「センサー」という言葉の考古学

イメージセンサー・クロニクル (1)

人は古くから、自分の目や耳だけでは足りないと感じてきた。暖かさを数字で知りたい。暗闇の先を見たい。目に見えない力を捉まえたい。その欲求が、温度計や磁針、やがて電気を使った検知装置を生んだ。今ではこうした装置をまとめて「センサー」と呼ぶ。カメラのイメージセンサーも、その一員である。

では、「センサー」という言葉は、いつ生まれたのだろうか。そもそも何を意味していたのか。本章では、イメージセンサーの話に入る前に、「探知する」という営みの前史と、sensorという語の考古学をたどる。言葉の来歴を知ることは、その言葉が指すものの本質を知ることでもある。

目次

「探知する」という営みの前史(19世紀以前)

言葉が生まれる前から、探知という営みは存在していた。人間には視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚という五つの感覚がある。これらは、外界の変化を体の中に取り込むための、生まれながらの検知装置だと言える。だが、人間の感覚には限界がある。暖かい・冷たいは分かっても、何度なのかは分からない。明るい・暗いは分かっても、目に見えない赤外線や紫外線は捉えられない。

この限界を超えようとして、人は道具をつくった。体温や気温を目盛りで読む温度計。北を指す磁針。重さを比べる天秤。これらはいずれも、人間の感覚を外側へ拡張した道具である。感覚では漠然としか分からないものを、数として、あるいは方向として取り出す。この「感覚の延長」こそが、のちにセンサーと呼ばれるものの原型だった。

ただし、19世紀以前のこれらの道具には、一つの共通点がある。出力が「人間の目で読むことを前提としていた」点だ。温度計の目盛りも、磁針の向きも、最後には人が目で見て判断する。検知の結果を電気の信号に変えて、機械自身に読ませるという発想は、まだなかった。この発想の転換が起きるのは、半導体と電子回路が登場する20世紀を待たねばならない。そして奇妙なことに、「センサー」という言葉自体は、この転換のはるか前から存在していた。

語源をたどる:sentireからsenseへ

sensorという語の根をたどると、ラテン語のsentire(センティレ)に行き着く。意味は「感じる」「知覚する」である。この語根は、英語だけでなくフランス語やイタリア語などのロマンス諸語に広く引き継がれている。

英語では、まずsense(名詞)が「感覚」の意で定着し、やがて動詞としても使われるようになる。オンライン語源辞典(Online Etymology Dictionary)によれば、動詞senseは1590年代に「perceive (an object) by the senses」、すなわち「感覚によって(対象を)知覚する」という意味で現れたという。さらに形容詞sensory(感覚の)は1749年に、ラテン語sensorius、さらにsentireの過去分詞sensusから派生したとされる。

つまり、「感じる」というラテン語の動詞が、英語のsenseやsensoryという語群を形作った。その延長線上に、「感じるもの」「知覚するもの」を意味するsensorが位置する。語尾の-orは、actor(行為するもの)やconductor(導くもの)のように、「〜するもの」を表す接尾辞である。したがってsensorを直訳すれば、「感じるもの」「知覚するもの」となる。この語源を知っておくと、のちにセンサーの意味が大きく変わる瞬間が、よりはっきり見えてくる。

sensorという語の登場と初期用例

意外に思われるかもしれないが、sensorという語形自体はかなり古い。オックスフォード英語辞典(Oxford English Dictionary、以下OED)は、名詞sensorの最古の用例を次のように記している。

The earliest known use of the noun sensor is in the late 1500s. OED’s earliest evidence for sensor is from 1595, in the writing of George Chapman, poet and playwright.

「名詞sensorの知られる限り最古の用例は1500年代後半である。OEDが持つ最古の証拠は1595年、詩人で劇作家のジョージ・チャップマンの文章に見られる」。つまり、1590年代に動詞senseが現れたのとほぼ同じ頃に、sensorという名詞も英語の中に現れていた。

ただし、ここに大きな注意が必要である。この16世紀末のsensorは、現代の「検知装置」を意味していない。当時の用法は現代ではほとんど使われない古い意味であり、「感じるもの」という語源に忠実な、むしろ人間の知覚に寄り添った語であった。

では、現代の「物理現象を捉えて信号を出す装置」という意味は、いつ定着したのか。これは20世紀のことである。メリアム・ウェブスター(Merriam-Webster)は、検知装置としてのsensorの初出を1928年頃とする。またオンライン語源辞典は、さらに限定して次のように記す。

“device giving a signal about some physical activity,” 1947, from a shortened form of sensory or an agent noun in Latin form from sense (v.).

