筆者の使い方と結論、更新するか、否か

Evernoteの現在地、更新するか、否か(7)

ここまで、歴史と数字と競合を見てきました。最後に、判断の材料をすべてテーブルに並べます。まずは筆者自身がどう使っているのかを具体的に書きます。抽象論よりも、実例のほうが参考になると思うからです。

前回記事はこちら

目次

筆者はいまEvernoteをこう使っています

端末構成と起動の仕方
複数台のスマホ、iPad、Windows PC、Macで毎日使っています。しかも自動起動に設定しているソフトウェアのひとつです。PCを立ち上げたら、意識しなくてもそこにある。この「意識しなくてもある」状態が、メモアプリには重要だと考えています。

具体的な用途は四つです。

一、とりあえず書くメモとスクリーンショットの保管

機材の仕様、撮影現場での思いつき、見つけた資料の画面。分類を考えずに放り込んでいます。フォルダをどうするかという判断が不要。これがEvernoteの最大の価値だと思っています。

OCRの性能も高く、同様のソフトと比べて写真やスクリーンショットから情報を探し出しやすいという印象です。

ただし、画像の文字起こしはGoogleが数枚上手という印象です。Evernoteには数年前から画像の文字起こし機能がありますが、古い資料などを文字起こしする際の精度はGoogleドキュメントが圧倒的です。特に、明治~昭和前期の資料(旧字体の文書)文字起こしをするときはGoogleで文字起こし→一太郎で修正→Evernote・Notionで文書管理をしています。

二、記事の下書きと、AIに指示を出す前のアイディア出し

記事自体の管理はNotionで行っています。しかし、構成を考えている段階ではEvernoteを使います。理由は単純で、Notionより軽いからです。ページを開いてプロパティを埋めて、という手順を踏む前に、思いついたことをそのまま流し込める。アイディアは手順に弱いものです。

下書きの作成はスマートフォンで音声入力すると、どんなときでもアイディアを掻き出すことが出来るので便利です。

三、AIに入力したプロンプトの保管場所

これは最近の用途ですが、意外に役に立っています。うまくいったプロンプト、失敗したプロンプト、もう少し磨きたいプロンプト。これらは体裁を整える必要がなく、とにかく検索で引ければいい。Evernoteの得意分野にそのまま当てはまります。

四、仕事とプライベートを区別せず、一日中起動しておく

筆者が一日中起動しているソフトウェアは主に3本。Evernote、Notion、Firefox。もちろんAdobeの各種ソフトウェアも長時間使用していますが、MacでもPCでもスマートフォンでもiPadでも……どんなときでも使っているのはこの3本です。

オールインワンにしない理由
古い時代の人間だからかもしれませんが、ひとつのアプリにすべてを集めるという発想が、どうも自分には合いません。用途でアプリを分けたほうが、頭の中の切り替えが楽なのです。メモを取るときはメモを取るアプリを開く。記事を管理するときは管理するアプリを開く。この分離自体が、集中を作る装置になっています。効率の問題ではなく、作業のリズムの問題です。

この使い方から分かるのは、筆者はEvernoteの高度な機能をほとんど使っていない、ということです。使っているのは、軽さと、同期と、検索だけです。この事実は、あとでコストの判断に関わってきます。

逆に、使っていない・使いこなせていない機能

このように「単なる入れ物」として割り切っているため、Evernoteが近年力を入れてきた数多くの機能は、正直なところほとんど使っていません。

  • ホーム画面とデイリージャーナル アプリを開くと毎日ホーム画面が表示されますが、結局はノートのリストから探すか検索して表示させています。デイリージャーナルも試しましたが、あえなく三日坊主で終わりました。
  • タスクリストとカレンダー連携 タスク機能は結局使わなくなり、数年前のタスクが放置されたままです。Microsoft To Doなどを経由して、現在は「フランクリンプランナー」という紙の手帳での管理に戻りました。Googleカレンダーとの連携も設定していますが、Evernote上で予定を見ることは全くありません。
  • タグ、ノートブックの階層化 Evernoteは検索が優秀すぎるため、あらかじめタグ付けしたりノートブックを細かく分類したりする必要性を感じなくなりました。
  • テンプレート これも全く使っていません。
  • スペース機能 Notionよりも長文作成時のアプリ挙動が軽いため個人的な研究用に使ってはいますが、正直なところ使いやすいとは感じていません。結局「雑多な資料はEvernote、整理した成果物はNotion」という切り分けに落ち着いています。
  • スクラッチパッド 機能追加された中では唯一、これだけは一時的なメモとしてたまに使っています。

