イメージセンサー・クロニクル (10)
前章では、センサーの値段を決める歩留まりという製造の現実を見て、その壁を乗り越える技術こそが各社の見せどころだと述べた。だが、技術はひとりでに生まれない。後には必ず、それを考え、手を動かした人がいる。本章では、撮像素子をつくる人々に光を当てる。彼らはどんな学問を学び、どんな場所で働き、どんな道を歩んできたのか。そして、もし今この記事を読む高校生が、いつかセンサーをつくる側に回りたいと思ったとき、何を目印にすればよいのか。この章は、技術の裏側にいる人の姿と、そこへ至る道のりを描く。
センサー開発者の実像
撮像素子の開発者とは、どんな人々なのか。一言で言えば、複数の学問の交差点に立つ人たちである。光を電気に変えるには、ケイ素の中で光と電子がどう振る舞うかを知る物理が要る。その微弱な信号を拾い、増幅し、読み出すには電子回路の知識が要る。それを実際のチップにするには半導体の製造工程を、レンズやカラーフィルターとの重なりを設計するには光学の目が要る。一人ですべてを兼ねる人はまれだが、開発者は少なくともこれらの境界をまたいで会話できる人たちである。
この実像をよく体現しているのが、本連載の第7章で登場したエリック・フォッサムである。トリニティ・カレッジで物理学と工学を学び、イェール大学で博士号を取得したのち、NASAのジェット推進研究所でCMOSの能動画素センサーを生み出し、その後は自ら企業を起こし、今は大学で教えている。彼が在籍するダートマス大学の公式ページは、彼の業績をこう記す。
He invented the CMOS active pixel image sensor used in almost all cell-phone cameras, webcams, many digital-still cameras and in medical imaging, among other applications.
和訳すれば、「彼は、ほとんどすべての携帯電話のカメラ、ウェブカメラ、多くのデジタルスチルカメラ、そして医療用の撮像などに使われるCMOS能動画素イメージセンサーを発明した」となる。同ページはまた、彼がこの発明で工学の大きな賞であるドレーパー賞を受けたことを伝え、その発明を「カメラ・オン・ア・チップ」、すなわち一枚のチップの上のカメラと呼んでいる。
注目したいのは、彼が今も前を見ていることだ。同ページは彼の現在の関心を次のように記す。
His interests at Dartmouth are teaching and researching the next generation of solid-state image sensors for photon-counting and gigapixel cameras.
「ダートマスでの彼の関心は、光子を数える方式やギガ画素のカメラのための、次世代の固体撮像素子を教え、研究することにある」。発明して終わりではなく、次の世代の技術と人を育てている。開発者とは、一つの発明に留まらず、問いを次へと渡していく人なのである。
そして、こうした開発者は孤立しているわけではない。世界中のセンサー研究者が集い、成果を発表し合う場がある。国際イメージセンサーワークショップ(IISW)は、固体撮像素子に特化した世界的な技術フォーラムである。主催の国際イメージセンサー学会の公式サイトによれば、直近では2025年6月に日本の淡路で、次回は2027年6月にカナダのウィスラーで開かれるという。開催の地が地域をまたいで回っており、日本がその一角を担っていることが、この分野における日本の存在感をさりげなく示している。
必要な学問:固体物理・電子工学・半導体プロセス・光学
では、センサーをつくるには、具体的にどんな学問が必要なのか。大きく四つの柱がある。
一つ目は固体物理である。本連載の第3章で見たように、半導体の中では電子が特別な振る舞いをする。光が当たると電子が飛び出し、電気を生む。この光電効果や、ケイ素が波長によって光を吸う深さを変える性質など、撮像の根底にある現象は、すべて固体物理の言葉で語られる。
二つ目は電子工学である。画素が生んだわずかな電荷を、雑音に埋もれさせずに拾い上げ、増幅し、数字に変えて送り出す。この一連の仕組みは、すべて電子回路の設計にかかっている。現代のCMOSセンサーが、光を受けるだけでなく信号処理までをチップの上でこなすことを思えば、回路設計の重みは増すばかりである。
三つ目は半導体プロセス、つまり製造の学問である。前章で見た歩留まりをはじめ、どのような工程で、どの程度の細かさで回路をウェハに焼きつけるかは、センサーの性能と価格を左右する。設計と製造は別々のものではなく、両方を知ってはじめて良いセンサーがつくれる。
四つ目は光学である。センサーは単体では像を結ばない。レンズが集めた光をどう受けるか、画素の上に並べるカラーフィルターをどう設計するか、斜めから入る光をどう扱うか。こうした問題は光学の領分である。第8章で見た曲面センサーが、レンズとの関係から生まれたのを思い出したい。
この四つは、どれか一つだけでは完結しない。物理と電子工学と製造と光学が手を取り合って、はじめて一枚の撮像素子になる。開発者が複数の学問の交差点に立つと言ったのは、この意味である。

大学・大学院で何を学ぶか
では、この四つの柱を、学校ではどのように学んでいくのか。
多くの場合、学部の段階では土台を固める。電気電子工学や物理、応用物理といった学科で、数学、電磁気学、回路の基礎、半導体の基礎を広く学ぶ。この段階では、まだセンサーそのものをつくるというより、どの分野にも通じる土台を積むことになる。
本格的に撮像素子に取り組むのは、多くの場合大学院に進んでからである。研究室に属し、実際のデバイスを設計し、試作し、測定して論文にまとめる。国内でスマート機能を持つCMOSイメージセンサーの研究で知られる静岡大学のImaging Devices Laboratory(撮像デバイス研究室)は、研究内容と並んで教育を重視する姿勢を、公式ページでこう述べる。
Education for graduate students is another important mission of the IDL.
