第11章:世界の「目」をつくる企業地図

イメージセンサー・クロニクル (11)

前章では、センサーをつくる人々の姿を見た。その人々が集い、日々膨大な数の撮像素子を送り出しているのが、世界の企業である。本章では、その勢力図を用途別に見渡す。さらに詳しい企業別のシェアや個社の深掘りは、姉妹記事であるピクスロ本記事#03 CMOSセンサー世界シェア地図——世界の『目』をつくる10社と、ソニー一強の正体 v1.4に譲る。ここでは、写真映像という身近な用途だけでなく、普段は目に見えない用途も含めて、世界の「目」がどこでつくられているのかを描きたい。

なお、市場シェアの数値は、調査会社や集計の前提(金額ベースか数量ベースか、センシング用途を含むか否か)によって幅が出る。本章の数値は2026年9月時点で確認できる公表値・推計値に更新しており、いずれも出典と集計年を明記したうえで扱う。

目次

用途別の勢力図(写真映像とそれ以外)

まず、全体の見取り図を描こう。直近の実績から入る。市場調査会社Yole Groupの2026年版調査によれば、2025年のCMOSイメージセンサー市場は前年比9%増の253億ドルとなり、過去最高を更新した。企業別ではソニーが約50%を占め、用途別のモバイル向けでは57%という圧倒的なシェアを握る。地域別に見ると、日本勢が51%で首位、中国勢が21%で韓国勢の17%を抜いて世界2位の供給基盤に浮上した。2026年については、Yoleは売上高が前年比でわずかに減少すると予想している。

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図1 供給網の広がり。設計・製造・後工程を記号で区別した概念図。個別の拠点・取引を示すものではない。

その一年前の姿も押さえておきたい。調査会社Gartnerは、2024年のCMOSイメージセンサー市場について次のようにまとめている。

CMOS image sensor market grew by 12.9% in 2024, culminating in a total revenue of $20.8 billion. Mobile phone revenue increased by 12.7%, while automotive revenue grew by 20.4%. Sony continued to lead the market with 50.2% share, reaffirming its top position with a revenue growth of 9.8%.

和訳すれば、「CMOSイメージセンサー市場は2024年に12.9%成長し、売上高合計208億ドルに達した。携帯電話向けの売上は12.7%伸び、車載向けは20.4%伸びた。ソニーは50.2%のシェアで市場の首位を維持し、売上高は9.8%増加して首位の地位を改めて確かなものにした」となる。ソニー自身は、イメージング用途に絞った集計でCMOSイメージセンサーの金額シェアを約53%と公表しており、集計の前提によって数値は変わるが、単独首位である点は共通する。なお同社は、この金額シェアを60%へ高める目標をもともと2025年に置いていたが、2025年6月の時点で達成が数年遅れると説明を改めている。2024年実績は前年と同じ53%で横ばい、2025年は56%の見通しという数字もあわせて示された。理由として挙げられたのは、主要顧客の販売が想定に届かなかったことと、中国のハイエンド市場で競争が激しくなったことである。首位の座は動いていないが、その歩みは当初の計画より遅れている。

集計の幅を、もう一つの調査で確かめておきたい。日本経済新聞社の「主要商品・サービスシェア調査」によれば、2025年のCMOSイメージセンサーの出荷額シェアは、ソニーが53.6%(前年から1.2ポイント増)で首位、以下オムニビジョン13.4%、サムスン13.2%、SmartSens 5.6%、GalaxyCore 3.9%、その他10.3%である。Yoleの約50%、日経の53.6%、ソニー自社公表の約53%という数字は、対象とする製品の範囲、金額か数量か、センシング用途を含むかといった前提が異なるため、単純には比べられない。シェアを読むときは、数字そのものより先に、出典と集計の前提を見る必要がある。