「なんらかの物理的な活動について信号を出す装置」の意は1947年で、sensoryの短縮形、または動詞senseからのラテン語形の行為名詞に由来する、となる。

ここに、言葉の歴史の面白さがある。sensorという語形は16世紀末には存在していたが、それは人間が「感じる」ことに寄り添う語だった。それが、産業と技術の発展を背景に、「人の代わりに機械が物理現象を捉え、信号を出す装置」へと意味を変えたのだ。同じ一つの語が、人間の知覚から、人間を離れた機械の検知へと重心を移した。この意味の移動こそが、本連載全体を貫く一本の糸である。

日本語における「センサー」「感知器」の受容

日本語では、sensorは主にカタカナ語の「センサー」として受け入れられた。一方で、工業規格や技術文書の世界では、末尾の長音符を省いて「センサ」と表記されることも多い。日常では「センサー」、工学の現場では「センサ」。同じ語が場面によって使い分けられている。

興味深いのは、日本語がカタカナ語を受け入れるだけでなく、漢字による独自の訳語も生み出したことだ。その代表が「感知器」である。火災報知の分野では、現在もこの語が法令用語として使われている。日本の「火災報知設備の感知器及び発信機に係る技術上の規格を定める省令」(昭和五十六年自治省令第十七号)は、天井に取り付けられたあの装置を「感知器」と呼び、熱や煙、炎を検知する装置として規格を定めている。英語のsensorが「感じるもの」だったのと同じように、日本語の「感知器」も「感じて知る器具」という成り立ちを持つ。言葉の選び方に、洋の東西を問わず同じ発想が現れている。

計測の分野に目を向けると、日本産業規格(JIS)のZ 8103「計測用語」が、「測定」や「計測」といった基本用語を定めている。2019年版では、測定を「ある量をそれと同じ種類の量の測定単位と比較して、その量の値を実験的に得るプロセス」と定義する。つまり、何かを基準と比べて数値にすることが測定であり、その入口に立つのがセンサだ。

現代のセンサーの定義は、より技術的になる。米国立標準技術研究所(NIST)は、センサーを次のように定義している。

A sensor is a transducer that converts a physical, biological or chemical parameter into an electrical signal.

「センサーとは、物理的、生物的、または化学的なパラメータを電気信号に変換するトランスデューサ(変換器)である」。ここで重要なのは「電気信号に変換する」という部分だ。現代のセンサーは、光や熱、圧力といった現象を、そのまま人に見せるのではなく、機械が扱える電気信号に置き換える。カメラのイメージセンサーは、この定義を「光」に当てはめたものにほかならない。

本章で扱う「世界の潮流」

言葉の歴史をたどると、一つの大きな潮流が見えてくる。「センサー」の意味が、人間の感覚から、機械が読める電気信号へと移ってきたということだ。この移動は、単なる言葉の問題ではない。世界がどこへ向かっているかを示すしるしである。

今や、センサーは単体で働くだけの存在ではない。検知した値をネットワークに流し、他の機器とやり取りすることが前提になりつつある。その流れを象徴するのが、IEEE(米国電気電子学会)が定めるIEEE 1451という一連の規格である。これは、センサーやアクチュエータを「スマート・トランスデューサ」として扱い、製造情報や校正データを電子的なデータシート(TEDS)としてセンサー自身に持たせ、ネットワークにつなぐための共通規格だ。センサーはもはや「感じるだけの道具」ではなく、自らを名乗り、ネットワークの一員となる存在へと変わりつつある。

この潮流は、日本国内では意外に語られない。カメラを選ぶとき、私たちは画素数やセンサーサイズばかりを見る。だが世界では、センサーをどうネットワークに組み込み、どう標準化するかという戦いが進んでいる。イメージセンサーも、その大きな流れの中にある。カメラのセンサーが単に「良い写真を撮る部品」ではなく、自動運転や監視、産業計測といった広大なセンサーの世界の一部であるという事実は、この連載を通して何度も立ち現れるだろう。

次章では、半導体が登場する前の時代に戻り、セレンの光導電性やボロメーターなど、光や熱を捉えようとした先人たちの道具をたどる。言葉としてのセンサーの前史を見たいま、実物としてのセンサーの前史へと進む。

典拠(出典一覧)


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