「大学院生の教育は、当研究室のもう一つの重要な使命である」。同研究室の紹介によれば、主な研究テーマは次のように広がる。
Major research topics of Imaging Devices Laboratory (Head: Prof. Dr. Shoji Kawahito) are in CMOS image sensors with smart functions, high-performance CMOS image sensors, signal processing circuits for CMOS integrated sensors, and CMOS analog/mixed-signal integrated circuits for imaging and communication systems.
「撮像デバイス研究室(主宰:川人祥二教授)の主な研究テーマは、スマート機能を持つCMOSイメージセンサー、高性能CMOSイメージセンサー、CMOS集積センサー向けの信号処理回路、そして撮像・通信システム向けのCMOSアナログ・混合信号集積回路である」。センサーと回路と信号処理が一つの研究室の中で地続きであるというこの並びは、先に見た四つの学問の交差を、そのまま映している。
大学院での学びは、教科書を読むだけではない。自分で問いを立て、手を動かして確かめ、うまくいかない原因を探る。フォッサムがNASAでCMOSセンサーを形にしたのも、川人研究室が数々のスマートセンサーを生んできたのも、この地道な繰り返しの先にある。
国内外の研究室とキャリアパス
センサーの道は、一本道ではない。国内外の研究室と、そこから伸びるキャリアの形を見ておこう。
国内に目を向ければ、先に挙げた静岡大学は、撮像素子研究の有力な拠点の一つである。この地にそうした伝統があるのは偶然ではない。静岡大学電子工学研究所の公式ページは、同研究所の歴史をこう記す。
静岡大学電子工学研究所は、1965年の設立以来、日本初の新制国立大学附置研究所(工学分野)として、電子工学・材料・デバイス・情報通信など多岐にわたる先端研究を推進してきました。
この地は、日本のテレビ技術の先駆者である高柳健次郎の流れをも汲む。同研究所はいまも高柳健次郎記念シンポジウムを重ねており、画像を電気で捉えるという第6章の主題が、この土地の学統にしっかりと根づいていることが分かる。国内にはほかにも、次世代半導体とセンサの研究を掲げる豊橋技術科学大学など、センサーを学べる場がある。
海外に目を向ければ、フォッサムのダートマス大学のように、発明者自身が教壇に立ち、次世代の研究者を育てている場所がある。キャリアの先も一様ではない。ソニーやキヤノンといったメーカーの開発現場へ進む人もいれば、フォッサムのように大学に残って研究を続ける人もいる。さらに、フォッサムが教え子とともに新会社を起こしたように、自ら企業を立ち上げて技術を世に送り出す道もある。研究、企業での開発、起業。この三つの間を人は行き来しており、どれか一つだけが正解というわけではない。

高校生への進路案内
ここまでを踏まえて、今高校で学んでいる人に向けて、具体的な道筋を示しておきたい。
まず、いま大切にしてほしいのは物理と数学である。光と電子の振る舞いを言葉ではなく式で捉える力は、この先のすべての土台になる。前章で見た歩留まりの式のように、センサーの世界はしばしば数式で語られる。数学を嫌わないでおくことは、将来の選択肢を広げる。
次に、英語も大事な道具である。本章で引いた資料の多くが英語で書かれていたことからも分かるように、最新の成果や研究の場は世界共通の言葉でやりとりされる。先に見たIISWのような国際会議で発表するにも、英語は欠かせない。
そして、学部を選ぶ段になったら、電気電子工学、物理や応用物理、情報工学といった分野に目を向けてほしい。大学を選ぶときには、静岡大学のように撮像素子の研究室を持つ大学があることも思い出してほしい。ただし、いまから進路を一つに絞る必要はない。フォッサムが宇宙探査の現場からカメラの世界へ進んだように、道は思わぬところでつながる。大事なのは、光と電気という、目に見えないものへの好奇心を失わないことである。
本章で扱う「世界の潮流」
センサーをつくる人々を見渡すと、いくつかの潮流が浮かび上がる。