もう一つ、この市場の形を知る上で大切な事実がある。上位数社への集中度が高いことだ。市場調査GMInsightsの2026年版は、2025年のイメージセンサー市場を256億ドル(2026年見込みは274億ドル)とし、上位5社(ソニー、サムスン、オムニビジョン、STマイクロエレクトロニクス、オンセミ)だけで世界シェアの83.1%以上を占めるとしている。上位5社の顔ぶれは調査によって変わり、日経の2025年調査では、ソニー、オムニビジョン、サムスン、SmartSens、GalaxyCoreの5社で89.7%となる。どの調査でも、世界の目の大半は、ごく少数の企業の手によってつくられている。

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図2 シェアの構図。概念図であり、実際のシェアではない。A社・B社・C社は特定企業を示さない。

ただし、「ソニーが半分を握る」という一言で片づけてしまうと、用途ごとの景色を見誤る。写真映像とスマホではソニーが強いが、車載や監視、医療といった領域では、別の顔ぶれが見えてくる。以下、用途別に見ていこう。

スマホ・PC・Webカメラ向け

最も身近な用途が、スマートフォン向けである。

この領域で首位に立つのがソニーである。市場調査market.usは、2024年時点でソニーがモバイル向けイメージセンサー市場の約40〜45%を握ると推計し、その理由を「AppleのiPhoneやSamsungのGalaxy Sシリーズのような高級スマートフォンに広く採用される高性能CMOSセンサーの強い製品群」に求めている。本連載の第14章で詳しく見る裏面照射型・積層型の技術的優位が、このシェアの背景にある。より新しい集計では、この優位はさらに広がっている。Yoleの2026年版調査は、2025年のモバイル向けでソニーが57%を占め、サムスンを大きく引き離して首位に立ったとしている。

スマホに次ぐ身近な用途が、PCやWebカメラである。ノートPCの上端や外付けカメラに入るセンサーは、スマホ向けほどの高画素を求められないことが多く、コストと低光量性能のバランスが重視される。この用途に絞った公表値は、本章では扱わない。

産業・計測・車載・監視

写真や動画を「見る」ためではなく、機械が世界を「計る」ために使うセンサーがある。産業用のマシンビジョン、計測機器、工場の検査装置、監視カメラ、そして車載。こちらは一枚あたりの画素数よりも、歪みの少なさ、低光量での見え方、広いダイナミックレンジ、そして機能安全が問われる。

この中でも、近年とりわけ成長が著しいのが車載である。先のGartnerも車載向けの売上が2024年に20.4%伸びたとしていた。この領域の勢力図は、写真映像とはかなり異なる。調査会社Yoleの報告に基づく報道は、車載イメージセンサー市場の面を次のように伝える。

At the image sensor level, onsemi has a 40% market share in automotive image sensors, followed by Omnivision at 26%. Sony and Samsung have performed well last year and offer competitive pricing.

「イメージセンサーの層では、onsemiが車載イメージセンサーで40%の市場シェアを持ち、オムニビジョンが26%でこれに続く。ソニーとサムスンも昨年は好調で、競争力のある価格を提示している」。ただし、この数値は、Yole Groupが2023年に公表した車載イメージング調査のうち、2022年の実績を集計したものである。同社はのちに訂正を出して、オムニビジョンの正しいシェアは26%ではなく28%であるとしている。この集計ではonsemi、オムニビジョン、ソニー、サムスンの順に挙げられており、スマホでは首位のソニーが、車載では3位前後に回る。プレイヤーの顔ぶれが用途で入れ替わることを、この一例がよく示している。なお、調査会社によって順位は変わり、別の集計では2024年の車載首位をオムニビジョンとするものもある。Yoleの2026年版調査も2025年の車載首位をオムニビジョンとし、ソニーは高解像度のADASおよびビューイングカメラ向けでシェアを広げているとする。

ソニーもこの市場を重視している。同社のIR資料(イメージング&センシング・ソリューション事業説明会)は、車載イメージセンサー(200万画素以上、車室内向けを除く)の金額シェアをFY23実績32%とし、FY26に43%を目標として掲げていた。ただし翌2025年の同資料では、一部地域の市場前提を見直した結果としてFY23実績が35%に改められ、FY24実績は37%、FY26目標は43%のまま据え置かれている。スマホで培った技術を車載に向け、上位を追う構図である。市場全体でも、ソニーはイメージング用途の金額シェア53%をさらに60%まで高める計画を公表しており、首位の座を固めにかかっている。