これから新規にEvernoteを使う価値はあるのか

新規の方に向けて、正直に書きます。

結論から言えば、用途が限定されるなら価値はある、そうでなければ他を選ぶべきです。

新規で選ぶ価値があるケース

あなたの状況Evernoteの適合度理由と優位点
紙の書類を大量にスキャンして探したい高いOCR検索の精度と速度は他社を上回る。ScanSnap等の連携実績も長い
Webページを丸ごと保存しておきたい高いWebクリッパーの本文抽出精度が安定している
分類せずに放り込んで後で探したい高い構造を要求されない。意味検索との相性も良い
複数のOSをまたいで使いたい高いWindows、Mac、iOS、Android、Webの全対応
会議を録音して要約したいAI文字起こしとAI会議ノートは全プランで使える(利用上限あり)が、専用ツールには劣る
プロジェクトやタスクを管理したい低いNotionのほうが圧倒的に優れている
チームで同時に編集したい低い共同編集はあるが、NotionやGoogleとは差がある
データを自分の手元に置きたい低いクラウド前提。Obsidianを選ぶべき
テキストメモを少し取るだけ低い無料のOneNoteやAppleメモで十分

つまり、Evernoteの優位は「雑多な情報を大量に放り込んで、あとで確実に探し出す」という一点に集約されています。この一点においては、いまだに他を上回っています。逆に言えば、それ以外の強みはほぼない。

なお、新規の方が無料プランで試す場合、ノート50・ノートブック1・同期1台・添付200・ストレージ1GBという制限は相当に厳しいことを覚悟してください。実際の使い心地を確かめるには、最低でもStarter(ノート1,000・ノートブック20・3台・5GB)が必要になります。

更新価格は適切といえるのか

ここが、この連載の中核です。

他の選択肢と並べてみる

選択肢年間コスト(目安)得られるもの
Evernote Advanced17,899円(月払い1,799円)無制限の蓄積と端末数、OCR、AI全機能
Evernote Starter7,099円(月払い1,100円)1,000ノート・20ノートブック・3台・5GB。既存ユーザーには狭い
UpNote月$1.99または買い切り$39.99軽い蓄積と同期。OCRと共同編集は弱い
OneNote0円(OneDrive 5GB内)十分なノート機能。容量が制約
Obsidian(本体のみ)0円ローカルの完全な所有権。同期は別途
Obsidian + Sync約7,000円前後(月$4の年払い)上記に端末間同期を追加。ただし最安のStandardは1GB・ボールト1つ
Notion ビジネス月換算3,150円構造化、共同作業、AIとエージェント

単体で見れば、年17,899円という価格は法外な水準ではありません。月換算1,492円で無制限のクラウド蓄積とOCRとAIが使えるなら、市場価格としては妥当な範囲です。

しかし、問題は単体で判断しないときに起きます。

重複コストという視点

筆者の場合、すでにNotionのビジネスプランを契約しています。さらに、Microsoft 365も契約しています。つまり、高度なAI機能は既に手元にある。この状態でEvernote Advancedの年17,899円を追加で払うとなると、問いはこう変わります。

「EvernoteのAIは、NotionビジネスのAIに上乗せして年17,899円を払う価値があるのか」

この問いに対する答えは、現時点では「いいえ」です。EvernoteのAIは自分のノートを対象にした検索と整理に優れていますが、文章を書く、調べる、ワークフローを回すといったAIの主戦場では、Notionのほうが遠く先にいます。しかもv11のAI機能は公式のFAQによれば全ユーザーが対象で、AIを理由に上位プランを選ぶ必要はありません。Advancedで買っているのは、AIではなく無制限の蓄積と端末数です。

しかし、価値は機能だけでは決まらない

ここで終われば「解約すべし」という結論になりますが、それは早計です。

筆者がEvernoteに払っているのは、実は機能代ではなく、二つのものへの対価です。

ひとつは、蓄積された過去の重さです。年単位で溜め込んだメモは、検索で引けるから価値があります。移行すれば、検索性は必ず低下します。これはスイッチングコストです。

もうひとつは、思考の障壁の低さです。手が止まらない道具というのは、年間一万数千円を払う価値があると思っています。プロの道具として見れば、レンズ1本の値段で何年も使える計算になります。