第一に、開発者の世界が国境を越えてつながっていることだ。IISWのような場で、日本もアメリカもヨーロッパも、同じテーブルで成果を競い合う。フォッサムの発明が世界のメーカーによって磨かれ、世界中のカメラに広がったように、この分野の進歩は国をまたいだ協力と競争の上にある。
第二に、その国際的な場において、日本が人材と研究の重要な拠点であり続けていることである。IISWが日本でも開かれ、静岡大学をはじめとする研究室が世界に知られた成果を出している。前章までに見たように、多様な撮像素子の多くが日本発であったのも、その背後に人の層の厚みがあるからだ。
第三に、人の流れが、次世代の技術へと向かっていることである。フォッサムが光子を数えるセンサーを見ているように、研究の最前線はすでに、これまでの延長ではない新しい撮像の形へ進んでいる。そこには、これから学ぶ人のための余地が広がっている。
だれがつくっているのかを知ると、センサーという製品の見え方が変わる。それは電子部品であると同時に、人の好奇心と継続の産物でもある。では、その人々が集まる会社、すなわち世界の目をつくる企業は、どこに、どのように分布しているのか。次章では、視点を人から企業へと広げ、世界の「目」をつくる企業の地図を描いていく。
典拠(出典一覧)
- “Eric R. Fossum,” Dartmouth Engineering(CMOS能動画素イメージセンサーの発明とカメラ・オン・ア・チップ、ドレーパー賞受賞、NASA JPLでの開発、光子を数える次世代センサーの研究、教え子との起業): https://engineering.dartmouth.edu/community/faculty/eric-fossum
- “Imaging Devices Laboratory (Kawahito Kagawa Yasutomi Laboratory),” 静岡大学(主宰・川人祥二教授、スマート機能CMOSイメージセンサーなどの研究テーマ、大学院生の教育を重要な使命とすること): https://idl.rie.shizuoka.ac.jp/index-e.html
- 「静岡大学電子工学研究所 創立60周年記念」、静岡大学(1965年設立、日本初の新制国立大学附置研究所(工学分野)): https://www.rie.shizuoka.ac.jp/?p=6336
- 「ごあいさつ」、静岡大学 電子工学研究所(高柳研究室を原点とすること): https://www.rie.shizuoka.ac.jp/?page_id=13
- 「第27回高柳健次郎記念シンポジウムと第6回ICNERE2025を合同開催しました」、静岡大学(高柳健次郎は「日本のテレビの父」と称される。記念シンポジウムの継続開催): https://www.shizuoka.ac.jp/news/detail.html?CN=11406
- “IRES² 次世代半導体・センサ科学研究所,” 豊橋技術科学大学(次世代半導体とセンサの研究を掲げる研究所): https://www.eiiris.tut.ac.jp/
- “International Image Sensor Society / International Image Sensor Workshop,” IISS(固体撮像素子に特化した国際ワークショップ。2025年6月に日本の淡路、2027年6月にカナダのウィスラーで開催): https://imagesensors.org/
- “IEEE Sensors Council,” IEEE(センサー分野の学会・教育リソース): https://ieee-sensors.org/
次章
11.世界の「目」をつくる企業地図(公開予定)
イメージセンサー・クロニクル
- 序章
- 1.「センサー」という言葉の考古学
- 2.半導体登場以前のセンサーたち
- 3.半導体とは何か
- 4.トランジスタの誕生
- 5.生活に溶け込むセンサー
- 6.画像を電気で捉える
- 7.CMOSイメージセンサーの逆転劇
- 8.イメージセンサーの動物園
- 9.センサーの値段を決める「歩留まり」
- 10.センサーをつくる人々
- 11.世界の「目」をつくる企業地図
- 12.撤退と興亡の歴史
- 13.いま世界を変えているプレイヤー
- 14.2000年代以降の技術革命(前編)
- 15.2000年代以降の技術革命(後編)
- 16.センサーだけでは決まらない画質

