機能性を両立した製品である。航空機への持ち込みが可能な99Wh以下の容量設計も、ロケ撮影を行うクリエイターにとって重要なポイントだ(航空各社の規定では、一般的にリチウムイオンバッテリーは100Wh以下であれば手荷物として機内持ち込みが可能とされている)。
主な仕様
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 容量 | 98.872Wh(6,800mAh / 14.54V) |
| セル | LG製リチウムイオンセル |
| USB-C | PD 3.0 65W(双方向:出力・充電両対応) |
| USB-A | 出力対応 |
| D-Tap | 出力対応(非レギュレート) |
| BP接続 | 対応 |
| DC 8V出力 | 対応 |
| DC 12V出力 | 対応 |
| ディスプレイ | OLEDスクリーン(残量・電圧・出力ワット数・各ポート使用状況を表示) |
| 充電方式 | USB-C PD 65W急速充電(約2.5時間で満充電) |
| 急速充電プロトコル | PD / QC / PPS |
| 筐体素材 | 難燃性PC素材 |
| マウントネジ | 1/4″-20 および 3/8″-16 |
| 保護機能 | 過電流・短絡・過温度・過電圧保護(BMS搭載) |
VB99 SEの注目ポイント
1. USB-C PD 65Wの双方向対応
出力としてカメラやモニターに給電できるだけでなく、充電もUSB-C PD 65Wで行える。65W以上のGaN充電器があれば、約2.5時間でフル充電が完了する。従来のVマウントバッテリーが専用充電器を必要とし、充電に3〜5時間かかっていたことを考えると、これは革命的な改善である。
2. 複数ポートの同時使用
D-Tap、DC 8V、DC 12V、USB-C、USB-Aの各ポートはそれぞれ独立した回路を持っており、同時に複数の機器に給電できる。たとえば、D-TapからATOMOS Ninja TXに給電しつつ、DC 8Vポートからカメラカプラーに給電し、USB-Aでスマートフォンを充電する——といった運用が1台のバッテリーで可能だ。
3. OLEDディスプレイ
明るいOLEDスクリーンに、バッテリー残量、電圧、現在の出力ワット数、残り使用時間、各ポートの使用状況がリアルタイムで表示される。「あとどれくらい持つのか」を数値で把握できるのは、収録の現場では非常に心強い。
SmallRig Canon EOS C50用アドバンスケージキット SR5658

Canon C50にVマウントバッテリーを組み合わせるなら、SmallRig SR5658は最有力の選択肢である。このケージキットは、C50の保護と拡張を同時に実現するプロフェッショナル向け製品だ。
主な構成・特徴
- Vマウントバッテリープレート: ケージ背面にVマウントプレートを搭載。VB99 SEなどのVマウントバッテリーを直接装着し、BP接続を通じてカメラに給電できる
- XLRハンドルエクステンションリグ: マイクやモニターの取り付けポイントを追加
- HDMIケーブルクランプ: HDMIケーブルの脱落を防止。外部レコーダーとの接続を安定させる
- Arca-Swiss クイックリリースプレート: 三脚への迅速な着脱が可能
- コールドシュー×2 / NATOレール×2: アクセサリーの拡張ポイントが豊富
- リストストラップ付属: ハンドヘルド撮影時の安定性を向上
Canon C50のバッテリー端子はDC 7.2V(LP-E6P互換)であり、VB99 SEのBP出力またはD-Tap出力から適切な電圧変換を経てカメラに給電される。SR5658のVマウントプレートはこの変換を内蔵しているため、ユーザーがケーブルの電圧を気にする必要はない。
実践セットアップ例:Canon C50 + VB99 SE + Ninja TX
構成機材
- Canon C50(シネマカメラ)
- SmallRig VB99 SE(Vマウントバッテリー)
- SmallRig SR5658(Canon C50用アドバンスケージキット、Vマウントプレート内蔵)
- ATOMOS Ninja TX(モニターレコーダー)
- KONDOR BLUE Locking DC 2.1mm Coiled Cable(D-Tap → ロックDCケーブル)
セットアップ手順
- Canon C50にSmallRig SR5658ケージを装着する
- ケージ背面のVマウントプレートにSmallRig VB99 SEを装着する(V-Lockでカチッと固定)
- ケージのBP接続を通じて、VB99 SEからCanon C50に給電が開始される
- ATOMOS Ninja TXへの給電は、以下のいずれかの方法を選択する
方法A:D-Tap + カプラーケーブル経由
VB99 SEのD-TapポートからKONDOR BLUEのロックDCケーブルでNinja TXに給電する。Ninja TXの入力電圧範囲は6.2〜16.8VDCであり、D-Tapの約14.4V出力は範囲内である。ただし、Ninja TXのDC入力端子の仕様を必ず確認し、適切なDCケーブルを使用すること。
方法B:Ninja TX用に別途NP-Fバッテリーを使用
Ninja TXにはNP-F970を直接装着し、カメラ側のみVB99 SEから給電する。もっともシンプルな構成だが、管理するバッテリーの種類が増える。