監視カメラも、量の多い用途である。夜間や逆光など厳しい光の条件で使われるため、低光量性能が問われる。ここでは、スマホとはまた違う顔ぶれが見える。Yoleの2026年版調査は、セキュリティ分野をSmartSensとオムニビジョンが牽引しているとする。産業用途ではソニーが支配的な地位を保つ一方、onsemi、Teledyne Technologies、Gpixel、浜松ホトニクスが、高い性能と長い製品寿命を求められる用途で強い位置を占める。

医療(内視鏡)

さらに普段は目につかない、しかし重要な用途がある。医療の内視鏡である。

内視鏡は、できるだけ小さく、体の内側の暗い場所でもはっきりと見えることが求められる。画素数を競うよりも、小型化と低光量性能、信頼性が物を言う。この領域では、オムニビジョンが内視鏡やカテーテル向けの超小型CMOSイメージセンサーを手がけている。同社は自社サイトで、医療向けCMOSイメージセンサーの世界首位の供給者であると述べているが、これは同社自身の主張であり、第三者の集計ではない。

主要各社の位置づけ

用途別の顔ぶれを踏まえて、主要なプレイヤーを整理しておこう。

ソニーは、写真映像とスマホを中心に市場全体の首位を走る。一方で、車載では上位を追う立場にあり、そこに成長余地を見ている。サムスン電子は、モバイルでソニーに次ぐ位置にある。オムニビジョンは、Yoleの2026年版調査で2025年の車載首位とされ、セキュリティ分野でも牽引役に挙げられるほか、医療向けの小型センサーも手がける。

さらに、用途を限って強さを発揮する企業もある。onsemi(オンセミ)は、車載で上位を争い、産業用途でも強い位置を占める一方で、市場全体ではソニーやサムスンに規模で遠く及ばない。GMInsightsは、この二社をソニー・サムスン・オムニビジョンと並ぶ市場全体の主要5社に挙げ、5社合計で2025年に83.1%以上を占めるとしている。この二社は、全体の規模ではソニーに及ばないが、上位5社の一角を占める。

このように、市場全体の順位と、用途別の順位は一致しない。一枚の地図だけではこの多層性は描ききれない。企業別の詳細なシェアとその背景は、ピクスロ本記事#03 CMOSセンサー世界シェア地図——世界の『目』をつくる10社と、ソニー一強の正体 v1.4で丁寧に扱っているので、あわせて参照してほしい。

本章で扱う「世界の潮流」

用途別の勢力図からは、いくつかの潮流が見えてくる。

第一に、市場の重心が、写真映像から「見る以外」へ広がっていることだ。もちろんスマホは今も最大の用途だが、車載の成長率は全体を上回り、産業・監視・医療といった領域も、それぞれ固有の顔ぶれを持つ。カメラのための部品だった撮像素子は、今や世界を計るための部品へと重心を移しつつある。

第二に、用途ごとに勝者が違うことだ。市場全体ではソニーが首位でも、車載ではonsemiやオムニビジョンが前に出る。一枚岩の支配ではなく、用途という地形に応じて勢力図が塗り分けられている。この多様性こそが、新参入の余地を残している。

第三に、その余地に中国勢が入り込んできていることだ。Yoleの2026年版調査では、中国勢が21%で韓国勢を抜いて世界2位の供給基盤に浮上し、セキュリティ分野ではSmartSensがオムニビジョンとともに牽引役に挙がっている。現在の寡占的な勢力図は、固定されたものではない。

こうした用途とプレイヤーの地図を頭に入れると、次に浮かぶ問いは「それらはどこで、どのようにつくられているのか」である。前章までに見たように、センサーの設計と製造は、世界の特定の地域に強く偏っている。次章以降では、この勢力図がどのような撤退と再編を経て形づくられてきたのか、そしていま誰がその地図を塗り替えつつあるのかへと踏み込んでいく。

典拠(出典一覧)

次章

撤退と興亡の歴史


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