その他のRAWフォーマット概観|ARRIRAW・CinemaDNG・Panasonic・DJIほか|動画RAWコーデック解剖(11)

動画RAWコーデック解剖(11)

これまでの各章で扱ってきたProRes RAW、BRAW、REDCODE、Canon、X-OCN、N-RAWだけが動画RAWのすべてではない。現場では、ハイエンドの基準を作ってきた老舗のフォーマットや、かつて広く使われて姿を消した規格、ミラーレスやドローンから出てくるRAWにも出会う。本章では網羅を狙わず、実務で遭遇する頻度を基準に、主要RAW以外のフォーマットの要点を整理する。

目次

ARRIRAW:ハイエンドの基準

ARRIRAWは、ARRIが「非圧縮・非暗号化・無妥協」と位置づけるセンサーデータである。ALEV3やALEV4といったセンサーが受け取ったBayer配列のフレームを、12bit(ALEXA 35では13bit)のlogで保持する。拡張子は.ariまたは.mxfで、T-Link(HD-SDI)経由の外部記録や、MXFコンテナへの内蔵記録として運用される。

特徴は、加工を極力避けて素のセンサーデータに近い状態を保つ設計思想にある。その代償はデータ量だが、ここにもロスレス圧縮の波が及んでいる。CodexのHDE(High Density Encoding)は画質を損なわずにファイルサイズを40%を超えて削減でき(平均で元の約60%)、その仕様はSMPTE RDD 51として文書化されている。ARRIRAWをMXFコンテナへ収める方式やARRIカメラのメタデータ運用は、それぞれSMPTE RDD 54/RDD 55として別に規定されている。ハイエンドの現場でも、非圧縮のまま抱えるのではなく、ロスレスで賢く縮める運用が定着している。ProResを同時に、あるいは代替として併用する現場も多い。

CinemaDNG:オープン規格の興亡

CinemaDNGは、Adobeが主導したオープンな動画RAW規格である。Adobe公式の「CinemaDNG Image Data Format Specification」は、この形式をDNG・TIFF・TIFF/EP・MXF・XMPといった既存の標準を組み合わせた、オープンで文書化された形式と定義している。各フレームは写真用のDNG画像形式で個別に符号化され、映像ストリームは二通りの方法で格納できる。一つはMXFファイルに映像エッセンスとして収める方式、もう一つはDNGファイルを連番のファイル名で並べたディレクトリに収める方式である。ディレクトリ構造は最上位を「CONTENTS」とし、その下にCLIP(メタデータ)・VIDEO・AUDIO・IMAGE・ICON・PROXYを置くと規定される。仕様上、準拠デコーダはDNGバージョン1.1への対応を求められ、それ以降のバージョン対応は任意とされる。土台となるDNG自体はAdobeが特許ライセンスを公開したオープン規格であり、2026年にはISO 12234-4:2026として国際標準にもなった。Ikonoskop A-Camや初期のBlackmagicカメラ、後年のSIGMA fpなどで採用され、オープンであることが強みだった。

しかし2019年、Blackmagicは「Blackmagic Camera 6.2」でCinemaDNGのサポートを削除し、自社のBRAWへと移行した。ここで因果関係を丁寧に確かめておきたい。BlackmagicのCEOであるGrant Pettyが公に語った理由は「他社による特許侵害クレーム」であり、その相手企業名は明かされていない。つまりBlackmagic自身の公式説明はREDを名指ししておらず、「REDの圧縮RAW特許が原因だ」という説明は報道や業界の推測にとどまる。一方、裁判記録の面から確度が高いのは、2021年にREDがKinefinityを提訴した訴状である。この訴状はKinefinityのKineRAWとともにCinemaDNGを自社特許の侵害コーデックとして名指ししており、REDがCinemaDNGを自社特許の射程に含めて捉えていた事実は、この裁判記録で裏づけられる。ただしこの訴訟自体は約8か月後にRED側の申立てにより取り下げられた(不利益なき取下げ)。なお、REDがBlackmagicをCinemaDNGで直接提訴した記録は確認できず、Blackmagicは訴訟を待たずに先んじて形式を手放した格好である。オープン規格であっても、特許という知的財産の壁の前では存続が難しくなるという事例として、CinemaDNGの退場は示唆に富む。

Panasonic系:ミラーレスからのRAW出力

Panasonicは、LUMIX S1Hで動画RAWの新しい道を開いた。2020年のファームウェア更新により、HDMI経由で5.9K/4K/3.5KアナモルフィックのRAWをAtomos Ninja VへProRes RAWとして出力できるようになった。これはフルフレームミラーレスとして初のRAW出力だった。さらに2021年のファームウェア2.4では、Blackmagic Video Assist 12G HDRへのBRAW出力にも対応し、出力先の選択肢を広げた。

その後Panasonicは、外部出力にとどまらず内部収録へと踏み込む。2024年発売のLUMIX DC-GH7は、CFexpressやSSDへProRes RAWおよびProRes RAW HQを直接記録できる初のLUMIXとなった。外部レコーダーを介さずカメラ単体でProRes RAWを完結させる設計であり、S1Hが開いた「ミラーレスからのRAW」という道は、外部出力から内部収録へと一段進んだことになる。GH7の詳細は第4章で扱う。