実用的な推奨構成: Canon C50はSR5658 + VB99 SEで給電し、Ninja TXにはNP-F970を直接装着する 方法B が、もっとも安定感のある構成である。すべてを1台のVマウントバッテリーで賄いたい場合は 方法A を選択し、KONDOR BLUEのロックケーブルでD-TapからNinja TXへ給電する。


主なVマウントバッテリー(USB-PD充電対応モデル)
2025年以降、Vマウントバッテリーの世界にも「USB-C PD充電対応」の波が押し寄せている。専用充電器が不要になることで、導入のハードルは大きく下がった。ここでは、USB-PDで充電可能な主要モデルを紹介する。
| 製品名 | 容量 | USB-C PD出力 | USB-C PD充電 | その他の出力 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| SmallRig VB99 SE | 99Wh / 6,800mAh | 65W | 65W(約2.5時間で満充電) | D-Tap / BP / DC 8V / DC 12V / USB-A | OLEDディスプレイ搭載。LGセル。航空機持ち込み可 |
| SmallRig VB99 Pro | 99Wh | 100W | 100W(約2.5時間で満充電) | D-Tap / BP / DC 8V / DC 12V / USB-A | カラーTFTディスプレイ。USB-C×2ポート搭載。VB99 SEの上位版 |
| SmallRig VB50 | 50Wh / 3,400mAh | 45W | 45W(約1.5時間で満充電) | D-Tap / BP / DC 8V / DC 12V / USB-A | 超コンパクト。LGセル。サブバッテリーや軽量運用に最適 |
| NEEWER Mini V Mount(50Wh) | 50Wh / 3,450mAh | 45W | 45W | D-Tap / BP / DC(デュアル)/ USB-A | OLEDスクリーン搭載。エントリー向け |
ポイント: 99WhはFAA(米国連邦航空局)をはじめ多くの航空会社が手荷物として機内持ち込みを認める上限に近い容量である。ロケ撮影で飛行機を利用する可能性があるなら、99Whクラスを選んでおくと安心だ。150Whクラスは航空会社への事前申告が必要になる場合がある。
NP-F vs Vマウント——総合比較
ここまで前編・後編を通じて解説してきたNP-FバッテリーとVマウントバッテリーを、6つの評価軸で比較する。
| 評価軸 | NP-Fバッテリー | Vマウントバッテリー | 判定 |
|---|---|---|---|
| イニシャルコスト | バッテリー + アダプター + カプラーで約1万円〜 | バッテリー + ケージキットで約4〜6万円〜 | NP-Fが有利 |
| 重量 | NP-F970 + SR3018 で約350g | VB99 SE 単体で約595g + プレート/ケージ | NP-Fが有利 |
| セットアップの手間 | カプラー + アダプター + DCケーブル。慣れれば1分 | ケージ装着 + バッテリースライド。一度組めば着脱は簡単 | ほぼ同等 |
| 運用時の事故リスク | DCバレルコネクタが抜けやすい。ロックケーブル推奨 | V-Lock機構で確実に固定。D-Tapも比較的安定。ロックケーブルでさらに安心 | Vマウントが有利 |
| 拡張性 | 2ポート出力(SR3018)。同時給電は1〜2台が限界 | D-Tap / BP / DC / USB-C / USB-A の5系統以上。3台以上の同時給電が可能 | Vマウントが圧倒的に有利 |
| バッテリー持続時間 | NP-F970(45Wh)でEOS R50V単体 約4〜5時間 | VB99 SE(99Wh)でC50 + Ninja TX同時給電 約2時間、C50単体なら約5時間以上 | 用途による |
どちらを選ぶべきか
NP-Fバッテリーが向いている人
- ミラーレス一眼(FX30やEOS R50Vなど)で カメラ単体 への長時間給電が目的
- できるだけ 軽量・コンパクト にまとめたい
- 予算を抑えて 外部給電を始めたい
- 外部モニターやレコーダーには、NP-Fバッテリーを直接装着して対応できる
Vマウントバッテリーが向いている人
- シネマカメラ(Canon C50など)を含む 複数の機器 に同時給電したい
- 外部モニターレコーダー(ATOMOS Ninja TX)、伝送装置など、電力を多く消費する周辺機器 を使用する
- ケーブルの抜け落ちなど、収録中の事故リスク を最小限にしたい
- 長期的に 機材を拡張 していく予定がある
- 充電の利便性 を重視する(USB-C PD対応で専用充電器が不要)
両方を使い分けるという選択肢
実際の現場では、NP-FバッテリーとVマウントバッテリーを組み合わせて運用するケースが多い。たとえば、Canon C50にはSR5658 + VB99 SEでVマウント給電を行い、Ninja TXにはNP-F970を直接装着する——という構成である。
「すべてを1種類のバッテリーで統一する」ことにこだわるよりも、各機器の消費電力と使用時間に合わせて最適なバッテリーを選ぶ ほうが、結果的に軽量かつ合理的な構成になることが多い。