結論:更新するか、否か

読者の状況ごとに答えを分けます。

更新をすすめる人

  • ノート数が1,000を大きく超えており、日常的に検索している人
  • スキャン書類やWebクリップを業務の一部として使っている人
  • 複数OSの端末を日常的に行き来している人
  • 移行作業にかける時間の価値が、年額差額を上回る人

乗り換えをすすめる人

  • ノート数が1,000以内で、テキスト中心の人(UpNote、OneNote)
  • 情報を構造化して運用したい人、すでにNotionを契約している人
  • データを自分で抱えておきたい人(Obsidian)
  • 値上げの頻度そのものに不安を感じている人

判断を保留するなら

Starterへのダウングレードという中間手もあります。ただし1,000ノート・3台の制限に収まる必要があります。また、どの道を選ぶにせよ、今のうちにENEX形式でエクスポートを取っておくことを強くすすめます。これは解約の準備ではなく、自分の記録に対する基本的な衛生管理です。

筆者の答え

筆者は更新します。

ただし、「Evernoteがすばらしいから」ではありません。すでに自分の作業のリズムに組み込まれており、それを引きはがすコストが年額を上回るからです。経営の方針には不満があります。値上げの伝え方にも、中間プランの不在にも。それでも、毎朝自動で立ち上がるこのウィンドウがない一日を、まだ想像できていません。

とはいえ、これは既存ユーザーの論理です。これから始める人に同じ結論をすすめるつもりはありません。新規なら、まずは目的をひとつに絞って、それに合う道具を選んでください。ノートアプリは、機能の多さではなく、続けられるかどうかで価値が決まる道具だからです。

更新前に必ず確認したいこと
一、現在のプランと次回請求額(自動移行で上がっていないか)
二、自分のノート総数と使用端末数(Starterの1,000ノート・3台・5GBに収まるか)
三、直近半年で実際に何回検索したか
四、ENEX形式のエクスポートを取ってあるか

昔のEvernoteは古いWindowsのメモ帳のようにプレーンテキストを入力するようなシンプルな使い心地でした。しかしながら、もう何年も前からAndroidやiOSの日本語入力で先頭の文字が確定されてしまうバグ(仕様?)に遭遇することが多く辟易しています。またEvernoteのマークダウン形式は日本語との相性が良くないという印象もあります。それでも毎日使い続けているので、最終的には愛着の問題なのかもしれません。

と、建前はここまでにして、コストとは関係ないというの正直な気持ち


ここまではAIの力も借りつつ自分の意見をまとめてみましたが、正直なことを言うと、筆者はコストを考えることすら不毛と思える位にEvernoteを使用しています。EvernoteとNotionで、Notion AIを活用してコンテンツ制作を進めつつ、AIを使う前段階の思考はEvernoteで行っています。どちらのソフトウェアもPC、Mac、スマートフォンで一日に何度も使うので、複数の機器を跨いでもシームレスにいつでも使うことができるのこの環境は筆者にとっては最善だと感じています。いまの作業の進め方は大変心地よく、たかだか2万円程度のコストを天秤にはかること自体がバカバカしいと思っています。

Notion AIでは主にAnthropic Claude Opusを使用していますが、ほんの半年前までは一日中AIと過ごす生活になるとは予想もできませんでした。そして、NotionをAIに任せることが多くなった現在、以前にも増してEvernoteの出番が多くなりました。

Evernoteは「軽い」ソフトウェアではありません。立ち上がりが軽快なソフトウェアではありません。検索スピードこそ、ノート数から考えれば驚異的に速いといえますが、スマホアプリの起動はもう少し速くなるとよいなと思うのが本音です。

雑に放り込んでおけるのがEvernote。置き場所を決めて使うのがNotion。

それでも、何でも雑に放り込んでおけるのがEvernoteの最大の魅力です。だから筆者は15年間もEvernoteを使いつづけています。仕事でも何でも、何事も先延ばししがちな傾向にあるの方は特に共感して頂けるのかなと思いますが、ふと思いついた時にアクションを起こせることが非常に重要なのです。分類を考えたりする時間すら惜しい、そういう人にこそEvernoteは役に立ちます。

出典


Evernoteの現在地、更新するか、否か

  1. Evernoteとは何だったのか、記憶を外部化するという発想
  2. 日本での爆発的普及と世界での利用分布
  3. 多すぎるバグとシェア喪失の理由
  4. 買収・組織改編・毎年の値上げを数字で追う
  5. 代替となったソフトウェア、思想の違いと出来ること・出来ないこと
  6. 2020年代のEvernoteは何を手に入れたのか、機能拡充とAI
  7. 筆者の使い方と結論、更新するか、否か

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