こうしてPanasonicの歩みは、外部レコーダーと組み合わせてRAWを得る方式と、カメラ内部でRAWを完結させる方式の双方を含むものになった。ミラーレスがRAWの器として成熟してきたことを示す好例である。

DJI:ドローンとジンバルからのRAW

シネマドローンやジンバル一体型カメラの分野でも、RAWは標準になりつつある。DJIのRonin 4DはZenmuse X9(フルフレーム6K)を、Inspire 3はZenmuse X9-8K Air(フルフレーム8K)を搭載する。Inspire 3は8K/75fpsのProRes RAWと8K/25fpsのCinemaDNGに対応し、独自のD-Log/D-GamutからACESワークフローへ接続できる。空撮という制約の多い環境でも、ハイエンドと同じRAWの土俵に乗ってきていることがわかる。

その他:Z CAMとKinefinity

Z CAMのE2シリーズは、ZRAW(partial debayer、12bit)を搭載する。記録メディアはCFast 2.0で、ZRAWの現像には専用のZRAW VideoSuiteが必要になる。HDMI経由のProRes RAW出力にも一部対応する。partial debayerという方式は、完全な生データと完全に現像済みの映像の中間に位置づけられ、RAWの「生さ」には段階があることを思い出させる。

Kinefinityは、歴史的なKineRAWから、MAVOシリーズではCinemaDNGとProResを採用する構成に移行した。記録はKineMAG SSDへ行い、KineLOG3、14ストップを超えるラチチュードを確保する。独自RAWから業界標準フォーマットへ寄せる流れは、CinemaDNGの事例と合わせて、RAWの世界における「独自路線」と「標準への合流」の綱引きを映している。

2018年以降の対応主要機種

以下は各形式の代表的な対応機種と到達解像度の整理である。機種別の詳細数値は各社公式仕様で今後確定する。

フォーマット主な対応機種(2018年以降)到達解像度記録・出力形態
ARRIRAWALEXA Mini LF、ALEXA 354.5K〜4.6K級内蔵MXF記録・T-Link外部記録、Codex HDEでロスレス圧縮可
CinemaDNG初期Blackmagic各機(2019年に廃止)、SIGMA fp、DJI Inspire 3機種依存(Inspire 3で8K/25fps)DNG連番ディレクトリまたはMXF(準拠デコーダはDNG 1.1対応)
Panasonic(外部RAW出力/内部ProRes RAW)LUMIX S1H、LUMIX DC-GH7S1H 5.9K(HDMI外部出力)、GH7 5.7K(内部収録)S1Hは外部レコーダーへProRes RAW/BRAW出力、GH7はCFexpress/SSDへProRes RAW/RAW HQを内部記録
DJIRonin 4D(6K)、Inspire 3(8K)フルフレーム8K(Inspire 3)内部記録(ProRes RAW/CinemaDNG)
Z CAM ZRAWE2シリーズ6K級(機種依存)CFast 2.0へ内部記録、一部HDMIでProRes RAW
KinefinityMAVOシリーズ6K級(機種依存)KineMAG SSDへCinemaDNG/ProRes記録

解像度やデータレートの機種別の精緻化は、各社公式仕様とARRI FDRCで今後確定する。

まとめ

主要RAW以外のフォーマットを見渡すと、二つの流れが浮かび上がる。一つは、ARRIRAWのように非圧縮の思想を保ちつつロスレス圧縮で現実解を得る、ハイエンドの洗練。もう一つは、CinemaDNGの退場やKinefinityの方針転換に見られる、独自規格から標準フォーマットへの合流である。そしてPanasonicやDJIの例は、RAWがシネマカメラの専有物ではなくなり、ミラーレスやドローンにまで広がったことを示している。どのフォーマットに出会っても、その背後にある設計思想と知的財産の事情を読み解けば、現場での判断は誤らない。

出典(一次情報)


動画RAWコーデック解剖

  1. RAWとは何か|A/D変換・デベイヤーと「RAWのグラデーション」
  2. RAWの代償|データ量・熱・記録時間・メディア・ワークフロー
  3. なぜ同じ「RAW」で画質差が生まれるのか|内部収録RAWと外部ProRes RAWの技術的差異
  4. ProRes RAW|Apple×Atomosが選んだ「生に近い」設計
  5. Blackmagic RAW(BRAW)|「最適化されたRAW」という発明
  6. REDCODE RAWと特許|動画RAWを縛った知的財産の構造
  7. CanonのRAWコーデック群|Cinema RAWとCinema RAW Light(ST・HQ・LT)
  8. Sony X-OCN 前編|歴史と設計思想(FX5から遡るVENICE・F5/F55の系譜)
  9. Sony X-OCN 後編|ワークフロー・対応ソフトウェア・他RAWとの比較
  10. Nikon N-RAWとTicoRAW|ライセンスRAWという第三の道
  11. その他のRAWフォーマット概観|ARRIRAW・CinemaDNG・Panasonic・DJIほか
  12. 総合比較|「どれだけRAWか」の見取り図と2026年版マトリクス
  13. カラーマネジメントとアーカイブ|ACES・メタデータ駆動現像・長期保存
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