まとめ
ミラーレス一眼カメラでの長時間収録において、外部バッテリーからの給電は「あると便利」ではなく 「なくてはならない」 技術である。
- NP-F互換バッテリー は、手軽さとコストのバランスに優れた入門的選択肢だ。カメラ単体の給電なら、これで十分に対応できる
- Vマウントバッテリー は、複数機器への同時給電と圧倒的な容量で、プロフェッショナルな収録現場を支える
- どちらを選ぶにしても、カプラーの規格、DC端子のサイズ、ケーブルのロック機構 を正しく理解し、適切な機材を選定することが、安全で安定した電源供給の第一歩である
バッテリーが切れて困るのは、いつも「一番大事な瞬間」だ。その瞬間を逃さないために、いまのうちに電源まわりの準備を整えておこう。
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典拠
- SmallRig「VB99 SE Mini V-Mount Battery」製品ページ https://www.smallrig.com/VB99-SE-mini-V-Mount-Battery-4608.html
- SmallRig「V Mount Battery Guide 2026」 https://www.smallrig.com/blog/v-mount-battery-guide.html
- SmallRig「Cage Kit for Canon EOS C50(Advanced Edition)SR5658」製品ページ https://www.smallrig.com/smallrig-cage-kit-for-canon-eos-c50-5658.html
- KONDOR BLUE「Coiled D-Tap to Locking DC 2.1mm Right Angle Cable」製品ページ https://kondorblue.com/products/coiled-d-tap-to-locking-dc-2-1mm-right-angle-cable
- ATOMOS「Ninja TX Tech Specs」 https://www.atomos.com/tech-specs/ninja-tx/
- ATOMOS「Ninja TX – 5″ Monitor-Recorder + Power Kit」https://www.atomos.com/product/ninja-tx-5-monitor-recorder-power-kit/
- Canon 欧州「EOS C50 Specifications」https://www.canon-europe.com/video-cameras/eos-c50/specifications/
- Canon USA「EOS C50 Body Technical Specifications」https://www.usa.canon.com/shop/p/eos-c50
- SmallRig「NP-F Battery Adapter Plate Lite SR3018」製品ページhttps://www.smallrig.com/smallrig-np-f-battery-adapter-plate-lite-3018.html
- Photography Life「SmallRig VB99 Battery Review」 https://photographylife.com/reviews/smallrig-vb99-battery
- Fstoppers「Review of the SmallRig VB99 Pro Mini V-Mount Battery」 https://fstoppers.com/reviews/review-smallrig-vb99-pro-mini-v-mount-battery-677135
- NEEWER「Best V-Mount Batteries in 2026」https://neewer.com/blogs/blog/best-v-mount-batteries-in-2025-to-power-your-outdoor-shoots
- B&H Photo「SmallRig Advanced Cage Kit for Canon EOS C50 5658」https://www.bhphotovideo.com/c/product/1920352-REG/smallrig_5658_advanced_cage_kit_for.html
- Amazon「Fomito NP-F Dummy Battery to V-Lock V Mount Plate」https://www.amazon.com/Fomito-Battery-V-Lock-Monitor-FEELWORLD/dp/B08JGTY6M7
- B&H Photo「Atomos Ninja TX 5.2″ HDMI/12G-SDI Wi-Fi-Enabled Camera Monitor/Recorder」https://www.bhphotovideo.com/c/product/1908409-REG/atomos_atomnjtx01_ninja_tx_5_camera_to_cloud.html





